畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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呪術師は高尚な人類の上位種? ……んなこたぁない

「ポチさん、現場に着きましたよ、起きて下さい」

 

 夏油の膝の上で丸くなった俺はどうやら眠って居たらしく、彼がそう言いながら身体を揺すられて目を覚ます。

 

「にゃー」

 

 一声鳴いてから彼の膝から降りると、普通の猫がそうするように身体を伸ばし、頭を活動モードへと切り替える。

 

「そういう仕草や眠っている姿は完全に普通の猫と変わらないですね。その辺は意識してやってるいるのか、それとも猫の身体に刻み込まれた本能的なモノなのか……畜生道と言うモノも中々に興味深い」

 

 車から降り腕を上げてストレッチをしながらそう言う夏油、俺は眠って居たのでどれくらいの時間を移動に費やしたのか、はっきりは分からないが彼が身体の筋が固まって居るのを解す必要があると判断するくらいには遠かったのだろう。

 

「今回の任務地は富士山の裾野、富士の樹海の比較的浅い場所に有る自殺の名所、通称『首吊り銀座』と呼ばれる場所に出現した呪霊群の討伐っす。通常は核になる二級とその呪力に寄って来た三級、4級の群れなんすが……今回は一級相当の呪霊が居るっす」

 

 ここまで運転してきた補助官が助手席に置いてあったビジネスバッグから取り出した資料を手にそんな言葉を口にする。

 

「非常に迷惑……と言うと失礼なんすが、呪詛師が一人ここで首を吊ったらしいんですよね。ソレだけなら呪詛師が勝手にくたばったってだけの話なんすが……呪力を使わずに自殺した所為でその呪詛師が呪霊になったのが窓の定期観測で確認されてるっす」

 

「元人間……呪詛師が呪霊化してるのに特級呪霊では無いんですか?」

 

「はい、件の呪詛師は呪詛師と言っても小者中の小者でして、電車内で痴漢行為をしては呪術を使って逃走すると言った事を繰り返していただけなんっすよ……いや、女の敵だし私が被害者なら絶対に許さないっすけどね」

 

「ソレは……女性補助官に詳しい事件の内容を聞くのは憚られますが、もしかして一線を超える様な加害はしていない?」

 

「っす、被害は飽く迄も尻を触る程度で、ソレも服の上からなので強制わいせつにはならず、迷惑行為防止条例違反に留まってるっす。ソレでも女性からすりゃ十分万死に値する罪なんすけどね」

 

「……そんな男がなんでまたここで首吊り自殺なんて真似を?」

 

「調査に依ると、件の呪詛師には片思いしていた女性が居たみたいなんすけど、その女性が三高揃ったイケメンと結婚した事で人生に絶望した……と見られてるっす」

 

 三高と言うのは、俺が死んだ頃には半ば死語になりつつ有った言葉で、女性が男性に求める結婚条件として『高学歴、高収入、高身長』をまとめた言い方だ。

 

 片思いの女性が選んだのが三高スペックのイケメンに対して、自分は呪術を使ってまで日々痴漢行為に勤しむ男……うん、差は歴然としているな。

 

 更に言うならば痴漢をするにしても、服や下着の中へと手を入れ『強制わいせつ』に及んでない時点で、肝の小ささが伺い知れると言う物だ。

 

「あー……確かに呪詛師ではあるけれども、生死と言う意味で人的被害が出てないなら、上も積極的に討伐任務を出さないでしょうねぇ……一応の確認ですが術式は割れているんですか?」

 

「正確な情報は無いんっすけど、痴漢行為が必ずしも満員電車では無く、ある程度空いている……けれども他の乗客が居ない訳でも無い状況でも起こっている上に、逃走するまで被害が発覚してない事から、認識阻害系の術式と推定されてるっす」

 

 あー、うん……エロ漫画なんかで良くある奴だ、痴漢行為をしていても周囲に気付かれ無い様に出来て、逃走の際にも周りにバレ無いようになる奴。

 

 そう言う呪詛師が居る事とソレが首を吊った当人だと判断されたのは監視カメラなんかの機械には呪術が効かないからだろう。

 

 なんでそんな痴漢行為以外にも色々とヤバい使い道が有る術式を持っているのに、痴漢……それも強制わいせつに至らず迷惑行為防止条例違反の範疇で収まる範囲の犯罪にしか使わなかったのか? まぁ肝が小さかったのだろう。

 

 呪詛師と呼ばれる者達はその大半が呪術を用いて人を害する──多くの場合は一般人を死に至らしめる──者達である。

 

 それから考えれば痴漢行為にのみ呪術を使っていたそいつは比較的マシな部類と言えなくも無かったかもしれない。

 

「迷惑行為防止条例違反を繰り返した末に自殺で呪霊に成った……本当に迷惑な奴ですね。ただ本人だけで無く被害者も周囲から認識されないようにする事が出来る術式を持った呪霊は取り込む事が出来ればかなり便利でしょうし私が有効活用してあげましょう」

 

「首吊り銀座まではここ……この踏み固められた獣道? を進んでいけば10分程で着く筈っす。じゃぁ帳を下ろすんで後はよろしくお願いしまっす。闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

 詠唱と共に現れる黒いドームの様な呪力の結界、コレ自体が一種の結界術であり補助官ならば全員が全員必ず使えるという訳では無いと聞く、そういう意味ではこの補助官は優秀な部類の人なのだろう。

 

「さてでは私は任務に行きますが、ポチさんは彼女と一緒に待ちますか?」

 

「にゃーにゃー」

 

 二度鳴いて否定の意思を示し俺は夏油の足に軽く身体を擦り付けてから、獣道へと足を進める事で着いていくと言う意思表示をする。

 

 ……件の呪詛師が持っていたと言う術式を原作夏油が使っていなかった事から、この任務は本来彼に割り振られる事の無い物だったと推測する。

 

 と言うか、恐らくはメロンパンが彼が最終的に呪術師以外の一般人に対して絶望し、呪術師だけの世界を夢見る様に誘導する為に、呪詛師絡みの案件を夏油に回さない様に総監部に手を回していたのではなかろうか? 

 

 更に言うと一般人の醜さが浮き彫りになる様な案件を優先的に回す……なんて事をしていた可能性も否定できない。

 

 でなければ『呪術を使えない猿は糞、呪術師や呪詛師こそが素晴らしい』なんて歪んだ結論に行き着く事は無かった筈だ、禪院家を見れば分かる通り呪術師だからと言って皆が皆清廉潔白で正しい価値観を持つわけでは無いのだから……。

 

 故に呪術師──呪詛師にもこんなしょ~もない人間が居たと彼に印象付けるには、この案件は渡りに船だったと言えると思う

 

 等級詐欺案件が減っていると言う話と合わせて考えると、地獄の実在を知った総監部は色々と罪になる様な行為を避ける様に動いているんだろう。

 

 或いは件の呪詛師が持っていた仮称:認識阻害術式を、総監部にとって敵対派閥である御主人の親友(腰巾着)が持つ事を恐れたが故に他の呪術師にこの任務は回され、原作では触れる事さえも無かったのかもしれない。

 

「それにしても呪術師として活躍するにも有用な術式を持って産まれたのに、ソレを痴漢の様な下衆な行為にしか使わなかったなんて……宝の持ち腐れも良いところだ、ポチさんもそうおもいませんか?」

 

 認識阻害が呪霊に対しても有効だと課程すれば、必ず一度は不意打ちを取れるという割と強力な術式と言える。

 

 更に一撃で仕留めきれなかった場合にも、戦闘中に再発動して姿を晦ませる事が出来るならば、広範囲攻撃を持たない呪霊に対しては一方的にチクチク攻撃する事も出来るだろう。

 

 万が一等級詐欺案件にぶち当たり勝ち目の無い呪霊が相手だったとしても、認識阻害が上手く働けば逃げ帰って情報を持ち帰る事は出来る……うん、腐らせるにはかなり惜しい良い術式じゃないか。

 

「にゃー」

 

 そう考え夏油の言葉に一声鳴いて肯定の意を示すと、

 

「大いなる力には大いなる責任がともなう……この言葉は映画のヒーローだけじゃぁ無く、呪術師にも当てはまるモノだと私は思うんだがねぇ。残念ながら呪詛師に成ってしまう者は力が齎す欲に飲み込まれてしまうんだろうね、ヴィランの様に」

 

 ため息を吐きそんな言葉を口にする、その格言は原点は紀元前とかなり古い物ではあるが、日本だと近年に成って某アメコミ・ヒーローの映画で広まった筈だ。

 

 彼の性格を鑑みれば、原典を知っている可能性も有るが、欧州広く使われる様になったフランス革命当時の引用かもしれない、普通にアメコミ映画を彼が観に行った可能性もあるがね。

 

 等と夏油の言葉に相槌の様な感じで鳴き声を上げながら獣道を進む事数分、第一村人──第一呪霊と遭遇した。

 

 ソレは何処にでも良くいる肉塊の様な三級呪霊で、夏油と言う人間が近場を通りかかったから襲って来たと言う感じである。

 

 ちなみに俺が現場に行くと帳の効果で炙り出された呪霊が辺りを彷徨い出すが、人間では無く猫の俺に襲いかかって来る事は無い。

 

 推測でしか無いが『呪霊は人間を襲い殺す』と言う歴史上何千年も続いた認識が呪霊の行動を縛っているのではないだろうか? 

 

 兎角呪霊が出てきた訳だがソコで戦闘になる様な事は無かった、呪霊が夏油のもつ術式の効果範囲内へと入った瞬間、まるで見えない何かに握り潰される様に圧縮され禍々しい色合いの玉へと変化したのだ。

 

 コレが彼が人生を踏み外す原因に成る程に不味い呪霊玉か……そんな感慨を無視して、何時もの事の様にソレを拾おうとする夏油よりも早く、俺は呪霊玉を確保し彼を見上げ二度鳴き声を上げるのだった。

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