畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
体中に呪具を埋め込まれ生身の部分の方が少ないだろう
「な!? 猫が……呪術を……つかう……だと!?」
「嘘……サイキックキャット!? 日本はアニメだけじゃなくて現実にもそんなのが居るわけ!?」
「ええい! 驚くのは仕方ないが、今はソレよりもガデスをどうにかするのが先だ! 私が行く!」
俺と言う猫の呪術師の存在を知らなかった旧ノアの面々は、ゲイツ氏の肉体が機械化前の状態へと戻った事よりも、猫が呪術を使ったと言う事に対する驚きの方が大きい様で口々に驚きの言葉を口にする。
しかしそんな状況でも先ずは裏切り者であると言うガデスを打ち倒さんと、キースは然程疲れた様子すら見せて居ないガデスに対して決闘結界を発動した。
「おう、今度はノアの指導者様が相手か、ゲイツの奴ぁ完全にポンコツに成っちまっててつまらねぇと思ってた所だ。テメェとカルロに下でジャカジャカやかましいジジイをぶち殺してレジーナは俺のオモチャに貰ってやんよ」
ここまで聞こえる下卑た笑い声を上げるガデスに対し、キースはただ無言で両腕を組んだ構えとも言えない構えを取る。
「ガデスの相手はキース様がするならば大丈夫です、私達は楽巌寺殿と共にパティの護衛に協力致します」
「うむ……其方等は形式上はアイヌ呪術連傘下の術師と言う事に成っておる、無事に事が済んだならば相応の謝礼をする様に上には掛け合うでの……気張れよ若造共!」
上の方で話が付いて彼等旧ノアの人員は元呪詛師と言う扱いで、呪詛師認定は解けているとは聞いているが、そう言う者達を一番信用しなさそうな保守派筆頭である楽巌寺学長が、彼等を戦力と看做したのはちょっと以外だった。
「……学長、術式が通って無いのは上で闘ってる3人だけ? ウォンの野郎が居ないならマジでもうちょい警戒しないとヤバいぞ? アイツは一度俺を殺し掛けた呪詛師だからな。今の俺は多分負けねぇけど他の連中は不味いかも知んねぇ」
前回の戦いでは時間停止と言う破格と言って間違いない術式効果で、御主人の認識範囲外から近づき一気に仕留めたと聞く。
もしもこの状況を学長の術式の効果範囲外から見ているのであれば、その時の様に時間停止で一気に間合いを詰め学長を葬る事で制圧された雑魚達を一気に復活させると言う選択肢を俺ならば取る。
「……俺は取り敢えず学長の術式で動けなく成っている者を拘束して行く。忍猫の技には衣服を用いて人間を拘束する技術もあるからな、素っ裸でも無い限りは拘束具には困らんさ」
前世に読んだお色気たっぷりの格闘漫画でも中国武術の達人が、女性と闘う時には必ず仕掛ける必殺技として似たような技法が登場するが、俺は彼の様に態々全裸に剥く様な真似はせず、単純にズボンや上着を縛ったりする事で拘束するだけだ。
無論、女性を相手にする時には際どい部分に触れるのは最小限に抑えるので、少年誌レベルのエロすら発生しないと断言しておこう。
ちなみに現状はパティ嬢の前に楽巌寺学長が立ち自身の骨で作られたギターを響かせ、彼女の右手を御主人が、左手をカルロと呼ばれた男が、後ろをレジーナと呼ばれた女と七波奈々が守っていると言う状態である。
「護衛の手は呪術師達だけで足りているし、状況を少しでも早く収束させる為、我々はあの猫に協力して雑魚達を拘束するぞ!」
そして本来ならばパティを護る為の肉壁要員となるべき
動けない者達を拘束しながら周囲を確認すると、どうやらウェンディとエミリオは高専で体術を磨いたウェンディが上手く近接戦へと持ち込み鋭い打突でエミリオを結界の隅へと押しやっている所から彼女が優勢で闘いは進んでいるらしい。
ガデスとキースの闘いは呪力と術式ではキースが有利だが、闘いの勘所と言った部分ではガデスに歩が有る様で一進一退の攻防を続けている。
そして刹那と玄信僧正の闘いは……
「貴様の術はもう見切ったわ! 所詮は練りの浅い若造の呪術、術をぶっぱするだけで武との交わりが甘い! 呪術の基本は体術よ! 儂のような老いぼれに追い詰められておるのがその証拠よ!」
玄信僧正が吠えた通り、刹那の放つ術の大半を僧正は躱し、相殺し、時にはバリアガードを使って受け止め、時折結界内に蒼い呪力の炎を放つ呪符を撒きつつ間合いを詰めていた。
「くっ! 一度は俺に殺された筈の老いぼれが! エリートである俺に楯突くような事が許されてたまるか!」
結界内を闇に染め自分のフィールドを作って尚も追い詰められて行く刹那、奴が展開した闇に紛れる様に動くので今ひとつハッキリと見極める事は出来ては居ないが、玄信僧正の言葉通り刹那は術式ブッパタイプで体術の練りが今ひとつらしい。
対する玄信僧正も老齢故に身体のキレは大分衰えている様だが、そこは長年鍛えた戦闘勘と経験値の差がモノを言っている様で1手、また1手と攻防を重ねる度に確実に刹那を追い詰めているだろう事が見て取れる。
どうやら刹那が展開した『闇』は自身を隠す効果は有るようなのだが、玄信僧正の姿はハッキリと見える辺り、奴の術式に依る隠蔽は自分自身にしか効果が無いらしい。
「ぐぁ!? おのれ……奴にやられた火傷が治っていればジジイ如きに負ける事は無いと言うのに……」
言い訳なのかそれとも事実なのか、刹那は何処かで割と大きく負傷したままで任務に投入されているらしく、行動の一つひとつにキレが無いのはソレが原因の様である。
「誰から手傷を受けたかは知らんが自業自得と言うモノよ! コレで仕舞いじゃ! 貴様が手に掛けて来た者達の無念を全て受け取れい! 臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 烈! 在! 前! 爆滅!」
怒号が響き渡ると共に派手な爆音が響き渡り、直後ガラスを砕く様な音が響き渡った。
「バカな……! 俺の、俺の力がぁーっ!!」
爆風に吹き飛ばされた刹那の身体が結界の壁を突き破り吹っ飛び、東京ドームホテルの壁面へと叩きつけられ朱色の華を咲かせる。
うん……お客さんの居る部屋の窓に突っ込まなくて良かったな、被害的な意味でも呪術の隠蔽的な意味でも。
……つか、パラシュート無しで空中挺進して来たコイツ等、割と真面目に呪術の秘匿とかどー考えてるんだ?
今日の東京ドームホテルはどう考えてもパティのコンサートに来た観客なんかで恐らくは満室だろう。
前回の戦いでは米軍と日本政府との間に秘密協定の様なモノが結ばれ、政治的な決着が有った所為でその辺割と有耶無耶になった感があるが、ここまで大々的な作戦を帳も下ろさずにやってるんだ。
流石に総監部も政治家連中のケツを蹴っ飛ばすじゃぁ済まないんじゃないか?
しかも『最低でも県外』を実現したにも拘らず、震災周りの対応が後手後手に回った結果、
前与党政権ならば日和る可能性は割と高いが……俺の記憶に有るのと同じく明日にあの人が総理大臣になったならば、先ず間違いなくこの一件を政治カードとして使いアメリカ相手でも一歩も引かずに交渉を進める筈だ。
と、そんな事を考えていると、刹那を下した玄信僧正が地上へと降りて来た。
決して楽勝と言う訳では無かったようで、紫の篠懸は至る所が切り裂かれ、色合いで分かりづらいが結構な出血を伴う刺し傷や切り傷が全身に有る様だ。
「おじいさん! 大変、今治しますね……」
そんな玄信僧正に周囲をしっかり固められていたパティが思わずと言った風に駆け寄ったその時だった。
「この時を待っていたのですよ! 護られる立場の者が護られて居るのを忘れると護衛は大変ですねぇ」
何処から現れたのかリチャード・ウォンがパティを小脇に抱える様にして、少し離れた場所へと唐突に現れたのだ。
「ぬぅ! コレが時間停止か!? 厄介なんてモノでは無いぞ!? 領域展開よりも対処しようが無いでは無いか!?」
パティの四方を固めている誰かを、御主人を仕留めたと言う一手で排除する事は恐らく可能だっただろう。
けれども御主人は自力の反転術式で一撃死は先ず有り得ず、他の者を排除したならばその直後に御主人からの反撃を貰う……そう判断し奴はパティが囲みから出るのを虎視眈々と待ち続けていたのだ。
「時間を止めてしまうとその間は地獄炉も停まるので、時間停止を永続させる事は出来ないのですよねぇ……。しかしこうしてターゲットを捕えてしまえば……後は跳ぶだけですからね……残念でしたねぇ。日本の皆さん、今回は私の勝ちです!」
そう言い放ったウォンはパティを連れたまま、開いた異次元への穴へと姿を消したのだった。