畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
伏黒家でのお見合いから2ヶ月、最初に産まれたナスちゃんの仔達は無事に五条家の分家へと引き渡され、光子さんが産んだ加茂家相伝術式の外部強化パーツとでも言うべき仔猫は、加茂先輩が毎日欠かさず猫の加茂家に愛でに来ていると言う。
未だまだどの仔も仔猫のままで、猫の呪術師と言う状況には全く無いが、御主人曰くどの仔もしっかりと可愛がられているらしい。
そんな訳で今日はそろそろ出産の時期が来るはずの伏黒家へと、俺一人でタクシーに乗ってお邪魔する事にした。
いや別に自動車を使わずに公共交通機関を乗り継いで来る事も普通に出来るんだが、法的人格の制度は未だに社会に浸透仕切っている訳では無く、ちゃんと切符(大人1名)を買って乗っても追い出そうとする乗務員がそこそこ居るんだよ。
その度に身分証明証を提示して説明すると言う事を何度か試して見たんだが……ぶっちゃけすげぇ時間を無駄にしている感が強く、1級呪術師としてアホみたいな収入もあるので普通に話が通じるタクシー会社を利用する様になったのだ。
え? 高専の補助官に運転頼めば良いって? 任務なら兎も角、私用で勝手に補助官を拘束する訳にはイカンでしょ。
原作で御主人が伊地知補助官を顎で使っていたのは、世界に3人しか居ない特級と言う立場に、御三家一角五条家の当主と言う立場、更に彼が高専で学生だった時代を直接知っている先輩と言う立場と、3つの意味で逆らえない立場を悪用していたからだろう。
……まぁ原作の御主人はひっじょぉぉぉおおお! に、人間性を色々と拗らせた残念人格の持ち主だった為にマトモに見せる事は無かったが、伊地知潔高と言う人物を個人的に信頼していたと言う部分もかなり有るんだろうけれどもな。
ソレでもあの扱いは正直言って『下剋上してもええんやで?』と言ってやりたくなる扱いだったと思う。
御主人の場合は伊地知さんに拘る事無く五条家の人間をパシリにする事も出来る筈なのに、ソレをせず彼を重用していたのは恐らくは五条家の中も一枚岩では無く、何時寝首をかかれても不思議は無い……と言う気持ちもあったのかもしれない。
まぁこの世界では御主人の送り迎えなんかは普通に五条家の人がやってくれてるし、五条家の呪術師が大怪我したり死にかけたりしたのを、俺の術式で回復させてる事で五条家内にシンパと呼べる者達が出来ているのも大きいんだろうな。
……なんならそうした人達は俺の頼みならば、まず間違いなく運転手を買って出てくれるんだろうが、
一生涯をほぼ雇われとして過ごし、晩年の極々短い期間を小なりとはいえ経営者として過ごした身としては、どんな事でも対価は必要だと思うのである。
向こうで好きだった漫画の中で『経営者の永遠の夢』として『給料の要らない従業員』と言うのが上げられていたが、従業員が自分の仕事の顧客になる可能性を0にすると言う意味でその経営者は無能だと俺は思うんだよなぁ。
と、そんな事を考えているウチにタクシーは伏黒家の前へと停まる。
「支払いはカードでお願いします」
現金で分厚い財布を持ち歩くと重いので、基本的に俺は殆どの支払いはカードで済ませる様にしているが、当然ながら法的人格を取ったとはいえ猫の身では残念ながらクレジットカードの審査は通らなかった。
なので使っているのは銀行口座からその場で直接引き落とされるデビットカードである。
まぁ審査以前の問題として年齢が20歳未満だとカードは作れないからなぁ……法的人格を取った時点で人間の成人とほぼ同等の権利を得る事が出来るんだが……まぁ仕方が無い。
という訳で、前世で愛用していたのと同じブランドの1万円少々の二つ折り革財布から取り出したカードでタクシー代を決済し車を降りる。
平日の夕方近くと言う時間帯を選んで来たのは、伏黒家では土日は家族揃って競馬場へと行っている事が多いからだ。
リリちゃんに会うだけならば昼間でも良いと言えば良いんだが、彼女が普段生活しているのは基本的に津美紀嬢の部屋で、年頃と言うには未だ幼いがソレでも人間の女性が生活している部屋に無断で入るのは気が引ける為、姉弟達が学校から帰っている時間に来た訳だ。
ちなみに現在は今まで禪院家での家庭学習と言う事に成っていた真希、真依の双子もこの家から地元の小学校に通っていたりする。
日本という国は国民の三大義務として『教育』『勤労』『納税』を掲げており、余程の理由が無い限り其れ等から逃れる事は認められていない。
そして教育の義務と言うのは『教育を受ける義務』では無く『子どもに教育を受けさせる保護者の義務』なのだ。
一時的なモノとは言え禪院家から真希と真依を預かった伏黒家は、彼女達の保護者と言う立場になる為、彼女達が実家に居た時と同じ様に家庭教師(禪院家の人間)の手配が出来ないならば学校に通わせる義務がある訳である。
普通の家庭ならば急に2人も子どもが増えれば出費が嵩んで大変な事になるのだが、ソコは禪院家からちゃんと彼女達の生活費は出されているらしい。
「お? 今日もやってるな。うん、子どもが遊びながら呪術を学べるってのは本当に凄い発明? だよなぁ……呪術ベーゴマ」
金属と金属が打つかり合う甲高い音が響く伏黒家の庭を目指し、俺は門を潜ると玄関から横へと逸れる。
ソコでは今、真依嬢と恵君が勝負をしているようで中々に白熱した雰囲気を醸し出していた。
「あー! 頑張れ! 私の織田蝶!」
「負けるな! 俺の玉犬!」
そうしている内にカキンカキンと激しく打ち合うベーゴマの片方が、バケツに張られた帆布の土俵からはじき出された。
「と、負けたのは……真依のコマだな。ウシ恵、次はアタシが相手だ!」
ソレを空中にある内にキャッチした真希嬢が自信あり気にそう言うが、
「はい、選手こうたーい、真希の相手は俺がするぞ。俺の身体の使い方をしっかりと見て感じて、自分の身体に合わせた動きに変換するんだぞ」
その自信をパパ黒がインターセプトする。
「今日も楽しそうに遊んでるな。いや、一応はコレも修行か」
そんな所に姿を表した俺がそう言うと、
「でたな化け猫、今日も女房の顔を見に来たのか? お互い尻に敷かれて大変だな」
ニヤリとニヒルに笑ったパパ黒がそんなセリフを口にした。
「アンタは尻に敷かれる様なタイプじゃないだろうよ。俺も他の娘さんとの間では此処までの頻度で顔を出してないぞ? 流石に新潟や京都は一人で行くには遠すぎるからな」
正直に言うならナスちゃんの時も光子さんの時も、手伝える事は何も無いにせよ妊娠中の彼女達を励ます位の事はしたかったのだが、流石に距離が遠すぎたんだから仕方がない。
「んなことねぇぞ? 俺だって女房にゃ良いように使われてらぁ。まぁ座布団みたいにペシャンコに敷かれてるかって言われたらソコまでじゃねぇけどよ? たぁ言え自分の子を産んだ女を無下にするようじゃぁ男じゃねぇだろ?」
おお、原作のクソヒモがちゃんと女房を大事にする男になってる!?
まぁその動機は恐らくは最期に言った通り『自分の子を産んだ女を守れない男はダサい』と言う様な感覚なのだろう。
そう言う意味では恵の母と、今の奥さんを重ねている部分は多分に有るんだろうが、奥さんも前の奥さんとは死に別れていると言う事を飲み込んでの結婚だろうし、ある程度上手く行っているのでは無かろうか?
「違いない。自分の子どもと女房を守らない様な男は、男の風上にも置けないクズだ。覚えてておけよ恵君」
この言葉を吐く瞬間
「で、津美紀嬢は今日は一緒じゃないのか?」
「ああ、リリがソロソロ産気付いても可怪しくない時期だからな。何が出来る訳でもねぇけど様子は見ておきたいんだとよ。リリに会いに行くなら勝手に上げって良いぞ、津美紀の部屋に入る時はちゃんとノックしろよ?」
とそんな話をして居る時だった、
「お父さん! リリがお産箱に入ったよ! 出産始まるみたい!」
2階の窓を開け、津美紀嬢が此方にお産が始まりそうだと告げたのだ。
「猫の出産は基本的に人間に手助け出来る事は無い離れて見守るんだ! 後はカーテンを締めて部屋を暗くしてやれ! 猫は暗い方が安心してお産が出来る!」
即座に俺がそう言うと、津美紀嬢は一つ頷いてから窓とカーテンを閉める。
「……コレばっかは男は待つしか出来ねぇからなぁ。お前等も気になるだろうがお産が終わるまでは静かにしてやれ。普通の猫は産まれてから暫くは仔猫見るのもアウトだった筈だが……言葉の通じる猫はどーなんだ?」
「スマン……ソレは俺も知らん話だ」
取り敢えずはお産が終わるまでは皆で静かにしていよう……と言う結論に行き着くまで暫しの時間を要するのだった。