畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
御主人も夏油も揃って無事に大学を卒業した、御主人は当初の予定通りこの春から呪術高専高専東京校の呪術・体術担当教師として赴任し、夏油は司法修習の為に高専に戻って来るのはもう一年先である。
影高野から齎される術式持ちと思われる子ども達の情報が活かされ、此処数年は高専に入学する生徒の数は例年の倍以上で推移しており、新任教師である御主人も4人の生徒を受け持つ事になった。
なお今年の新入生は8人で大豊作と言って良いのだが、高専付属の児童養護施設・盤星園で養育されている子ども達が高専に入学する年齢になれば、更に倍の人員確保が可能となる辺り、情報隠蔽を行っていた今は亡き総監部メンバーの罪は重い。
御主人が教師に成って俺の生活で変わった事があるとすれば、自宅と呼べる場所が都内の億ションから高専の敷地内にある職員寮へと移った事だろう。
生活環境としては明らかにレベルが落ちたと言えるのだが、御主人的にはその辺は別に問題無いらしい。
まぁ職員寮には小さいながらもキッチンが設置されており、ソコに自分好みのコーヒーメーカーだのなんだのを用意して、必要な時に必要なモノが手に入る環境は変わっていないので、御主人的には然程環境が変わった感は無いのかもしれないな。
ちなみにナスちゃんと光子さんへの2度目の種付けは運良く彼女達の発情期が1ヶ月ズレたお陰で、既に終わっており後は仔猫が産まれるのを待って、術式の発現前後は彼女たちの家へとお泊りさせてもらう予定である。
現時点で24児の父であり、ここから更に増えるのかぁ……とは思うが、ソレでもまぁお相手は増やさなかったので、徳川家斉(53人の父)超えは無さそうだ。
御主人が正式に高専の教師になって寝床が変わった以外に俺の生活に変わった事は無く、今日は警視庁捜査0係に来ている。
「で、また子どもが増えるんだろうハーレム糞野郎?」
何処から漏れたのか、パパ黒が付けた不名誉な肩書で俺にそんな言葉を投げかけてきたのは大田巡査長だ。
「確かにお相手した雌猫達の肚には俺の子がもう居るが、猫に一夫一婦と言う制度は無いのだから問題無いだろう。ソレより人の心配より自分の心配をしたらどうだ大田巡査長26歳。晩婚化が進んでるとは言え子どもは早く作った方が安全なのは事実だぞ?」
「大田さんはこの間、呪術総監部経由で入ったお見合いの相手と上手く行ってて近いウチに結婚するって話だぜ? なぁそーだろ太田さん」
「やかましい! そーいう貴様こそ、北海道に出張した時に酒屋の娘さんといい感じになって遠距離恋愛してるんだろう、篠原純情巡査!」
周囲からは窓際族の巣窟とされている捜査0係では有るが、呪霊関係や呪詛師関連の事件が有れば忙しく動き出す事になる……が普段は回りの見方もさもあらんという感じでこんな風に駄弁って時間を潰す様な部署である。
とは言えその話題の中には幾つかタブー視されているモノがあり、普段はこうした恋愛関係が話題に上る事は無い。
何故ならば後藤巡査長を始め数人の捜査官は、呪霊や呪詛師絡みの事件で妻子を失っていたりするので、その辺に触れるのは好ましく無いと暗黙の了解があるからだ。
では何故今日は少々直情的過ぎるきらいは有るが真面目なお巡りさんである大田巡査長が、こんな話題を振ってきたのか?
答えは簡単で今日は他の事件への対応で俺を除く2人が留守番として残っているだけだからである。
捜査0係に所属する数少ない『見える』お巡りさんである2人は、呪霊絡みと確定した現場での封鎖作業や民間人の誘導と言った仕事よりも、呪霊や呪詛師案件が『疑われる』段階での捜査を優先する様に指示されているのだ。
「総監部からの見合いの斡旋と言う事は相手は呪術師家系の女性なのか?」
「ん? いや、現役の呪術師では有るが一般家庭出身の女性だ。結婚後も呪術師は続ける予定だが、呪術師は死と隣り合わせの仕事だからな。万が一自分にもしもの事が有った時にも子どもが露頭に迷わん様に安定した職業の男と見合いがしたかったらしい」
俺が御主人に飼われ泰山府君の祭を開発してからこっち、高専回りの殉職率は大きく下がったとは言え、殉職が全く無くなった訳では無い。
以前の様に明確な悪意に依る等級詐欺も無くなった様だが、ソレでも2級案件だと思って現場に行ったら1級案件だったと言う様なケースは0には成らなかった。
現場で呪霊と戦う訳では無い窓の見立ては概ねの所は合っていても、実際に相対して見なければ正確な等級を測れない呪霊と言うのはどうしても居るモノだからだ。
相打ちならば死体を補助官が持ち帰り泰山府君の祭を試みる事も出来るが、完全に敗北したとなるとそういう訳にも行かず、後から出張った上のランクの呪術師が呪霊を討伐した時点で既に魂は旅立っていた……と言うケースはそれなりにある。
「ソレ太田さんじゃなくても良かったって言外に言ってる訳だけどソレで良い訳?」
御主人と同年代の篠原巡査は未だまだ恋愛に夢を見ている頃合いの様で、見合い婚に対して否定的な感覚があるらしい。
「条件という点で言えば決して奇怪しい話ではなかろう。知り合いに結婚相談所に勤めてる奴が居るが、聞く話だと男も女も条件付けが色々と酷いと言う話だぞ?」
曰く結婚相談所に相談に来る者は『男は家政婦兼娼婦を探し、女はATMを探している』と言う様な惨状らしい。
……
「今は前線とは言い難い部署に配属されているが、その分殉職の可能性は極めて低いし、出張も多いから手当も付く、呪術師をするには呪力は少ないが一応は術式持ちだから、呪術界隈としては一応は優良物件扱いらしいぞ」
……だが彼は制度上は30円と言う激安報奨金でしかないが一応区分的には呪詛師である、噂の呪詛師ハンターに狩られ無い事を祈りたい所だ。
「で、相手とは見合いもして、その後何回かデートもしたんだろ? 上手く行きそうな訳?」
「呪術師界隈じゃぁ女性の扱いは基本的に良くないらしいからな、全うな結婚生活を望めそうな相手と言うだけでも万々歳らしい。俺としても彼女は男を立てる事を知った上で自立心の有るタイプだからこのまま順当に行けばこの冬にでも結婚する事になりそうだ」
大田巡査長は良い意味でのフェミニスト……男女平等主義者で、男尊女卑の風情が強い呪術師家系への嫁入りは一般家庭出身の女性呪術師にはキツイモノがあるだろうし、生真面目一辺倒な部分を差し引いても決して悪い物件では無いのだろう。
「へー、上手く行きそうなら良かったじゃん。警察って組織はどーも古い体育会系の慣習が未だ色々残ってて、男も女も結婚して子どもを持ってやっと一人前って雰囲気あるもんなぁ」
「貴様も他人事ではないぞ? 今の時代はネットで幾らでもやり取り出来るんだろうが、ソレでも遠距離恋愛は中々に難しいと聞くからな。東京と北海道じゃぁ会おうにも早々会えんだろ? 男の方がリードしてアプローチせんと中々上手くはいかんだろうよ」
「ああ、近いウチに彼女、お台場ガンダム見に上京するって言ってたから、その時にはデートする約束になってるよ。彼女割とオタ気質らしくて、地元じゃグッズ一つ買うにも時間がかかるってんでこっちに出て来たがってるんだよ」
と、そんな話で盛り上がってると、突然捜査0係室の電話が鳴る。
「はい、捜査0係、篠原です……え? あ、はい、了解しました。篠原巡査現場に向かいます」
「なんだ事件か?」
「外傷無しの突然死案件、司法解剖でも死因不明、0係案件の可能性があるので現場検証への立会だとさ。太田さんまで行く必要は無さそうだし俺だけで行ってくるよ」
「流石にココを完全に無人にする訳にもいかんからな、現場は任せたぞ」
立ち上がり上着を羽織る篠原巡査に大田巡査長がそんな言葉を投げかけ送り出す。
普段なら2人以外にも誰か彼かはこの部屋に居るのに、大田巡査長一人しか残らなかった事を鑑みれば、今日はかなり忙しい日に部類されるのだろう。
呪術師も捜査0係も人の不幸が無けりゃ仕事の無い職場である、つまり暇な方が世の中平和だと言う証拠な訳だ。
「全くもって因業な商売だな、警察も呪術師も……」
思わず俺がそう呟くと、
「本当に俺達……0係だけじゃなく警察全体が暇で暇で、税金泥棒扱いされてる世の中が一番良い状態なんだろうがな」
大田巡査長も深く頷いて同意を示してくれたのだった。