日本の攻略者は全体数が少ないと言われているし、事実その通りだと思う。
世界全体で言えばかなりの人数がいるが、日本全体だけで言えば、総数は一万人に届かない程度。
つまり一万人に一人いるかいないか、そのくらいの数でしかない。
確かに攻略者という職業は人気だ。
少なくとも、名声という点で言えば。
例えば大手の組合に所属している攻略者なんかは大人気アイドルのように扱われるし、そうでなくとも大人気であることは間違いない。
一部ではバケモノ呼ばわりされて忌避されている所があるものの、やはりそれでも大多数からは支持を集めているのが現状だ。
だが、そんな人気と反して、自分がなりたいという人物はまず居ない。
理由は簡単。
『適性を持っていないとまず資格すら手に入らないから』という理由で、そもそもの母数自体が小さいというのに、文字通り死ぬほど危険だから、適性があってもなりたがらない人物が非常に多く。そして更に、新参者は全く稼げないからという理由で、新規参入が躊躇われてしまう。
他にも様々な理由はあるが、主だったところはこの三つ。
特に2つ目と3つ目が致命的過ぎた。
攻略者と言う制度が出来たのが10年近く前であるにも関わらず、一万人弱いる攻略者のうち、2年以上の経験がある攻略者は半分以下、と言う事実からも分かるだろうが、基本的に攻略者は数年以内に死ぬか、引退を余儀なくされる。
迷宮内に存在するモンスターや罠が悪辣すぎるためだ。
そして、そんなに危険だと言うにも関わらず、新参者はほとんど稼げない。
どれだけ新参者が稼ぎ難いか、だが……参考にはし辛いだろうが、今の俺を例に出そう。
今現在、俺は約丸一日かけて前回の最終到達地点、
残念ながらミノタウロスはまだ復活していないようだったが。
さて、この時点に至るまでに、俺は5つの宝箱を開けている。
1階層で1つ。2階層で2つ。3階層は自然生成と
そして4階層で1つ。
……この回収量は、まぁ普通に探索したのと比べて少ない方だ。
前に進むことを目的に歩き続けたので仕方ないが。
さて、では俺のリュックには今、総額幾ら分の宝が入っているだろうか?
ちなみに参考までに俺の肌で感じた各階層の難易度を言っておくと。
第1階層、入り口付近なら初心者でもいける。
第2階層、滅茶苦茶頑張れば初心者複数人でギリ。
第3階層、2年以上の経験は欲しい。
第4階層、3年間も攻略者やってれば行ける。
と言った具合だ。
まぁ、かなりデカいダンジョンだからな。
相応に難易度も高くなっているらしい。
その分宝箱の内容も、まぁ豪華にはなっているわけだが…………
それでも、大体10万円だ。
現状、俺のリュックの中に入っている分で、10万くらい。
そしてこの10万のうち9万近くは、ほぼほぼ第3階層の
自然生成の宝箱から回収した分だと、1万円に届くかも怪しい。
俺があえて無視した金貨とか、モンスターの素材も含めればもう少し増えるかも知れないが、あまり変わらない。
命をチップにしている割には、せこい稼ぎだろう。
しかも第3階層、第4階層の宝箱も併せてこれだ。
第1、第2階層だけで稼いだのなら、恐らくもっと低い。
しかしまぁ、それも仕方のない話。
初心者でも容易に回収可能な金銀財宝や宝石の類は、余りにも取れ過ぎてしまったのだから。
もう既に、ほぼ価値が無いのだ。
ダンジョン発生から時を経るごとに価格がグングン下落し、今はかつて誇った希少価値など見る影も無い。
宝石は魔法的な消耗品なので、大きければ一個数千〜数万円にもなるが、アクセサリーになる程度のサイズだと数百円くらいでしかない。
金貨など今では100円の価値があるかさえ怪しい。
グラム当たり2万とかの値段だった10年前なら信じられない話だっただろうが、しかし現実にそうなっている。
今や金は稀少でも何でもない。
石ころよりは利用価値があるという、それだけだ。
特に海外が凄いらしい。
大陸の方では一日に数十万トン~数百万トンの金が持ち出されることもあったそうだ。
黄金で作られた宮殿なんてのも、もう夢でも何でもない。
だから魔法関連の代物や、特殊な食材など、『現代技術では再現できない特別なもの』を手に入れない限り、その辺の普通のサラリーマンより稼げない、何て事も有り得るわけだ。
というか、初心者ならばそれが普通。
一か月間毎日毎日迷宮に潜り続けて、運が良ければサラリーマンの倍くらい稼げるが、運が悪ければ真面目にバイトするより低いこともある……それが今の新人攻略者だ。
だからその点、俺は運がよかった。
俺はダンジョンが現れて割とすぐの段階から潜り始め、価格の暴落に沿うような形で量と質を増やしながら成長してきたので、割と収入が安定していたし、ギリギリで借金にも対応できていたのだ。
しかし、今の新人たちはそうではない。
命を賭けて迷宮に挑んでも、得られる報酬は平均以下。
割に合わないと言わざるを得ない。
「…………だから、配信なのかも知れんな」
危険を冒してでも、少しでも多く金を稼ぎたい、と。
その気持ちは分からないでもない。
まぁだからと言って、やはりどうかしていると思わなくも無いのだが。
配信よりも宝箱の出現位置を覚えて最短ルートを割り出し、周回することをお勧めしたい。
大変だが、安定して稼げる。
「……さて」
宝箱の背後に口を開ける、更なる地下への入り口に、俺は足を伸ばした。
マッパーを開いて確認するが、どうやらここから先は俺が最初に足を踏み入れることになるらしい。
つまり情報はゼロ。俺がこの領域を開拓する第一人者になるわけだ。
「実に有り難いことだな」
マッパーに新たな領域を書き込んだ分は、追加で報酬を貰うことが出来る。
前人未到の領域に足を踏み込むファーストペンギンへの、ささやかな報酬だった。
貰える量は本当にささやかなモノではあるが……数か月分の食費にする程度には十分すぎる。
「やはり、攻略する迷宮を移して正解だった」
装備の調子を確かめ、緊急脱出時の動作を確認しながら、俺は階段を下った。