畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
光子さんとの種付けから二ヶ月が経った頃、彼女が産気付いたと言う連絡を貰って、猫の加茂家へと御主人の転移でやって来た。
そこは京都市郊外にある加茂家本家別邸内の一角、隅の隅に追いやられたと言っても良い様な場所に、塀の外に向けて玄関が作られた本当に加茂家と言う家の中では、呪術師としての分家と言う扱いを受けていない事がよく分かる様な立地だ。
ただ、建物は比較的最近建て替えられたばかりの様で、外から見る限りでは比較的モダンな作りのおしゃれなカフェを思わせる造りである。
原作の禪院家のイメージが強い所為か、御三家の本家と言うとどうしてもガッツリと重厚な日本建築と言うイメージがあるのだが、本家の中枢部は兎も角、分家でも特に重要視されていない様な家はソコまでガチガチに縛られる物でもないらしい。
「どもー、お世話になってますー。今日から暫くウチのコよろしくお願いしますねー。いいえ、大丈夫ですよ。緊急任務とか有れば文字通り跳んで来て迎えに来ますんで……はい、じゃぁポチ、俺は明日も講義あるからコレで帰るな。術式出たら連絡よろしく」
インターホンを鳴らし、出迎えた猫の加茂の御当主に手土産を渡すと、御主人はそう言って蒼で東京へとんぼ返りである。
「五条1級、未だ産気付いたと言うだけでお産は始まってません。お産が本格的に始まるのは夜半を過ぎてからでしょうし、先ずはウチに上がってくつろいで下さいな。ウチは猫の加茂家の名に恥じない猫の為の家に最近建て替えたばかりですからね」
言われて通された家の中は至る所に壁材や柱に戸棚等がキャットタワーの様に足場になる様に連なり、天井近くを幾つものキャットウォークが張り巡らせてあると言う『猫と生活する為の家』の見本の様な造りをしていた。
「コレは凄いな……猫の為にここまでするか……」
猫としての本能など無い筈の俺だが、ここまでしっかりと猫の為のアスレチックを整備した家だと、遊ばない方が悪いことをしている様な気分になり、手近な柱に突き出した足場へと登り、そのまま幾つかの戸棚を伝って天井近くへと登る。
おお! 猫として産まれた今生でも猫らしい振る舞いをした事なんざぁ殆ど無かったが、こうして高いところで香箱座りをすると猫らしい気分に成って中々に上がりますなぁ。
思わずゴロゴロと喉を鳴らして仕舞う。
「ははは、気に入っていただけた様で何よりですよ五条1級。では、事前の打ち合わせ通り一ヶ月。仔猫が術式を自覚するのは五条1級の時で両目が開いてから数日との事でしたから、少々長めに見積もってソレくらいの間はウチに滞在していただくと言う事で」
「ああ、その間の経費なんかはちゃんと払うので、よろしく頼む」
「いやいや、ウチは猫の加茂家ですよ? 猫の為に使う銭を惜しむ様な事は有りません。加茂光子の血筋を残す為の経費は、ちゃんと本家からも出ていますしね」
加茂家の呪術と猫が何の関わりがあるかは未だハッキリしては居ないが、ご先祖様が伏して請い皇家から賜った猫の
その夜、出産事故の様な事も無く光子さんは8匹の仔猫を無事出産した。
未だ未だ小さな毛玉と言った感じの仔猫達では有るが、どの子も呪力をその身に纏っている事は間違いなく、光子さんの8つの乳首はフル稼働である。
「
彼女の出産室兼育児室とでも言うべき木箱の上蓋を開け、上から覗き込む俺と猫の加茂家の御当主。
ソレに恥じらいと喜びを半々に混ぜた様な声色で──俺には猫の表情が未だよく分からんのだ──そう答える光子さん。
「未だハッキリとは分かりませんが2匹は三毛に見えますね。三毛の雄と言うのは産まれてくる確率は極めて低いですし、次代に血を繋ぐ能力を持つ者は更に稀……何方も雌ならば次代の加茂光子を襲名出来る子が二匹……うん、ウチとしても本当に有り難い」
「後は術式の方だな、ぱっと見る限りでもこの仔等は俺や光子さんと同等前後呪力を秘めている様に見える。1匹でも俺の術式を引き継ぐ仔が居れば良いんだが……」
「加茂光子が引き継いで来た血筋に秘めたる術式が発現する仔が居るやもしれませんぞ? まぁ人間の場合だと磯野の様な例外を除けば、10人作っても1人も相伝を持たないとかザラですがね」
磯野家の相伝の出易さは古参の呪術一族では割と語り草らしく、磯野に嫁や婿を出すのは良いが、嫁や婿を貰うのは罷り成らん! と言うのが常識なのだそうだ。
大概の場合、磯野の血を引く子どもは海鮮操術が発現する為、自分の所の術式が高確率で上書きされてしまう……と言われているからである。
実際、磯野家は他の古参と呼べる呪術師家系から結構な頻度で嫁や婿を貰っているのだが、相手の家系の術式を持つ子どもが産まれるケースは本当に稀で、偶に海鮮操術以外でも明らかにその術式の影響を受けたモノに変質した術式を発現するらしい。
記録にある中では加茂家から磯野に嫁へと出た娘の子が『青血操術』と言う、加茂家の相伝である『赤血操術』のパチモンの様な術式を発現したケースがあったらしいが、その術式効果はイカやエビの様な生き物の青い血を操ると言う微妙なモノだったと言う。
こう表現するのが正しいのかどうかは分からないが磯野家の血は強すぎるのだ、場合に依っては他の呪術師名家を駆逐する可能性がある程に……。
とは言え術式や呪力を持たず『使えない』とか『出涸らし』なんて実家で言われる様な子どもでも、磯野家は嫁や婿として1度迎え入れれば決してその者を蔑ろにする事は無い……と言う意味では名家の子が憧れる嫁ぎ先だったりもする。
禪院辺りはその辺も情報統制して居るのか、其れ共単純に磯野との繋がりを重視していないのか、磯野家に嫁や婿を出したと言う様な話は全く無いらしい。
まぁ磯野家の術式と血の強さは兎も角として……産まれたばかりの仔猫は本当に可愛い、1日中見てても全く飽きないし苦にならん。
ただまぁ殆どワンオペで子育てをして居る光子さんが大変なのは間違いないだろうな。
猫の子育ては基本的に雄が関わり何かをする様な事は無い、人間の様におむつを交換する様な事は無いし、母猫が居るならば余程体調を崩すとかしない限りは哺乳瓶でミルクをやる様な事も無い。
つか哺乳瓶じゃ無くてシリンジ……針の無い注射器の様なモノを使って飲ませる事は有るが、ソレをやるには幾ら忍猫として爪や指を扱う技術を学んだ俺でも少々どころでは無く難しいのだ。
人間の手で育てるのでも大変なソレを、母猫は母乳つまりは自分の血液を仔猫たちに分け与えるのだから、ソレは当に身を削って子育てしている様なモノだ。
光子さんは飼育環境下なので仔猫達が寝ている間に用意された食餌を食べ水を飲む事も出来るが、野良猫の場合にはその僅かな時間の間に獲物を狩りソレを喰らい体力を回復しなければならないのである……野良の子育ては当に命懸けである。
と、そんな感じで一日の大半を仔猫と光子さんを見守る事で過ごしている事2週間と少し、その間も時折任務で死にかけた、或いは既に医学的には死んでいる呪術師を回復させる為に、御主人が高専から跳んで来る事は有ったモノの概ね平和に過ごす事が出来ていた。
だがそんなある日パンパンパンパン! っと続けざまに4回、運動会なんかのスターターに使われる模擬鉄砲の様な音が光子さんの育児箱から響き渡ったのだ。
ああ来たか……一発でそう分かる異様な音を聞きつけ、猫の加茂家の当主も俺も揃って育児箱へと駆け寄った。
中には8匹中4匹が頭が内側から弾け飛んだ様にしか見えないグロ死体へと姿を変えていたのだ。
「拡張術式『泰山府君の祭』? 4!」
術式を持つ仔猫が産まれれば恐らくこうなる事は、猫の加茂家の記録からも俺自身の経験からも予想は出来ていた、故に慌てる事無く俺は即座に拡張術式を発動する。
「お? 一回キャンセルされた?」
頭が弾けていたのは三毛の2匹と黒猫が1匹そして茶トラ或いは赤猫と呼ばれる毛色の仔猫が1匹だ。
俺の拡張術式で三毛2と茶トラが復活を果たし、黒猫はなんと自力で反転術式を回して吹っ飛んだ頭を再生したらしい。
その様子を確認し、俺はスマホのカレンダーアプリで今の時間に御主人が講義を受けていない事を確かめ、それから彼の携帯電話へと架電する。
「もしもし、御主人、俺だ。ああ、8匹中4匹が術式持ちらしい。その内1匹は自力で反転を回して蘇生した、もしかしたらこの子は俺の術式を引き継いでいるかもしれない」
俺が電話越しに御主人へとそう言った直後、猫の加茂家のインターホンが鳴る。
「ちわー、術式の確認に来ましたー」
東京から転移してきた御主人がそんな調子で加茂の分家へと再びお邪魔し、仔猫たちを見た御主人は、
「ぶはははは! こりゃ加茂のご先祖様が下座るわけだ! こっちの三毛の子達の術式、加茂の相伝をより強い段階に引き上げる効果しか無いじゃん! コレは俺達だけで話進めて良い案件じゃねぇから、加茂本家の御当主にアポ取ってもらえます?」
思っクソ吹き出しながらそんなセリフを口にしたのだった。