畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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超能力戦争2012
呪詛師ハンターと御主人の恋愛事情


「最近さー、呪詛師案件が殆ど回って来ないんだけど、何か有ったかポチ聞いてる?」

 

 年が明け正月を五条本家で当主として過ごし、正月気分が抜けたなら卒論の追い込みでパソコンに齧りついていた御主人だったが、コーヒーが切れたらしくキッチンに据え付けられたコーヒーサーバーへと向かいがてらリビングに居た俺にそんな言葉をかけてきた。

 

 卒論に集中する為、今年は夏の繁忙期を終えた辺りで御主人は呪術師としての活動を縮小しており、御主人や夏油が向かうのは本当に特級じゃないとヤバいと認知された案件だけである、その為に呪術界の最新情報に彼等は少しだけ疎くなっているのだ。

 

「なんでも呪詛師ハンターを名乗る外国人呪術師と影高野の呪術師が精力的に呪詛師を狩っている為に、高専が緊急対応しなければならない呪詛師案件自体が減っているらしいぞ」

 

 呪詛師案件への対応は基本的に警察が現場の判断で捜査0係案件と疑ったら、先ずは0係の『見える』お巡りさんである大田巡査長と篠原巡査が現場で残穢を確認し、高専に登録済みの残穢なのかどうかをまず調べるという。

 

 見えるお巡りさんが捜査0係に配属されるまでは、この時点で高専の補助官や呪術師が派遣されていた事を考えると、高専側としては大分手間が減ったと言えなくも無い。

 

 残穢というモノは指紋と同じ様に個人個人(呪霊を個人と言うかは兎も角)で明確に区別出来る程度には特徴が有るモノで、残穢を移し取った資料と見比べてみればソレが同一かどうかは割と簡単に分かるのだ。

 

 高専の呪術師が派遣された場合でも呪詛師を取り逃がしたならば、最低でも残穢を専用の呪符で移し取って持ち帰る様に言われているらしいので、高専には未だ討ち取られていない呪詛師の残穢が資料として集まってくる訳である。

 

 そしてそのコピーが捜査0係にも渡されているので、見える警察官である2人はその資料と見比べて、登録済みの相手か未登録の相手かを判断すると言う訳だ。

 

 そうして登録済みならば警察側がある程度の捜査を進め、隠れ家(ヤサ)が割れた時点で高専を通して総監部へと連絡が行き、高専所属の呪術師か或いはフリーの呪術師(呪術名家含む)へと任務が発行されるのである。

 

 逆に未登録ならばその時点で警察は一旦手を引き高専に丸投げされる。

 

 どんな相手かも分かっていない状況で捜査を進めて行くのは、一般人である警察官にとっては自殺行為に等しいからだ。

 

 区分的には呪詛師である大田巡査長も所詮は30円の賞金首であり、機動隊員として培った逮捕能力と呪力に依る身体強化はある程度出来てはいても、本格的な呪術師や呪詛師からみればやはり30円程度の相手でしか無いのである。

 

 そんな訳で未登録呪詛師ならば基本的には高専の呪術師で手が空いていて、比較的捜査能力が有るモノにこの手の任務は回される事が多い……具体的には猿飛2級と服部2級だ。

 

 大概の呪詛師は2人の忍者呪術師に捕縛される事になるのだが、稀に彼等から逃げおおせる凄腕が居り、そうした者達が高額賞金首となり呪詛師手配書(ビンゴブック)に名を連ねる事になる訳である。

 

 勿論、両忍者呪術師の手が空いて無い時には高専の学生なんかが任務に当たる事も有り、そういう場合は基本的に捕縛や抹殺までは期待されておらず、大概は残穢の確保と威力偵察が出来れば十分に任務を達成したと判断される……らしい。

 

 この辺が伝聞なのは基本的に俺は猫の呪術師と言う存在自体を呪詛師達相手には、未だ伏せ札として通用すると言う判断から、御主人とセット以外で呪詛師案件に投入された事が無いからである。

 

 なお忍者呪術師2名から逃げおおせる者の多くは、直接戦闘をした上で逃げる事が出来る者は本当に稀であり、大概の場合は彼等が現着し残穢やその他証拠類を辿ったが、既に遠くへと逃げおおせていて追跡が困難だったと言う件が大半だ。

 

 服部2級は詳しく知らんが、猿飛2級の方は術式無しでの体術勝負なら御主人と闘いになるレベルの化け物だ、そんな者を相手に真正面から突破出来る者が早々居てたまるかと言う話である。

 

「なんで呪詛師ハンターを名乗る呪術師は、猿飛、服部両2級の捜査上に先回し、現場に2人が着いた時には既に呪詛師を捕えて居たと言うパターンが何度も報告されているらしい。今の所術式は不明だが予知やその手の術式の可能性を0係は疑っているな」

 

 呪詛師ハンターが術式に頼らない高い戦闘能力を持っているというのは、武芸に精通した両2級呪術師に共通する見解であり、彼が何等かの呪術規定違反を侵さない限りは、フリーの呪術師として遇すると言うのが総監部の決定である。

 

「猿飛2級がヤバいって言うならソイツはかなり出来るって事だな。まぁ呪詛師ハンターを名乗るって事は明確に呪詛師に対して何等かの悪意が有るんだろうし、こっちから手を出して態々呪詛師に貶す必要は無いわな」

 

 淹れたてのコーヒーを一啜りしてからそんな感想を口にする御主人。

 

「まぁ術式の関係で呪霊よりも呪詛師を相手にするほうが強いと言うタイプの可能性もあるからな。それにしても外国人呪術師か……御主人はウェンディーを上手く口説けているのか」

 

 猫の身ながらニヤリと笑ったつもりの表情でそんな言葉を投げて見ると、ブッと口に含んだコーヒーを吹き出した。

 

「べ、べべべべつに俺はあの娘が好きとかそんなんじゃねーし! つか卒論忙しくて口説くとかそんな暇ねーし!」

 

 顔を真赤にして露骨に狼狽える御主人の姿では、どう見てもその言葉に説得力は無い。

 

「一応、前世でも今生でも既婚者? と言える立場から言って置くが、結婚と仔育ては金銭的な余裕が無いとか、独身貴族を貫くつもりだとか、そういうのが無いなら20代前半で勝負しておいた方が良いぞ? 30過ぎてからだと色々と問題が出てくるからな」

 

 人間の生物学的な結婚適齢期は16~20代前半である、医学の発達で高齢出産とされる年齢は初産で35歳以上、経産婦ならば40歳以上とされているが、ソレは飽く迄も母体にかかる負担の方だ。

 

 卵細胞とか卵子と言われるモノは胎児の時点で一生分の卵子が製造されており、加齢に合わせてソレ等も老化し劣化して行く為、高齢出産で産まれてくる子どもは何らかの疾患を抱える可能性が高くなるのである。

 

 対して男性の睾丸で製造される精子の方は卵子とは違い、毎日24時間休むこと無く生産され続けるが、飲酒や喫煙に肥満と言った生活習慣絡みでその質は低下するという。

 

 そして当然と言えば当然では有るが此方に関しても老化に依ってその生産数や速度に質と言ったモノは低下するので、やはり可能ならば20代での繁殖が生物学的には推奨されるという話なのだ。

 

 原作での御主人は28歳と所謂アラサーでは有ったが、未婚であり彼女とかそういう関係に有る人物が居たと言う描写は無い。

 

 もしかしたら五条家存続の為に結婚こそしていないものの、五条家内で比較的血の遠い妙齢女性への種付け位はしていた可能性は有るが、少なくともこの世界においてはそうした行為をしているという話は聞いていない。

 

 ベッドの下に隠されている類の本が定期的に新しいモノに入れ替わっている辺り、その手の欲求が全く無いと言う訳では無いのは間違いないんだがね。

 

「いやでもさぁ……俺大学卒業したら直ぐ高専の教師になる訳じゃん? んでその時点であの娘は未だ高専の生徒な訳よ。教師と生徒の交際とか幾ら呪術規定にゃ触れないとは言え流石に不味いじゃん?」

 

 あーソコは一般社会の倫理に縛られるのかー、いや大学で教師になる為の勉学に励んでいるからこそ縛られる様になったのか? 

 

「逆に考えるだ御主人、今の段階ならば大学生と高校生が普通に恋愛しているだけで、偶々大学生が教師になっただけだ……と」

 

 前世で読んだ漫画で教師の夫と16歳で結婚した妻の女子高生が同じ学校でその関係を隠して生活する……と言う様な作品が有った筈だ。

 

 現状日本の法律では男子は18歳、女子は16歳での結婚が法的に認められている。

 

 ウェンディーは飽く迄もオーストラリア人であり、日本の法律では無く現地の法に縛られている可能性は有るが、結婚まで行かないお付き合いのレベルならば問題は無い筈だ。

 

「おま……天才か? 流石はハーレムクソ野郎だな! 言う事が違う!」

 

 卒論の合間を縫って真依嬢の家庭教師の真似事もしている御主人は、今も定期的に伏黒家に顔を出している、その関係でパパ黒からその極めて不本意な称号の事を聞いたのだろう、関心半分からかい半分といった感じでそんな言葉を口にする。

 

「禪院だって加茂だって本家筋の血筋を残す為に、普通に妾を囲っているだろう。そもそも一夫一婦と言うのは所詮はキリスト教の価値観であり、神道と仏教に根付いた価値観を持つ日本人には関係ない話だ」

 

 とは言え前世(まえ)の俺は極々普通に一夫一婦が当たり前と言う価値観で過ごして来た人間であり、重婚は犯罪だし不倫だってするべきでは無いという意見には賛成の立場である。

 

 ただある程度以上の財力を有する人間がきっちりと囲って子どもを婚外子として認知し、成人するまでその子の生活をしっかりと支援するので有ればソレ自体はアリだと思う。

 

 明治維新前にはソレこそ妻妾同衾の家庭だって、富裕層と言える商家や武家では普通に有ったのだから、やはり先進的な欧米の価値観とやらに毒された事が色々と問題を複雑にしているのでは無かろうか? 

 

 ……まぁ前世でも今生でもノンケな俺としては、衆道が極々普通の嗜みとして流行っていた時代に産まれなくて良かったとは思うがね。

 

「と言うか、御主人の場合は真面目に五条家の跡継ぎをもうける為にも早いウチに彼女なりなんなり作らないと、呪力だけを基準に自分の好みでも無い女性を押し付けられる可能性が割と高いんじゃないか?」

 

「あー、ソレなー……んー、真面目に考えないと駄目だよなぁ……俺の立場を考えりゃある程度実力の有る呪術師じゃなけりゃ、奥さんも子どもも弱点にしか成らねぇって事になるからなぁ……うし、取り敢えず先ずは卒論やっつけるわ」

 

 あ、嫌な先の現実を見るのを止めて眼の前の現実に逃避しやがった。

 

「まぁ御主人の人生は御主人が選び取り決める事だ、飼い猫に過ぎない俺には老爺だった頃の経験と知識からの助言程度の事しか出来ん……が、後悔先に立たずと言うからな? やるだけやっての後悔と、やらないでの後悔は割と大きな差だぞ?」

 

『人事を尽くして天命を待つ』と言う言葉の通り、人間にはどんなに努力しても最期は運命とか神仏とかに頼らざるを得ない事は有る……が、物事が失敗に終わった時に『本当に人事を尽くしたのか?』と言う後悔は結構重い。

 

 胸を張ってやる事は全てやった! と断言出来る事は早々無いが、全く手を付けずに只々後悔だけが残る結果と言うのはソレ以上に後の人生に重く伸し掛かるモノだ。

 

 若いウチの失敗は取り返しが付くのだからやらずに後悔するよりは、やるだけやって失敗してその後悔を後の人生の為の糧をすれば良い……と言うのは本当に老爺の言だな。

 

 未だ冷めないコーヒーを手に卒論執筆を再開するため、部屋へと戻る御主人の背を見ながら、彼の人生に後悔少なからん事を……と祈らざるを得ないのだった。

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