絶対に配信はしないダンジョン攻略者 作:POTROT
未開拓領域の探索は、今まで以上に慎重に探索を行う必要がある。
それこそ、臆病とさえ言えるほどに慎重にならなければならない。
姿勢を出来る限り低く保ちながら、一歩進むごとに棒を振り、ライトで照らし、安全であると確認出来たらまた一歩。
牛や亀どころか蝸牛の如く遅々とした歩みだが、それもやはり必要なことだった。
何せ、罠によってはかかった瞬間に即死、なんてものもあるのだから。
「む」
棒を振り下ろすと、マッパーが警告音を鳴らす。
『罠検知』が作動した証拠だ。
その場で屈み、ライトで照らしながら反応のあった場所を良く調べれば、うっすらと円形の紋様が刻まれていることが分かる。
魔法陣だ。
人間が踏むことで、その魔力を徴収して魔法を発動させる、そういう類の罠だった。
詳しい効果の程は分からないが……スイッチ等の仕掛けが作動するタイプの罠より、こういった魔法陣タイプの罠の方が悪辣な効果を持つモノが多い印象だ。
とはいえ流石に俺が作動させて効果を確かめるというわけにもいかない。
取り合えず現状はマッパーに『罠:魔法陣』とだけ記入しておき、細心の注意を払いながら、マッパーを取り外して魔法陣の写真を撮る。
これも追加報酬を貰えるポイントの一つだ。
「…………しかし、毎度毎度思うが、どういう原理で作動しているのだろうな? 『罠検知』は」
スイッチ等の仕掛けに反応するのは、まぁ分かる。
反響の仕方や衝撃の違いを検知しているのだろう。
しかしこのような、一見するとただの地面にしか見えない……というか、ただの地面に絵が描いてあるだけのものをどう感知しているのかは、未だに謎だ。
罠のかかった宝箱を叩いても反応しないのも謎だし……
「まぁ、あるだけ有り難いから、特に文句を言う理由も無いが」
マッパーの……罠検知の無い時代はとにかく酷かったからな。
管理用の建物も無く、当然ライセンスも無く、浅瀬でも十分に大金が稼げていたあの頃は、誰もがダンジョンに入りまくっていたものだから、入り口付近で待ち伏せして、誰かがダンジョン内に入ったのを見計らって自分も後をつけ、先行した人間に罠の有無を調べさせるとかいう外道な真似が横行していた。
当然、俺がその標的になったこともある。
俺はその時、実に運よく生き残ることが出来たが、日本だけでも何千人……世界で言えば何百万人どころではない犠牲者が出たのだそうだ。
そして、えげつないのはこの時、死んだ人間の中にかなりの量の老人や子供が含まれていたという調査結果が出ている事。
また、同時期に犬や家畜の盗難、死亡が世界中で相次いでいたという事実もある。
……何が行われていたかは、想像に難くない。
その後は罠検知用のロボットやラジコンが流行した時期もあったが……間もなく法整備が為され、ライセンスが制定され、マッパー及び罠検知の機能が普及したため、すぐに廃れた。
一定以上の重量が無いと検知されない罠もあるから無駄に重い上に、コスパも悪いからな。
当然と言えば当然だった。
「……む」
そうして再び地面を棒で叩きながら前に進み続けていれば、不意にドシンドシンと、重量を感じさせる足音が遠くから近付いて来る。
棒を叩きつける音に反応したのだろうか。
足音の間隔から判断するに、二足歩行のモンスターのようだ。
そして足音の質から判断すれば……
「ジャイアント、か?」
ジャイアント。あるいは巨人。
細かく区分すればサイクロプスとかヘカトンケイルとかダイダラボッチとか色々あるが、取り合えず人間をそのまま巨大にしたようなモンスターだ。
「さて」
俺は腰を低く落とし、暗がりの向こうからその巨体が姿を現した瞬間、
『ぶあッ!?』
圧倒的な貫通力を持つ俺の必殺の一撃は、ジャイアント───ではなくオークだった───の体を完全に消し飛ばした……かのように思えた。
が、オークが振り上げていた棍棒だけはその形を保ち、慣性を保ったまま床を転がる。
そして。
ガチッ、ガラン!! ガラン!! ガラン!! ガラン!! ガラン!!
「げ」
実に不幸なことに、オークのドロップアイテムが
普通、モンスターは迷宮の罠に引っかからないのだが、あのようなドロップアイテムの類は別なのだった。
けたたましい鐘の音がダンジョン中に反響し、侵入者の位置を周囲に存在するモンスターたちに伝達する。
周囲からモンスターたちの雄叫びと足音が木霊する。
数は……20に届くか届かないか、と言った具合だろう。
囲まれるのは少々マズい状況だ……が。
まだ緊急脱出を行うような時期でもない。
「ふッ!」
ブラッドハウンド……どす黒い赤で全身を染めた猟犬の肉体を、蹴りで粉砕し、反対側から現れたリザードマン……二足歩行のトカゲの頭部を裏拳で破壊する。
「この程度なら、問題ないな」
これでも俺は10年間ダンジョンに潜り続けた男だ。
今までに幾つかのダンジョンを踏破したこともある。
この程度の層域の怪物に囲まれた程度では、ピンチとは言えない。
10年間のダンジョン攻略の経験は、俺の体を完璧に怪物のそれに作り替えていた。
蹴る、殴る。他の人間と同じその動きも、俺がやれば破城槌の一撃に等しい。
それこそレアモンスターでも出なければ、特に危なくなるなんてことは───
「お」
俺は嫌な予感に従い、体を大きく横へ逸らした。
すると、俺の体が今まであった場所に、削り取るような斬撃が振り下ろされる。
下手人の姿はどこにも見えない。
だが、俺はこの攻撃を知っていた。
「…………リーパーか」
それは死神の如き容姿を持つ、恐るべきモンスター。
噂をすれば影が差す。
確実にコイツはレアモンスターだろう。
間違いなくこの層域で出現してはいけないレベルの相手だ。
とは言え、俺に倒せない相手ではない。
取り巻きも纏めて、消し飛ばしてしまおう。
感想で来た疑問にお答えするコーナー
Q.借金は弁護士に頼めばどうにかなったのでは?
A.当時中学生、親ガチャ大失敗、ほぼ人間不信、知識無し、教養無し、心の余裕一切無し、なんなら親がどこにどれだけ借金してるかさえ知らない、ほぼ無一文。
この状態で「弁護士に相談しよう」とはそもそも考えつかないのでは? というのが筆者の考え。
Q.ダンジョンは工業用金属産出するの?
A.微妙です。一部のゴーレム等のモンスターが落とすことがある程度です。
Q.ダンジョンは世界各国にあるの? 特色は国ごとにあるの?
A.世界各国というか各地に分布してる感じです。何なら火山とか海の中にもあります。特色は特にありません。ダンジョンの性質ごとに出るモンスターは変わりますが、日本のダンジョンだから日本の妖怪が出る、というわけではありません。日本の妖怪っぽいモンスターが出るのならそれは海外のダンジョンでも出ます。