畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
影高野の壊滅……それ自体は呪術界に大きな変化を齎す事は無かった。
夜学学長や楽巌寺学長辺りは影高野にも強者と言って良いモノがいた事は認めては居るが、御三家を始めとした古来より呪術と術式を受け継いで来た者達にとっては『術式の無い雑魚の互助会』でしか無い。
不幸中の幸いと言えるのは高野山金剛峯寺を中心とした表向きの寺院は無傷であり、その傘下にある児童養護施設も無事だったと言う事だろう。
ただ呪術師として活動してた若手から中堅層までがもりっと失われた事で、影高野自体の再建の目処は立って居ない。
その分と言って良いのか悪いのか、呪詛師の討伐は呪詛師ハンターを名乗る外国人呪術師が精力的に熟しており、呪詛師に依る大規模な事件は件の1人以外は起きていないのが現状だ。
どうやら影高野を滅ぼし防衛大臣秘書官を殺めた呪詛師は、日本の国防に対してのテロを計画しているらしく、国防省事務次官、統合幕僚長と言った国防のトップを次々に暗殺しているのである。
無論、呪術総監部も高専も自衛隊や警察もソレを指を咥えて眺めている訳では無く、様々な方法で捜査を続けているのだが下手人の残穢以外には全く手がかりが無いと言うのが現状なのだ。
月詠鏡を用いた長時間の監視や、事件現場周辺の監視カメラなんかをチェックしても、被疑者は何等かの呪具を使っているのかそれともそういう術式の持ち主なのか、その姿は常に『闇』に包まれているのである。
月詠鏡に反応が有ったと思えば鏡に映るのはただ只管に真っ暗なだけの映像で、監視カメラの類もやはり対象が通ったと思わしき時間帯には何故か全ての明かりが消し去られたかの様に真っ暗になる。
暗視カメラの類ですらその瞬間だけは真っ暗なのだから、恐らくは物理的に可視不可視を問わず光を遮る様な効果を発動させて移動しているのだろう。
奴が月詠鏡の存在を知っているとは思えないが、今は先進国と言える国ならば何処にでも監視カメラや防犯カメラの類はあるのが普通に成ってきているし、常時闇を展開し影に身を隠すのは理にかなっていると言えばその通りである。
ただ問題は一仕事終える度に然程の時間も掛けずに、天元の浄界の中からどうやって離脱しているのかと言う話だ。
奴が事を起こすのは大概は深夜と言って良い時間帯で、当然ながらそんな時間に旅客機が飛ぶ筈も無く、飛行機で国外へと逃れている可能性は0である。
となると船での移動と言う事になるのだが、船に乗ってから浄界を離脱するまでずっと闇を展開し続ける理由が分からない。
可能性があるとすれば天元が浄界の中の事を殆ど把握している事を知っているメロンパンが、そう言う指示を出していると言う場合だがあのメロンパンは今は確かシャフトと言う企業をおもちゃに遊んでいる筈だ。
いやでも待てよ? シャフトの前CEOであるリチャード・ウォンこと
だが日本とは友好国であり同盟国であるアメリカ軍が、日本の国防関係者を害する理由は何だ?
……駄目だ、歴史シミュレーションゲームの類や対人ゲームなんかで多少は戦術的な知識は多少はあると自負しているが、国家戦略レベルの話になると全く分からん。
まぁ分からんモノは分からんと置いておいて現在の話をしよう。
今は夏の繁忙期、呪霊が台所の黒い悪魔の如くポコジャカ湧き出す季節だ。
呪術師の離職や殉職が減り、呪術高専東京校・京都校共に新入生の数が増えた結果、今は死ぬほどブラックに任務が詰め込まれると言う事は減り、給料に見合う程度にはブラックと言う感じに落ち着いている。
1年生も呪術師家系の家から入学してくる子は、そもそもとして入学前から呪霊討伐の経験はあるので普通に任務が入れられるが、一般家庭出身の子に関してはちゃんと教師が引率して任務に当たる事が出来る程度には手が足りているのだ。
万が一事故ってもこの時期は俺が高専の医務室に詰めて居るので、即座にあぼ~んと言う事も無い。
今年の新入生は8人でウチ4人が御主人の受け持ちだが、流石に新任教師に一般家庭の子を多く持たせる様な事は無く、4人中3人は呪術師家系の子で、もう一人の先輩教師(モブ)が受け持つ4人は全員が一般家庭出身である。
ちなみに御主人が受け持つ生徒の一人は磯野と言う名字である……そう、あの磯野家の分家筋の人間だ。
呪力的には磯野家基準で普通程度なのだが、高専で学んだ勝男が下北半島近辺で発生した陸上の呪霊や、近辺に逃げ込んできた呪詛師を相手に術式無しで無双した事で、高専での学びは無駄じゃない! と毎年の様に磯野家の人間が入学する様になったのである。
なお今年は京都校にも磯野姓のモノは居たりするが、兄弟では無く
今は5年から1年まで東京校には1人ずつ磯野が居て、更にその全員が海鮮操術を生得術式として持っていると言うのだから、本当にどんだけ濃いんだよ磯野家の術式は。
磯野は兎も角、他の呪術師家系の子は御三家程では無いにせよ、それ相応に代を重ねてきた呪術師の家で、彼等は入学時点で特別3級の肩書を持ち入学と同時に特別が外れ、今期の繁忙期を無事に終えたら2級に昇格する予定である。
御主人がマンツーマンで対応している一般家庭の子は『
一般家庭とは言ったが数代前にはその術式を使っていた呪術師が先祖にいるそうで、その人物が残していた遺品の魔導書『ゴエティア』を手に『ソロモンの72魔神』を召喚し操ると言う割とトンデモな呪術師である。
御主人曰く
一応の考察としては72魔神の召喚と制御は彼女の術式で行われているのではなく飽く迄もゴエティアと言う魔導書の効果であり、彼女の術式は魔導書を起動すると言う所で終わっていると言う話だ。
故に本物の魔導書さえ手に入れば、彼女の術式は更に出来る事が増える可能性が極めて高い……らしい。
まぁ彼女はゴエティアの72魔神を必要に応じて使い分ける事も未だ出来て居らず、式神系の術式使いに有りがちな『懐に入られると弱い』と言う欠点にも未だ対応出来ていないので、手持ちの本を増やすと言う選択は悪手と言えるだろう。
なお魔導書が呪具では無く呪物なのはその本自体に何等かの術式がある訳では無く、読本呪術やソレに類する術式を持つ者の手に無ければ、ただ呪力の籠もった本に過ぎないから……らしい。
ついでに言うと
ゴエティアを使った普段の呪霊討伐よりも圧倒的に動きが良かったそうで、100tハンマーには使用者の身体能力を強化したり暴力性を高める効果は無かったはずだが? と御主人と組屋が揃って首を傾げていた。
「で、組屋はなんで医務室にいるんだ? 今日も新しい呪具の研究じゃないのか?」
毎年毎年入ってくる新入生のコピー体を使った新しい呪具の開発をするのは、彼の趣味嗜好でも有るが同時に総監部の意思でもある。
モノに依っては本来ならば呪術師として活躍出来ず、補助官となるしか無い様な者でもソレを使う事で2級まで呪霊ならば十分祓える様になる様な呪具が作れたりするので、呪術師の撤退支援や救援に遅滞戦等の為に使えるモノは使いたいと言うのが上の考えなのだ。
実際100tハンマーは様々な検証が行われた後に、一人の女性補助官に貸与され、彼女は呪具付きに限り2級呪術師として呪霊討伐に送り出されている。
万が一にも呪詛師に奪われるとシャレにならないので、100tハンマーには呪術的な追跡手段の他に未だ日本では殆ど普及していないGPSトラッカーまで埋め込んでの運用だ。
呪術師の手が足りてるならそこまでしなくても……と思わなくも無いのだが、100tハンマーが多少身体能力を強化出来る程度の呪力しか持たない者でも1級を普通に祓えるレベルに押し上げる下駄性能の高さ故に死蔵は勿体無さ過ぎるとの判断である。
猫の手も借りたいほど……と言うか実際猫が手を出す程に忙しい呪術界で、呪具一つで使える手が一つ増えるなら金銭価値は兎も角として、手を増やす方を優先したと言う事だろう。
つか組屋の特級としての価値は当にソレだからなぁ……呪術師未満の者に呪具と言う下駄を履かせて呪霊を祓う能力を与える事が出来る、夏油と形は違うが数の暴力としての特級とも言える。
量産型にゃん²バズーカも補助官が3級呪霊なら楽勝で2級も数発打ち込めば倒せ、1級以上なら遅滞戦が出来る様にする事の出来る呪具として高専が所有する自動車のトランクに全台常備される様になったしなぁ。
「いや、行き詰まったんでちょっと一息吐きたかったんだが、流石に現役の学生たちが授業中の校舎を彷徨くのも違うだろうし、今の時期ならお前がいるだろうと思ってな」
どうやら今年の新入生の中に中々手こずる術式を持った者が居たようで、そう言いながら組屋は医務室に備え付けられたポットから湯呑みに茶を注ぐのだった。