畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
2012年12月22日午後10時、東京ドームホテル上空
「こうして貴様とやり合うのも何度目かな? 呪詛師ハンターマイト!」
「貴様を仕留めるまで俺は決して死なない! 今度こそ引導を渡してやる刹那!」
仄暗い月明かりに照らされた2人の男が互いの戦闘力を最大限発揮出来る結界の中で相対する。
刹那と呼ばれたのは白い軍服の様なモノを身に纏った金髪の男で、和風とも取れるその名に反し生粋のアメリカ人である。
対するは赤毛をツンツンに尖らせたパンクロッカーの様な呪詛師ハンターマイトと呼ばれた男。
彼等がこうして向き合うのはコレが初めてでは無い、刹那が上司から与えられた任務を遂行する為に現地へと向かうと、必ずと言って良い程に何処から情報を得ているのかマイトが姿を表し、その凶行を阻止しようと立ちはだかるのだ。
しかし現状結果はマイトが一方的に負けが込んでいるのが実情である。
決して刹那が彼を殺さない様に手加減している訳では無い、マイトは敗北を悟った瞬間に結界を
当然ただ単純に逃げているだけでは無く、闘いを繰り返す度に刹那の術式や体術の癖を学び取り、少しずつ本当に少しずつでは有るが勝敗の天秤を自身に有利な様に傾ける努力をしてきたのである。
「ふんっ! 生まれ持った能力に胡座をかき自身を高める努力をろくにして来なかったからこその連戦連敗だろうよ! 俺がそんな雑魚に負ける事は永遠に無い! 今日こそ貴様を逃がす事無く仕留めてやろう! その上で任務は必ず遂行する!」
ソレでも今までも闘いの経験から刹那は自身の勝利を確信していた、マイトはこれまでの闘いで常に間合いを詰め近接戦闘へと持ち込もうとして来た、遠距離戦用の術が全く無い訳では無いが、近接戦闘ではソレ以上の手札が有るのだと余程の馬鹿で無ければ分かる。
「どうせ貴様はまた今日も馬鹿の一つ覚えの様に雷の剣を振り回すだけなのだろう? ならば近づかせなければどうと言う事は無い! 俺の闇は貴様の雷如きでは照らす事は出来んよ!」
刹那の術式は呪われた闇を操るモノであり、他者の呪力に干渉する効果を持つ。
彼が纏う闇は汎ゆる呪力効果を受け付けず、彼の放つ闇の刃は呪術師の呪力を断つのだ。
『Ready』
呪術師では無い一般人は極々少量では有るが呪力を垂れ流すだけの存在だが、実のところ呪力と言うのは極々稀な例外を除いてソレは生き物が生きる上で本来有るべきモノであり、ソレを急速に失えば命を落とす事もある。
と言うか刹那が今まで殺害して来た日本政府要人は、皆傷一つ無く医学的な解剖では死因を特定出来ないと言う、当に『呪殺』としか言いようの無い状態だったのだが、ソレは全て彼の術式に依って呪力を吸い殺されていたからなのだ。
『Go!』
闘いの幕を上げる合図と共に刹那は暗黒の雲を生み出しソレをマイトに向けて打ち出す。
『シェイディークラウド』と名付けられたこの拡張術式は、ソレに触れたモノの呪力を奪いさる強力な呪術である。
「はっ! そう言うお前は軍人の癖にステゴロが苦手らしいな。毎回毎回逃げて逃げて飛び道具ばかり……男らしく無いんだよお前はぁ!」
今までの闘いでシェイディークラウドは相手の呪力を1度全て奪った時点で効果を無くす事、そしてそれ自体には何の殺傷力も無い事は既に把握済みだ。
故にマイトは恐れる事無く闇の雲の中へと飛び込み、一直線に刹那へと向けて突っ込んで行く。
その拳は青い稲妻を放っており何の呪力耐性も無いモノならば、触れただけで命を落とす程の超高温の雷を纏ったライトニングハウンドと名付けられた突進に乗せた拳だ。
どうせ呪力を吸われるのならば速攻の一撃に掛ける、そんなマイトの心意気の乗った一撃が刹那の肚へと突き刺さった。
「くっ!? 未だまだこの程度では!」
手痛いダメージを受けたものの刹那は歯を食い縛って反撃の一手を伸ばす。
彼は反転術式こそ未だ習得していないものの『ネガティブドレイン』と命名された拡張術式に依って、触れたモノの生命力を奪い自身を回復すると言う反転術式一歩手前といえる様な術を編み出していたのだ。
「ちぃ!」
マイトはこの技を受けた事は一度も無かった、接近戦は自分の間合いと思い込んでいた事が失敗だったと言えるだろう、拳が届く距離まで近づいた事で油断してしまったのである。
とは言えマイトも只々黙って体力を奪われ続ける訳では無い、シェイディークラウドに一度は殆ど全ての呪力を奪われたとは言え自然回復が無く成った訳では無いのだ。
僅かながらに戻ってきた呪力を身体に巡らせ、相手の呪術への抵抗を試みれば然程の苦労も無く、闇の拘束から解き放たれる。
「遅い!」
即座に間合いを離そうとマイトの横を呪力を放出したダッシュ移動ですり抜け様とする刹那を、電撃を拳に収束させソコから生み出した雷の剣で薙ぎ払う。
が、ソレを刹那は読んでいた様でバリアガードと呼ばれる結界術を用いて防ぎ、雷剣を振り抜き隙の出来たその肚へと拳を突き込み、そのまま後ろへと投げ捨てる。
重力から解き放たれた筈の結界内だが、完全に重力から断ち切られたと言う訳では無い。
一時的にでも意識を失ったモノは、呪力を練る事も出来なくなり結界の中で宙に浮かぶことすら出来ずに落下する。
結界の底面へと一度落ちたマイトだが、意識を失っていたのは一瞬の事で、即座に立ち上がり結界内に充満する呪力を一気に取り込み闘いに復帰した。
「まだだ……!」
手痛いダメージを受けたが、ソレで完全に勝負が決まった訳では無い、傷付いた肉体を酷使する事で呪力が一時的に漲るのを感じ、マイトは雷光を纏わせた拳を突き出し刹那に向かって雷撃を打ち出す。
対して刹那は手元に闇の呪力を短剣状に固めたモノを産み出すと、ソレを撃ち出しマイトの放った電撃を相殺した。
しかしソレはマイトが次の一手を用意する為の時間稼ぎに過ぎなかった、雲一つ無い月光輝く空から彼へと一筋の稲妻が落ちたのだ。
当然コレは自然現象としての神鳴りでは無い『サンダーブレイク』と名付けられた、自力だけでは放つ事の出来ないさらなる電力を身に纏う為の布石である。
再び呪力を推進力に宙へと舞い上がり、刹那の放つ闇の火球をバリアガードで防ぎながら、少しずつ間合いを詰めていく。
今まで何度も繰り返した闘いで奴の遠距離戦での呼吸はある程度見切ったと言って良い、今回は初めて間合いを詰める事が出来たからこそ、奴の近接間合いでの初見技を食らってしまっただけだ。
「喰らえ!」
「くっ!?」
刹那が結界の角を背負った事でソレ以上下がる事が出来ず、再び殴り合いの間合いへと踏み込んだ所でマイトは容赦する事無く、刹那の顔面へと拳を叩き付ける。
右ストレートから素早く回転してのローリングエルボーで刹那を弾き飛ばすと、稲妻を束ねた投網を放ち刹那を雷の檻へと拘束した。
「ぬぁ……ぐぁぁぁぁ!」
雷光が弾け刹那諸共に爆発すると、純白だった彼の軍服らしき装束は所々が焼け焦げ、身体への負担も決して軽い状態では無い。
「くっ……自身を高める努力をろくにして来なかったと言うのは訂正しよう、今回は俺の負けだ……だが、俺も此処でくたばる訳にはいかんのでな!」
そう言うと刹那は手と手の間に闇を凝縮した黒い太陽とでも呼べそうな呪力の塊を産み出すと、結界へと向けて叩き付ける。
「今まで貴様が散々やって来た事だ! 卑怯などとは言うなよ!」
そう叫ぶとガラスが割れる様な音を響かせ砕けた結界が遮断していた重力が復活し、2人の身体は自然現象に従って自由落下を始めた。
呪力で強化された超人的な身体能力が無ければ、地面に叩きつけられ血と肉の花を咲かせる事になるが2人は何方も百戦錬磨の呪術師だ、この程度で命を落とす事は無い。
ホテルの屋上へと着地したマイトと、そのまま160m下の地面へと降り立つ刹那。
流石にこの高さからの落下は幾ら呪術師であり呪力に依る身体強化を巡らせても、決してノーダメージだったと言う訳では無い様で、刹那は足を引き摺りながら走り寄って来た軍用車両へと乗り込みその場を去る。
初めて刹那を撃退する事に成功したマイトだが、彼とて決して無傷と言う訳では無い。
しかし彼はホテルの屋上に隠して有った荷物を取り出すと、中から黒い皮が張られた三味線を手に取り、ソレを静かに響かせたのだった。