畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
夜蛾先生の尋問から3日が過ぎ、御主人が付き添って総監部の尋問を受ける事になった……が、総監部のご老人達(見た所生前の俺と同じ位の者が数人、後は目に見えて年上の方々ばかりだ)は御主人に腰が引けてる様でほぼ先生の尋問をなぞって終わりだった。
「さて、コレで面倒事は一段落してお前も外を出歩ける立場に成った訳だけど、お前の術式でどう戦うのか全然見えないんだよなー。つーわけでちょっとグラウンドで俺と模擬戦でもしてみるかー」
翌日お高いキャットベッドから出て朝飯にお高いカリカリを食べている所で、御主人がそんな事を言いだした。
「にゃー」
まぁ呪術猫として任務を受けるのであれば、どの程度戦えるのかは重要な事だろうし、呪術というモノをちゃんと理解しているのかを確かめたいと言うのも理解出来る、故に俺は素直に一度鳴いて肯定の意を示して置く。
そんな訳で先日同様に御主人の頭の上に乗せられて高専のグラウンドへとやって来た。
どうやら事前にしっかり夜蛾先生に許可を得た上での行動らしく、俺達を待っていた様子の先生と、見物人であろう夏油に家入、あとは原作では見た事の無い恐らくは御主人達の先輩であろう生徒達が居た。
「来たな、コレは殺し合いでは無く飽く迄も授業の一環だ、ポチは残機が切れる前に必ずギブアップする様に。後は互いに完全に殺す所まで行かなければ好きに呪い合うと良い、では……始め!」
先生の合図でまずは俺から一手、原作知識が有ればこの技で無下限を突破出来ない事は分かっているが、ソレでも試さずにいれば不審を買う。
そう判断して放つのは猫パンチ、無論ただの猫パンチでは無い、呪力で身体能力を強化した上で右前足で猫パンチを繰り出し、足が伸び切る寸前で左前足から出した呪力の斬撃で右前足を切り落とす事で千切れた肉球が飛んでいく……名付けて猫ロケットパンチ!
痛みが無い訳では無い、でなければ『自傷の縛り』で呪力を底上げする事は出来やしない。
術式に組み込まれた反転術式が仕事をして右前足は即座に生えて来るし、単純に呪力砲を打つよりは物理的が打撃と縛りに依る呪力強化、更には飛んでいった前足が飽和した呪力で爆発する事で威力を強化すると言うメリットが有る。
故に牽制の飛び道具としては十分な一手だが、当然ながら無下限は抜けない。
「おー、今の一撃が綺麗に入れば二級なら確実、準一級位の呪霊なら祓える威力が有ったと思うぜ。まぁ最強の俺には届かないけど。けど自傷の縛りで威力上げるとか……反転持ちならそんな事も出来るのか、小技としては便利かもね」
そんな寸評を貰いつつ、俺は足を止める事無く細かく飛び回りながら猫ロケットパンチを連射し、多少でも気が反れる瞬間を作る様に心掛ける。
俺の記憶が確かなら、反転術式を覚える前の御主人は常時自動的に無限を纏っている訳では無かった筈で、受け入れるモノと防ぐモノを自分で選別していた筈だ。
汚ねぇ花火を連発し、その影に隠れてじわじわと間合いを詰める。
端から見れば何を狙っているかは分からないだろう、けれども俺には一つだけ無下限を抜く手立てが有った。
呪力差をひっくり返す……までは行かずとも大分埋めつつ、更には無下限を無力化しうる一手、俺はソレに賭け御主人に飛び掛かる。
「フシャー! ぎゃにゃー!」
気合の声とともに繰り出す『自殺』の縛りで呪力を強化し、残機1つをコストに反転術式のアウトプットで正の呪力を生み、更に『今生の間、自分の反転で右前足を治さない』縛りで威力を強化した必殺技『超! ごぉぉおおつい! 猫ロケットパンチ』だ!
「うぉ!? マジか!!」
無下限とて呪力で発生している以上は正の呪力で無効化出来る……と言うのは二次創作系の知識だったか? ソレでもどうやら思惑通りほんの一瞬では有るが無限が消失したらしい。
慌てて防御の姿勢をとって呪力の爆発を防ぐ御主人に、畳み掛ける様に更に自殺の縛りで呪力を強化した
けれども残念ながらその時には既に無限は復活しており、俺の身体はただ無駄に爆発四散し残機を一つ減らしただけに終わった……が復活地点を弄る事で御主人の視界から外れ、次の不意を打つ。
肉体が半端に残った時の死亡からの復活は、身体が元あった地点で復活する事になるが、今の様に完全に消し飛ぶ様な死に方をした場合には、死ぬ瞬間の視界の範囲内と言う割と広い範囲に
ソレを利用し御主人の真上へと転移し、再び残機を一つ減らして正の呪力をアウトプットし無限を貫き頭の上に着地した。
「うぉ!? マジか!? コレ今お前が攻撃するつもりだったら俺
頭の上に乗った俺を引っ掴みながら、心底ビビったと言う感じでそう言う御主人。
「……取り敢えずはここまでで良いな。悟の方から一切攻撃をしてないので防御や回避がどの程度出来るのかは分から無かったが、お前の術式なら何回か死ぬのも折込済みで行けるだろうしな」
「今の一連の攻撃で4個も命使っちゃってるじゃん、つか反転アウトプットを攻撃に回されると無下限も無効化出来んのか……まぁ反転アウトプット出来る呪詛師なんてそうそう居ないだろうけど、覚えておいて損は無いわな」
……御主人の六眼は俺の残機数も見えるのか、敵対する気は無いが残機数は術式の肝とも言える部分だし、ソレを見抜かれている以上は逆らうと言う選択肢は絶対に無いな。
「連射していたあの技は残機コスト0で使えるんだな? その上で残機を消費し縛りを使う事で大火力も放てると……。戦力としては一級相当と見て間違いなさそうだな。残機が十分なら特級呪霊にぶつける駒としても使えるか……」
「うげぇ……飼い猫に等級並ばれるのかぁ……早く特級にならねーとなー」
「いや、ソレ言ったら俺達なんか後輩どころか猫にも負けてる訳だからな?」
「ほんとコイツが呪霊に成らなくて良かったよ……って思ったんだけどさ、反転術式が組み込まれた術式を持った呪霊ってどーなるんだ? 正の呪力は呪霊に特効だって習ったよな?」
「言っても反転術式のアウトプットって神経使うんで、動きながらやれって言われても少なくとも私は無理だわ。コイツはその辺もかなり無法っぽいね、正直凹むわ」
「回数制限が有るとはいえ硝子でも治せない様な怪我でも治して貰えると言うのは正直心強いね、まぁお世話にならない様に気を付けて任務に当たるのは当然の事では有るが」
手合わせ……と言うか俺の火力確認が終わったのを見て見物人達が押し寄せて来る。
……うん、先輩と思しき一人が口にした『反転術式が術式に組み込まれている』タイプの術師が自然死して呪霊に成った場合は本当にどうなるんだろう? 気になると言えば気になるな。
「兎に角、コイツは残機が有れば瀕死の重傷を治す事も出来るし、正の呪力を攻撃に転化する事で特級だろうと呪霊を消し飛ばす事も可能だと言う事だな……術式の関係で国家転覆は無理だろうが戦力としてはかなり有り難い」
一応、総監部と御主人に夜蛾先生を交えて相談した結果、俺は記録上初の世にも珍しい呪術猫で有り、術式の関係で知能を持つに至ったと思われる存在で、畜生道に堕ちた元人間と言う事は伏せる事に成っていた。
既に話を流してしまった夏油に家入に関しても、わざわざ他言無用を縛る程の念の入れようである。
あの世が実在するとか地獄の存在を明かした所で、真っ当な術師にとっては大した問題にはならんとは思うのだが、真っ当な精神では無い……御三家、特に禪院の様な原作でもドブカスが当たり前と言う様な家で生れ育った者には刺激が強すぎる情報だと言う事なのだ。
呪術師から呪詛師に堕ちる者が減ると単純に思ったのだが、既に取り返しが付かない位に罪を重ねている者達──主に禪院家の連中──が自暴自棄になって集団で呪詛師になられても困ると言う話である。
ちなみにこの畜生道云々を秘匿する縛りは総監部の面々にも適用されているそうなので、呪術猫と言う呪術界の常識を覆す俺の存在は兎も角、あの世と地獄に仏様の実在に関してはメロンパンには伝わらない……と良いなぁ。
取り敢えず尋問を受けた時に居た面子の中には額に縫い目の有る者は居なかったので、直接メロンパンが見聞きしたと言う事は無いだろう。
後は縛りを破ってでもメロンパンに御注進に走る老害が居ない事を祈るばかりだ。
「とりあえず今のでストック減っちゃってるから、回復するまでコイツの術式使わせね―から、皆硝子の治せる範囲の怪我でなんとかしろよー。まぁまだ幾つか命のストックは有るからどーしょも無いならしょーがないけどなー」
と、俺との出会いで地獄の存在を知り、多少人当たりが丸くなった感じの御主人がそう言って、俺の術式と戦闘力のお披露目はお開きとなったのだった。