畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
2012年12月25日午後10時36分、東京ドームホテル前
然程離れた場所では無い串焼き料理の店で打ち上げを終え、パティ嬢は護衛の者達に連れられてホテルへと戻って来た。
パティ嬢が来日して以来、俺と御主人に楽巌寺学長は彼女とそのマネージャーが宿泊するロイヤルスイートに隣接する部屋へと宿泊し、
無論、ホテル側にも警備員はしっかりといるし、ドームでの公演を行う様な有名アーティストが宿泊する事も多いこのホテルの警備体勢は、日本国内でも有数と言って間違いないだろう。
しかしソレでも油断できないのが呪詛師と言う連中なのだ。
彼女が無事に出国するまで決して気を抜く事無く俺達は周囲に気を払う。
……だがそんな俺達の予想を覆す事態が陰で進行している事など俺達は知る由も無かった。
まもなく深夜と言って良い東京ドームの上空を、普通ならば絶対に有り得ない低さで大型のジェット機──後から知ったがC-5M スーパーギャラクシーと言う機体だ──が轟音を響かせながら通り、そこから数えるのも馬鹿らしい程の人員が飛び降りて来たのだ。
しかもその殆どはパラシュートを用いた一般的な空中挺進では無く、全身に滾らせた呪力を用いての身体強化で無理やり着地すると言う力技で我々の側へと一気に降り立ったのである。
更に何台もの駐留アメリカ軍の物と思しき軍用車両が道路を封鎖し、パティ嬢を自動車に乗せて逃がすと言う選択肢を封じて来た。
「おい! コレの何処が呪詛師の襲撃だよ! コレ完全に軍隊が出張って来てるじゃねぇか!」
パティの直衛として此処数日行動を共にしてきたAチームの班長が、どう見ても軍用機にしか見えない飛行機と軍用車両を見て吠える。
「いや……呪詛師は呪詛師じゃろ、所属が何処であろうとこの日本で呪術規定を破る行為をした以上は、たとえ相手が同盟国の軍人だろうと……いや、同盟国の者だからこそ決して許してはいかんのじゃ」
ソレに対して答えたのは明らかに怒りを滾らせた楽巌寺学長だ、彼は背負った2つのギターケースの内一つを乱暴に投げ捨てると、残ったギターケースも中身を居合抜きの様に引き抜きながらケースを投げ捨てた。
出てきたのは彼が原作で使っていた赤いフライング∨では無く、明らかに人の骨で組み上げソレに黒く輝く金属でコーティングした様な禍々しいエレキギターだ。
当然ながらソレの制作者は特級呪具師に認定された組屋鞣造であり、そのギターの材料と成ったのは楽巌寺学長のコピー体である。
学長曰く楽器としての性能は今まで使っていたギターの方が圧倒的に上だが、戦闘用と割り切るので有ればこの呪具に乗った術式と学長本人の術式が相乗効果で呪力の乗った音を破壊の力へと変換する為に圧倒的な攻撃性能を持つ事になるのだ。
「小僧! 有象無象は儂に任せてパティの嬢ちゃんをしっかりと護れぃ!」
そう叫んでからギターにピックを走らせると、彼の肉体をアンプ代わりに響き渡る呪力を帯びた激しい音が、推定呪詛師である白い軍服に身を包んだ者達の肉体に圧力と成って襲いかかる。
学長が従来のギター使う彼の術式は音を断続的な呪力の衝撃波として放つ物であり、呪霊や単独の呪詛師を相手にする分にはソレでも十分だったと言える。
組屋が仕上げた学長の肋骨から背骨と骨盤に掛けての骨を使って作った人骨のギター1級呪具『
だがその本領は彼自身が使う事発揮される、本人の術式だけだとどうしても音と音の衝撃波に隙間が産まれていたのだが、骨弦琴を使うことでその隙間が無くなり呪力が続く限り圧力をかけ続ける事が出来る様になったのだ。
更には対象を呪霊一体、呪詛師一人に絞るのではなく音が届く範囲内で、楽巌寺学長が認識出来る対象であれば誰に効果を及ぼし、誰を対象外にするかまで選べると言うのだから、完全に彼をマップ兵器にする呪具と言えるだろう。
唯一欠点があるとすれば、学長の呪力出力を超える出力を持つ者に対しては多少の圧を掛け呪力を削る事は出来ても、行動阻害までは行かないと言う事くらいである。
故に彼は従来のギターも合わせて持ち歩く事で、敵次第で戦闘スタイル其の物を変化させる様にしている訳なのだ。
幸いと言うべきか、飛行機から降り立った大半の
「待ってくれ! 彼等を殺さないでくれ!」
と、そこにホテルの中から4人の男女が飛び出して来て、唐突にそんな事を叫んだ。
「ぬ? お主はノアの……北海道に居る筈のお主等が何故ここに!?」
ギターを掻き鳴らす手は止めず、その音に負けぬ声で学長がそう問い返す。
姿を表したのは、2年前の戦いでバーンとやり合っていたキースと言う男と、彼を連れて逃げた女性にもう2人細身の男と極めてゴツい体の何故か魂が体の外へと浮き出ている男の4人だった。
「パティのライブのチケットが当たったから……と、今は私達の事は良い! 喫緊なのはここに来ている兵士の大半は元ノアの人員で、恐らくはクスリやその他科学的な方法でマインドコントロールを受けて戦わされているだけで、本人の意思では無いと言う事だ!」
どうやら空中挺進で彼等が降りてきたのをホテルの中でも見た彼等は、相手の中に見知った顔が数多く有った事で慌てて飛び出して来たらしい。
「学長、どうやらソイツ等、変なふかしを入れてる訳じゃなさそうだ、コイツ等目が普通じゃねぇ。自分の意思じゃ無いっての本当っぽいぞ?」
近場に倒れ伏していた男へと近寄った御主人は、その男の顎を掴み上げサングラス越しに目を覗き込み、彼等の言葉があながち嘘ではないと確信を持った様である。
「奴等の……アメリカ軍のサイキッカー研究所の科学者共のやりそうな事です。恐らくは指揮官となる相応に強い呪力を持った者が数人は居る筈! ソイツ等を倒せば他のメンツは無力化される筈です!」
キースと共に現れたメガネの男がそんな言葉を口にすると……
「っち、せっかく潰されたフリして寝首をかいてやろうと思ったのに、余計な事を言うんじゃねぇよカルロさんよぉ」
そんなセリフと共に、いかにも戦場を渡り歩いて来たと服装で主張しているような身体つき、この季節にTシャツにミリタリーベストと言う格好の男が、学長の圧力を気にした素振りも無く立ち上がった。
「ガデス! 貴様! ノアを裏切り仲間を軍に売っただけで無く、パティにまで!?」
その姿を見て激昂した様子で吠える旧ノアの人員であろう赤毛の女。
「相変わらずいい女だなレジーナ、俺ぁ別にそんなションベン臭ぇ小娘に用事は
手駒の大半が使えないこの状況でも未だ余裕が有りそうな表情で笑いながらガデスと呼ばれた男は、その言葉の通り仕事だから仕方ないと言いたげな表情でパティを見つめてそう言った。
「貴様の相手はコイツだ! 彼を裏切り者扱いするのは少々可哀想ですが……所属を違えた者同士仲良く戦うと良い! 行け! 対サイキッカー用
その言葉を聞いたガデスは一瞬にして余裕綽々とした笑みから驚愕の表情へと顔色を変える。
「ちぃ! ゲイツ・オルトマン、MIAとは聞いてたがノアに回収されてやがったか!」
恐らくは戦場経験があるガデスと言う男からすれば、日本の呪術師やノアのサイキッカー達は、戦場を知らないあまっちょろい者達に過ぎないのだろう。
戦場経験者と言う意味ではSSSの警備員達がいるが、彼等は呪術師では無く何よりも日本の法律に縛られ武装らしい武装は殆ど無い、戦場を生き抜いてきたサイキッカーである彼にとっては脅威とは映らないらしい。
「さぁ存分にやり合い給え! 結界の中でな!」
けれどもゲイツと言う機械化人間は元々が米国軍人であり、戦場を生き抜いて来た上で、自分の意思で改造手術を受けた身の上だ……と後から聞いたが、ソレならばガデスが警戒するのも当然なのだろう。
「ターゲット……確認、命令を受託……システム、戦闘モードへ移行」
機械化人の手に白い箱の様な呪力が浮かび上がると、ソレは彼とゲイツだけを包み込み3階程度の高さへと舞い上がったのだった。