畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「ちわー、ミスド買って来たよー。100円セールしてたからごっそり買って来たから皆で食べよ……って何か空気が重いね? どったの?」
原作の空気を読む気が無い御主人では無く、大学で呪術とは無関係の人間関係をある程度構築した事で、必要ならば空気を読む事も出来る様になった彼が大量のドーナッツを持って伏黒家へとやって来た。
「……ああ、リリちゃんには例の術式発現が相当ショックだった様でな、女性陣は皆彼女に共感してるから野郎勢は肩身が狭いんだ」
「まぁ修羅場慣れしてねぇ女子供にゃあのスプラッター死体はキツイだろ、俺も未だ初陣前のガキだったなら、あの跡見ただけでも戻してたんじゃねぇか?」
泰山府君の祭に依る回復は俺の命のストックをコストに、新しく欠損部位を作り出す事で補完し治癒する。
その為、パパ黒が片付けてくれた段ボール中には、弾け飛んだ仔猫達の脳みそやら頭蓋骨やらが残っており、生き物の死に慣れていない者にとっては見るだけでもストレスになるだろう代物だった。
「……俺はどっちも見てないけど、流石に女ばっかの所に混ざりたく無い」
伏黒恵はその時は自分の部屋にランドセルを置きに行っていて、戻ってきたらこの騒ぎだったので、割と困惑している感じだが女性陣に混ざるのはキツイと感じている辺り、年齢の割にはマセているのかもしれない。
ちなみに今俺達がいるのは伏黒家の居間で、女性陣は奥さんや未だ赤ん坊の望嬢まで含めて皆で津美紀嬢の部屋へと上がっている。
「んー、仔猫達は津美紀ちゃんの部屋なんだよね? ソコに俺一人で突貫するのは流石に厳しいなぁ……でもまぁちゃんと見ないと来た意味無いし、ちょっと行ってくるわ」
そう言って一人で居間を出て二階へと続く階段を、わざと足音を立てて登っていく御主人。
甲賀流忍体術皆伝の御主人は、足音を立てない歩き方は当然身に付いているモノなので、この辺は意識的に使い分けをしているのだろう。
と言うか、恐らくは現代に生きる忍者の末裔や現役でその界隈で働く人達は、普段は怪しまれない様に極々普通の人を装い歩き方にも気をつけ、必要な時にはそうした技術を使うと言うのが基本なんだと思う。
某漫画のキャラクターのセリフである『クセになってんだ 音殺して動くの』と言うのは、恐らく使い分けの出来ない未熟者の言い訳だとこの世界の忍者達は笑うのではなかろうか?
それにしても一致団結した女性陣の輪の中に突入するとは……幾らイケメンでも許されない行為ってのは有るんだぞ? と言いたい。
原作では数多の女を引っ掛けプロヒモで飯を食っていたパパ黒ですら、今はそっとしておくべきと判断し此処で大人しくしていると言うのに……と、思ったら2階から多数の足音が下りて来たのが聞こえてきた。
「……御主人、何を言ったらあのド修羅場を怒りの声一つ無く突破出来たんだ?」
ガヤガヤと騒ぎながら下りてくる女性陣を先導して来た御主人の姿に、俺は一人の男として尊敬に近い念を抱く。
「別に特別な事なんて言ってないよ? ただ、辛い時には甘いモノ食べると良いらしいよ、ドーナツ買ってきた来たから皆で食べよ? って誘っただけー」
俺のつぶやきを拾ったらしい御主人が、あっけらかんとした笑みを浮かべながらそう言って、抱えて居た仔猫とリリちゃんが入った段ボールを居間の片隅に置く。
「あら、本当に沢山買ってきてくれたのねー。辛い時には甘いものって言うのは女の子には決まり文句みたいなモノだもの、今紅茶入れるわね、皆で遠慮無く頂きましょう」
ソレにしても子ども4人に大人3人の合計7人が居るにせよ、10個入りの手提げ箱が5個は、幾ら100円セールヤッてたにしても買い過ぎではなかろうか?
いや、フィジカルギフテッドの2人は食おうと思えばフードファイター並に食えるし、御主人も反転術式覚えて無下限呪術のオート制御をする様になってからは、甘い物なら際限なく食う様になったから、もしかしたらコレでも足りない可能性も有るのかもしれない。
「あー、ソレとコレは真依ちゃんに、ウチの蔵探して昔居たって言う構築術式でブイブイ言わせてたってらしい平安の呪術師に関する書物の現代語訳。ソレでも言い回しとか分かりづらかったら連絡してね、家庭教師してあげるから」
そんな事を言いながら背負っていたリュックから取り出したのは、割と何処にでもある様な事務用のバインダーに挟まれた結構な量の紙束だ。
「俺、ガキの頃から暇つぶしで五条家に所蔵されてる古書とか読み漁っててさ、その中に構築術式の使い手だって言う藤原氏に仕えた呪術師が居たって話があったの思い出してね、ソレ現代語訳してみたんだわ。コレでも一応は先生になる勉強してる大学生だからね」
構築術式自体は歴史の古い術式であり、大概の呪術師家系ならば先祖を調べれば1人や2人はその使い手が居たと言う記録が出てくるだろう、極めて一般的かつハズレ感の強い術式だと言われている。
「あとこっちはウチのご先祖で結構な呪具を作った構築術式使いの人の日記、こっちも一応現代語訳はしてあるけど、多分構築術式を持っている人にしか分かんないニュアンスとかは上手く訳せてるか分かんないから、こっちも気になる所有ったら聞いてね」
更にドスンと置かれたもう一冊のバインダー、どっちも結構な文量がありそうで、パソコンで入力したにせよ手書きにせよかなりの力作と言えるだろう。
「そんな……私なんかの為に……まだ何のお礼も出来ないのに」
「あ、大丈夫大丈夫、君が一人前の呪術師に成って無事に死ぬこと無く、一匹でも多くの呪霊をぶち殺してくれりゃソレで元取れる程度の手間だから。ソレにコレのお陰で卒論のテーマも決まったしね」
……ああ、そうか御主人は大学3年で編入し今年はもう4年だから、就職活動はしなくても良いにせよ、卒業論文造りで割と忙しくなる時期か。
「ソレよりも仔猫達の術式を調べちゃおう、ソレで仔猫たちの買い取り価格も変わってくるしね」
「ああ、そーだ。1匹は術式持ってねぇらしいから、その仔はウチで飼う事にするわ。ちゃんと生後半年で避妊処置すりゃ縛りにゃ抵触しねぇだろ?」
「あんときの縛りは買取価格のラインを決める為のモノで、どの仔をウチで引き取るかまでは縛って無いから、術式無しの仔なら問題無しだね……んじゃちょっと失礼するよ?」
そう言ってサングラスを外しながら津美紀嬢の部屋から下ろして来たリリちゃんの育児箱を覗き込む御主人。
「んー、コレマジ? 割とヤバい術式持ちの仔が居るんだけれど……」
直ぐに顔を上げ目頭を揉むみながらそういう御主人に依ると、今回の術式持ちの4匹のウチ1匹が『呪力を編んで質量を持った分身体を作る』と言う術式を持っているらしい。
単純な分身術式ならば以前御主人が天内嬢を護衛した時に戦っている筈だし、ソコまでヤバいモノとは思えなかったのだが、どうやらこの仔は自分自身だけで無く他者を分身させたり、何なら呪具的にその仔を使って他人が分身する事も出来そうなのだと言う。
「コレ絶対バレたらこの仔呪詛師に狙われる奴じゃーん! 取り敢えずこの仔の術式への俺からの評価額は5000万円ね」
他の仔はこの仔程の厄ネタと言う訳では無く、実体の無い幻影を見せるだけ術式の仔、速さに関してだけ異常に強化率の高い強化系術式の仔、記憶した音楽を機材無しで再生させる術式の仔……と言う感じらしい。
「んーそれぞれ3000、2000、1000、で全部纏めて1億って所でどう? あ、この呪力が一番弱い三毛の仔は術式も無かったし、普通に飼っても大丈夫だと思うよ」
「いちおく……えん?」
「いや術式持ちならソレくらいするでしょ?」
「呪術界隈の金銭感覚はやっぱぶっ飛んでるよなー。アタシも学校通う様になってその辺はやっと理解出来る様に成ってきたけどさ」
呪術に関わるモノの値段として分かり易いモノの一つが呪具の価格だが、特級とされているモノでも5億程度であり、高いのか安いのかよく分からん感じである。
世の中数奇者の類は多く居るモノで、俺がくたばる前辺りに某トレーディングカードゲームの最高級レアカードが約25億円で落札され、ギネス記録を更新した……なんて話がネットニュースに上がっていた記憶があった。
呪具の裏取引と言うのは、殆どの場合実用品としてと言うよりは、その筋に明るい数奇者が買うモノだそうで、競り合う相手が少ないからこそ、その辺りの値段で済んでいると言う側面が強いらしい。
実用品としてソレ等の呪具が欲しい呪詛師は、わざわざ金を払う様な真似はせずに、そうした数奇者のコレクションを押し込み強盗をしてでも奪う……と言うのも呪具の裏取引で値段が中々上がらない原因の一つでもあるそうだ。
なお裏市場で売られる呪具の大半は、そうした押し込み強盗で呪詛師が奪ったは良いモノの、持て余したモノが転売される……と言うケースが殆どらしいので安易に手を出しては行けない……ソレが新しい獲物を探す為の餌と言う可能性もあるという話だからな。
「子ども達の前で生臭い話しないの! ほらお茶入ったからドーナツ食べましょう!」
金銭回りの話は確かに血生臭い話ではないが、中々に生臭い話で子どもの前でソレを話題にするのは避けるべきだろう……特にこんな大金が絡む取引ならば。
人間たちはソコで話を打ち切り、奥さんが入れてくれた紅茶を手にドーナツを食べ始めたのだった。
パパ黒は魚を釣るのは上手いけど、釣った魚に餌を上げないタイプだと筆者は思います。