畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「ミズ・イタドリ! 何だこの音と振動は!? 大丈夫なのかね!? アレは!」
旧エリア51……呪霊との戦いで壊滅したネリス試験訓練場の跡地、その地下に作られた秘匿施設に設置された地獄炉は今までの安定稼働状態から、明らかな暴走状態へと以降しつつ有った。
「多分駄目でしょうねぇ……リチャード君は殺られちゃいましたか。此処から汲み出された
「な!? 何を馬鹿な事を! 彼処が再び更地になると言うのかね!?」
アメリカ空軍
「更地? 何を生温い事を言ってるんです? 無限のエネルギーを汲み出す炉が暴走するんですよ? その破壊力は当然無限……とまでは流石に行かないでしょうが、ヒロシマに落ちた核爆弾程度の破壊は確実でしょうねぇ」
口元に手を当てクスクスと笑う女を、大佐は化け物を見るような目で見て1歩引く。
自分は本当に国の為になる事をしているのか、それともソレはただの勘違いでこの世界に存在してはいけない化け物を産み出す手伝いをしてしまったのではないか?
この計画に携わる研究者はどいつもこいつもマトモじゃ無い、イカれて無ければ他人の身体に好き勝手禁止薬物やら未承認薬物やらぶち込んだり、電極ぶっ刺して反応見たり、何なら死にかけた軍人を
そんな当たり前のことすら大佐は今の今まで理解していなかったのだ、自分は絶対に正しく自分の正義こそがU.S.Aの正義だと盲信していたから……。
だがそんな夢から覚める瞬間がやって来たのだ、29パームズ地下の秘匿研究施設からエリア51地下に作られた地獄炉の暴走を遠隔カメラを通した映像で見て、彼は決して手を出してはならないモノに手を出してしまったのだとやっと気がついた。
「そしてリチャード君が死んだと言う事は日本に展開していた部隊は壊滅、恐らくは貴方が欲していたマイヤース女史の娘さんも確保出来て無いでしょうねぇ……さぁ大変だ、仮にも同盟国内で勝手に部隊を展開し任務失敗? 外交関係にも影響は大きいだろうねぇ」
さも可笑しそうにクスクスと笑い続ける縫い目の女は、眼の前の男の蒙昧を丸でコントか何かの様に思っている。
例えマイヤースの娘……パティを確保したとして、アレだけ大々的な部隊を展開した以上は、例え呪術総監部の力を持ってしても全てを隠蔽するのは不可能だろう。
当然ながら日本の政府高官は怒り心頭と成るハズだ、前回の時には日本政府が軍部に関係する簡単な飴玉で転んだが、10日程前に政権交代が成った日本の新総理が同じ様に転ぶとは限らない。
逆に女からすれば前政権の対応の方が『下手な呪術師よりイカれてる』とさえ思ったモンだ。
だがその成功体験がこの幼稚な万能感に支配された大佐には『日本人はちょっと譲歩するだけで簡単に転ぶ』と間違った理解を与えていたらしい。
「大佐……お電話です」
「くっ!? この忙しいのに誰からだ!」
「大統領閣下からです……」
「何!? 何故大統領が直接電話なんぞしてくる!?」
大佐は現大統領を自分の上司だとは思っていない。
人種差別主義者である彼は、例え民主的に選ばれた存在だとしても、ホワイトでは無い大統領を大統領だとは認めて居ないのだ。
「……日本政府からの正式な抗議を受け、同盟国内に対して無断で部隊を展開した事に対する弁明の為、直ちにホワイトハウスへと出頭させよ……とだけ言って切られました」
「軍務に着いた事も無い
頭を掻きむしり苛立ちを露わにする大佐だが、周りに居た彼の部下達……だった者達が彼を取り押さえ、
「直ぐにジェット機でワシントンまでお送り致します。大佐我々も道々致しますので、堂々と貴方の正義を大統領閣下に訴え出て下さい」
その言葉は欺瞞だ、先ず間違いなく彼は独断専行を咎められ、軍法会議に掛けられるだろう。
結果は良くて不名誉除隊、下手をすれば銃殺刑も十分に有り得る。
配下の者達はソレを知った上で堂々とワシントン入りし、彼を生贄に自分達は命じられて逆らえなかったのだと言う積りなのだろう。
そうこうしている間にも軍人らしい軍人は皆、大佐と共に部屋を出ていった。
「さて……聡明なる科学者諸君、我々の後ろ盾で有りパトロンだった大佐殿は、残念ながら二度と此処へは戻らないでしょう。そして恐らく此処での成果は全て違法研究として闇に葬られる事になり、我らの身柄も拘束される事になる」
彼女の言う未来は決して明るいモノでは無く、同時に先ず間違いなく明日の朝には来るだろう未来だ。
「ですが……今の私には貴方がたを招待し、さらなる研究を続ける事が出来る場所へとご案内する用意が有ります。行きませんか? 人間の可能性の更に先へ、人類が未だ到達していない新たな叡智の世界へ」
歌う様にそう言う彼女の言葉は、科学を追求する為に人道も道理も道徳心すらも捨て去った『下手な呪術師よりイカれてる』者達だ、彼女の言葉に否と言う者は一人も居ない。
「データはデータどうする! 何処に送れば良い!?」
「軍の目を欺いて地下にでも潜るのか!? それとも他の国へ行くのか!?」
「検体は! 新しい検体は手に入るのか!?」
どいつもこいつもイカれてる、ああ何と素晴らしい者達だろう、彼らの力が有れば非呪術師を呪術を使わずに呪術師にする事等朝飯前だ。
「データは申し訳無いですが通信網に乗せて送ると軍の追跡を受けるでしょうから、可能な限りフラッシュメモリ等の記憶媒体で持ち出して下さい。ノートPCなんかは軍の資産を持ち逃げされた……と追いかけられる原因になるので置いて行って下さい」
実際に刹那と言う非呪術師を科学的な改造で生まれながらに呪力を持った者よりも強い呪術師にする事に成功しているのだ。
「目的地は日本です、ですが追跡を少しでも困難にする為、直通ルートでは無くユーラシア大陸を縦断する形で移動します。勿論移動の為の経費は私が持ちますし、道中では多少の観光をする余裕もあるでしょう。侘しい逃亡生活にはしませんよ」
科学と呪術の融合……何と甘美な響きだろう……1000年前の呪術全盛期だった平安時代には全く考えられなかったアプローチである。
「検体は此処程多く手に入れるのは難しいでしょうが……その分厳選された個体を用意しましょう。その為の準備は既に進めさせています」
彼らを母国へと
ああ素晴らしきかな人類の発展、人間の可能性、呪術だけでは至れない境地へと科学は連れて行ってくれる、科学だけでは解明出来ない事象を呪術は詳らかにしてくれる。
そのマリアージュは何処までも、何処までも果てしなく高く遠い場所へと連れて行ってくれるだろう。
ソレを思えば天元の星漿体同化阻止の失敗が何だと言うのだ、きっと彼らとならば1000年前に思い描き、計画し練りに練ったアイデアを別の形で再現してくれるに違いない。
その為のコストを支払うのは別に自分自身では無い、転がり込んできたコマが勝手に用意してくれた箱が半自動的に稼いでくれるのだ。
資本家に成った今ならば資本主義の素晴らしさがよく分かる、コレは資本家と言う貴族が民衆と言う奴隷から無制限に富を吸い上げ続けるこの世の地獄である。
しかし同時にこうも思う『リスクを侵して投資した者だけが富を得られるのだ』とも。
誰かの下に着いて労働するのは、自分が常に最高責任者では無い分リスクは少ない、ならば貰いも少なくて当然だろう。
本気で上へと伸し上がりたいならば、リスクを侵してでもトップとして走り続けるしか無いのだ。
或いは天才的な発想で過去に類の無いモノを生み出し、ソレを世界へと売り込むか……だ。
一代で世界の世界長者番付1位という莫大な資産を築き上げた天才は、その両方を行った結果として世界でも有数の富豪と成ったのだ。
対して自分はソコまでの事をしたかと言えばNOだ、ただたんに手元に転がり込んできたモノを転がしているだけに過ぎないが……ソレでも富は富で有り、今現在の自身は資本家である。
その資本の全てを自社の為に使うと同時に、彼らの研究にも投資しようと言うだけの話だ。
ついでに所有する会社の持つ技術を吸い上げ、彼らに投げればどんな科学的変化、呪術的発展が見込めるか……ああ、素晴らしい。
「さぁ急いで急いで! 憲兵達が来たならもう逃げられない、大佐が大人しく査問を受けている間にさっさと雲隠れするのよ!」
科学者達を急かしながら、自身は地獄炉の臨界突破を観測するデータをギリギリまで見続ける……再び地獄炉を建造しソレを運用した時の為に……。