畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
もう仔を作る事は無いとは言えナスちゃんや光子さんとはskypeでのやり取りを続けているし、リリちゃんとその仔で伏黒家で育てられているミャコと名付けられた仔猫にも定期的に会いに埼玉県さいたま市へとやって来ている……ただし今日は御主人も一緒だ。
御主人が善意で家庭教師を勤めた禪院真依が、その構築術式を用いて用意した素材で呪具の刀を打つ事の出来る刀鍛冶が鍛造した呪具の術式を確認して欲しいと頼まれたからである。
極々普通……と言うには少し広い伏黒家の居間に並ぶ5本の日本刀、ウチ一本は伏黒甚爾が禪院家から持ち出したモノで、今回造られた4本の刀のオリジナルに当たるモノだと言う。
「んー、俺の目から見る限り、全部きっちりおんなじ術式が乗ってるね。魂斬りとか普通の人間が使う分にはタダのよく切れる刀だけど、天与呪縛のフィジカルギフテッドやウチのポチが持てば先ず間違いなく何でも斬れるヤベー奴じゃん」
今回造られたのは釈魂刀のレプリカ、ソレも大太刀が2本、オリジナルと同じ打刀が1本、脇差しが1本の合計4本だ。
無論コレは構築術式でポンと刀を生み出した訳では無い、オリジナルがどう造られたのかは分からないが、真依嬢は釈魂刀の術式を刻み込んだ真砂砂鉄を毎日少しずつコツコツと生成したのだ。
ソレをシン・陰流の為の刀を造る事を生業とする鍛冶師がたたら製鉄で玉鋼と化し、その玉鋼で打ったのが目の前に有る4本の釈魂刀レプリカと言う訳である。
大太刀1本は甚爾へと贈られ、残りの3本は真希が状況次第で使い分けて使う、彼女の今後のメインウェポンと成る予定だと言う。
「先生が用意してくれた五条家の構築術式使いの方の日記が本当に参考に成りました! 呪具を一発で構築するんじゃなくて素材やパーツを生成して組み上げて呪具を造る。そうすれば構築術式で特級呪具を造る事も可能だった」
御主人に取って真依嬢は高専の教師になる前に受け持った初めて生徒といえる子であり、その子がこうして自分の教育の成果を誇ってくれたのが、どうやら御主人には可也胸に来るモノが有った様で、普段は見ない不思議な表情をしている。
「刀の扱いは俺も伊賀流で学び直したからな、ソレベースで真希にゃ叩き込むから高専に入る頃にゃ1級呪霊でも余裕で叩き斬る程度にゃ仕込めると思うぜ? 言いたか無いがコイツは俺より素直な分飲み込みが良いかんな」
そう言うパパ黒も禪院家に戻れば自分と同じ『猿』と言う立場に置かれるであろう真希を、弟子としてしっかりと可愛がっている様で自分の同じ年頃の頃より筋が良いと嬉しそうに褒めていた。
「いやー割と真面目に今の呪術界はどー成ってんだろうな? コレも効果と呪力量から考えて間違いなく特級何だけど、ソレが量の限界は有るにせよ量産可能とか……本当に笑っちゃうね」
組屋が高専に所属してから呪術界というか高専の呪具事情は大きく変化している、反転アウトプットを可能とする特級呪具『黒皮』は必要に応じて何時でも新規に造れるし、他の呪術師を素材とした呪具も数多く造られている。
「あ、先生、こっちも見て、刀の材料にした玉鋼の端材で造って貰ったんだ。ポチさん確か苦無は使うんだったよね?」
そう言って真依嬢が御主人に差し出したのは三本の銀色に輝く苦無だった。
一般的な苦無は闇に紛れて使う前提の武器であると同時に道具なので、黒鉄《くろがね》製なのだが、恐らくはソレと区別を付ける為に敢えて全体を綺麗に研いで銀色にしたのだろう。
「うん……コレもおんなじ術式が乗ってるな。ポチどーよコレ、きっちりお前サイズで造られてるみたいだぞ?」
俺が使う苦無は形其の物は人間用のソレと同じでは有るが、サイズ感は一回り小さい甲賀流忍猫専用のモノを使っているのだが、恐らくはソレを参考に作ったのだろう、色以外は俺の持つモノと同じである。
促されて手に取って見てみるが……うん、サイズだけじゃなく重量バランスなんかも同じで、釈魂刀の術式が乗っているのであれば原作でクソゲー呪霊扱いされていた真人に対しても手痛いダメージを与える事の出来る切り札になるだろう。
「うん、手に馴染むいい感じだ。コレは俺に?」
手に取った一本を軽く素振りして確かめ、そう言うと真依嬢は嬉しそうに頷いた。
「ポチさんはリリちゃんの旦那さんでミャコちゃんのお父さんだから、先生は殺しても死ななそうだけど、ポチさんは無理して死にそうだし……」
……一応俺も1級術師だし術式の関係上そう簡単に死ぬ事は無いんだが、戦う姿を見せた事は無いし猫の呪術師では心配になるのも仕方ないのか?
「あと先生、こっちも見て! コレは色々資料見ながら自分で作って見た呪具なんだけど……ちゃんと術式乗ってるかな?」
そう言って彼女が懐から取り出したのは、小学生女児が持つには相応しく無い割とゴツめのリボルバータイプの拳銃だった。
「えーっと……うぇ? コレマジ? 一個の呪具に何個術式乗ってんだ? いや違う、コレ部品ごとに違う呪具でソレを組み合わせて拳銃に仕立て上げたのか!」
原作では全ての呪力を振り絞っても銃弾を一発造るのが精一杯だった彼女も、真希嬢との繋がりを断った事で呪術師としては上澄みに近いレベルの呪力を扱う事が出来る様に成り、小さなモノならば呪具を構築術式で産み出す事が出来る様に成ったのだと言う。
釈魂刀のレプリカを産み出す為の真砂砂鉄を十分に作った後取り掛かったのが、自分の為の拳銃制作で術式を込めた部品を一つひとつ時間を掛けてコツコツと生成し、ソレを組み立て出来たのが彼女が今持っている拳銃である。
原作の彼女はコルト・パイソン357を使っていると言う様な話をどこかで読んだ覚えが有るが、眼の前にあるのはソレよりも可也小さなモノに見える。
「ベースにしたのはS&W セーフティハンマーレス。呪霊を相手にするなら火力よりも呪力効率と付与する術式の方が重要だって一堂の小父さんと相談してコレにしたの。どう先生使い物になると思う?」
「いや……コレはマジで脱帽だわ。構築術式は数ある術式の中でも特に質量保存の法則を真っ向から否定する術式だからか、呪力効率が悪い術式だって散々言われてっけど、こう言う工夫で呪具師やるならアリだろ。この銃は実際試さないと何とも言えんがね」
込められた術式は3つ『流し込んだ呪力を増幅させる』『握った手に吸い付く』『銃弾の回転を加速させる』で、更に銃弾の方も『呪力を受け止め飽和し爆発する』と言う術式を込めて構築しているらしい。
銃弾は通常弾も勿論使う事が出来るが、その場合には銃が持つ呪力と使い手が流し込んだ呪力分の威力が銃弾に乗る事になると言うのが御主人の見立てだ。
「構築した銃弾の方は多分ポチのロケットパンチと同等かソレ以上の威力には成りそうだよなぁ。普通の銃弾だと多分2級を数発で祓える位か? まぁ込める呪力次第じゃぁ一撃でも行けるか? 呪力の増幅が込められたパーツが複数あるから倍率計算面倒臭ぇ」
呪術の基本は引き算だが、呪力は単純な足し算引き算では無いらしく、増幅なんかの術式が絡むと掛け算や足し算の順番がごちゃごちゃに成って計算が極めて面倒臭い奴になるらしい。
「とは言えコレ自体は間違いなくよく出来た呪具だわ。呪力量としては2級って所だろうけど、追加で呪力を吸わせて使う前提で考えて、特殊弾頭の事も計算に入れりゃ1級相手でも十分に通用する呪具なんじゃねぇかな?」
話を聞いている所に依ると、どうやら構築術式で創れるモノは物理的に大きく成れば成る程に呪力を必要とし、術式の刻み込みはその時に消費した呪力量に依って出来る出来ないが変わってくる様である。
「次は呪力を溜めておくコンデンサの様なモノが創れないか試して見ようと思うんだ。上手く行けば私の呪力量じゃ創れない様な大きなモノを構築する事が出来るかもしれないし……」
釈魂刀のレプリカと自身が戦う為の銃を創意工夫で創り上げただけで無く、既に次の作品の構想まで練っている真依嬢。
恐らくは原作では真希嬢の所為で嫌々呪術師をやらされていると言う被害者意識が強く、術式の解釈を広げるとかそう言った創意工夫の類を殆どしていなかったのに対し、この世界の彼女は姉に頼らず一人の呪術師として生きていく覚悟が有る。
その違いがこうして術式の解釈を広げ、新たな呪具を創り出す原動力に成っているのだろう。
「あーうん、土日は基本競馬行くんだよな? 次の祝日は……勤労感謝の日か、その日真依ちゃんを高専に連れてって良いか? 特級呪具師の組屋と会わせてやるよ、呪力コンデンサは多分成功すりゃまた呪術界に革命起きる奴だ」
呪具と言うのは基本的に込められた呪力が増減する事は無く、術式の無い呪具ならばソレに込められた呪力以上の威力を出そうと思ったら、フィジカルギフテッドの馬鹿力でぶん殴るとかするしか無い。
しかし呪力を溜めておき、必要な時に呪具や呪術師固有の呪力出力を超える呪力を出す事が出来る『呪力コンデンサ』なんてモノが出来れば、恐らくその技術はどんどんブラッシュアップされていくだろう。
もしかしたらそうした技術が個人の才能頼みだった呪術界に、大きな確変を齎す可能性は決して低いモノでは無いと思われる。
組屋と真依嬢の邂逅は果たして呪術界全体にとって吉と出るか、凶と出るか……そんな怖さを感じたその時だ。
「待て、組屋の野郎と真依を会わせるのは未だ早い。小学生をスナッフ・フィルムやらスプラッター映画さながらのアイツの工房に立ち入らせるつもりか? 高専に通う頃合いなら兎も角、未だ一人で呪霊退治もさせてねぇんだ、あんまり急ぐんじゃねぇよ」
パパ黒がインターセプトの言葉を口にした。
俺達は割と慣れてしまったので既に何とも思わん様に成っているが、確かに組屋のアトリエはバラバラ死体がモリモリに積まれたスプラッターハウスである、そんな所に小学生女児を連れ込むのは事案を通り越して犯罪だろう。
自身のコピー体を納品する際にパパ黒はソレを見知っていたいたのだ。
「言われりゃ確かにそーだ。でも呪具師としての技術交流って名目ならあそこに連れて行かないんじゃぁ片手落ちだしなぁ……うん、おっさんの言う通り高専行く年頃まで待ちが正解だな」
言われて気が付いたらしい御主人がそう言って締めくくった事で、取り敢えず呪具の品評会は幕を下ろしたのだった。