畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
2012年12月20日東京都港区元赤坂、
「以上がパトリシア・マイアース護衛計画だ!
米国にあるネイティブ・アメリカンの呪術師達の互助組織は、パトリシア・マイアースの母であるクリスティーナ・マイアースが設立したマイアース財団を隠れ蓑にして、現在はその存在を呪術界隈以外にはほぼ完全に秘匿していると言う。
そんなアメリカの呪術師達を擁するマイアース財団から、総監部へと護衛の依頼が有りソレがマイアース親子と面識があるらしい楽巌寺学長へと持ち込まれ、ロハでも護衛したいと言った御主人に話が来た訳だ。
そして当然と言えば当然だが表側の警備会社にも護衛の依頼は出されており、ソレがSSSと言う比較的新しい警備会社へと依頼されたのである。
ただこのSSSと言う企業、日本支社に関しては唯の警備会社なのだが、米国の本社や欧州に展開している支社は完全に
ちなみに今、護衛計画に付いて説明している『隊長』の黒人系アメリカ人は元アメリカ陸軍特殊部隊いわゆる『グリンベレー』に所属していた経歴の持ち主らしい。
専門は当然ながら銃器を使った戦闘なんだろうが、体軸のブレの少なさや筋肉の付き方、身体の動かし方にも殆ど無駄が無い様に俺の目からは見える辺り、ナイフコンバット或いは素手での戦闘も可也の腕前と見て間違いなさそうだ。
今此処に集められている班長クラスの人員は皆、呪術についてある程度は知っている人間で有り、中には日本で生まれ育っていたならば呪詛師認定されてただろう……と思われる様な呪力持ちや、術式が有りそうな者も数人混じっている。
どうやら警備界隈……中でも身辺警護を専門とする者達は、呪術に付いてある程度の知識はあるらしい、なんせ護衛対象を呪詛師が狙って来るなんて事はこの世界ならば日常茶飯事だからだ。
また呪術師が現場をリタイアした後に高専で補助官になる以外の有力な再就職先もこの業界で、特に芸能界に携わる警備には元呪術師の需要はかなりあると言う。
何せ芸能界なんて場所は表向きはキラキラとしたスター達の世界だが、一歩裏を覗き込めば枕営業だの一発屋の嘆きだの新人にファンを奪われた御大の嫉妬だの、呪霊が産まれない方が不思議なくらいに負の感情が溢れた世界だ。
大手の芸能事務所の社長クラスやマスコミ関係者でも一定以上の責任を持つ者ならば、呪霊や呪術師の存在は知っていて当然なのである。
呪詛師相手に普通の警備員では死体がただ増えるだけでしか無く、多くの護衛者達は呪詛師が相手ならば身体を張ってプリンシパルを守りつつ撤退し、緊急時に備えた呪術師上がりの者や海外出身の呪術師が対応すると言う制度が出来ている訳だ。
「隊長! 緊急時にはそちらの御老人は護衛対象と見做さなくて良いと、そう言う判断でよろしいんですね?」
手を上げそう質問したのは、隊長さんよりは多少劣るものの間違いなく戦場の経験が有りそうなラテン系の男だ。
「ああ、その通りだ。今回の護衛対象はパトリシア・マイアース本人が第一、次いで彼女のマネージャーだ。こっちの日本人2人は対呪詛師の為に協力してくれる呪術師の方々だ、決して失礼の無い様にな」
「つーか、そっちの御老人ってKing of Cursesのノブっすよね? 俺この間のZeppダイバーシティのライブで警備隊長やったんで顔知ってんすけど……ノブって呪術師だったんっすか」
「後でサイン入りのCDをくれてやるから内緒じゃぞ?」
楽巌寺学長はインディーズながら日本人ならばその楽曲の一つや2つは、何処かで必ずと言って良い程に聞いている……と断言しても良いレベルの大物バンドのメンバーだ。
当然と言えば当然ながら呪術師では無くアーティストとしての顔を知る者はこの場にもいた訳である。
ラッキーとかズルイとか僅かの間言い合う班長達を隊長が咳払い一つで黙らせると、即座に臨戦態勢と言って良い精神状態に戻るのは流石精鋭と言って良いだろう警備員達だ。
「現在の所は未だパトリシア・マイアースに対して裏社会側から懸賞金等が掛けられたと言う情報は無い。だが米国本社では既に3度、彼女を狙った襲撃を撃退している。銃器の規制が厳しい日本では更に困難な任務になると思うが諸君の奮戦を期待する!」
「「「「「サーイエッサー!」」」」」
と、そうして事前の会議は終わり、後は本人の来日を待つだけでの状況となった。
SSSの隊長は敢えて言及していなかったが、俺も御主人や楽巌寺学長と共にパトリシア嬢の直衛に付くが、俺が猫の呪術師だと言う事を知っているのは呪術界側の2人以外では隊長だけである。
敵を欺くには先ず味方から……という言葉の通り俺は伏せ札なのだ。
猫の呪術師と言うのは今は未だ呪詛師連中には出回っていない情報で、会議の最中も敢えて動かない事でただ部屋に置いてあるぬいぐるみのフリをしていたのである。
「さて……ウチの連中にゃ話さない伏せ札の追加をするか。今回の護衛には
両手を肩の高さに上げ掌を上に向けて肩を竦める隊長さん、彼は職務の関係で日本の忍者と命の奪い合いでこそ無いものの闘った事は有るそうで、その実力の程は良く知っていると言う。
ソレを抜けて来て実際に直衛が対処する状況と言う事は『圧倒的な実力者』か『コンサート参加者に完全に紛れ込む』或いは『圧倒的な物量』のどれかだと言う事だ。
忍者が周辺警護に当たっている事を各班長へと明かさなかったのは、忍者が居る時点で自分達の出番は無い……と気を抜く馬鹿が出ると困るからである。
護衛や警備なんてモノは何も起こらないのが最良の結果であり、常に必ず何かが起こるとは限らない……けれども万が一にも何かが起こった時には身を挺してプリンシパルを護るのが仕事なのだ、何も起こらないと高を括られるとシャレにならない訳だ。
「普通のテロリストが相手なら
流石は戦場帰りと言う事か、其れ共アメリカじゃぁソレが普通なのか、隊長さんはテロリストは殺して当然と言うスタンスらしい。
ソレじゃァこの国で仕事をするのは余程ストレスが溜まるんじゃ無いだろうか? とも思うのだが、そもそもとして日本では特定の誰かを狙ったテロなんてモノは早々起こるモノじゃぁ無いのだ。
此方の世界でも某左側政党シンパに依る山荘立てこもり事件や某過激派宗教に依る毒ガステロは起こっているが、21世紀に入ってからは全く無い訳では無いがソレ以前と比べれば圧倒的に数は減っている。
俺が持つ
日本でアーティストが直接害された事件と言うのは、俺が知っている限りだと前世紀末に有ったイスラム教に対して批判的な小説を邦訳した作家が暗殺されたと言う事件で、コレは確か時効までに犯人が捕まらず未解決に終わっている筈である。
兎角、コンサートの警備なんてモノは、暴走したファンがステージに上がったりしない様に壁になる事が仕事で、直衛が動く必要が有る様な案件は極めて稀だそうだ。
「俺達だって誰かれ構わずぶっ殺すって訳じゃぁ無いさ、呪詛師の中にも改心して市井で生きる覚悟を決めて身を慎む奴や、罪を償う為に危険な呪霊との戦いに身を投じる者も居るかんね」
「佐用、儂らは血に飢えた殺し屋の類では無い。今回は飽く迄もマイヤースのお嬢ちゃんを護るのが儂らの役目、万が一呪詛師が襲ってきても討伐では無く撃退が第一よな」
隊長の言葉に心外だと言いたげな2人、確かに彼等は任務上必要が有れば呪詛師を殺す事を厭わないが、少なくとも御主人は必ず1度は投降を呼びかけていると言う。
その辺は総監部の指示を絶対視する楽巌寺学長も同じだそうで、呪詛師討伐任務は基本的に『可能なら捕縛、抵抗が激しいく捕縛が難しければ抹殺』と成っている。
常に問答無用で抹殺では無いのは、呪詛師の
陰高野の呪術師達が呪詛師狩りで莫大と言える利益を得ていたのは、捕縛用の結界を利用し呪詛師を上手に生け捕りにし、その辺の情報を上手く引き出して追加収入を得ていたからだと言う。
なお、高専所属の場合はそうした追加分は多少ボーナスの査定に影響するだけで、フリーの術師の様に丸儲けにはならないのだから世知辛い。
「まぁ……クライアンとは高い金を払ったが何も起こらずに済んだ……と言うのが理想では有るが、マイヤース財団は色々と敵を作りすぎているからなぁ……」
「そんなに酷いことになってんの? 確かに歌はすげーけど、そんだけでしょ?」
「分かっとらんの若造、歌は時に世界を動かす程の力を持つのじゃぞ? その点だけで言うならば呪力よりも歌の力の方が余程強力じゃと儂は確信しておるわ」
曰く、マイヤース財団の反戦活動はアメリカ大統領選にも影響を与えるレベルだそうで、軍産複合体辺りからは月刊暗殺者と言う感じでクリスティーナ女史を狙う暗殺者が派遣されていると言う。
たかが歌手が政治に影響力を持つ……と言うと割と不思議な感じがするが、日本が現政権へと政権交代に成功した背景にはマスコミの協力なバックアップが有ったからだと考えると決して不思議は無い……のか?
「まぁ何にせよ、俺達は無事にお嬢ちゃんをアメリカに帰す事だけを考えて仕事すりゃ良いだけだ。アンタらの出番が有ったらきっちりこき使うから覚悟しといてくれよ?」
隊長さんがそう言って席を立った事で、事前ミーティングは完全に終了し、後はパトリシア嬢の来日を待つだけとなったのだった。