絶対に配信はしないダンジョン攻略者 作:POTROT
最近、ダンジョン配信なるものが流行っているらしい。
何でも、スマホや専用の機材を用いて、ダンジョン攻略の様子やその他の様々な試みを、インターネットで生中継するのだとか。
何だってそんなことをする必要があるんだと最初の頃は思ったが、有名になれるとか、投げ銭が沢山もらえるとか、他のダンジョン攻略者と交流が出来るとか、そういうメリットがあるらしい。
有名な攻略者組合とかも、所属する攻略者にファンが付くと色々な面で都合がいいからと、配信を奨励していたりするのだそうだ。
俺にしてみれば、正気を疑う話でしかないが……まぁ、人気になってしまう理由もわかる。
ダンジョン。
10年前に突如として世界各地に出現した、異世界に通ずる穴。
内側に潜んでいたのは、非日常。
物理法則を完全に無視した挙動を世界に実現させる、魔法技術。
科学に完全に喧嘩を売っているとしか思えない強力な武具の数々。
人間の身体能力を恒久的に向上させるとか言う意味不明な果実や巻物。
そして、悍ましき怪物共と、悪辣な罠。
それらの存在を前に、世界は───喜んだ。
ロマンが、男の夢が、すぐそこにある。
誰もが目の前に出現した非日常に飛びついて、多くの者が成功した。
成功者たちが世界にもたらした成果は、人類の発展へ大きく寄与したのだ。
だが、それ以上に多くの損失があった。
余りにも多くの人間が死んでしまった。
だから法が定められ、一般人はダンジョンに立ち入ることが出来なくなった。
ダンジョンに立ち入ることが出来るのは、適性試験に合格した上で一定期間以上の研修を受けた者……攻略者だけになった。
そして、攻略者にはなろうと思っても誰もがなれるものではない。
多くの人々を様々な理由を前に、ダンジョンへの侵入を拒まれる。
故に、彼らは非日常に飢えていたのだろう。
そんな中に降って来たのが、安全の確保された状況に居ながらお手軽に『非日常』を楽しむことが出来るコンテンツ。
人気にならないわけがない、というものだった。
「その上で、やはり正気を疑わざるを得ない」
どうしてもそう思ってしまうのは、俺自身がこの境遇に置かれることになった経緯が関係しているのかも知れない。
小6で父親が借金こさえまくった挙句夜逃げ。
中2で母親がさらに借金を膨れ上がらせまくり、誰のかもわからない妹を産んだ上で蒸発。
親戚の類からは既に絶縁されていたのでどうにもならず、俺は生まれたばかりの妹と膨れ上がった借金を抱えたまま生活する羽目に。
そして当時話題になっていたダンジョンがたまたま住んでいたアパートの近くに出現したので、包丁片手に突っ込んで、偶然にも成功。
他に稼ぐ手段も思いつかなかったので、そのまま攻略者として資格も取ってダンジョン探索を続け、今に至ると、そういうわけだ。
そんな俺に言わせれば、ダンジョン攻略は職業と考えればクソだ。
ハイリスクハイリターンと言えば聞こえはいいが、こんなもの、命をチップに賭けたギャンブルでしかない。余りにも危険すぎる。
そんな領域の中で攻略以外の事に集中するとか、自殺行為でしかないだろうに。
「お前も、そうは思わないか?」
俺はそう問いかけるが、返事は返ってこない。
当然だ。言語の通じる相手などでは無いのだから。
ブフー、ブフーと鼻息を荒げてこちらを睨み付けるのは、二足歩行な筋骨隆々の牛。
いわゆるミノタウロス、というヤツだった。
奴が巨大な宝箱と下に続く階段をその背に守っている所から鑑みるに、このミノタウロスがこのダンジョンのこの階層における
「……ふむ」
この迷宮に潜り始めてからそろそろ三日。時間的にキリもいい。
コイツを殺し、宝物を回収したら、さっさと地上に戻ってしまおう。
そろそろ、妹が心配だ。
『ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
俺の敵意に反応したミノタウロスが咆哮を上げ、両手に握った大剣を振り下ろす。
横へ転げるようにしてその攻撃を避ければ、ダンジョンの床が爆発した。
「えげつないな」
ミノタウロスの攻撃は全身鎧を纏っていても、鎧ごと叩き潰される、と言う話は有名だが、この個体は
これは俺でも、食らえばタダでは済まなそうだ。
まぁ、食らうよりも前に倒してしまえばそれで済む話だが。
「
虚空に出現した魔力弾がミノタウロスの心臓を貫き、消し飛ばす。
胸のど真ん中に大穴を開けられては、いくら強大な怪物とは言えど生きてはいられない。
断末魔らしい断末魔を挙げることなく、血の泡を吹き出して、ミノタウロスは死んだ。
その事実を証明するかの如く、ミノタウロスの背後に鎮座していた宝箱がガチャリと音を立てて開いた。
中には、目も眩むような金ピカの財宝や魔法の武具、スクロール何かが詰まっていた。
成程、大きいダンジョンと言うだけあって、報酬も豪華だ。
これよりも下に行けることが出来たなら、もっと多くの報酬を得ることも出来るだろう。
「さて、それじゃあ、帰るか」
戦利品をリュックサックに詰め込めるだけ詰め込んで、来た道を戻る。
ダンジョン脱出用の魔道具もあるにはあるが、それは高級品。
歩いて帰れるときは、歩いて帰るのが節制と言うものだ。
と、そんな具合でダンジョンを逆走していたところ、何やら入り口の方向から声が聞こえて来た。
複数人の攻略者で組まれたパーティか、と思ったが、どうにも違うようだ。
ずっと一人でブツブツと何かと喋っているらしい。
「だから…………………………使えば…………視聴者…………」
漸く何を言っているのか断片的にだが聞こえるようになって来た。
そして何故一人でブツブツ喋っているのかも理解できた。
視聴者と言っていたし、恐らくだが、アレが配信者というヤツなのだろう。
実際に遭遇するのは初めてだが……あんなに喋っていて周囲の音とかはちゃんと聞こえているのだろうか?
色々と心配である。
「……いや、マジで使い勝手いいんだよスローイングダガーって! 皆すぐに失くすとか壊すとか言ってるけど、ちゃんと性能のいい奴は強いし壊れないの! ほら!」
そして声がどんどん近付き、何を言っているのかさえハッキリと聞こえるようになった直後。
何かが空を切って俺に飛んでくるので、掴んで止める。
投擲用短剣、スローイングダガーというヤツだった。
しかも表面が淡く緑色に輝いている。魔法武器だ。
まず間違いなくこの先で配信している輩が投げてきたものだろう。
「……はぁ」
クソ危ない事この上ないな。
まぁ同じダンジョンで同業者がカチ合う事なんてまず無いので、怪物か何かとでも思ってしまったのだろう。仕方ないと言えば仕方ない。
普通の攻略者は俺みたいに歩いて帰ったりせず、帰還用の道具で帰るものだし。
ここに関しては俺が非常識だったと認めよう。
「さてさてさーて、一体どんなモンスターが…………」
「…………」
暗闇の中から現れた配信者が、俺の姿を照らし出して固まる。
妙にカラフルで露出度の高い装備を着た女だった。
何と言うか、ダンジョン攻略より見栄と外聞にリソースを割いている感じがひしひしと感じられた。……まぁ、ダンジョン攻略なんてどこまで行っても自己責任なのだから、とやかく言う気にはならないが。
「今後は気を付けるといい」
「え、あ、はい……」
俺は刃の部分を持って、短剣を彼女に返す。
彼女は呆然とした表情のまま短剣を受け取ったので、そのまま俺は入口の方へ。
やっぱり配信はダメだな。注意力が散漫になりそうだ。
今後も俺はダンジョン攻略一筋でやらせてもらうとしよう。
借金を返して。まともな家を買って。妹を大学に行かせて。
それから適当に喫茶店か何かを営みながら早隠居する。
金が必要だ。大金が。
そのためには、もっと深く潜らねばならない。もっと強くならなければならない。
「寄り道をしている暇は、ない」