【推しの子】―晴れた夜に星を見つけて― 作:horizontal line
事件から三日が過ぎた。
東都大学病院の一般病棟で、月城晴星は理学療法士に教えられながら、ベッドの上でゆっくりと身体を起こしていた。
ただ起き上がるだけなら、もう一人でもできる。けれど、今まで十六年間ほとんど意識したことのなかった動作の一つ一つに腹の筋肉が使われているらしく、いつもの癖で上半身を真っ直ぐ起こそうとすると、傷の奥が引き攣るように痛んだ。だから今日は、横向きになって脚をベッドの外へ下ろし、腕で身体を支えながら起き上がる。理学療法士は手を貸しすぎず、晴星がどこまで自分でできるのかを見ながら、痛みが強くならない身体の使い方だけを教えてくれた。
「昨日よりずっとスムーズですね」
「これなら普通に歩けそうなんですけど」
「立ってから言いましょうか」
(信用されてないなぁ~)
晴星が少し不満に思いながら立ち上がると、案の定、身体は本人ほど楽観的ではなかった。立った瞬間に傷そのものが強く痛むわけではない。それでも腹部を無意識に庇うせいで姿勢がいつもと違い、数日間ほとんどベッドの上で過ごしていた身体は、自分の体重を支えるだけでも妙に重い。理学療法士は晴星の顔色と姿勢を確認してから、軽く足踏みをさせ、問題がないことを確かめてようやく病室の外へ出た。
廊下を歩くこと自体も、単に距離を稼ぐためではないらしい。歩幅が左右で変わっていないか、腹を庇って極端な前屈みになっていないか、途中で息が上がらないか。時折立ち止まって呼吸を整えながら窓際まで行って戻り、そのあとには椅子へ座った状態で軽く脚を動かし、もう一度立ち上がる動作を確認したところで、今日の訓練は終わった。
「……疲れた」
病室へ戻ってベッドへ腰を下ろした途端、晴星は素直に認めた。
たったこれだけで、と思う。普段なら撮影現場を一日中動き回ったあとでも、夜からララライの稽古へ顔を出すことだってあった。それが今は病棟を歩いて戻ってきただけで、額に汗が浮いている。
「でも昨日よりできることは増えてますよ。焦らないでいきましょう」
「……専門家の人って、やっぱ凄いんですねぇ」
晴星がしみじみと言うと、理学療法士が少し意外そうに振り返った。
「急にどうしたんですか?」
「いや、俺、今までこんなに意識して自分の身体を動かしたことないですよ。歩くときにどっちの足へ体重乗せてるとか、立つときにどこの筋肉使ってるとか。言われるまで考えたこともなかった」
芝居のために人の歩き方を観察したことなら、いくらでもある。老人ならどこから身体を動かすのか、疲れた人間はどちらの肩が落ちるのか、緊張している人間の歩幅はどう変わるのか。けれど、それはあくまで外から人を見るための知識だった。自分自身の身体がどう動き、どう支えられているのかを、これほど細かく考えたことはない。
「俺ならたぶん、『痛いからこうしよう』で終わってますもん。それ見て、どこ庇ってるとかすぐ分かるんでしょ? 凄いなあ」
感心したまま晴星が言うと、理学療法士は一瞬だけ黙り、それから少し疑うように目を細めた。
「……褒めても、明日のメニューは楽になりませんよ?」
「え?」
思いもしなかった返しに、晴星はきょとんとした。どうやら訓練を軽くしてもらうためのお世辞だと思われたらしい。
「そういうつもりじゃないですよ。本当に凄いと思っただけで」
「そうですか?」
「そうですよ。俺、自分の知らないことできる人見るの好きなんです。どうやってるんだろうって思うから」
そこまで言ってから、晴星は少し考えた。せっかく昨日より身体が動くようになったのなら、当然、その次が気になる。
「……それはそれとして、明日は今日よりもうちょっと歩けます?」
理学療法士は晴星の顔を見た。数秒前まで純粋に感心していた少年と、今、期待を隠しもせず明日の訓練量を増やせないか尋ねている少年は、もちろん同一人物である。
「やっぱり狙ってたんじゃないですか」
「違いますって! それとこれは別です!」
晴星が慌てて否定すると、理学療法士はとうとう声を立てて笑った。
「明日の状態を見てから決めます。今日たくさん動けたからって、明日も同じように動けるとは限りませんから」
「……はい」
結局そこは専門家に従うしかない。晴星は少し残念そうにしながらも素直に頷いた。
それでも、昨日できなかったことが今日はできた。その事実だけは少し嬉しくて、晴星が水を飲みながらまだ重い脚を伸ばしていると、病室の扉が控えめに叩かれた。
「どうぞ」
返事をすると、最初に入ってきたのは金田一敏郎だった。
劇団ララライの代表にして演出家。まだ小さかった晴星が芝居を覚えた場所で、十年以上にわたってその成長を見てきた人物でもある。仕事となれば役者が子供であろうと容赦なく、晴星自身、幼い頃には何度稽古場で怒鳴られたか分からない。それでもララライが晴星にとって役者として育った実家のような場所なら、金田一もまた、そこでずっと変わらず待っている大人の一人だった。
そして今日は、その後ろにもう一人いる。
姫川大輝。七歳。
役者だった両親を二年前に亡くし、現在は金田一が後見人に近い立場で面倒を見ている少年であり、同時にララライに所属する小さな役者でもある。この頃の大輝にとって金田一は劇団の代表というより、自分の生活を支えてくれる大人であり、芝居を教えてくれる人でもあった。だから劇団員たちが「金田一さん」と呼ぶ中でも、大輝だけは昔から「先生」と呼んでいる。
その大輝は金田一の後ろから病室へ入り、ベッドの上にいる晴星を見たところで足を止めた。
「……晴星兄ちゃん」
「大輝。来てくれたんだ」
「うん」
大きな声も出さなければ、駆け寄ってもこない。ただ、それまで金田一の半歩後ろを歩いていた大輝が、晴星と目が合ってからは少しだけ歩調を速めた。片手には小さな紙袋、もう片方の手には怪獣のソフビが握られている。
「これ」
ベッドのそばまで来ると、大輝はまず紙袋の方を晴星へ差し出した。中には個包装された菓子がいくつか入っている。晴星が「ありがとう」と受け取ると、金田一が横から「食っていいかは看護師に聞けよ」と付け加えた。
「金田一さんが選んだの?」
「菓子はな。大輝はそっちだ」
言われて、晴星は大輝の手に残っている怪獣へ目を向けた。大輝はそれをしばらく見つめてから、少しだけ躊躇うように晴星へ差し出した。
「……これも」
「俺に?」
「うん」
受け取ってみれば、子供向けの特撮番組に登場する怪獣らしい。見覚えはある。ただ、晴星が普段、大輝が稽古場へ持ってきているのを見かけるものとは、色も角の形も少し違っていた。
「これ、大輝がいつも持ってるやつと違うね?」
「そいつはね、兄の方」
「兄?」
大輝は上着のポケットへ手を入れると、もう一体、小さな怪獣を取り出した。
二体並べてみれば、確かによく似ている。色使いは反転し、頭に生えた角も左右対称になっていて、別々の怪獣でありながら一目で同じ意匠を持っていることが分かった。
「兄弟なんだ?」
「うん。兄とね、弟」
「じゃあ、お兄ちゃんの方をくれるの?」
大輝は一度、自分の手に残った弟の方を見た。
「……晴星兄ちゃんならいい」
それだけ言って、弟の怪獣を大切そうにポケットへ戻した。
金田一は何も言わなかった。晴星も、その玩具が大輝にとってどれだけ大事なものなのかをわざわざ聞かなかった。けれど、何度も稽古場へ持ってきて、休憩時間には二体並べて机の上へ置き、帰るときには忘れていないか必ず確かめていたものだということくらいは知っている。
「そっか」
晴星はもらった兄の怪獣を枕元へ置いた。
「じゃあ、ちゃんとここに置いとく」
「……うん」
大輝の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。金田一はそのやり取りが終わるのを待ってから、ベッド脇の椅子へ腰を下ろす。病室へ来る前、金田一は担当医とも短く話をしていた。
本来、患者の詳しい病状を第三者へ自由に説明できるわけではない。けれど、美月から病院側へ、金田一は晴星が幼い頃から所属する劇団の代表であり、退院後の仕事や稽古にも関わる人物だから、本人に差し支えない範囲で経過を共有して構わないと伝えてあった。そのため金田一が聞けたのも、手術後の経過は良好で、一般病棟へ移ってからは離床を進め、今日も理学療法を行ったという程度だったが、それでも十分だった。
「さっきリハビリやったんだってな」
「うん。結構歩いたよ」
「どれくらいだ?」
「窓のところまで行って戻ってきた」
晴星の言う窓がどこまでなのか、この部屋に来るまでの道を思い出して金田一は言う。
「それを結構って言うようになったか」
「今の俺には結構なんだよ」
「だったら大人しくしとけ」
「してるよ」
「お前の『してる』は信用ならん」
いつも通りの調子で言われ、晴星は少しだけ頬を膨らませた。金田一がこうして普段と同じように扱ってくれることを、晴星自身もどこかで心地よく感じていた。
大輝は二人の会話へ入ってこなかった。ベッド脇のもう一つの椅子へ座り、ポケットから弟の怪獣を取り出して膝の上に置いている。晴星の枕元には、さっき渡した兄がいる。時折その二つを見比べ、それから晴星の顔を見て、また視線を落とす。晴星はそれにも気づいていたが、何も言わなかった。
両親を失った五歳の大輝に、大人たちはそれぞれのやり方で手を差し伸べた。金田一は生活そのものを支え、劇団の人間たちもできる限り少年を一人にしないよう気を配った。晴星もまた大輝を放っておかなかったが、それは自分も父親を亡くしているから大輝の気持ちが分かる、などという理由ではなかった。
人が誰かを失ったとき、同じように悲しむわけではない。まして十歳で父を失った自分と、五歳で両親を失った大輝が同じはずもない。
ただ晴星は、自分が真昼を亡くしたあと、周囲の優しさに救われることもあれば、その優しさへ何を返せばいいのか分からなくなることもあったのを覚えていた。
だから大輝にも、無理に何かを言わせようとはしなかった。
稽古場の隅で一人なら隣で自分の台本を読み、食事の時間になっても動かなければ「俺、腹減ったから一緒に行かない?」と誘った。金田一が手を離せない日は宿題を見て、眠ってしまえば起きるまでそばにいた。芝居について聞かれれば教えたし、何も話しかけてこなければ、無理にこちらから会話を始めようとはしなかった。
兄弟になろうなんて、わざわざ考えたこともなかった。でも、お互いが傍にいることがいつしか当たり前になっていて、気づけば大輝は晴星を「兄ちゃん」と呼び、晴星もそれを不思議に思うことなく受け入れていた。
「晴星兄ちゃん」
それまで黙っていた大輝が、不意に呼んだ。
「ん?」
「……まだ痛い?」
「まだ少しね。でも、だいぶ良くなったよ」
「……そっか」
大輝はそこで黙る。晴星も「心配した?」とは聞かない。ただ枕元の怪獣へ一度目をやってから、大輝の膝の上にいるもう一体を見る。
「大輝の方、こいつの弟なんでしょ?」
「うん」
「俺の方が強そうじゃない?」
大輝が顔を上げた。
「……そっちの方が弱いよ」
「え?」
「弟の方が強い」
「……兄貴なのにそんなことある?」
「あるよ」
大輝は真面目な顔で言い切った。
「こいつは後から出てきた。だから強い」
「ああ……そういうやつなんだ」
「兄ちゃん、負けるよ」
「俺まで怪獣と一緒にしないでよ」
ほんの少しだけ、大輝が笑った。
金田一は横で呆れたように鼻を鳴らしたが、口は挟まなかった。
それから少しの間、三人でララライの話をした。晴星が休んでいる間の稽古場の様子や、今やっている芝居のこと。大輝は相変わらず多くは喋らなかったけれど、金田一が「こいつ昨日また台詞飛ばしやがって」と言えば「一個だけ」と訂正し、晴星に「飛ばしたんだ?」と笑われれば「……一個だけ」ともう一度念を押した。
そんな何でもない話がしばらく続いたあと、大輝が手元の怪獣へ視線を落としたまま、ぽつりと聞いた。
「晴星兄ちゃん」
「うん?」
「……いつ、ララライ来る?」
晴星は少し考えてから「それは俺より、そっちに聞いた方がいいかも」と金田一に視線をやった。大輝も晴星の視線を追い、金田一を見る。
「先生、晴星兄ちゃんいつ来ていい?」
突然振られた金田一が眉を寄せた。
「俺に聞くな。まず医者だ」
「だって先生が稽古していいって言わないとダメでしょ」
「そりゃそうだが、俺が許可するのはその後だ。腹刺されて三日しか経ってねえ奴を稽古場に立たせられるか」
「じゃあ、お医者さんと先生がいいって言ったら?」
「大輝までその言い方するの?」
晴星が笑うと、大輝は少しだけ首を傾げた。
「……ダメ?」
「ダメじゃないよ」
晴星は枕元の怪獣を指先で撫でながら答えた。
「ちゃんと治ったら行く」
大輝は黙ったまま、晴星の顔を見ていた。それから、少しだけ間を置いて聞いた。
「……ちゃんと来る?」
その言葉だけは、晴星も冗談にせず「うん。行くよ」と大輝と目をしっかり合わせて答えた。大輝は晴星の目――星を閉じ込めたような、いつも自分を優しく見守ってくれる瞳――を見た。何かを確かめるようにしばらく見つめてから、小さく頷く。
「……俺、待ってるから」
膝の上の怪獣を握っていた指が、少しだけ緩んだ。晴星はそれにも気づいたけれど、やっぱり何も言わなかった。金田一だけが、そんな二人を黙って見ていた。
◇
金田一と大輝が見舞いに来てから、さらに二日が過ぎた。
晴星の身体は、目に見えてとは言い難い速度ながら、それでも確実に元へ戻りつつあった。ベッドから起き上がるだけで一仕事だった頃はもう過ぎ、リハビリでは病棟の廊下を歩く距離も少しずつ伸びている。まだ傷口を庇って無意識に腹へ力を入れないようにしてしまう癖は残っているものの、理学療法士から姿勢を指摘されれば意識して直せる程度には余裕も出てきたし、食事もほぼ一人前を食べられるようになった。
だからこそ、新しい不満も出てくる。
晴星は元々、焼肉がかなり好きだった。撮影が終わったあと、スタッフから「打ち上げ、何食べたい?」と聞かれて焼肉という候補が出れば、普段は周囲へ合わせる晴星が珍しく真っ先に手を挙げるくらいには好きである。おまけに身体は十六歳の男子高校生。手術後の食事から始まって、身体に優しい献立を何日も続けていれば、そろそろ胃袋の方が健康への配慮より脂と焦げた肉の匂いを要求し始めても仕方がなかった。
その日の昼食も、主菜は柔らかく調理された白身魚だった。薄味の餡が掛かり、副菜には煮た野菜が添えられている。決して嫌いではないし、不味くもない。今の身体を考えて作られていることだって分かっている。それでも白身魚を口へ運びながら、晴星の頭には網の上で脂を落としながら焼けていくカルビが浮かんでいた。
「……焼肉食べたいなぁ」
箸を止めて呟いた、その少し後だった。廊下の向こうから「ルビー、病院なんだから走っちゃダメ」という声が聞こえてきて、それに「走ってないよ、ちょっと急いだだけ!」という元気な反論が重なる。「それを走ってるって言うんじゃないの?」「違うもん!」と揉めているところへ、最後だけ妙に冷静な「少なくとも廊下ではもうちょっとゆっくり歩け」が混じったところで、晴星は声を出して笑った。誰なのかは、扉が開く前から分かる。
「来たな」
予想通り、最初に顔を覗かせたのはアイだった。廊下へ向かって申し訳なさそうに頭を下げてから病室へ入り、その横をすり抜けるようにルビーが入ってくる。アクアは最後まで妙に落ち着いた足取りだった。
「晴星くん、こんにちは。ごめんね、廊下からうるさかったでしょ?」
「全部聞こえてたよ」
「ほらぁ~」
「だから走ってないってば。ちょっと急いだだけ!」
まだ納得していないらしいルビーだったが、病室へ入ってからはきちんと歩いた。ベッドのそばまで来ると、晴星へ飛びつくようなこともせず、少しのあいだ顔を見上げている。
「どうしたの?」
「……晴星くん、前に来たときより元気そう」
「分かる?」
「うん。顔が違うもん」
晴星が今日もリハビリで歩いてきたこと、それも前に会った頃よりずっと長く歩けるようになったことを話すと、ルビーは嬉しそうに「じゃあ、ちゃんと良くなってるんだ」と頷いた。
「俺としては、もうちょっと早く治ってくれてもいいんだけどね」
「それはダメだよ。早く帰ってきてほしいけど、ちゃんと治してからにしないと。元気になったと思って無理したら、また悪くなることもあるんだから」
あまりに迷いなく言われたので、晴星は少しだけ目を瞬いた。
「ルビーちゃん、なんか実感こもってるね」
「えっ」
ルビーの表情が止まり、隣にいたアクアもちらりと妹を見る。
「て、テレビで見たの! 病院のやつ!」
「そうなんだ」
晴星はそれ以上聞かなかったが、ルビーは内心で冷や汗をかいていた。こういうところは気をつけなければいけない。病院のことになると、十二年分の記憶が四歳の口から何の前触れもなく出てくることがある。
「まあ、ルビーの言うことは合ってる。調子が良くなってきたときほど無理するなよ」
「……アクアくんも実感こもってるね」
「俺は一般論を言っただけだ」
「そう?」
「そうだ」
晴星が不思議そうにする横で、アクアはそれ以上余計なことを言わなかった。ルビーも今度は黙っている。この兄妹はたまに年齢に似合わないことを言うな、と晴星は思ったものの、以前からそういう子たちだったので、結局はその程度の疑問で終わった。アイが椅子を引き寄せながら、晴星の膳へ目を向けると不思議そうに言う。
「もしかして食欲ない?」
「いや、食欲はあるよ。むしろ結構ある」
「じゃあ、なんでそんなにお魚見つめてるの?」
「……俺の口って今、焼肉の気分なんだよね」
「病院で何言ってるの」
アイが思わず笑った。
「ずっとこういうご飯だからさ。美味しいんだけど、そろそろ焼いた肉が食べたい」
「まだダメでしょ」
「分かってるよ。だから食べてるじゃん」
アイは笑っているのを隠そうともせず「偉い偉い」と拍手の真似までする。
「子供扱いしてない?」
「してないしてない」
「してるよね?」
「私も焼肉食べたい!」
横からルビーが勢いよく加わったので、アクアが呆れたように「お前、昨日ハンバーグ食ってただろ」と指摘する。
「焼肉は別だもん」
「……まあ、それは分からなくもない」
「あ。アクアくんがこっちに来た」
「アクアまで!?」
アイが驚くと、ルビーは勝ち誇ったように笑った。見舞いに来たはずの三人と入院患者が、いつの間にか病室で焼肉について意見を交わしている。そのくだらなさが可笑しかったのか、アイは笑いながら持ってきた紙袋を持ち上げた。
「そんな晴星くんに、お土産があります」
「焼肉?」
「持ってくるわけないでしょ!」
中から出てきたのは、小さな瓶に入ったプリンが四つだった。もちろん今の晴星が食べてもいいかは確認してからだが、晴星の顔は明らかに先ほどより嬉しそうになった。
「プリンは食べたいんだ?」
「焼肉じゃないけど、これはこれで嬉しい」
「現金だなあ」
「ありがとう、アイちゃん」
「……素直に言われると何も言えないじゃん」
アイが少しだけ口を尖らせる。その顔がおかしくて晴星が笑った途端、腹の奥にまだ慣れない引き攣れが走り、反射的に傷の辺りを押さえた。
「っ……!」
「晴星くん?」
アイの声が変わった。ルビーも笑うのを止め、アクアの視線はすぐに晴星の腹部へ落ちる。
「大丈夫。笑うとまだちょっと響くんだよ」
「本当に?」
「うん。さっきまで普通に歩いてたし」
晴星が笑ってみせても、アイの表情はすぐには戻らなかった。事件から何日か経ち、目の前の晴星が少しずつ元気になっていると分かっていても、彼が傷口を押さえる姿だけは、あの日の記憶を簡単に連れてくる。晴星はそんなアイの顔をしばらく見てから、テーブルのプリンへ目を向けた。「お土産」とアイは言っていたが、数とこの場のメンツを見る限り、皆で分け合って食べようと思って持ってきたものだとは分かった。
「じゃあ、笑わせた慰謝料で一個多くもらおうかな」
「何でそうなるの?」
「怪我人だから」
「晴星くんに持ってきたやつだけど、みんなで食べようと思ってたんだよ?」
アイは眉根を寄せて、困ったような、少し怒ったような表情をした。「やっぱりな」と晴星は思いながら、
「じゃあ、アイちゃんの分をもらうね」
「四人分ちょうどでしょ!?」
「だから罰になるじゃん」
「そもそも私、笑わせようとしたんじゃないけど!?」
あっという間にいつもの調子へ戻ったアイを見て、晴星は今度こそ腹に響かない程度に笑った。ルビーも二人につられて笑いながら、ふとアイの横顔を見る。事件のあとだってアイは笑っていたし、大丈夫だとも言っていた。でも、大人が口にする「大丈夫」が本当に大丈夫という意味ではないことくらい、ルビーは知っている。今のアイは、晴星がくだらないことを言うから笑い、痛そうにすれば本気で心配して、またくだらないことを言われて呆れている。その一つ一つが無理に作ったものではないように見えて、それが嬉しかった。だからルビーは何も言わず、自分も笑う。
昼食が進む間にも話は続き、やがてルビーは枕元に置かれた怪獣のソフビを見つけた。少し前に見舞いへ来た、大輝という七歳の子からもらったものだと晴星が説明すると、「触っていい?」と聞いてから両手で持ち上げる。
「こいつ、兄弟なんだって」
「もう一人いるの?」
「うん。大輝が持ってる。こっちがお兄ちゃん」
「強い?」とルビーは手の中の怪獣をまじまじと見つめながら問う。
「それが、弟の方が強いらしい」
「えー、お兄ちゃんなのに?」
「俺もそう思った」
そこでアクアが「兄だから強いとは限らないだろ」と口を挟むと、ルビーは怪獣を手にしたまま兄を見て、揶揄うように笑った。
「アクアも私より弱いしね……」
「は?」
「この前だって私に腕相撲負けたじゃん」
その時を見ていたのだろうアイが「あったあった」と笑う。
「あれはお前が急に始めただけだろ」
「でも負けたよね?」
「……次は勝つ」
「ムキになってる」
晴星が笑うと、アクアは少し不機嫌そうに視線を逸らした。その仕草がどこか大輝に似ていて、晴星は「大輝も嫌なことを言われるとそんな顔するな」と思ったものの、口には出さなかった。知らない相手と比べられても、アクアは嫌だろうなと思ったからだ。
しばらくして、ルビーが怪獣をベッド脇へ戻しながら「アクアって変なところで大人みたいだよね」と言った。
「ルビーにだけは言われたくない」
「私は普通だもん」
「どこがだ」
「二人とも結構変わってるよ」
晴星が笑って言うと、アイも「それは私もそう思う」と同意した。
「晴星くんは何で楽しそうなの?」
「ミヤコさん、毎日大変そうだなと思って。俺、兄弟とかいないけど、毎日賑やかそうで羨ましい」
何気ない一言だったが、アイは笑ったまま、「……うん、そうだね」と答えた。ほんの一拍だけ相槌が遅れたが、それ以外に不自然なところはなかった。
晴星はアイを見た。何か引っ掛かったのかもしれない。けれど、その理由を尋ねることはなく、ルビーがもう一度怪獣について聞いてきたので、自然とそちらに話題を移した。
アイの胸には、数日前に佐伯へ言った言葉がまだ残っている。
――私の子供です。
四年間、ミヤコの子供として隠してきた。今だって、それが必要なことは変わらない。それなのに一度だけ本当のことを言葉にしたせいなのか、以前なら何の引っ掛かりもなく口にできた嘘が、今日はほんの少しだけ重かった。壱護とミヤコに伝えた時の事を、少しだけ思い出す――。
二人がずっと守り通してくれた秘密を、自分は相談もせず警察へ話した。あの場で話したこと自体を間違いだったとは思わない。晴星を刺した人間がなぜ自宅を知っていたのかを調べてもらうためには、ヒカルへ住所を教えたことまで隠すわけにはいかなかった。それでも、自分が必要だと思ってしたことと、二人へ相談もせずにした事は別だった。怒られた。特に社長には。でも今回は、彼らに嘘をついて隠すことは違う。あの時だって結局は――
「アイちゃん?」
「ん?」
「ぼーっとしてる。疲れてる?」
「ううん、大丈夫」
反射的にそう答えてから、アイは一度だけ口を閉じた。
「……ちょっとだけ疲れてるかも」
「そっか」
晴星は理由を聞かなかった。
「じゃあゆっくりしてなよ。俺も今日は結構疲れてるし」
「リハビリとか何するかよく知らないけど、晴星くんの方が私より大変じゃない?」
「疲れてる者同士で休めばいいでしょ」
「なにそれ」
アイは笑った。本当のことを言ったからといって何かが変わったわけでも、特別な反応が返ってきたわけでもない。ただ「そっか」と受け取られて、それで終わった。
それが、少しだけ心地よかった。
アクアは向かいの椅子から、そのやり取りを黙って見ていた。晴星がアイを庇った理由について、未だに自分の中で納得できる答えが出たわけではない。もっと特殊な人間なのかと思っていた。自分の身を投げ出して誰かを助けることに、何か特別な意味を見出しているような人間なのではないかと。
けれど、実際に病室で過ごしている晴星は、思っていたよりずっと普通だった。リハビリをすれば疲れ、何日も病院食を食べれば焼肉を欲しがり、プリンを一つ多く取ろうとしてアイと揉める。ルビーが妙なことを言えば笑い、アイの返事がほんの少し遅れたことには気づいても、理由を聞き出そうとはしない。
(まだ、よく分かんないヤツだな…)
ただ少なくとも今は、英雄には見えなかった。どこにでもいる、とまでは言わないけれど、焼肉が好きで、友達からもらった怪獣を枕元へ置いている普通の十六歳に見えた。
「アクアくん?」
「……何だ」
「さっきから見てるから」
「別に。思ってたより元気そうだと思っただけだ」
「そう?」
「ああ」
それ以上は言わなかった。晴星も追及せず、「ならよかった」と笑って昼食へ戻った。その頃には食器もほとんど空になっていた。話している間は気にならなかったらしく、最後の野菜まで食べ終えたことにアイが気づいて「ちゃんと食べられたじゃん」と言えば、晴星は空になった皿を見て自分でも少し驚いたあと、それでも「焼肉は食べたい」とそこだけは譲らなかった。
ただ、身体の方は正直だった。話して笑ったぶん、次第に晴星がベッドへ身体を預ける時間が長くなり、声にも少し疲れが混じり始める。それに気づいたアイが「そろそろ帰ろっか」と双子へ声を掛けると、ルビーは晴星の顔を見てから素直に頷いた。
上着を着たあと、ルビーだけがもう一度ベッドのそばへ戻ってくる。
「晴星くん。この前の約束、覚えてる?」
晴星は少し考えてから、右手の小指を立てた。
「これ?」
「うん」
ルビーも自分の小さな指を絡めた。
「早くじゃなくていいからね。ちゃんと元気になってから帰ってきて」
「早く帰ってきてほしいんじゃなかった?」
「帰ってきてほしいよ。でも、また病院に戻ってきたら意味ないもん」
晴星は絡んだ小さな指を見て、それからルビーへ視線を戻した。
「分かった。ちゃんと治して帰るよ」
「約束?」
「約束」
ルビーは満足そうに笑った。その言葉にどんな記憶が重なっているのかを晴星は知らないし、ルビーも話すつもりはない。ただ、今度の約束はちゃんと叶えばいいと思った。
「じゃあね、晴星くん」
「またね、ルビーちゃん。アクアくんも」
「ああ。無理すんなよ」
「ありがとう。二人ともまた来てね」
双子が先に廊下へ出ていき、アイもその後を追おうとして、扉の前で一度だけ振り返った。
「晴星くん」
「うん?」
事件が起きてから、アイは晴星へ何度も謝ったし、何度も礼を言った。今日は、そのどちらも口にしなかった。
「……また来るね」
「うん。またね、アイちゃん」
それだけ言って、アイは笑った。
扉が閉まる直前、廊下から「ルビー、そっちじゃないよ」「分かってる!」「そっちは階段だぞ」「分かってるってば!」と聞こえてきた。思わず笑いそうになった晴星だったが、これだけ何度も笑うたびに腹へ響くのを繰り返していると、さすがに傷へ響かせない笑い方も分かってきたらしい。息を大きく吐かず、腹へ力が入らない程度に小さく笑えば、それほど痛くない。
それがこれ以降の人生でどれほど役に立つ技術なのかは不明だが、少なくとも入院中、笑うたびに周囲を心配させずには済みそうだった。
静かになった病室には、食べ終えた昼食の食器と、まだ許可待ちのプリン、それから大輝にもらった兄怪獣が残っている。晴星はベッドへ身体を預け、少し疲れた息を吐いたあと、テーブルの上のプリンへ視線を移した。
「……これ、もう食べていいか聞いてみようかな」
焼肉はまだ先でも、プリンくらいなら。そう期待しながら、晴星はナースコールへ手を伸ばした。
◇
それからも、晴星の病室から人の気配が途絶えることはなかった。
もっとも、美月が一日中そこにいることはなくなった。集中治療室を出たばかりの頃とは違い、晴星はもう自分で起き上がり、食事をして、歩いてトイレへ行ける。リハビリの時間になれば病室を出て、最初は慎重に踏み出していた足も、日を追うごとに少しずつ本来の歩幅へ近づいていた。医師から経過は順調だと聞き、美月はそれを確かめるように二、三日様子を見てから、止めていた仕事の一部を再開した。
もちろん、何でも元通りというわけではない。遠方で何日も拘束される撮影も、泊まりを伴う仕事も、海外の予定もまだ入れない。都内で終わる短い収録や取材を中心に、美月のマネージャーが一本ずつ予定を組み直していた。それでも仕事へ向かう朝の美月はいつもの女優の顔をしていて、終われば母親の顔で病院へやって来る。ある日は着替えを持ってきて、ある日は晴星が頼んでいた本を持ってきて、またある日は仕事先でもらった菓子を当然のように自分で開け、食べてもいいものだけ晴星へ分けた。
美月が仕事へ戻ったことを、晴星は寂しいとは思わなかった。むしろ「今日どこだったの?」と聞き、作品名を教えられれば知っている俳優の名前を挙げ、撮影の話を聞きたがった。物心ついた頃から、母親は女優だった。自分を大切にしてくれることと、美月が自分の仕事を大切にすることは、晴星の中では最初から矛盾していない。仕事を終えた美月が病室へ寄り、必要なものを補充して、明日の予定を話しながら帰っていく。そんな日が重なるほど、むしろ本当に日常が戻り始めているような気がした。
晴星のマネージャーも、もう一度やって来た。
最初に病室へ来たときとは、彼の顔も随分違っていた。あのときは晴星が目の前で笑っていることを確かめてもなお、自分が迎えに行くはずだった朝のことを引きずっていたが、二度目ともなれば手には仕事の資料と学校から預かったもの、それから事務所へ届いた晴星宛ての手紙が抱えられていた。病室へ入るなり晴星がそれらへ興味を示し、復帰後のスケジュールまで聞こうとしたところで、さすがにそこだけは止められた。医者の許可が出る前から仕事の予定を気にするなと叱られ、晴星も素直に引き下がった――ように見えたものの、今度は学校の授業がどこまで進んだのかを聞き始めたので、結局マネージャーは帰るまで何度か同じような顔をすることになった。
けれど、そのやり取りにはもう事件直後の張り詰めたものはなかった。晴星もそれを感じていたのだろう。帰り際には「今度はちゃんと迎えに来てね」と笑い、マネージャーも今度こそ「当たり前だろ」と返した。迎えに行く未来を、二人とも普通の予定として話せるようになっていた。
遠方に住む祖父母も顔を見せた。
事件を知ってすぐにでも飛んで来たかったらしいが、美月から命に別状がなくなったことと、落ち着いてからでいいことを何度も伝えられ、ようやく晴星が病室を歩き回れるほどになってからの上京だった。それでも実際に孫の顔を見るまでは安心できなかったらしく、病室へ入った途端、二人とも晴星を頭の先から足元まで何度も確認した。晴星が笑って腕を広げ、ちゃんと生きていることを見せても、祖母はしばらく目元を拭っていたし、祖父はそんな祖母を宥めながら自分も普段より口数が少なかった。
晴星にとっては、それもまた自分が知らなかった事件の大きさだった。自分が眠っている間、心配していたのは病院にいた人間だけではない。電話の向こうで知らせを待ち続けていた人もいた。祖父母が持ってきた地元の土産を美月と三人でどう分けるか相談しながら、晴星はそんな当たり前のことを今更のように知った。
見舞いに訪れたのは家族や身近な人間だけではなかった。これまで共演した俳優や監督、演出家、長く世話になっているスタッフ、子役の頃から晴星を知る人間まで、面会の許可が下りる範囲で顔を見せた。仕事で来られない者からは花や手紙が届き、病室へ置き切れなくなったものは事務所が預かることになった。誰かが来るたび、話は自然と以前一緒に立った現場へ戻った。あの作品はもう撮り終わったのか、以前一緒だったスタッフは元気なのか。結局、見舞われる側の晴星が相手の近況を聞いている時間の方が長くなり、病人らしくしていろと笑われることも一度や二度ではなかった。
その頃には点滴も外れ、食事もほとんど残さなくなっていた。咳やくしゃみをすればまだ腹には響くし、勢いよく起き上がろうとすれば身体の方から待ったを掛けられる。それでも医師の口から出る言葉は、いつの間にか「どこまで動けるか」から「いつ退院できるか」へ変わり始めていた。
そして、退院が現実的な話として出始めた頃、とうとう学校からも見舞客がやって来た。
陽東高校芸能科一年。晴星のクラスメート五人である。
なぜ五人なのかと晴星が尋ねたところ、どうやら病院側や学校側の都合で一度に来られる人数に限りがあったらしい。それ自体は理解できたのだが、病室へ入ってきた五人が揃いも揃って妙な疲労感を漂わせていた理由までは分からなかった。
あとから聞いたところによれば、晴星の見舞いへ行ける人間が五人だけだと知らされた教室では、誰がその五枠に入るのかを巡ってかなりの騒ぎになったらしい。
晴星と同じ中学だったことを持ち出した者がいれば、それが何の優先権になるのかと反論する者がいて、共演回数を数え始める者もいた。だったらオーディションで決めようという、芸能科ならではなのか芸能科でもおかしいのか判断に困る案まで飛び出し、演技勝負を提案されたグラビアモデルからは、自分を何だと思っているのかと抗議が上がった。アイドルとしての実績を基準にすべきだと主張した者は、誰かにアイの名前を出された途端に勢いを失ったという。
最終的には担任が痺れを切らし、五人を決めた。だから病室へ入ってきた五人は、見舞いに来たというより何かの選考を勝ち抜いてきたような顔をしていたらしい。
晴星が「普通に交代で来ればよかったんじゃない?」と言った瞬間、五人全員からそれだけは言うなと怒られ、病室に笑い声が響いた。幸い、傷に響かない笑い方については、この数日でかなり上達している。
クラスメートたちは、晴星が思っていた以上にいつも通りだった。心配していなかったわけではない。病室へ入った直後だけは全員が一度晴星の姿を確かめるように見たし、事件について何も感じていないはずもない。それでも無事だと分かれば、いつまでも腫れ物のようには扱わなかった。学校で起きたことを話し、仕事の愚痴を言い、晴星が休んでいる間の授業について脅し、次の五人にも退院前に急いで来るよう伝えておくと言った。
そのとき初めて、晴星は明日退院することを教えると五人の顔が止まった。
どうやら教室では、第二陣の見舞客を誰にするかまで既に揉め始めていたらしい。
翌日、晴星が退院したことを知った教室で何が起こるのかについては、本人の知らないところで既にかなり面倒な未来が約束されていた。けれど今の晴星には、まだ知る由もない。
クラスメートが帰り、再び静かになった病室には、ここ数日の見舞客が残していったものがあちこちにあった。大輝からもらった兄怪獣もその一つで、手紙や小さな贈り物の中に混じりながら、変わらずベッドのそばに立っている。
刺された日の夜には、自分がいつ目を覚ますのかすら分からなかった。それから十日ほどの間に、晴星の周りには少しずつ日常が戻ってきた。金田一と大輝が来て、アイとアクアとルビーが来て、美月が仕事帰りに顔を出し、マネージャーが来て、祖父母が来て、これまで仕事で関わってきた人たちが来て、最後には学校の友人たちまでやって来た。たくさん心配をかけたのだと思う。同時に、自分には帰っていく場所が随分たくさんあるのだとも思った。
病室の窓から差し込む夕方の光の中で、晴星は明日着て帰るために美月が置いていった服を眺めた。もう病院着ではない。家へ帰るための服だった。
明日には、退院だ。