畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「のう五条よ、儂の目にはあの男が使っておる術式は、件の戦いで日下部が下した推定特級の呪詛師が使っていた物と同じ様に見えるのじゃが?」
未だ呪力を滾らせたギターの音を響かせながら、上空で戦うガデスとゲイツを見上げつつ、そう問う楽巌寺学長。
「あーうん……前回の奴はモニター越しにしか見てないから完全に同じとは断定出来ないけど、九十九特級の下位互換の術式なのは間違いないね。んでもって体術やらその他戦闘勘は多分こっちの方が上、日下部さんでもアイツが相手ならヤバかったかもね」
東京ドームホテルの外壁やその前にある日の丸交通の営業所に並ぶタクシー何かをを容赦無く吸い上げ弾丸とするガデスと、身体の各所に埋め込まれた呪具化した兵器で戦うゲイツ。
端から見る分には一進一退の攻防と見えなくも無いが、ガデスが自身の周りに浮かべた瓦礫でゲイツの攻撃が殆ど通って居ない。
対してガデスはソレ等を上手く壁にして間合いを詰め、ゲイツの首を掴むと結界の内壁へと押し付け卸金に擦り付ける様な攻撃を加え、コーナーを背負う形に成ったゲイツが一手で一気に不利に成ったように見える。
ゲイツも12連発ミサイルを撃ったり、手榴弾を投げたり、重機関銃を撃ったりして何とか大技を繰り出す隙を作ろうとしているのは分かるのだが……何と言うか完全に戦闘の主導権を取られ何もさせて貰えないと言う感じだ。
……こう言う言い方を実戦に当て嵌めるのは少々不謹慎だが、キャラ性能の差云々の前にプレイヤースキルが違い過ぎると言うのが俺から見た2人の戦いの印象である。
「く……やはり彼自身の記憶や判断力が殆ど初期化されている状態では勝ち目が無いか……」
その戦いの行方を見て悔しそうに呟くのは、旧ノア所属の元呪詛師であるカルロと言うメガネの男だ。
彼等ノアは天元の浄界の外であり呪術総監部の目が届きづらい北海道へと逃れ、現地の呪術組織であるアイヌ呪術連の庇護下に入った事で、改めて呪術規定違反を再度侵さない限りは呪詛師として扱わないと言う決定が下された後だと言う。
聞けばカルロは以前の戦いで破壊された機械化人ゲイツを確保し、北海道へと持ち帰り少しずつ修理をして来たのだそうだ。
けれども頭脳に関しては殆ど手付かずで、首元にUSBソケットが有ったのでダメ元でWINDOWSの入ったジャンク品のノートPCに接続してみた所、専用の管理ソフトを彼の側からダウンロードし簡単な設定は行えたのだと言う。
当然と言えば当然では有るが、全身に武器を満載した彼が飛行機に乗れる筈も無く、北海道から東京まで自力で飛行して来たと言うのだから、機動力と言う点では決して侮れない物があると言えるかも知れない。
ただ……本来ならば改造される前のゲイツ・オルトマンと言う軍人の持つ戦闘経験なんかが有ってこそ、六道
「小僧共! 油断するで無いわ! 指揮官は恐らく奴一人ではあるまい! 儂の呪力に耐えておる者が他にも居るぞ!」
楽巌寺学長の呪力に耐えられると言う事は、その時点で最低でも1級相当の実力を持つ呪詛師と言う事になる訳で、下手をすれば特級認定を受ける程の戦力である可能性もゼロでは無い。
「ちぇ……ガデスのマネは癪だけど、完全に油断した所を一網打尽にしようと思ったのになぁ……でもまぁそっちのおじいちゃんを潰せば後は雑魚達だけでも女の1人や2人は簡単に確保出来るよね?」
そう言って立ち上がったのは、俺の記憶にある気優しく弱気な所のある彼とは全く違う酷薄な
「へぇ……コレは完全に見ただけで分かるよ……呪術を使わなくても人間はここまで酷い事が出来るんだねぇ……十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない、なんて言葉を聞いた事があるけど魔法を呪術に置き換えればまさにその通りって感じだね」
御主人から吹き上がる怒りと言う負の感情から溢れ出す呪力、エミリオは2年前の時点で14歳の中学生、今は16に成っている筈なのであのまま高専で保護していれば御主人にとっては生徒に成っていたかも知れない少年である。
その人生を誰かの欲望の為に壊されたとすれば、原作の御主人が『若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね』と言う言葉を良く口にしていた事から察する事が出来る様に、完全に地雷を踏んだと言える行為だろう。
立ち上がり紫色の禍々しい呪力其の物と言った感じに輝く翼を広げるエミリオ、俺の記憶が確かなら彼の術式は金色に輝く正の呪力の翼で宙を舞い、同様に正の呪力を武器として放つ対呪霊特効と言って間違いない物だった筈だ。
その効果と圧倒的な呪力量から高専で保護された時点で『特級相当』と御主人は判断していたのだが、眼の前にいる恐らくは洗脳されているであろうエミリオは反転した正の呪力では無く、通常の負の感情を押し固めた呪力を放っている。
「エミリオ! 悟! あの子の相手は私がするわ! 悟はパティを護って上げて!」
と、少し離れた場所から聞こえて来たのはウェンディの声だ。
どうやら彼女は未だ寮へと帰らずドームの近くでコンサートの余韻に浸って居たらしい。
「せ、先輩! アタシ達が下手に関わっても……」
「ナナは先生達に合流してパティと一緒に護って貰いなさい! 私は行くわよ!」
風の精霊を友とし操る術式を持つウェンディは、普通に空を飛ぶ事の出来ず稀有な呪術師の一人で有り、前回の戦いでも前線へと出ていた一人だ、現状彼女は高専においては未だ2級呪術師では有るが呪力術式共に、1級に昇格するのは時間の問題とされている。
「へぇ……ボクの事を知っているの? じゃぁ……念入りにぐちゃぐちゃにして上げないとね……」
ニヤリと言う音が聞こえてきそうな残忍な笑みを浮かべるエミリオが掌を翳すと、ガデスとゲイツがやり合っている直ぐ横に新たな結界が現れ、その中へと2人は吸い込まれていく。
「七波もウェンディも未だ帰って無かったのか!? いや、高専の寮に門限は無いけど……流石に高校生の女の子がウロウロしてて良い時間じゃないだろ?」
「ってまだ11時にも成ってないですよ? 今どき塾に通う様な子なら普通に天辺近くまで勉強だし、ちょっと悪い子ならヘーキで家に帰らず朝帰りじゃないかな?」
言いながら倒れ伏す米軍所属と思しき呪詛師達の間をすり抜け俺達の所へとやって来たのは、御主人の受け持ち生徒で唯一一般家庭出身の4級呪術師である七波奈々だ。
呪力と術式から言えば彼女も順当に行けば1級、下手をすれば特級に手が掛かる様な者なのだが、呪術師の離職率や殉職率が大きく下がった現状だと未熟者を無理に現場へと押し出す必要が無い為、彼女は未だ数回しか任務に出ていない為階級が据え置きに成っている。
とは言え彼女の持つ
そんな強力な術式と魔導書を持つ彼女が殆ど現場へと出ていないのは、兎にも角にも呪術の基本である体術が駄目駄目過ぎるからだ。
彼女の召喚する72体の魔神は単独でも特級呪霊を祓う事が出来る程に強力な存在だと御主人は言うが、魔神は1度に1体しか召喚出来ずまた一つの命令を遂行した時点で本の中へと帰って行く。
呼び出したならばそのままずっと戦力にする事は出来ない存在である為、式神使い系統の術式持ちに有りがちな式神を突破されたら本体は無力と言う典型例なのだ。
使っている魔導書が魔導書だけに完全に使い熟せばマジで『ソロモン王』並の呪術師になる可能性がある……と御主人は言っているがね。
兎角、現状ではウェンディの言う通り彼女はパティと一緒に護衛される側に入れた方が安全性は高いだろう。
彼女の術式で魔神を呼んで貰う事で一発逆転の目が無い訳では無いが、便利な手段に頼り過ぎると人間成長しなくなるモンだ。
「さて……もう一人死んだふりをしとる者がおるが……自分の術が効いているかどうかも判断出来ん様では一端の呪術師では無いわ!」
御主人的には恐らくはウェンディとエミリオの闘いに割って入りたいんだろうが、指揮官個体がもう一人居るならばソレを担当する者がどうしても必要になる。
更に言えば恐らくあの機械化人はガデスと言う男に負けるだろう事を鑑みれば、あと最低2名は奴等と闘う必要があると言う事だ。
「其奴の相手は拙僧にお任せ頂こう! やっと見つけたぞ! 陰高野を滅ぼした邪術師よ!」
そんな言葉と共に唐突にエントリーしてきたのは、
「……貴様は確かにこの俺が仕留めた筈!? 日本の呪術師は死者蘇生等と言う神の定めし法すら覆すとでも言うのか!?」
僧正の言葉に答えたのは、他の者達と殆ど変わらぬ白い軍服もどきを着た金髪の男で、その身体から発する呪力は確かに、ここ最近良く目にする国防関係者を暗殺している者の残穢と一致する様に見える。
服装が同じ者が軽く数えても3桁は居る上に、全員ある程度呪力がある所為も有ってよくよく見ないとどいつが学長の術式の影響を受けていないのかを見抜くのは中々に難しい。
「つか、御主人の六眼で奴を見抜けなかったのか?」
「いやぁ学長の呪力がビンビンに飛んでる所為で、ガチで見ようとすると脳が焦げるわ。幾ら反転ぶん回して直ぐに回復出来るって言っても、この人数の中からピンポイントで探すのは幾ら俺でも無理よ? 学長が術式ぶん回して無けりゃ流石に分かるけどね」
俺達がそんな事を言っている間にも僧正が仲間の敵を討つ為に結界を張り、勝負の場へと舞い上がる。
「損傷率100%を超過……戦闘続行不能……システムダウン」
ソレと殆ど同じタイミングの事だった、機械化人ゲイツが全身の様々な部分を破損させ、俺達の近くへと落下して着たのは。
「カルロ! レジーナ! 受け止めるぞ! 幾ら元米兵と言えども我らの為に闘った者を死なせるな!」
そう叫び全身に呪力を滾らせた3人がゲイツの壊れた身体を受け止め、そのまま横たえる。
……身体から抜けているとは言え、直ぐ横に魂の
「拡張術式『泰山府君の祭』」
御主人の許可を取る事無くソレを発動させると、ゲイツの身体が正の呪力に包みこまれ、機械の部品がゴロゴロと転がり落ち、真っ当な生身の姿へと戻るのだった。