畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
2012年12月22日午前10時、東京国際空港──通称:羽田空港
若くして世界的なアーティストと成った……いや或る意味産まれた時から、そうなるべくして成長してきた少女を乗せた飛行機が日本へと到着した。
パトリシア・マイヤース……愛称はパティ、13歳の時に出したデビューシングルを皮切りに、出す楽曲の全てが外れ無く日本のオリコンチャートですら出た週には必ず洋楽部門の一位を掻っ攫う新進気鋭の天才である。
嘘か本当かは分からないがネットで見かけた記事では、アメリカのとある州で起こった人質立て籠もり事件の際に、偶々現場近くでライブを終えた彼女が通り掛かり、犯人と被害者を宥める為にアカペラで歌を歌うと、犯人が改心して投降してきた、なんて話も有った。
ソレだけを読むと流石に眉唾物と思えるのだが、彼女やその母親がネイティブ・アメリカン系の呪術師を取り纏める立場だと聞くと途端に話が変わってくる。
恐らく彼女も呪術師──西洋風に言うならば
そんな事を考えながら俺は10mは有りそうな高い天井近くの梁? らしき構造物に上に身を潜め入管ゲートをマネージャーと思しき年配女性と共に抜けてきたパティの姿を確認する。
「ノブじいちゃん! 久し振り!」
ゲートの外で
「え? 楽巌寺学長知り合い? つか随分と親しげなんだけど?
そんな反応は想像していなかったらしい御主人が、思わずと言った感じでそんな言葉を口にした。
「あの
ソレ以降、国際郵便でのやり取りはしているし、インターネットが普及してからはネットを通した通話なんかでのやり取りもそこそこ頻繁に行っていると言う。
「あの娘が産まれて同じ様な術式を引き継いでいると相談を受けた時には、母娘2人でしばらく日本に滞在し儂が呪術の基礎をしっかりと教えたんじゃ。日本の小学校にも一時期は通っとったし日本語は普通に話せるぞ」
「えーっとおじいちゃん? その方も今回あたしの護衛についてくれる呪術師さん? あ、あたしはパトリシア・マイヤース、一応は歌手です、よろしくお願いします」
「あ、お、俺は五条悟。今回は楽巌寺の爺さんと一緒に君の護衛をする事になったんだ。短い期間だけれどもよろしくね」
言いながら差し出された右手を握る御主人は鼻の下が伸びていると言う訳では無いが、普段見せるものとは違う緊張した面持ちである。
「コヤツはパティ、お主のファンでの自ら志願して護衛を買って出たんじゃ。後からサインくらいはサービスしてやってくれ」
そんな御主人をニヤニヤと面白い物を見たと言わんばかりの表情で見上げつつ、そんな事を言う楽巌寺学長。
「あはは、そーなんだ! ありがとう、うんサインは一応マネージャーに確認してからだけど……多分大丈夫だとは思うから、今夜にでも書いて明日の朝渡すね」
人気アーティストともなるとサイン一枚書くだけでも自分の勝手な判断は出来ないと言う事か、其れ共彼女がまだ15歳と未成年であるが故の事か……。
「いやいや無理はしなくて良いからね? つか、凄い術式持ってんね。コレなら護衛とか着けなくても自衛は割と出来るんじゃね? でもまぁメインは反転のアウトプット見たいだし呪詛師連中が身柄を欲しがる術式では有るわなぁ」
パティの術式を六眼で読み解いたらしい御主人がそんな言葉を口にする。
曰く彼女の持つ『癒しの歌』と言う術式はその名の通り、術式自体に反転術式が組み込まれているタイプの生得術式で、歌を歌う必要は有るものの反転アウトプットが可能と言う割とトンデモ術式である。
更には基本となる反転を順転に変える事で『呪いの歌』を放つ事も出来、ソレを使えば生半可の呪詛師では先ず間違いなく相手にもならないそうだ。
「んーでもあたしは争い事とかそもそもとして嫌いだし、運動もそんなに得意な方じゃないから護って貰えるならその方が良いかな? その代わり怪我をしたならちゃんと治して上げるわ」
癒やしの術式を持つ者らしい発現と言えるのか、それとも唯の怠惰と見るべきか……日本の高専に所属する呪術師ならば後者と断じられるのだろうが、呪霊が殆どと言って良い程に出現する事の無い海外の者ならば前者と考えても良さそうである。
「俺は自分で反転回せるから、ソレは楽巌寺のおじーちゃんに取っておいて上げて良いよ」
「抜かせ、儂とてそこらの呪詛師如きにそう簡単に手傷を負う程に耄碌しておらんわ。パティや、お主は何の心配もせず儂らとSSSの護衛に守られておれば良いんじゃよ」
楽巌寺学長は楽巌寺学長で丸で孫娘でも相手にしているかの様に、穏やかな表情でパティに接している。
年齢的にはモロにそう言う関係でも不思議は無いしなぁ……つか楽巌寺学長って原作であそこまで総監部に妄信的に従ってた辺り、恐らくは歴史有る呪術師家系の出だよな?
となると奥さんや子どもは居て当然な気がするんだが、その辺はどーなんだろう?
おっと、どうやらそろそろ動くらしい……天井近くの幾つも有る梁の様な構造物を伝って、俺は彼女たちの頭上を移動し追いかける。
「「「「「きゃー! 来たー!」」」」」
「「「ぱてぃーーー!!!!」」」
「「「「こっち向いてーーー!!!」」」」
ロビーへと出ると出待ちしていた彼女のファン達がその姿を一目見ようと集まっており凄まじい熱気がその場に迸った。
俺の記憶が確かならばこうした出待ちが出来たのはこの時期だけで、2020年代に入ってから出待ちファンのマナー悪化を理由として、羽田空港はこの手の出待ちを完全禁止しアーティストが通る場所をパーティションで区切る様に成った筈だ。
けれども今の所は未だそうした区切りは無く、SSSのAチームの4人に前後左右を緩く囲まれ、楽巌寺学長と共に集まったファン達に手を振りながら歩いて行く。
御主人は必要以上に目立たつ事の無い様に、SSSの警備員が着ているのと同じ制服を身に纏い先導する様に前を歩いている。
「アレKing of Cursesのノブじゃね?」
「熱愛? いや流石に年の差あり過ぎだし普通にアーティスト同士の交友有るとかだろ」
「前に音楽雑誌でクリスとノブの対談とか読んだ事あるし、普通に知り合いだろ」
King of Cursesは日本でも1、2を争う古参のロックバンドでは有るが、インディーズ・レーベル所属なのと、テレビへの露出は殆ど無い楽巌寺学長の顔を知る者は音楽ファンでもコアなファンの筈なのだが、此処に集まったファンの中にはそうした者もいるらしい。
ちなみに彼等がテレビへの露出を好まないのは、ただでさえ呪術師としてクソ忙しい毎日を送っている中でバンドの練習やライブ活動をしているのに、ソコにテレビへの出演で更にスケジュールを積められるとパンクする……と言うのが理由である。
なので動画配信サイトにアップロードするミュージックビデオは、自分達の都合で作る事が出来るので最近は積極的に利用していると言う。
古い楽曲のMVとかわざわざその曲がリリースされた時代をリスペクトする様な絵面だったりして、
と、そんな事を考えている間にも彼女たちはそろそろ空港を出る段階だ。
用意された自動車はSSS所有の黒塗りセダン……は飽く迄もプリンシパルの乗る車両を警護する為の車両で、パティとそのマネージャーに楽巌寺学長が乗るのは日本で彼女のCDの販売権利を取得したレコード会社所有の高級セダンである。
ソレを御主人が運転する事に成っているのだが、まぁ今回は前後をきっちりと警護車両が固めている状況での運転なので、御主人のストレスが天元突破する様な事にはならないだろう。
御主人が自分で自動車を運転するのを嫌うのは、飽く迄も『自分が交通ルールを護っているのに、バカが馬鹿やってもらい事故を起こす事』に対するストレス理由だからな。
そんな感じで彼女の手荷物なんかをトランクに入れる隙を突いて、俺もトランクの中へと忍び込む。
未だスマホは世間一般に大きく普及している訳では無く、彼女の後を追いかけて動画撮影をしている様な者も殆どいないし、忍猫として十分に気を使い更に呪力で身体能力を強化した、俺が忍び込んだ事に素で気が付く事の出来る人間は素人には居ない筈だ。
御主人達が乗る車両が警備会社の物では無くレコード会社所有の自動車なのは、警備会社の車両で送迎するのはいわゆる『白タク』行為になり違法だからである。
「シートベルトは……皆ちゃんとしてるね、アメリカは日本よりも大分早くから義務化されてたんだっけ。んじゃ前の車が動き出したから出すよー」
御主人がそう言うと共に、普段運転していないペーパードライバーが運転しているとは思えない程にスムーズな加速で車両が動き出したのだった。