畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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プロローグ・とある男の罪

 吾輩は猫である名前はまだ(にゃ)い。

 

 ……いや別に超有名文豪の超有名小説をパクった訳では無い。

 

 ガチで俺は猫なのだ、猫に生まれ変わってしまったのだ。

 

 なんで猫になっているかと言えば畜生道に堕ちたから……としか言い様が無い。

 

 前世の俺は善良とも悪党とも言い難い極々普通の日本人だった。

 

 生来の動物好き、特に猫が大好きだった俺は大学で動物福祉を専攻し、保護猫活動をメインとするNPO法人に就職し兎に角多くの猫たちを助ける仕事をしてきた。

 

 更には定年退職後も古巣のNPOからの支援を受けつつ保護猫喫茶を開き、保護された猫を人馴れさせ喫茶に来店するお客さんに譲渡し、新しい家族とする様な事をライフワークとして生涯を終えたのだ。

 

 こう書くと比較的善人だったと思われるかもしれないが、家庭人としては子ども達の面倒は嫁に押し付け、仕事を言い訳に家族より猫を取る様なろくでなしだったと言われたら否定する事は出来ない男だった。

 

 ソレでもちゃんと癌が原因で生涯を終える時には嫁と子どもに看取られ死ねたのだから、家族に恨まれていると言う程ではなかったのだろう。

 

 ……そんな俺が何故畜生道に堕ちたのか? ソレを語るには死んだ直後の話をしなければなるまい。

 

 医師が処方した薬のお陰で苦痛も意識も曖昧な状態になっていた俺は、気がついたら見た事も無い場所に立って居た。

 

 目に見える遥か遠くには種類は判別出来ないが綺麗と思える黄色い花畑が延々と広がり、その手前には日本ではお目に掛かる事の出来ない様な大きな河が流れ、更にその手前の今俺が立って居る場所は灰色の岩や石に砂利だけの河辺だった。

 

 割と察しの悪い方だと言う自覚のある俺でも、この風景を観ればここがどこかは流石に一目でわかる……三途の川だ。

 

 生前の俺は決して熱心な信者とは言えないながらも自認としては仏教徒であり、動物保護活動の中で看取らざるを得なかった者達に対しては手を合わせ、

 

「南無阿弥陀仏」

 

 と唱える程度のには信心を持っていた。

 

 故に余程宗教的な事に忌避感を持つ者で無ければ、日本人なら大概は知っているであろうこの光景を見て、俺は自分が死んだ事を素直に受け入れる事が出来て居た訳だ。

 

 もっと言ってしまえば、いい歳になってもマンガやラノベの類が趣味だったが故に、ある意味で慣れ親しんだ光景だったと言えなくも無い。

 

「さて、三途の川があると言う事はどっかに渡し場がある筈だよな?」

 

 誰に聞かせるでも無くそう呟いて辺りを見回すと、少し離れた場所でかなりの人数の白装束姿の団体が河のこっち側で坐禅を組んでいる姿を見つける事が出来た。

 

 取り敢えずなんの手掛かりも無い状態でうろつくくらいなら……と其方へと向かった俺に、

 

「ようこそ阿弥陀’Sブートキャンプへ、新たな門徒の方は大歓迎です。一緒に浄土を目指して悟りを開きましょう!」

 

 と、周囲の者達とは違い白装束では無く、紺色のジャージを身に纏い竹刀を手にした昭和の体育教師っぽい装いの恰幅の良い螺髪頭の男が声を掛けて来たのだ。

 

「えーと……貴方は、もしかして阿弥陀如来様ですか?」

 

 実家の墓が有る場所はかなり遠く、お盆でも墓参りに毎年行くのは少々辛い距離だったが、ウチの宗派は阿弥陀様に救って貰えるから墓参りの代わりに寺に参拝してくるだけでもOKと言う感じだったので割と寺には顔を出していた。

 

 眼の前のジャージ姿の仮称:阿弥陀様は、俺がよく行っていた寺の本殿に安置されていた仏像と良く似たお顔だったのだ。

 

「はい、そうですよ。生前私に帰依すると唱えていた方が亡くなった時には、業突く張りの渡し守夫妻のところでは無く、こちらに来る事になっているのですよ」

 

 阿弥陀如来は自身に縋る衆生を余す所無く極楽浄土へと導くと言う請願を立てた仏様で、現世では『兎にも角にも南無阿弥陀仏と唱えりゃ極楽へ行ける』と言われていた。

 

 けれどもここで阿弥陀様が説明してくれた話に依ると、極楽浄土へ行く大前提として『悟りを開き輪廻の輪から解脱して居る事』と言うのが有るらしく、問答無用で極楽へと行ける訳では無いらしい。

 

「なので私から見て、どうしても十王裁判を受けて貰うのが妥当と判断しない限りは、ここで悟りを開く為に私の指導の下で修行をして貰う訳です」

 

 なるほどな……極楽への切符が悟りを開く事ならソレを手伝うのが阿弥陀様の本願という訳か。

 

 十王と言うのは良く分からないですが裁判と言うことは……

 

「現世だと南無阿弥陀仏と唱えたらどんな罪も許されて極楽へ行けるってな教えで無茶してる宗派が有ったんですが、アレはどーなんですかね?」

 

「そりゃ駄目に決まってるでしょう? でもまぁ私はそう言う者達も完全には見捨てませんよ、地獄へ堕ちる程の罪が有るならちゃんと地獄で罪を償った上でここに合流して貰うだけですね。あの世はそんなに甘いモノじゃぁありません」

 

 戦国時代の某宗派の様に指導者が『戦い死ねば極楽、逃げれば無間地獄』などと説いて戦わせた案件では、煽動され戦った者達の罪は薄いが指導者は裁判の上で地獄行きとなったそうだ。

 

「では俺はここで修行させて貰えるのでしょうか?」

 

 清廉潔白な生き方を貫いたとは口が裂けても言えないが、それ相応に真っ当に生きてきたと言う自負は有った

 

「んー、貴方は生前十分な徳を積んで来た様ですね、後は悟りを開く事さえ出来れば解脱する事は……いえ、贖わなければならない罪が有りますね。貴方は生前、血の繋がった娘に無体を働いた事がありますね? ソレは畜生道へと堕ちる罪です」

 

 ……言われるまですっかり忘れていた古い、本当に古い記憶、未だ小学生だった頃の話だ。

 

 思春期になり男女の身体の違いに興味を抱いた俺は、4歳年下の妹に性的なイタズラをしたのだ、してしまったのだ。

 

 とは言え未だ精通を迎えた訳では無かった当時の俺は、一線を超える様な所までやらかした訳では無い。

 

 当時は風呂を沸かすガス代の節約を含め、妹と一緒に風呂に入っていたのだ。

 

 そしてその際に身体を洗ってやる時に普段ならば決して触れないであろう場所にまで指を伸ばしてしまった。

 

 お袋が「夕飯が出来たから早く風呂から出ろ」と声を掛けて居なければ、夕飯より後に風呂へと入って居たならば、俺は一線を越えて居た可能性を否定出来ない程に興奮し、同時に罪悪感に苛まれた事を、阿弥陀様に指摘されてたった今の事の様に思い出す。

 

「妹御を相手に子を為したならば兎も角、貴方の場合は本格的に畜生道に堕ちる程では有りません。けれども完全に咎為しとする事も出来ません。故に貴方には少々特別な形で畜生道へと入って頂きましょう」

 

 畜生道は動物へと生まれ変わる事で仏道に触れる事が出来ず、その生の中で悟りを得る事は出来ない道である。

 

 ただ獣に生まれ変わると言うだけでは然程恐れる様な物でも無い様な気もするが、実は畜生道に堕ちた元人間は、本能のままに動く獣の身体で有りながら、前世の記憶と感覚を持ち合わせており、畜生としての生を体験し続けると言うのが罰なのだと言う。

 

 更に同じ畜生道でもアタリと言える転生先も有ればハズレと言うか地獄より多少マシ程度のキツイ転生先もあるそうだ。

 

 前者の分かりやすい例が飼い主に恵まれた飼い犬や飼い猫で、後者はセミやハエの様な虫である。

 

 ペットとして愛されるならば確かに畜生に生まれたとしても幸せな生活ではあるだろう、逆に長い事土の中で樹液を啜り成虫になったら子孫を残す為の行為してサクッと死ぬ……余程の特殊性癖の持ち主じゃなければ虫の行為が楽しい筈が無い。

 

 ハエに至っては腐肉に産み付けられてソレを喰らい育ち、成虫になったらやっぱり子孫繁栄の行為……うん、ガチの地獄よりはマシでも地獄かな?

 

 しかも寿命が短いから刑期が短い……と言う訳でも無く、体感としての時間は普通に人間として天寿を全うするのと然程変わらないと言うのだからキツイとしか言い様が無い。

 

「一度、畜生道に堕ちた者は何百、何千、何万回と魂が擦り切れ漂白されるまで畜生の生を繰り返し、それでやっと改めて人間道へと戻り再び悟りの境涯を目指す事が出来るんです。けれども貴方は1度の生を終えればここでブートキャンプに合流出来るのですよ?」

 

 畜生道は野生の世界を本能のままに生き抜く道である為に能動的に徳を積む事は出来ず、子孫を残したとか群れの仲間を守ったとか、そうした動物としての当たり前で僅かな徳を積み上げる事で再び人間に生まれ変わるのに必要な徳を稼ぐ方法な無いと言う。

 

 だが阿弥陀様は俺に対して『特殊な畜生道』を1度超える事で、極楽行きの機会を与えてくれると仰っているのだから慈悲深い……と思うしか無い。

 

 そんな訳で次に目覚めた時には、母親と思しき猫の腹で兄弟姉妹であろう他の毛玉達と一緒に乳を飲んで居たという訳だ。

 

 新たな()生を歩みだした俺が阿弥陀様の言う『特別な畜生道』の意味に気が付くのはそれから数日後の事だった。

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