絶対に配信はしないダンジョン攻略者 作:POTROT
「装備一式、ライセンス、マッパー、携帯、食料、水、照明、予備電池、簡易結界、即席トイレ、緊急脱出用機、回復薬、道具セット……よし、問題ないな」
現在時刻はAM4:00。
朝日が昇るよりも前に起床した俺は、荷物を広げて入念なチェックを行っていた。
持ち物は普段と変わりないが、ここでの不備一つが生命を左右しかねない場所に今から赴くのだ。
確認するだけで万に一つを排除できるならば、やらない理由は無い。
隅から隅まで細かく確認し、問題ないと判断できたので、荷物をまとめてリュックに詰めて背負い、立ち上がる。
「それじゃあ、行ってきます」
「はいはーぃ、いってらっしゃぁい」
極力起こさないようにしていたはずだったが、どうやら起こしてしまっていたらしい。
寝惚け目の唯が、玄関まで俺を見送りに来た。
「……しっかり寝ろよ?」
「寝てるよ、いつもは」
「ならいい。元気でな」
そうして俺は妹と別れ、駐めてあったバイクに乗り込んだ。
流石に移動手段が無いのは致命的過ぎたので、ダンジョン攻略の合間に何とか免許を取って購入したものだ。本当なら車を持てればよかったのだが、流石に維持費とかが負担になりそうだったので、バイクにした。
ちなみに購入費用は中古で10万。普通にボロい。
が、やはりあるのと無いのとでは大違いだった。
「よ……っと」
バイクを1時間ほど乗り回し、目的のダンジョンに到着する。
ダンジョンは基本的にその入り口を国が建てた管理用の建物で封鎖されているので、そこの駐輪場にバイクを停める。
攻略者ならば無料で幾らでも停めることのできるので、費用の心配はない。
そして駐輪が出来たら、建物へ。
『ライセンスを確認します』
入口にある認証機にライセンスを翳せば、音を立てて自動ドアが開かれる。
未だ早朝と呼んでいい時間帯である現在、建物内に人は全くおらず、俺の足音がよく響いた。
「さて」
更衣室で装備一式を整え、ライセンスで動作する貸しロッカーに着替え一式とバイクのキーを突っ込んだ後、腕に装着したマッパーを起動したら、いよいよダンジョンへ突入する。
ちなみにマッパーというのはスマホに似た端末だが、探索を進めれば自動的にマップの書き込みやら何やらを行ってくれるというダンジョン攻略の必需品だ……というか、ダンジョン攻略への携行は攻略者の義務だ。
というのも、マッパーの有無はそれだけで攻略者の生存率を大幅に向上させるのみならず、持ち帰られたマッパーから共有される情報は、今後のダンジョン攻略に大きく役に立つものになるためである。
『ライセンスを確認します』
『……確認しました。続けてマッパーを確認します。マッパーが起動されていなかった場合、強制的に起動されます』
『……確認しました。安全に十分に気を付けて、探索を行ってください』
ゲートにライセンスを翳し、案内音声を聞き流しながら階段を下りれば、そこはもうダンジョンだ。もういつモンスターが襲いに来てもおかしくはない。
「今回はとにかく下を目指そう」
前回は初めて訪れたダンジョンという事もあり、慎重に探索を行っていたが、今回は違う。
出現するモンスターの大まかな種類、罠の位置や対処法、最短ルートなど、その辺りは粗方頭の中に入っていた。
勿論、だからと言ってそれが油断する理由にはならない。
未知の罠や未遭遇のモンスターに対する警戒は怠らずに進んでゆく。
「かなり大きいダンジョンだし、レアモンスターとかが居てもおかしくないからな」
レアモンスター。
読んで字の如く、
その特徴は様々で、倒すと性能の良い魔法武具、或いはその素材を落とすような有益なのもいれば、尋常じゃない程強力で殺意マシマシのもいる。
要するに出会ったらとんでもなく運がいいか、或いはとんでもなく運が悪いか。
そういうおっかない怪物共だ。
どれだけ堅実に探索を進めていても、そういうイレギュラーが命を奪う可能性もある。
しかし、そういう事態が起こる可能性をきちんと考慮し、対策をしていれば、間一髪で助かるかも知れない。
だから俺達は慎重に探索をしなければならないのだ。
…………本来なら。
「…………! ……………………。…………」
まーた配信者だ。
とは言え声の質から判断するに、二日前に遭遇した女とは別人らしい。
しかしそれにしてもマジで騒がしい。
モンスターと人以外に何もいない分、迷宮は声が響きやすいのだから、もうちょっと声を抑えるとかできないのだろうか。
とは言え、位置が分かり易いのは有り難い。
どうせ関わり合ってもロクなことが無いので、回り道をして行かせてもらうとしよう。
マッパーを確認しながら適当な横道に進み、ぐるっと回るようにして階段の方へ。
「む」
すると、その道中に経由した部屋の一つに、宝箱があった。
俺は即座に上下左右前後を確認するが、しかし守護しているモンスターの類は見られない。
どうやら宝箱が単独で置いてあるだけのようだ。
「こういうのが厄介なんだよなぁ……」
ダンジョンにはこのようにして、宝箱が自然生成されることがある。
だが、それを入手するためには大抵の場合、何かしらのリスクがあるものだ。
一番わかりやすいのが、モンスターが宝箱を守っているもの。
モンスターを倒さねば宝箱を入手できないという、極めて単純かつシンプルなものだ。
が、このように単独で宝箱だけが置いてあることもある。
更に鍵穴も無いと来た。その場合考えられるパターンとしては……
①宝箱がミミック
②周囲に罠がある
③宝箱自体に罠が仕掛けられている
④普通に何もない。ただ宝箱があるだけ
この四つが主だ。
だからこれらの可能性をそれぞれ考慮して、怪物に気を付けながら宝箱とその周囲を調べなくてはならない。
「この階層の宝箱に良いものが入ってるとは思えないが……見るだけ見るか」
ダンジョンでは基本的に、深く潜れば深く潜るほど、強いモンスターが守っているほど、厄介な罠が仕掛けられているほど、良いものが入っている傾向がある。
ここで言う良いものとは、魔法関連の物品の事だ。
より有能な魔法武具、魔法のかかったアクセサリー、魔導書、魔法の込められた宝石……
ダンジョンの存在する現代社会において、それらの物品は金よりも高い価値がある。
というかダンジョンから無限に見つかるおかげで金の価値が大暴落して、その座に魔法関連の諸々が取って代わったのだ。
だから金銀財宝よりも、古ぼけた本一冊の方が、我々には嬉しいのである。
そして、この程度の階層で見つかるものは、大体が金貨。
だから探索序盤の今はスルーしても良かったが、しかし絶対に魔法関連のものが入っていないというわけでも無い。
そして金の足しになりそうなものは、少しでも多く欲しい。
「さて」
まずはライトで周囲を照らしてみる。
寝転んで、床も丁寧に照らしながら確認するが、怪しい影は無い。
次に俺はマッパーを操作して罠検知の機能を作動させつつ、道具セットの中から折り畳み式の棒を取り出して、その辺を叩いてみる。
反応は無い。
そうしたら俺は一歩前に出て、再び当たりの地面を叩き、前に進む。
これを繰り返して、宝箱の前へ。
宝箱も叩いてみる。
やはり反応は無い。
ミミックというわけでも無いようだ。
次は道具セットからノミや針金の類を取り出し、ライトで照らしながら宝箱の隙間に差し込んでみたりと調査する。
………………妙な引っ掛かりがあった。
開けた瞬間、何かが飛び出すタイプの仕掛けのようだ。
なら問題ない。
「
要するに開けなければそれでいいのだ。
宝箱の蓋を吹き飛ばしてしまえば、それで中身が見れる。
「ふむ」
罠の正体は矢だった。
しかも毒矢。悪辣なものだ。
そして肝心の中身は……やはり金貨がメインのようだ。
だが、罠が仕掛けられていたからか、幾らか宝石の類も混じっている。
残念ながら魔法関連の者は入っていなかったが……宝石があるだけ有り難い。
宝石だけ回収するとしよう。
「…………。………………!! ……………………」
と、そうして粗方回収し終えたところで、例の配信者の声がこちらに近づいてきていることに気付いた。少々時間をかけ過ぎたらしい。
映り込んでも面倒なので、とっとと道具類を回収して離脱する。
「……おっ、宝箱あんじゃん! やっぱ宝箱がダンジョン攻略の花形だよねぇ……おっ、しかももう開いてるし! 中身もちゃんとある! いやぁやっぱ日ごろの行いが良いのかな!?」
後ろから響いてくる戯言に耳を貸すつもりはない。
精々降って湧いた小遣いで騒いでいると良い。