畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
今年も夏の繁忙期が無事に終わった、無事である何よりの証拠として何と今年は東京校、京都校に所属する呪術師に一人も殉職者が出て居ないのだ!
……まぁ泰山府君の祭で復活させた者は2名居たし、俺の反転アウトプットで部位欠損を治療した者は何人も居たので、完全に無事と言い切るのは無理があるかもしれないが、俺がこの世界に生まれて来てから殉職者0の繁忙期は初なので快挙なのは間違いない。
この快挙を支えるのは偏に俺の尽力の賜物……と言いたい所だが、決してソレだけではない、呪術師の殉職率離職率が大きく下がった事に依る人手不足の解消傾向に加えて、呪術師全体の実力が向上した事に、一部呪具の量産化も大きな要因なのだ。
実際、所謂等級詐欺案件にぶつかった呪術師の撤退をにゃん²バズーカを担いだ補助官が支援し、無事撤退に成功したと言うケースの報告書は束ねれば立つ程の量になると言う。
他にも京都校の楽巌寺学長からも特級呪具『黒皮』のお陰で生徒が死なずに済んだ……と言う喜びのお手紙も頂いていたりする。
黒皮はそのまま演奏するだけでも微弱な反転術式を発動出来る呪具なのだが、呪術師が自身の呪力を流し込みながら演奏するとその効果は跳ね上がり、家入の反転アウトプットに少し劣る程度の効率で治療が出来るのだ。
そして何よりもヤバいのは楽巌寺学長の術式と組み合わせると、更に効果が増幅される様で、莫大な呪力を必要とはするものの俺の反転アウトプット同様に大きな欠損を回復する事が可能らしい。
但しソコまでの回復を行うと楽巌寺学長の呪力が枯渇し脳も焼け付いて、3日は使い物にならない呆け老人化してしまうそうなので、可能ならば使いたくないのだが部下や生徒の命には代えられないと言う事の様である。
個人的にはアーティストとしての彼のファンなので、そのままガチで痴呆を患う様な事には成って欲しく無いので、必要ならば何時でも呼んで欲しいとは伝えてあるのだが、御主人が居る時ならば兎も角そうじゃない時には京都校は遠すぎるのだ。
兎角そんな訳で無事繁忙期も終わり、残暑が過ぎればそろそろ秋がやって来る。
今年の春に種を付けたナスちゃんと光子さんも無事に出産を終え、術式の有無も確認済みだ。
ナスちゃんが産んだ5匹のウチ今回は3匹が術式持ちでその中にまた1匹『救急九命』持ちが居たので、次代の救急九命持ちは取り敢えず2系統繋がった事になる。
他の2匹は片方が『幸運招来』とご主人が名付けた術式で、飼い主がほんのり幸運になると言う招き猫の様な
もう一匹は『呪詛返し』と言う人間でも過去に持っていた者の居る術式で、その名の通り自身を対象とした呪力を反射すると言う能力を持ち、毛色は銀トラだ。
光子さんの方は4匹が無事に産まれ全てが術式持ち、ウチ2匹は三毛で加茂光子の血筋に宿る術式が出たので猫の加茂家としては万々歳だろう。
残りの2匹は残念ながら救命九命持ちは居なかったが、一匹は『呪霊喰らい』と名付けられた術式を持ち、その名の通り呪霊を喰って呪力に変換しその呪力を他者に譲渡すると言う呪術師の相棒となる為に産まれたとしか思えない術式を持っていた。
呪霊喰らいは呪霊を丸っと喰うのではなく、一部を齧り取るだけでも効果を発揮する為、結界術なんかで呪霊を絡め取りこの仔が齧ってダメージを与え、還元した呪力で結界を維持する……なんて運用が可能だろう。
……まぁ呪霊は基本的に不味いのでこの仔がそうした生き方を望むかどうかは別の話だろうが。
最期の仔の術式はそのままズバリ『化け猫』でこの仔に関しては寿命と言う概念が無く、歳を取るに従ってその能力が強化されていく……と言うモノらしい。
この化け猫術式に関しては御主人の六眼ですら未だ発現してない効果がアホ程あるとしか読み取れないそうで、将来的に何処まで成長するのか全く予想が付かないと言う。
下手するとコイツガチで猫又とか猫仙人とか言われる類の存在になるんじゃねぇか?
コレは推測に過ぎないがもしかしたら九尾の狐とか仙狐とかも、術式を持った狐が運良く脳みそパーンしないで生き残り、永い時を経て術式を強化していった存在だったりするのでは無かろうか?
兎にも角にも俺も猫としてはそろそろ良い歳だし、ナスちゃんも光子さんも2回の出産を無事に終えて、避妊処理を受ける事に同意しているらしいし、リリちゃんも含めてゆっくりと幸せな飼い猫生活を送って欲しいモンだ。
「おーいポチ、ちょっと京都校の方に用事有って行ったら、学長からライブのチケット貰ったぞー。お前が学長のバンドのファンだってちょっと言ったら黒皮のお礼だってさ、俺の分と2枚貰ったけど猫の分もチケットって要るのかねぇ?」
「俺は法的人格を有する独立した人格権を持った猫だからな、1人分の有料サービスを受けるならばそれ相応の対価が必要になるのは当然だろう。という事で俺は突発任務でも無い限りは絶対ソレ行くからな!」
楽巌寺学長の所属するバンド『King of Curses』は何度もメジャーレーベルから声を掛けられては居るが、所属するアーティスト全員が本業は呪術師の老人達で、音楽は飽く迄も余暇だと言う事からメジャー転向を断り続けていると聞く。
古い楽曲もレコードだけじゃなくちゃんとCDとして再販してくれていて本当に良かったよ……。
メジャーレーベルなら割と当たり前の再販なんだが、インディーズレーベルだと余程利益が見込めるバンドじゃなけりゃ再版とかでないからなぁ。
貰ったチケットで観に行くのは対価を出した内には入らんだろうが、現場できっちり物販に金を落とせばチケット代以上の還元にはなるだろう。
ネット通販には乗ってない様なライブ会場限定グッツの類は、今までずっと我慢していたし、当日はきっちり現金を大量に用意して現地入りしないとな!
もう数年もすればライブ会場の物販でも電子マネーの類が使える様に成って来るんだろうが、この頃は未だまだ現金手渡しが基本だからなぁ。
「いや、俺も多分パティのライブん時はおんなじ位興奮するんだろうけど……端から見るとファン心理って割とヤベー奴なのな」
ふんすふんすと鼻息を荒くしている俺を見てドン引きしてそう言う御主人。
前世にコンサート会場まで足を運んでライブを観たのは爆風スランプの武道館一回切りで、ソレ以前も以降も現地で生視聴は一度も無いが、その一回だけでも音源と生演奏の違いは理解している。
CDよりもレコードの方が味がある音楽が聞ける……と言うオーディオマニアの言葉は決して気の所為とか、マニアックな趣味の差と言う訳では無い。
レコードの盤面に刻み込まれた細かな溝はアナログであるが故に、デジタルでは切り捨てられしまう細やかな音も再現する事が出来る。
対してCDはレコードに比べると人の耳には聞き取れない様な超低音や超音波部分が切り捨てられており、耳には聞こえなくとも肌感覚としてソレは音の差になると言う。
MP3データになると容量を小さくする為に、CD音源(WAV音源)よりも更に高音や低音を削るので、ドラムの厚みが重厚な楽曲をMP3に変換するとコレジャナイ感が割と強くなるモノなのだ。
ある程度は再生環境の設定変更なんかで誤魔化す事も出来るが、MP3プレイヤーが当たり前に成っていた世代の子がライブに行ってドハマリする……のはその音の差が大きいのだと個人的には思う。
「御主人も一度本当のライブを経験すれば俺の気持ちが分かる筈だ、MP3よりCD、CDよりレコード、レコードよりライブ、音楽は媒体に依って全然厚みが違ってくるのだから!」
前世でも晩年には音楽は配信で買うのが一般的でCDの現物を買うのはファンの一部、何なら個別の楽曲を購入するのではなく音楽配信なんかのサブスクに登録してネットで聞くのが普通ですら有った。
「いやCDとダウンロード版じゃぁ音が違うのは流石に俺でも分かるぞ? でもそーかぁ……ライブの類は行った事無いからなぁ。まぁソコまで言うなら学長のライブで軽く耐性を付けてからパティのライブに行けるのは良かったのかもなー」
受け取ったチケットを確認し、ネットで箱を調べて見る……までも無いZeppじゃん!
また今年も全国ツアーやるのかよ元気だなおじいちゃんたち!
……つか原作時間軸である2017年には楽巌寺学長を除く全メンバーが亡くなってるんだよなぁ。
歳で逝ったのかそれとも呪術師としての任務で逝ったのかは分からないが、もしかしたらコレがライブを見る最期の機会かもしれないんだ。
ネットで調べて見たら冬休みに入る前に一気に終わらせる割とタイトなスケジュールでライブを繰り返す弾丸ツアーらしい。
……コレもしかして音楽活動が原因で体力使い果たして亡くなった可能性もあるんじゃねぇか?
そんな疑問を抱えながらも、俺は久々に胸踊る時間を待ちわびてゲームもせずにKing of Cursesの楽曲を発売順に聞き直すのだった。