入学式が終わって、坂上先生から敷地内の説明を受けた後のみんなは行動力の化身だった。女子は集団を作って今すぐにでも遊びに行きそうな雰囲気だった。
「藤丸、アンタもこの後カラオケ行かない?」
真鍋志保さんからカラオケのお誘いが来た。ありがたいけど、断るつもりだ。
今の俺は鞄に、ペンとメモ帳を持っている状態だ。真鍋さんにもこれから俺が何かしようとしていると分かるはず。
「誘ってくれてありがとう。でも今日は確認したいことがあって無理なんだ。ごめんね」
「そうなの。じゃあ、私達は行くわね」
真鍋さん達は早速カラオケに行ったみたいだった。俺も早速行動に——。
「おいおいどこに行こうっていうんだ、藤丸」
今度は龍園君に話し掛けられた。特に話すことに抵抗は無かったし、龍園君は分かってくれるはずだ。むしろこっちから誘おうかな?
「どこって、敷地内を散策するつもりなんだ。学校側の謎を推理しようと思ってね」
「なるほど、お前もこの学校に違和感を持っている側の人間か。意外と頭は回るみたいだな」
龍園君は即座に俺の言葉を理解した。やっぱり坂上先生に質問しただけあって頭は良いんだ。
「意外って……まぁ確かに私自身は平均的だけどさぁ……。龍園君も一緒に散策しよう」
「ククク、良いぜ」
龍園君が散策のパーティーに加わった。それじゃあ散策に行こうかな。
「あの、私も付いて行って良いでしょうか?」
「あっ、椎名さん。椎名さんもこの学校の謎に興味があるの?」
俺に話し掛けてきたのは椎名ひよりさん。自己紹介では読書が好きだと言っていた。
椎名さんは俺の問いに対して少し瞳を輝かせながら答えてくれる。
「私は謎に惹かれました。名探偵みたいに謎を解いてみたいのです。こんなわがままな理由ですが、良いですか?」
「良いよ。私も坂上先生と龍園君の質問の返答で何かあることを知ったし。その何かを知りたいだけだから。むしろ椎名さんがいてくれた方が心強いよ」
「では精一杯力を貸しましょう」
椎名さんが散策のパーティーに加わった。俺達は学校とそれに関係する建物の散策を始めた。
教室を出て、龍園君が真ん中で俺と椎名さんが左右に分かれていた。
「で、お前が考える違和感はなんだよ」
「それに関しては2つあるよ。だけど……人がいるしメモ帳を見てね。はい」
俺は龍園にメモ帳を渡す。メモ帳には主に2つのことを書いたページを見せた。1つがポイントで買えるものの種類。目に見える物は勿論、目に見えない権利や概念といったモノは買えるのか。もう一つが監視カメラの多さ。文字通り監視しているのではと俺は考えている。
龍園と椎名さんがメモ帳を見ている間、俺はDクラスの教室を覗きこむ。生徒はいなかった。行動が速いらしい。
「凄いです。ここまで考えられるなんて」
「だが分かっていれば誰でも感じ取れる違和感でしかねえ。が、今のところその違和感を感じているのは俺達くらいだろうよ」
俺達はCクラスの教室を通り過ぎてBクラス、Aクラスの順で見ていく。幸い人がいた。うん、不良みたいな生徒は少なくともいなかった。それに品の良い生徒ばかりだとも感じ取った。
「可笑しいと思わねえか?」
「不良が少ないのは普通だと思うんだけど……」
「いいえ、龍園君が言いたいのはどうして私達のクラスはあんなにも不良がいるのかと問いたいのでしょう。そしてその仮説として浮かび上がるのは、クラスで序列が決まっているということではないでしょうか」
椎名さんの説明でストンと頭に入る。クラス分けの時点で序列が決まっている。確かにそうなのかもしれない。ただそう考えると普通じゃない学校になってしまうんだけど……。
「上出来だ。これでお花畑の藤丸にも理解出来ただろう。特別に俺の右腕として仕える気はねえか?」
「ありがとうございます。ですが右腕としての立場は荷が重いのでお断りします。それに本を読む時間が減ってしまいますので」
「そうかよ」
椎名さんは龍園君の提案をやんわりと断った。本当に読書が好きなんだ。それに龍園君とも対等に話している。こういった存在は貴重だ。
「それにしてもお花畑って……」
「事実だろ」
「……そうだけど」
否定出来ないのは別に悔しくなかった。ただお花畑かぁ。……やっぱり否定出来ない。
俺達は2年生がいる階、3年生がいる階を巡った。教室を見ると1年生と違う部分が出てくる。教室の中にある座席数だ。
「少ないね」
「いいえ、正確には減ったと考えた方が良いかと思います」
座席数が減っているのは明らかだ。座席数が元から少なかったとは考えられない。だとしたら、退学になる何かがあるということだ。それもDクラスは多く、Aクラスはぱっと見いるか分からない。
……退学になる何かがあるっていうのは嫌だな。
「ククク、おもしれえじゃねえか」
龍園君は事実に近い仮説を知っても笑っていた。頼りになるという感情と、どうしてそんなこと言えるんだろうという困惑。自信家なんだろうけど、それが怖かった。まるで勝利のためなら何もかも壊しそうで、想像が浮かんでくる。
「ここで何をしている」
考え事をしていた頭が急速に現実へと引き返された。鋭い声の持ち主を方へ振り向く。そこには眼鏡を掛けた男子生徒とお団子を2つ作った女子生徒がいた。
眼鏡を掛けた生徒が声の主だろうけど、超怖い鋭さがあった。
「ここで何を見ようが俺達の勝手だぜ? 学校の中なんだからな。それよりお前ら、誰だよ」
「なっ!? 会長に対して失礼ですよ!」
「ご、ごめんなさい! 龍園君は口先がとても不器用なんです」
なんで龍園君は喧嘩売ってるんだよ!? 会長ってまさか!?
「いや、こいつの言うことも確かだろう。俺は堀北学。生徒会長をやっている」
「……橘茜です。生徒会書記をやっています」
生徒会長に書記の方達だったのか。……うわっ、龍園君悪い笑みしてる、ちょっと引きそう。
「そうかよ。俺は龍園翔。いずれクラスの王になる男だ」
「椎名ひよりです」
「藤丸立香です」
「ほう、クラスの王か。大きく出たな」
龍園君は強く堀北生徒会長を睨んでいた。対して堀北生徒会長も冷たい瞳を龍園君に向けている。
「そこの2人はお前の配下か」
「能力だけは認めている奴らだ。最も藤丸に関しては配下より雑用にしてやる」
「龍園君、ちょっと酷くない?」
「うるせえ黙ってろ」
噛み付いても仕方ないので黙っていることにした。したんだけど——。
「お前達に問いたい。龍園、この学校で何を成すつもりだ? 椎名と藤丸は王となる男を支える覚悟はあるか?」
堀北生徒会長が問い掛けて来た。
「決まっている。俺は全てに勝つ。どんな理不尽にも、最後に勝てばいい。そして俺はそれを暴力で成す」
龍園君っぽい答えだと思った。まだ知り合って数時間しか経ってないけど、龍園君ならやりかねない。
「私は本を読めればそれで良いです。……ですが、平和な時間が少しでもあれば良いなと思ってます」
椎名さんも自分の意思を示した。くすっと微笑みそうになる。
俺はこれが正しいのか分からない。分からないけど、逃げたくなかった。
「私は、誰も退学になって欲しくない。王になる龍園君が誰かを犠牲にしようとするなら、何か大切なものを踏みにじって壊そうとするなら、私は全力で止めてみせる。支えるとはちょっと違うかもしれないけど、小さな覚悟ならあります」
俺は真っ直ぐ堀北生徒会長を見る。
「そうか。……龍園、椎名、藤丸。お前達の意思、貫き通してみせろ。行くぞ、橘」
「は、はい。会長!」
堀北生徒会長は背を向けて歩き出す。橘先輩も堀北先輩の後を追った。
「面白かったぜ、生徒会長。それと藤丸、あの言葉は俺への宣戦布告か?」
「……あぁ、そうなっちゃうかな。王になるのは良いんだけど、止める時は止めるからね」
「はっ、そうかよ」
「2人共、凄い迫力でした」
椎名さんがニコニコと微笑みながら言葉を発してくれた。龍園君は俺と椎名さんを見る。
「……行くぞ、次は特別棟だ」
特別棟に行ったらなんと監視カメラが無かった。特別棟から出た後、龍園君は凄く悪い笑みを浮かべている。
「こいつは使えるかもな」
「監視カメラが無いこと以外に変わったところはありませんでしたね。一先ず探索はここで終わりですか?」
「そうだね。それにしても結構な情報が集まった。……正直坂上先生が聞いたら倒れちゃうんじゃないかな?」
もうこれ以上の秘密は無い、はず。だけどコンビニとかにも何かあるのだろうか。施設内だけまだ調べてないから。
「坂上のことはどうでも良いが——」
「えぇ。そこは労わろうよ」
「うるせえ。まだ俺達は完璧に調べ上げたわけじゃねえ。それに今ある情報を坂上に渡してみろ。どうなると思う?」
「それは秘密を一部でも知ったわけだから——」
「口封じされる可能性が高いですね」
口封じか。ポイントで俺達のことを買収するつもりなのかな。
「だからこのことは一週間は誰にも言うな。俺が一週間後に話を聞ける土台を作ってやるよ」
「どうするつもりなの?」
「クラスには幸いにも不良が多い。だから暴力で従わせる」
龍園君は本気で暴力に走るつもりだ。
「私は、反対……。きっと、話し合えば——」
「甘いな藤丸。あいつら今まで人を殴ってきたんだ。もうそれでしか分かり合えないんだよ。お前のやり方じゃ誰も屈服しねえ。聞く耳も持たねえだろうよ」
「龍園君、そんな言い方は——」
「俺の教室に平和なんて生温いものは要らねえ」
俺は何も言い返せなかった。龍園君の言葉に少しでも理解してしまったから。確かに俺が話し掛けても、適当にスルーされるだろう。何も言い返せない自分に腹が立った。
「傷付くことでしか分かり合えないなんて……悲し過ぎる」
「理想論だな。そんなものなんか捨てろ」
「……嫌だ。……私は理想を捨てない。だけど現実から目を背けるつもりもない。龍園君のやり方、ちゃんと見るから」
「……勝手にしろ」
龍園君はそう言い残して特別棟前から歩き出した。残ったのは俺と椎名さんだけだった。
「……ごめんね。なんかギスギスした終わりになっちゃって」
「仕方ありません。藤丸さん、気にしなくても——」
「ううん。ちゃんと目を向けるよ。背けたら……一歩踏み出せなくなるし」
「……かっこいいですね。まるで物語の主人公みたいです。……藤丸さん、私と友達になりませんか?」
椎名さんから友達になろうと誘ってくれた。ちゃんと俺のことを見てくれている人がいるんだ。
「良いよ。友達になろう!」
「はい!」
色々あった初日だけど友達が一人出来たのは素直に嬉しかった。
その後は特別棟から離れて日用品を買いに行った。道中ではどんな呼び方にするか、ちゃん付けしても良いかなんて友達の会話に花を咲かせるのだった。
一人称に関するアンケート。地の文も私にした方が良いですか?
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一人称は統一した方が読みやすい
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統一しなくても読める