リオールを後にした二人の少年は、街道を歩いていた。
「なあ、アル。」
「なに、兄さん。」
「ヨキって人さ。」
「すげぇ人だったな。」
アルフォンスは静かに頷く。
「うん。」
「ロゼさん、すごく感謝してた。」
「命を助けてもらったって。」
「ああ。」
エドワードは少しだけ空を見上げる。
「どこにでもいそうな、気の弱そうなおっさんって感じだったけどな。」
アルフォンスはくすっと笑う。
「うん。」
「でも。」
「ヨキさん、意識を失って倒れてたのに。」
「ロゼさんを抱きしめるように庇ってた。」
「きっと、困っている人を放っておけない人なんだね。」
「……そうかもな。」
二人の背中を、夕日が長く照らしていた。
◇
東方司令部。
マスタングは読み終えた報告書を静かに机へ置いた。
「面白い男がいる。」
机の向かいに立つリザが静かに口を開く。
「ヨキ中尉の報告書ですね。」
「ああ。」
「ユースウェルでは炭鉱町を立て直し。」
「リオールでは、会話だけで教主コーネロを追い詰めた。」
「普通の軍人にはできん芸当だ。」
リザは報告書へ視線を落とした。
「確かに。」
「しかも最後は、少女を庇って重傷を負っています。」
「ですが、それだけで特別な人物と判断するのは早計かと。」
マスタングは小さく笑う。
「私が気になっているのは、そこではない。」
「何でしょう。」
「蛇の道は蛇、ということだ。」
「悪を暴く者は、悪の思考を理解していなければならん。」
「つまり。」
「あの男が炭鉱町で見せていた俗物ぶり。」
「あれすら、相手を油断させるための演技だった可能性がある。」
数秒、静寂が流れる。
やがてリザは小さく息をついた。
「……大佐。」
「少々、考えすぎではありませんか。」
「実際に会ってみれば、ただのお人好しかもしれません。」
マスタングは苦笑した。
「そうかもしれんな。」
「だが。」
「あの男は、相手が隠したいことを見抜く術を知っている。」
「会話だけで教主をあそこまで追い詰めたのが、その証拠だ。」
リザは静かに頷く。
「そこは私も認めます。」
「少なくとも、優秀な観察眼を持っている人物なのでしょう。」
マスタングは窓の外へ目を向けた。
「一度、会ってみたい男ではある。」
「ええ。」
「私も、少し興味があります。」
その頃。
当の本人は病院のベッドの上で、
「また左遷かぁ……。」
と頭を抱えていたことを、この二人はまだ知らない。
こうして本人の知らぬところで。
ヨキという男への評価だけが、少しずつ積み重なっていくのだった