青春を再び 作:きゔぉとす
青く染み渡るような空の下、多くの下校中の生徒の姿が見える。まだ太陽は天頂を過ぎたばかり、真夏の気配が頑固にしがみついている中、一陣の風が青葉と共に吹き抜けた。
「おーい!」
一人の男子生徒が、カバンの中身がぶつかり合う音を鳴らしながら、石畳の上を駆け抜ける。そしてその勢いのまま、ぶつかるようにして、前を歩いていた生徒の肩に腕を回した。
「うわっ……ちょっ、何だよ」
「勝手に一人で帰るなって」
「提出日に慌てて課題をやってる方が悪いだろ」
「まあまあ、すぐ終わらせたじゃんかよ」
「そうだな。40分という大変素晴らしいタイムでな」
「ああ、いつもなら2時間はかかってるところだ」
それなりの距離を走ってきたのに、全く息を切らさず話し出した。グイグイ顔を近づけて話しかけてくる男子生徒を押し返しながら、面倒くさそうに返す。
「はぁ……で、テストの方はどうなんだ」
「ふっ……どう思う?」
「どうせ赤点だろ」
「いや、今回はかなり良かった。書いたところが全部合ってれば7割はとれてる」
男子生徒――三条礼二は、生真面目な顔でそう言った。
「自信がある部分は何割なんだ?」
「3割だ」
「落ちろ」
「酷い」
辛辣な言葉を投げかけたのは梅宮零士だ。そんな掛け合いをしている内に、駅が見えてきた。建物自体は巨大だが、整然とした街並みに見合わず古ぼけている。
「お、着いたぞ。そろそろ離れろ。重い」
「へいへい……あ、昼食いにいかね?」
「どこに?」
「ラーメン」
「この前も食べただろ」
「じゃあ他でもいいぞ」
「いや、気分じゃないからいいや」
「なんやねん」
礼二は苦笑しながら腕を解くと、片手を軽くあげながら歩き出す。
「お前が来ないなら俺も帰るわ。じゃあな」
「ああ、轢かれんなよ」
「轢かれんわ!」
そのまま礼二は改札を通ってホームに歩いていった。
(さて……僕も帰るか)
礼二とは路線が違うため別の改札からホームへ入る。昼時だからか、いつもよりはやや人影が少ない。座席に座れるように、最後尾の車両が停止する位置に向かう。同じ狙いであろう人が数人いたが、扉ごとにバラけたため、問題なく列の先頭に立つことができた。
電車が来るまでの暇つぶしにゲームを開く。ブルーアーカイブだ。以前ダウンロードしたものの、チュートリアルだけして終わっていた。しかし暫く開いていなかったせいかアップデートしなければならないようだ。
(データは使いたくないな…)
淡く滲み出てきていた好奇心も、その不利益に打ち勝つことはできなかった。そうしてアプリを閉じようとした時、ちょうど電車がホームに入ってくる。
(まあ、また二次創作でも読もうかな)
そう考えていると、突如として強い衝撃が背後から加わり突き飛ばされる。命の危機を前に、時間の流れが遅くなったような感覚に陥る。咄嗟に振り返ると、酔っ払って平衡感覚が狂っているであろう中年の男が、よろけて倒れるところだった。
「なっ!?」
全てを察して一瞬思考が停止すると、再び時間の流れが戻り背中から地面に叩きつけられる。レールや枕木に当たり肩や腰に激痛が走った。眼前まで迫っていた電車から、脳を直接引っ掻くような金切り音と共に、けたたましく警笛が鳴り響く。
「くっ!」
全身の痛みを無視し、火事場の馬鹿力とばかりに跳ね起きながら、地面を這うように線路脇の退避スペースに飛び込む。しかしある空間を境に、まるで弾力のある何かに沈み込むかのようにして失速し、そのまま弾き返されてしまった。
「は?」
その直後、意識を失った。