「さて、どれから使うか……」
ルインは、自身が鍛錬場所として使っている森の一角で、地面に並べた複数のボトルを見つめていた。
シズさんとの一件から一週間。
町の復興は着々と進んでおり、今ではリムルの指示がなくとも、皆が自分達のやるべきことを理解して作業を進めている。
俺も手伝おうとしたのだが、
『ルイン様は休んでいてください!』
『そうです! 我々にお任せください!』
と、何故か皆から遠慮されてしまった。
「別にサボりたいわけじゃないんだけどな……」
何もしないで町の発展を眺めているというのも、どうにも性に合わない。
そこで俺はリムルに町を任せ、自分自身の力を鍛えることにした。
今回は数日間泊まり込みで鍛錬を行う予定であり、何かあった場合はすぐに連絡するよう、皆には伝えてある。
そして護衛役として、ヒョウガにも同行してもらっていた。現在は俺の影の中で待機している。
『ルイン様、いつでもお呼びください』
「ああ。頼りにしてるぞ」
『お任せを』
俺はそう返し、再び目の前に並べられたボトルへ視線を戻す。
シズさんをリムルが捕食したことで、俺のユニークスキル『魂之絆』にも大きな変化が起きた。
シズさんが持っていたスキルの一部を、俺も獲得することができたのだ。
それだけではない。
シズさんとの一件を境に、俺とリムルの繋がりは以前よりも強くなった。
その結果、俺の『次元収納』とリムルの『胃袋』まで繋がり、収納しているアイテムまでも共有できるようになってしまった。
「便利ではあるんだけどな……」
便利ではある。便利なのだが――。
「(この変化は、一体何を意味しているんだ……?)」
魂の繋がり。
俺とリムルの間に生まれた、以前とは明らかに違う何か。
今の俺には、それが何を意味しているのかまでは分からない。
だが、いずれ答えが分かる時が来るのかもしれない。
俺は考えを切り替え、目の前のボトルを手に取った。
「それにしても、まだまだ課題は山積みだな……」
町の開拓。魔物達や人間達との関係。そして――俺自身の力。
「仮面之王者によって得られる、数多の仮面ライダーの力……その全てを自在に扱えるようにならないとな」
俺の中には、数え切れないほどの仮面ライダーの力が存在している。
ならば、それらを使いこなせなければ『仮面之王者』を持っている意味がない。
「特に……フォームの多いライダーは、組み合わせを把握しておかないといけない」
俺が手に取ったのは、二本のボトル。
仮面ライダービルドに使われるフルボトルというアイテムだ。
赤いボトルにウサギの絵が描かれているのがラビットフルボトル。青いボトルに戦車が描かれているのがタンクフルボトルだ。
俺は軽くフルボトルを振る。
小気味いい、独特な音が鳴り、俺は小さく息を吐いた。
「これも瞬時に判断して、実戦で使えるようにしておかないとな」
シズさんとの戦い。
あの時、俺達は勝つことができた。
あれはリムルやカバル達がいたからこそ勝てたことだ。
だが、もし相手がもっと強かったら?
一人で戦う時もあるだろう。必ずしも誰かがいるわけではない。
もし俺の力が足りなかったら?
……答えは決まっている。
守れない。
「だから、強くなる」
リムル達と共に、この世界で生きていくためにも。
そして――シズさんとの約束を果たすためにも。
俺は二本のボトルを握り締めた。
「さて……今日はここまでにしておくか」
空を見上げる。
既に日が傾き始めていた。
「明日は町に戻るとするかな」
俺がそう呟き、ボトルを次元収納へ収めようとした――その時だった。
「……ん?」
俺は動きを止める。
遠くから、何かが聞こえる。
「……なんだ、この音?」
意識を集中させる。
スキル『聴覚強化』で研ぎ澄まされた聴覚が、森の奥から聞こえる異音を拾い上げる。
そして、それと同時に――。
「この匂い……血か?」
鼻を動かす。
魔獣の血とは違う。
明らかに、知性ある存在のものだ。
「誰かが襲われている……?」
俺は即座にボトルを次元収納へ収める。
「ヒョウガ!」
『はっ!』
「匂いの元の正体に向かう。急ぐぞ!」
『承知!』
俺はヒョウガに乗り、その場から一瞬にして駆け出す。
「グフフ……ようやく追い詰めたぞ」
「ヒッ……!」
森の中。
そこには、身体のあちこちを傷つけられ、涙を浮かべる桃色の髪をした少女がいた。
少女を取り囲んでいるのは、豚のような顔を持つ魔物達。
鎧を身に纏い、武器を手にしたその集団は、少女を逃がすつもりなど毛頭ない。
「お前を食えば、我らはさらに強くなれる!」
「お、お兄様……」
「お前の護衛も、もう俺達の力となった。後はお前を喰らい、その力を我が物にするだけだ!」
「……ごめんなさい、お兄様」
少女は震える声で呟く。
「私は……ここまでのようです」
「死ね!」
オークの一体が武器を振り上げる。
少女は咄嗟に目を閉じ、腕で顔を覆った。
――その瞬間。
ガキィンッ!!
金属同士が激しくぶつかり合う音が森に響き渡った。
「……え?」
少女が恐る恐る顔を上げる。
そこに立っていたのは――一人の青年だった。
「どういう状況だ……これは?」
青年――ルインは、手にしたシズさんの刀でオークの攻撃を受け止めていた。
「な、何だ貴様!?」
「何処から現れた!?」
「取り敢えず――」
ルインは受け止めていた武器を弾き返す。
「吹っ飛べ!」
「グハァッ!?」
身体装甲によって強化された拳が、オークの胴体へ叩き込まれる。
拳を受けたオークは鎧を凹ませたまま地面を転がり、木の幹へ激突した。
「なっ……!?」
突然現れた乱入者に、オーク達は動揺する。
俺は拳を見つめた。
「(身体装甲……やっぱり便利だな。攻撃にも防御にも使える)」
「ヒョウガ」
『はっ!』
ヒョウガが俺の隣に立つ。
「その子を頼む」
『お任せを!』
ヒョウガが少女の前へ立ち、守るように身構える。
「え……?」
少女が困惑する。
「あなたは……?」
「話は後だ」
俺は少女から視線を外し、目の前の豚頭達へ向き直った。
「おい、お前達。聞いてもいいか?」
冷静な声が森に響く。
「お前達は何者で、目的は何だ? 何故この少女を襲っている?」
「我らはオークだ!」
一体のオークが叫ぶ。
「そして、そいつは我らの餌だ!」
「餌……?」
「オーガを喰らえば、その力を我が物にできる! 我らは強くなるために、そいつを喰らうのだ!」
「人間、貴様も同じだ! その身体……さぞかし力が詰まっていることだろう!」
俺は黙ってオーク達を見つめる。
「(ヴェルドラが言っていた通り……この世界では、生前の常識は通用しない!)」
弱肉強食。
強き者が生き、弱き者が死ぬ。
それがこの世界の一つの現実であり、魔物にとっての不変のルールだ。
「俺は、無闇な争いを好まない」
俺は『仮面之戦士』を使い、赤いハンドルのついたベルト――ビルドドライバーを腰に装着する。
そして二本のボトルを構えた。
「だが、今回はそうも言っていられないようだな」
「何だ、その妙な瓶は……?」
オーク達が警戒する。
「さぁ、実験を始めようか」
俺は二つのボトル――ラビットフルボトルとタンクフルボトルを振る。
フルボトルは、ボトルの中にあるトランジェルソリッドを増大、活性化させる。
十分に振って活性化させたところで、蓋の部分にあたるシールディングキャップをボトルの正面に固定する。
そして、それを腰についているベルト――『ビルドドライバー』のツインフルボトルスロットに差し込む。
【ラビット!】【タンク!】
【ベストマッチ!】
ベルトから、そのようなテンションの高い声が響く。
俺はビルドドライバーに取り付けられたレバー――ボルテックレバーを回す。
すると、ドライバーの円盤型パーツ、ボルテックチャージャーが回転し、装置内部のニトロダイナモが高速稼働する。
そして、ドライバーから透明なパイプのようなものが伸び、それが俺の周囲を囲う。
その間にも、スナップライドビルダーという高速ファクトリーが展開され、その管を赤と青の液体が流れていく。
そして、俺の前後にそれぞれの形を形成していく。
【
実際に戦いの中で変身すると、本当にその言葉が聞こえてくる。
ビルドのライダー達は、この問いにどんな気持ちで返答していたのか。
今なら分かる気がする。
それに対する答えは、決まっている。
リムルと共に、この世界で出会った仲間達を守る。
誰もが笑って暮らせる場所を、俺達の手で、このジュラの大森林に――。
新しい未来を、この手で
俺はビルドドライバーからの問い掛けに、指でパチン! とフィンガースナップをして、自身の姿を変えるあの言葉を口にする。
「ああ、出来てるさ。変身」
その返答と共に、アーマーを形成したスナップライドビルダーが俺を挟む。
形成されたアーマーが、身体に着装される。
【鋼のムーンサルト!ラビットタンク!】
【イェーイ!】
変身が完了する。
そこに立っていたのは、赤と青の装甲を纏った仮面の戦士。
「な……何だ、貴様は……」
オーク達が後ずさる。
「仮面ライダー……ビルド」
ルインは静かに名乗った。
「創る、形成するっていう意味の……ビルドだ。覚えておけ」
「ふ、ふざけるな!」
オークの一体が武器を振り上げ、突進する。
「死ねぇ!!」
振り下ろされた武器を左腕で受け止める。
「なっ!?」
「遅い」
そのまま腕を振り払い、オークの体勢を崩す。
続けて、ラビット側に備えられているクイックラッシュレッグと、ビルドの左脚部であるホップスプリンガーを利用して高速移動する。
「はぁっ!」
その勢いで、強烈な蹴りをオークに叩き込む。
「グアッ!」
「一体ずつなら……問題ないな」
ビルドの力を確認するように拳を握ると、別のオークが背後から襲いかかる。
だが――。
「そこだ!」
俺は振り向きざまに拳を叩き込み、攻撃を弾く。
そして、強化された脚力でオークを飛び越える。
「何だ、この動きは!?」
「はあっ!!」
着地と同時に地面を蹴り、一瞬で距離を詰めて拳を振り抜く。
「グハァッ!」
「ぐおっ!」
次々とオーク達が吹き飛ばされていく。
数で押し切るはずだったオーク達が、たった一人の戦士に圧倒されていた。
少女はその光景を、ただ呆然と見つめていた。
「す、すごい……」
『当然だ! 我が主の力ならば、あんな数、大したことではない!』
ヒョウガの方も少女を狙ったオークを返り討ちにしており、しかもオーク達は完全に凍結していた。
まぁ、名前の通り氷の牙でヒョウガだから、氷属性の魔法やスキルも使えてもおかしくはないか。
自分達の力ではどうにもならなかった相手を、たった一人で押し返している。
「これで……最後だ!」
俺はボルテックレバーを回しその場から残ったオーク達へ向けて走り出す。
その間に、どこからともなく白いグラフが現れ、そのX軸が残りのオーク達を挟み込み、拘束する。
「な、何だこれは!!」
「う、動けん!」
「こ、こんなもの!!」
【ReadyGo!】
そして俺は、そのまま展開された放物線に沿うように、オーク達へ向かって飛び蹴りを放つ。
「勝利の法則は決まった」
【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】
「はああーー!!」
放たれた必殺の一撃。
右脚のタンクローラーシューズに備わった無限軌道装置、キャタピラが敵の鎧を削り取り、オークを貫く。
そして、その必殺の蹴撃を受けたオーク達は致命的なダメージを受けた。
俺はまだ生きているオークへ向かって歩み寄る。
「な、何故だ……! 何故、人間ごときが……!」
「俺は人間じゃない。お前達と同じ魔物だ。それに――」
俺はシズさんの刀を取り出し、抜剣して逆手に持ち、構える。
「俺は、守ると決めた相手を見捨てるつもりはない……それだけだ」
「も、申し訳ありません……我が王よ」
そのままオークに剣を突き刺す。これを機に、辺りが静まり返る。周囲を見渡し、全員が戦闘不能になったことを確認する。
「……終わったか」
そして、ゆっくりと少女へ振り返る。
「もう大丈夫だ」
「あ……」
少女はその場でへたり込みそうになる。
「助けて……くださったんですか?」
「ああ。たまたま気配を察知しただけだ」
俺は少女へ歩み寄る。そこで、改めて少女の姿を確認した。
「……!」
俺は思わず息を呑む。桃色の髪。額から伸びた二本の白い角。そして、目元に浮かぶ特徴的な模様。
「(この子……まさか)」
脳裏に、以前ドワーフ王国で見た光景が蘇る。『夜の蝶』で受けた占いで見た――一人の桃色髪の少女。
「(あの時の……)」
運命の相手。少し違いはあるが、占いでそう告げられた少女と、目の前の少女の姿が完全に重なっていた。
「?どうかされましたか?」
「……いや」
ルインは我に返る。
「すまない。それより、怪我をしているな」
「あ、はい……逃げている途中で追撃されて……」
「少し待っていてくれ」
次元収納を開き、中からリムルが作った瓶入りの回復薬を取り出した。
「これを使うといい。俺の親友が作った回復薬だ」
「あ、ありがとうございます……」
少女は戸惑いながらも瓶を受け取り、蓋を開け、中身を口にする。
すると――。
「……!」
少女の身体が淡い光に包まれた。傷口が瞬く間に塞がっていく。
「き、傷が……!」
少女は自分の身体を確認し、驚きに目を見開く。
「もう大丈夫だな」
「こんな傷まで……一瞬で……」
「リムルの回復薬は凄いんだよ」
そう安心させるように言って、笑う。
「……あの」
「ん?」
「あなたは、一体……?」
「ああ。そういえば、まだ自己紹介をしていなかったな」
ビルドドライバーへ手を伸ばし、二本のボトルを取り外すと、纏っていた装甲が消えていく。
「改めて名乗ろう」
元の姿へ戻った俺は、少女へ向き直る。
「俺はルイン・テンペスト。ただの魔神だ」
「魔神……」
少女は驚いたように呟く。しかし、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「私は……名もないオーガの姫です」
ルインは少女を見つめる。そして、胸の奥で確信していた。
以前占いで見た少女。ヴェルドラに次いで、この世界で二度目となる――運命を感じさせる出会い。
それが、後に自身の人生を大きく変えることになる少女との出会いだった。