畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
あの戦いから一夜が開け、新総理の就任会見は異例と言えるモノに成った。
本当ならば総理としての所信表明やらなんやらが行われるであろう場で、日本の同盟国で有り実質的な盟主とも言えるアメリカ合衆国軍が昨夜行った蛮行に対する遺憾砲が炸裂したのだ。
無論、遺憾の意を示したのは表向き……民衆に対するポーズとしての面が強く、水面下ではこの一件を外交カードとした新総理の様々な交渉なんかが動いていた事だろう。
ただ俺達にハッキリと知らされた動きとしては、アメリカ空軍の一部で秘密裏に行われていた
……責任の取り方に関しては未だ軍法会議も開かれて居ないので、確定では無いが彼らが
そしてさらなる外交カードの追加として、アメリカ西部の砂漠地帯に突如出現した特級呪霊の討伐任務の発生が上げられる。
出現したのは元は空軍の実験施設が有ったとされている場所であり、ソコで原因不明の大爆発が起こり、アメリカ陸軍が調査に赴いたが部隊は壊滅、軍部高官及び大統領が
この一件に関しては早急な対処が必要と判断され、即座に現場に投入出来る人員として俺と御主人が蒼に依る転移で現場へと向かう事になった。
しかしその呪霊は奇妙な事に呪力量、呪力出力共に特級でも間違いなく上澄みと言える、原作で言うならば夏油に組みしていた未登録特級呪霊達に勝るとも劣らぬモノを持っていたにもかかわらず、術式らしきモノが確認出来ないと言う謎の呪霊だったのだ。
馬鹿みたいな呪力ゆえにアホほど硬く、御主人の虚式『?』ですら1撃で祓うには至らず、俺のストックを消費した『超ごっつい猫ロケットパンチ』の方が反転を伴う正の呪力をぶつける分ダメージがデカかった程である。
とは言え術式を持たずただただ硬いだけで、戦闘経験もろくに積んでいない人型呪霊に遅れを取る俺達では無く、多少時間は掛かったモノの無事に祓い切る事は出来た。
……ただ、問題はこの場所自体が馬鹿みたいな量の呪力に汚染されており、コレを祓うのには単純な戦闘では無く大規模な呪術的儀式が必要になるだろう事は、未だ呪術師としての知識は足りていないと言う自覚のある俺でも分かる事だ。
「なぁポチ……コレって多分さぁ地獄炉が暴走して臨界突破した痕だよなぁ」
地面に空いた巨大な……核戦争なんかを描いたマンガやゲームで見られる『爆心地《グラウンド0》』を思わせる大穴と、ソコから漏れ出してくる濃密過ぎる呪力を感じ取り御主人がそんな事を言う。
「俺にはエゲツナイ程の呪力しか感じられないが……御主人がそう言うならば何かの根拠があるんだろう?」
「呪力に色が無さ過ぎるんだよ、普通呪力ってのは恐れなり怒りなり『何か』に対する負の感情だからな。俺の六眼ならソレが『何か』まではハッキリ分からないにせよ、多少の方向性は読み取れるんだが……ここの呪力にはソレが無いんだよ」
地獄炉の呪力と言うのは呪力に満ちた空間、仮称:地獄から直接無限の呪力を汲み出す装置であり、地獄の呪力には色と言うべきモノが無いのだと、前回の戦いの際に吹っ飛ばした地獄炉で確認済みなのだそうだ。
「まぁウォンの野郎は確実に仕留めたし、どっかの馬鹿が再び地獄炉を作るなんて事ぁそうそう無いとは思うけど……なーんか嫌な予感がするんだよなぁ……」
兎角、現場の呪術師が出来る事はコレで概ね済んだ事になり、後は総監部と新総理が招集する新内閣がアメリカ政府とやり合う事になるだろう。
新しく総理に就任した彼は俺が
俺は基本的に民主主義政治に対しては批判的な立場の人間だった、民主主義が万人に平等な政治形態だと言うのは、過去に存在した他の政治形態と比べれば間違いない事実だろう。
しかし民主主義は『全ての有権者に君主足り得る知見を求める』極めて難しい政治スタイルでもある。
教育と情報発信が十分に機能しなければ、あっという間『衆愚政治』に陥るモノなのだ。
とは言え共産主義や貴族主義が素晴らしいとも思わない、前者は結局共産党の一党独裁体制で『党幹部だけが肥え太り、民衆は皆で貧しくなろう』でしか無いし、前者も『ノブレス・オブリージュ』が機能しなければ共産主義と何ら変わりはしない。
ただ日本に限って言うので有れば、政権を天皇陛下にお返しする『大政奉還』を再び為すのは有りだ……と前世では思っていたのだ。
……まぁ恐らくはそうした場合には何代か時が過ぎれば、原作の呪術総監部の様に権力に固執する腐ったミカンになるんだろうけれどもな。
俺が生きて来た昭和、平成、令和と言う時代を生きた3代の天皇陛下達が素晴らしい御心を持って国民を慰撫して来たと言うのは事実だが、遥か昔には南北朝時代とかが有って皇位継承を巡って戦争なんかもしてた訳だし、皇族が絶対的に善の存在と言う訳では無い。
となるとやっぱり民主政治ってのが一番落とし所のマシな政治形態と言えるのかも知れないな。
特にこれからの時代はSNSなんかの発達で、メディアだけが一方的に情報を握り、取捨選択して垂れ流し国民はソレに踊らされる……と言うのは減っていくと言うのは前世で一度目にした光景だ。
……単純にスポンサー企業がマスメディアに金を出さなく成った結果、メディアが劣化し民衆がソレを見限り更にスポンサーが集まらなくなる……と言う負のスパイラルの結果とも考えられるがね。
「取り敢えず呪霊は潰したけど……この呪力はどーすっかな? 流石に
さも面倒臭そうに……いや実際面倒臭いんだろうが、頭をボリボリと掻きながらそう言う御主人。
「ソレこそ総監部に投げて政治的に決着を付けて貰えば良い話では無いか? 幸いこの国にもマイヤース女史が統括するネイティブ・アメリカンの呪術師達が居るんだろう? 彼らに任せてその発言力を高める材料にして貰っても良い訳だしな」
此処アメリカにおいても呪術師と言う存在は秘匿された存在であり、自分達の持つ能力が現代社会に置いて恐怖され排除される可能性を理解し、細々としたコミュニティーとしての機能しか持っていないと聞く。
けれども今回の一件で大統領のもとにも『違法行為で集められた
更に言うならば此処にある地獄炉跡地と言う危険地帯を生み出した実験に、再びアメリカ軍が手を伸ばす可能性は極めて低く成った様に思えた。
もしも原作の様に死滅回遊をメロンパンの野郎が何等かの方法で起こしたとしても、少なくともアメリカ軍はコレ幸いと火事場泥棒的に日本を攻める事に躊躇するのでは無かろうか?
……まぁアメリカが攻めなくても日本の周りには日本に敵対的な国が沢山あるので、メロンパンがその辺を焚き付けて回る可能性は捨てきれないがね。
「長い時間を掛けて少しずつ呪いを解いていくなら、確かに地元の呪術師達に投げた方が確実だわな。ポチの存在で地獄は有るって知った頃から総監部も色々と自浄してるみたいだし、丸投げするのもそんなに不安無くなったのは有り難いわなー」
ちなみに1時期は総額5億まで引き上げられていた御主人に掛かっていた懸賞金だが、最近になって現総監部が内部調査をした所、懸賞金のウチ1億5千万円の出所が総監部だったらしく、ソレに関しては既に取り消しが入っていると言う。
つまりは御主人が産まれた時点で当時の総監部が懸賞金を掛け、ソレがずっと支払われるでも取り消されるでも無く残り続け、俺が現れた事でパニクった旧総監部の面々も逃げ出す事で頭が一杯になり、取り消しを忘れていた……と言う事らしい。
当然、総監部からは正式な謝罪の使者が五条本家へと遣わされ、本家では無く総監部の有る東京校に常駐している御主人の部屋にも、わざわざ総監部の御歴々の一人が訪ねて来て謝罪の言葉を口にしていた。
この一件が有って御主人は前総監部を腐ったミカンと判断し、対して現総監部には一定の自浄作用が働いている……と判断している訳だ。
アメリカ軍も今回の一件に関しては表沙汰に成れば、計画を推進していた大佐だけで無く、その上官……下手をすれば空軍のトップまで軍法会議に掛けられかねない大スキャンダルだと言う事で、被害者救済にはかなり積極的に動いてくれている。
作戦に投入された者の中で既に呪詛師として手配されている者達は、高専側で拘束したが旧ノアの面々を含め拉致され実験体にされていたと思しき者達に関しては、大統領直々に『決して悪いようにはしない』と言う言葉が下されたと言う。
政治の仕組みとして官僚の権力が割合強いと言われている日本でも、政権与党や総理大臣が変われば世の中の動きは大きく変わる。
ましてや日本の総理大臣よりも圧倒的に強力な権力を持つアメリカ大統領の言葉だ、彼等の扱いに関しては信じて良いと思う。
パティ嬢も母に今回の一件を話しマイヤース財団としても対応を検討して貰うと言っていたしな。
マイヤース財団と言えば、表向きは反戦活動と難民や戦争被害者支援の財団なのだが、裏の顔として世界中に隠れ住んでいる呪術師達の保護活動も行っていると言う話を聞き、キースやカルロ達旧ノアの面々がOTZっていたのは笑えない話である。
しかし軍の非合法活動は流石に一介の財団が簡単に尻尾を掴む事の出来る様な事では無かったらしく、また軍側も財団の裏の顔は知っていた様で今回のパティ嬢の拉致も財団に対して優位を取る為に計画された犯行だった様だ。
陰高野の壊滅や防衛省幹部の暗殺と言った刹那に依る被害は多々あれど、後は政府間交渉で決着を付ける話であり、現場の俺達がどうこう出来る次元では無くなっている。
「うし、帰る……前にハートアタックグリル行ってみるかー。確か店舗はラスベガスだったよな? つかポチのスマホ? って地図出せたよな。店の場所調べてくんね?」
「残念だが御主人、俺のスマホは海外キャリアへの接続契約をしていないのでここでは使えない。近場の町へ跳んでロードマップを確保してから改めて店の近くへと跳ぶのが正解だろうな」
以前ネットで見た心臓に悪い程に超高カロリーなハンバーガーを食べたいと言い出した御主人に、俺はそう言って溜め息を吐いてから転移に備え彼の足に掴まるのだった。