畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
寮の部屋へと戻り御主人は自分のノートPCで、俺は更にバージョンアップしたゲーミングPCで寝るまでの時間を潰していた。
御主人が何しているのかは知らんが、俺がプレイしているのはサイドビュー2Dのサンドボックスアクションゲームで、未だ日本語未対応では有るが日本語化MODを入れて遊んでいる。
前世でも散々時間を食い潰したこのゲームだが、今生でも既に100時間を費やしている……有る意味コスパの良い遊びだよなぁ。
「え!? うっそ! まじか!」
等と考えながらレアアイテム掘りの為にボスキャラマラソンをしていると、唐突に御主人が吠えた。
時計を見ると23時、確か御主人が部屋に戻る途中で言っていたアーティストの新曲が世界同時配信される時間だった筈だ。
「どうした御主人、いきなり大声を上げて」
「いや……パティが、日本に来るんだよ! 東京ドームでクリスマスライブやるんだって! 23、24、25の3公演で述べ15万人だとよ! チケットは当然抽選販売なんだろうけど……五条家の伝手が有れば……イケる筈!」
この場合は抽選販売の一般チケットを金にモノを言わせて転売で手に入れると言う話では無く、イベントを主催する事務所やレコード会社なんかが上流階級相手にコネを作る為、財界人なんかに声を掛けられた時用に確保してある『招待席』を手に入れると言う話だ。
「あ、もしもし俺だけど……うん、爺や未だ起きてる? あ、そっか、んじゃ伝言お願い、パティ……パトリシア・マイヤースのクリスマスライブ……あ、お前未だ知らなかった? さっき新曲の配信と同時に発表有ったんだよ! え、お前も好き? やっぱ良いよな」
五条本家の固定電話に連絡し、御主人の育ての親とも言える爺やにチケットの手配を頼むつもりだったのだろう、しかし老人は早寝早起きと相場は決まっているモノで彼はもう就寝してしまったらしい。
だが電話口に出た恐らくは不寝番の当番であろう者もパティのファンだったらしく、御主人も電話越しにファントークを楽しんでいる様子である。
「新曲も良かったぞ、配信開始と同時にダウンロードして聴いたわ。CDの現物は明日朝一でタワレコで買ってくる予定、丁度開店時間前後は授業入って無いし蒼で飛べば移動は一瞬で済むしなー」
どうやら電話の向こうの相手は仕事中で有るが故に未だ新曲をFULLでは聞けていない様で、漏れ聞こえる声からでも心底羨ましがっているのが分かった。
「って、此処まで言えば俺が爺やに頼みたい事も分かるだろ? パティのクリスマスライブの招待席確保して欲しいんだよ。あー俺ともう一人誘いたいから2席頼んでおいてよ。ウチの伝手使いたいなら使っても良いけど俺とは日付ずらせよ?」
……クリスマスライブに誰かを誘う? 御主人が? まぁ先ず間違いなくウェンディを誘うんだろう。
彼女もオーストラリア人で英語圏の出身だ、英語圏に限らずガッツリ売れる様なアーティストなら、英語圏出身のウェンディは先ず間違いなくファンとまで言わずとも聴いてはいるだろうしな。
なんならそのまま性なる6時間を過ごすと言う計画の可能性も0では無いだろう。
但しその際に問題となるのは御主人は教師であり、ウェンディは未だ17歳のJKなので、万が一バレたら『事案』ないしは『事件』となる可能性が有る事だろうか?
とは言え俺がくたばる直前辺りの法律変更は未だ適用されていないので、5~6歳差でも真剣交際ならばセーフと言い張れる筈だ。
ソレにしても……その手のコネとか伝手とか言うモノは一族でもある程度以上の権力を持つ者の特権なのが普通だと思うのだが、御主人はその辺割とルーズで悪い事じゃ無ければ一族の若い者が五条家の権威を使う事を厭わないぽいんだよな。
「はい、んじゃよろしく頼むねー。さて……もう一回聴いたら今日は寝るかなぁポチもゲームは適当な所で切り上げろよー」
と、そう言ってから再びかなりお高いヘッドセットを身に着けようとした瞬間だ、
「っち! んだよ、こんな遅くに……はい、もしもし? はぁ!? ちょ! ソレマジで言ってる!? ああ、ああ、了解、ポチ連れて直ぐ行くわ。おいポチ緊急案件、取り敢えず職員室行くぞ」
言われて俺は即座にゲームをセーブし落とす、パソコン自体は基本的に電源を入れっぱなしにしているので、ディスプレイの電源だけを切っておく。
「緊急って、何が有った? どっかに特級呪霊でも湧いたか?」
御主人の側に寄り、蒼での転移に備えると一瞬の後には職員室だ。
「他の連中来るまで未だ少し有るだろうけど……まぁ良いや。学長、影高野が壊滅したってマジっすか?」
「事実だ、未だ現地への調査は入って居ないが……丁度いい悟、ポチを連れて先行偵察に行ってくれ。もしも助けられる者が残っていれば一人でも多く助けてくるんだ」
「……ストックを使い切っても助けられるのは最大でも8人だぞ? その程度だと取捨選択が中々に難しいと思うんだが?」
「影高野の呪術師は元々30人程度しか居ない、その中の何人が救えるかは分からんが、一人目を蘇らせたなら其の者に判断させれば良いだろう。兎に角今は少しでも情報が欲しい」
「先行偵察なんて特級の仕事じゃねぇ……とか言ってらんないわなこりゃ、影高野にゃ知った顔もそれなりに居るしな。ポチサクッと行くぞ?」
「了解した御主人」
直後再び発動した蒼で周囲の景色が変わると、ソコは本来ならば荘厳な寺院が建っていたであろう場所が、昨年の大震災を思わせる様な瓦礫の山となった無惨な姿だった。
不幸中の幸いと言って良いのか火の手は上がっておらず、この状況ならば遺体の捜索は建物に押し潰された様な者を除けば然程難しいものでは無さそうだ。
「おい、ポチ。こっちの遺体はどうだ? 蘇らせれるか?」
現場をパッ見渡した時点で遺体を一つ見つけていたらしい御主人が、倒れ伏した老人の遺体を目指し再び転移し俺に向かってそう言葉を掛ける。
「ああ! 間に合う! 未だ魂はこの世を離れて居ない! 拡張術式『泰山府君の祭』」
怪我らしい怪我は全く見当たらず出血の類も無い、パッと見た感じでは何故死んだのかも分からない程に綺麗な遺体を前に、俺は両前足を合わせて拡張術式を発動させた。
「ぬ……くぅ……儂は……死んだ……筈? ぬぅ……コレが話には聴いていた高専の隠し玉とやらか……」
六道和尚が身に纏っていたのと同じ黒の篠懸では無く、紫色の篠懸を纏うこの老人は恐らくは影高野の高僧だ。
古来洋の東西問わず紫は特定の階級の者以外が身につける事を禁じられた『禁色』であり、影高野の母体である真言密教に置いては緋色を纏う大僧正に次ぐ立場の僧正が纏う色だった筈である。
「高専から派遣されてきた五条特級と五条1級だ。取り敢えず後6人は運が良ければ蘇らせれるから、優先順位はアンタが決めてくれるか?」
時間帯的にもう暫くすれば1回分のコストは回復する頃合いだが、万が一下手人が戻ってきた時に備えてソレは温存するという事だろう。
「……人の命に優劣を付けるは仏道に反するが仕方なし……名乗りが遅れ申し訳ない、拙僧は
仏門なのに神妃とはコレ如何に? と思わなくも無いが、元を辿れば仏教の仏様の大半はヒンドゥー教の前身であるバラモン教の神々である。
真言密教の本尊である大日如来も大本を辿っていけば阿修羅王の一柱であるヴァイローチャナ或いはビルシャナであるとされ、その姿は毘盧遮那仏として東大寺の大仏様として建立されているのがソレだ。
仏教と日本古来の神道が融合した神仏習合より以前から、そもそもとして神々が悟りを開き仏と成った姿として多くの仏が仏教の中では描かれていたのである。
そうした原点を考えれば毘盧遮那仏の現世での妻と言う立ち位置で神妃という立場の女性が祀られるのは何等不思議は無い。
「ぬぅ! 栞様! 栞様はいずこ! くぅ! 遺体すらも無いとは……もしや奴は最初から栞様を!? 恐らくコヤツは最期まで栞様を守ろうとしたのでしょう。この者を呼び戻す事は可能であろうか?」
殆どの建物が倒壊している中で唯一無事だった建物の奥へと来た灌頂僧正だったが、そこに本来居るべき神妃の姿が無い事に、明確な狼狽を示すがソレもほんの一瞬の事で即座に深呼吸をして自分自身を落ち着かせると、近くに倒れ伏した作務衣の僧侶を指し示す。
「いや……申し訳無い、残念だがこの方の魂は既に黄泉路を辿ってしまっている」
残念だが俺の拡張術式である泰山府君の祭は魂が未だ残っている遺体を復活させるモノであり、既に魂が旅立ってしまったモノを復活させる事は出来ない。
「……けど一つだけ収穫は有ったぜ? 此処に残ってる残穢は昼間ポチが持ってきた事件現場に残ってた残穢と同じだ。つまり防衛大臣秘書官を暗殺した呪詛師と影高野を壊滅させた呪詛師は同一人物だ」
「……何と! 影高野の者は呪詛師を狩る者であるが故、恨みの一つも買っているであろうとは思うたが……真逆市井の者まで手に掛けているとは……何たる外道! されど兎角今は一人でも多く救える者が居れば救って頂きたい!」
そういう僧正に案内され影高野の本山施設を隈無く巡ったが、泰山府君の祭が間に合う状態の遺体は一つも見つからないのだった。