聖杯戦争開幕です。暗い描写が苦手なので、訓練を積みます。ヤーッ!
「…とりあえず、聖杯戦争について説明しとこうか。まぁ、人から聞いた受け売りだけど」
―――聖杯。
時に、救世主が遺した聖遺物として語られるモノ。ありとあらゆる願いを叶える、万能の願望器。
冬木においては、その聖杯をモデルとし、遠坂・マキリ・アインツベルンの御三家が
聖杯戦争とは、願望器たる聖杯に託す願いを掛けて行われる殺し合いのことである。
もっとも、ただの魔術師同士の殺し合いではない。
殺し合うのは、人間なぞより余程高位の存在。
遥か遠き『英霊の座』に登録された、世界が認めた英傑、その影。
魔術世界では
人呼んで、「サーヴァント」。
聖杯戦争とは、サーヴァントを使役する7人の「マスター」と呼ばれる魔術師が、聖杯の持つ万能の権能、『
「―――さて、これで聖杯戦争についての説明は終わりかな。わかったか?」
話を一旦区切り、梨奈の様子を伺う。それなりに思いないようだったが、思ったより余裕がありそうだ。…これは、兄として喜ぶべきか悲しむべきか…
「…うん、大体は。それで、この痣…令呪だっけ?は一体何なの?」
「それは、さっきも言った通りマスターとしての資格だ。それと同時に、サーヴァントを縛る鎖でもある」
「鎖?」
「あぁ。ほら、模様が3つに分かれてるだろ?これを一つ消費すれば、何でも命令できるんだ。もちろん、使い切った場合はマスターの資格を失うからサーヴァントも従わなくなるし、聖杯戦争からも脱落だ」
「成程…つまり、使って良いのは2画までってことだよね」
「まぁ、そういうことだ。とはいっても、聖杯戦争に絶対に参加しなきゃいけないわけではない」
「えっ?どういうこと?」
「聖杯戦争を第三者視点から俯瞰し、脱落者や棄権者の保護、異常事態への対応をする人材が聖堂教会の側から派遣される。そいつに頼めば、令呪を預かってもらって、棄権もできるんだが…」
そこまで言って、少し言葉を濁す。
「できるんだが、何?」
「……なぁ、梨奈。三宙町に、教会なんてあったか?」
「えっ?いや、なかったと思うけど……それって、つまり…」
「僕達は今、相談をする監督役の所在がわかっていない」
「超ヤバいじゃん!!」
「あぁ、超ヤバい」
極めて真剣な顔で、極めて巫山戯た口調で自体の重さを確認する。
「とりあえず、監督役を探さなきゃな。それまでは他陣営から狙われるだろうし、学校は休もう」
「…うん、わかった。学校に連絡入れてくる」
そう言って、梨奈はとてとてと部屋へ戻っていった。
「…ふぅ、さて、こっからどうする?」
桐矢は他ならぬ自身へ問いかけ、現状の整理を始める。
「監督役の所在はまだわかっていない。しかし外に出れば他陣営が攻めてくる。屋敷の結界を強化して、僕だけで捜索に出るか?いやだめだ、梨奈が危険すぎる。他陣営から絞り出すか、僕の足で探しに行くか…どちらにせよ、一旦サーヴァントが必要だな。戦意の表明とも取られかねないが、背に腹は代えられない」
と、そこまで考えたところで、違和感に気づく。やけに梨奈の帰りが遅くないか?
「梨奈?どうした?何か揉め事か?」
そう言って、梨奈の部屋の扉を開く。
梨奈の部屋は窓だけが開かれ、虚しく風が吹くだけになっていた。
❐❏❐❏❐❏
「クソッ!クソッ!!」
後悔を言葉の端々に滲ませながら、三宙の町を駆ける。認識阻害を掛けているため、人目を気にしない全力疾走だ。
「既に結界内に入っていただと…!?何故梨奈がマスターであることを…あぁクソッ!油断した!」
いくら弱音を吐いても何も変わらない。今はとにかく梨奈を捜さなければ。
そう思い町を駆けていると、自然ととある建物に辿り着いた。
三宙明星高等学校旧校舎。
今から60年近く前に使われていた、昔ながらの木造校舎である。
つい6年前に、施設側の限界ということもあり閉鎖されたのだが、梨奈の魔力の残滓がこの校舎に向かって続いていた。
注意しながら建物内に入り、捜索を開始する。
「ここで魔力の残滓が途絶えてるってことは、ここが相手方の拠点のはずなんだが…こんな建物じゃまともな生活もできないぞ。霊脈自体は通っているが、一体どこに…」
各教室、理科室や家庭科室と言った実践教室、職員室、様々な場所を巡るが、手当たりが見つからない。
「あと行ってないところと言ったら…」
そして、最後にその場所へと向かう。
「ビンゴ、みたいだな」
教室棟から隔離された、ひときわ大きい建物。
即ち、体育館。
外見はボロボロのままだが、密度の高い魔力が建物内に詰められている。
察するに、範囲を限定することで管理を簡潔化させた結界だろう。
「―――――――――」
無言で、例の殴打武器の布を外す。
勘付かれないように、静かに魔力を込めて、
「
ピシャァッ、と鋭い音を立てながら、一筋の雷光が迸る。
破壊されたドアを通り抜け、建物へ侵入する。
目の前に広がったのは、広く知れ渡った体育館の姿ではなかった。
白い大理石の床、壁は黒く、恐らく漆喰か何かで着色したのであろう重厚感を感じさせる。
「…成程、どんな理屈かと思ったが、
固有結界。魔術の秘奥とされる、今存在する
凡そ、元々あった体育館に重ねる形で部分的に展開しているのだろう。
それでもこうして展開し続けられるのは…この固有結界自体の性質か。
敵は未だ見当たらない。梨奈の魔力も感じないということは、相手はアサシンだろう。気配遮断を使用した奇襲攻撃で、こちらを狙ってくる。
暗殺者であれば、接近が必要だ。とにかく付近を警戒しろ。
カッ
舞台の照明が音を立てながら付く。
どう考えても誘導だ。警戒を解くな。近づく気配を見逃すな。
『―――そうではないだろう』
僕のちょうど背後から、一本の矢が放たれる。
時速約350km。人間が知覚して回避できる速度を優に超えていた。
予想から外れた攻撃。放たれた矢が、僕の腹を穿つ―――
――――――ことは、なかった。
ナニカに引っ張られるようにして、考えるよりも先に体が動いた。
迫ってきた矢を、『
「何だとッ…!?」
結界上部、キャットウォークのようになっている所に、男が立っていた。
弓を放ったところを見ると、おそらく
「…そこの坊主、今、何をしやがった?」
「…そんな事、知るわけ無いだろ」
まだ空が青い朝の時分、確かな不和を感じさせながら、早速、戦争の幕が開いた。