畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
禪院家だよ全員集合
京都市郊外の山中に有る禪院家本家別邸、ここに彼が来るのは一体何年振りの事なのだろう。
本音を言うならば恐らくはもう一生此処へは来たく無かった筈だ。
ソレでも愛弟子と呼べる少女の為に、此処へと足を運んだのは彼が原作の最愛の女性を失った事で情と呼べるモノ一切を失った彼では無いと言う証左と言えるのではなかろうか?
「おー! 甚爾君達待っとったで! お父ちゃんも扇の叔父さんとっ捕まえて待っとるさかいに、はよ入ってやー」
門前で中へと入る事を躊躇していたパパ黒と禪院姉妹だったが、その門が内側から開き禪院直哉が出迎えた事でようやっと決心が着いたらしく中へと歩みだす。
この場に居るのは伏黒甚爾とその息子の恵、禪院真希と真依の双子、恵と真依の呪術師としての師匠である一堂啄石、そして招待客として御主人と俺……五条悟と五条ポチである。
なおこの場に居ない伏黒津美紀とその母は、禪院本家に顔を出すのは流石に不味いと言う判断から、二人で市街地に残って京都観光をして居る筈だ。
今回の禪院家訪問の目的は、禪院家と五条家の分かり易い和解のアピールが第一では有るが、ソレと同時に真希と真依の進路に関して彼女達の両親と正式な話し合いを持つと言うモノである。
電話で当主である直毘人氏とパパ黒が話した限りでは、高専に行くまで伏黒家で暮らしそのまま近所の中学校へと進学させれば良いと言う事に成っていたのだそうだが、ソレに真希嬢が待ったを掛けたのだ。
曰く『クソ親父と禪院の家から目を背けたままで居るのは嫌だ』……と。
結果、話し合いの席を設ける事に成ったのだが、どう考えても話し合い(物理)になる未来しか見えなかったので、万が一の事態に備えて俺を同行させる事になり、それならいっその事、五条家と禪院家の和解の席も纏めてやっちゃおう! となった訳である。
「ほな、皆待っとるで、特に躯倶留隊や
御主人から端を発した呪術界全体での古流武術ブームは、禪院家にもしっかり伝播しており、ソコから天与呪縛のフィジカルギフテッドが持つ強さが評価されているのだそうだ。
何なら『禪院家に非ずんば呪術師に非ず、呪術師に非ずんば人に非ず』と言う禪院家の家風さえ、若手達の中では揺らぎ始めており『対呪霊なら兎も角、対人戦で当代の服部半蔵に勝てる奴って禪院に居るのか?』と言う話までで始めている始末だと言う。
当主である直毘人氏はそうした変化をただ笑って見ているだけであるが、禪院家最高戦力集団である炳の中でも真希、真依の父である扇はそうした風潮を苦々しく思っており、反対にパパ黒の兄である甚壱氏は強くなる分には大歓迎と言う感じらしい。
そんな話をしながら案内されたのは、未だ真冬の京都の寒空の下だと言うのに、吹き曝しの広い武道場と言う雰囲気がビンビンに出ている玉砂利を敷き詰めた庭の一角だった。
「よう来たのぅ、甚爾、恵。よく帰って来た真希、真依。それから遠い所ご足労頂き忝ない、五条家御当主殿と五条一級。最期に我が家の呪術師を真っ直ぐ育ててくれたと聞いておる、その件に御礼申し上げる一堂元一級」
当主である直毘人氏の言葉は明確な歓迎の言葉なのに対して、おそらくは稽古場を兼ねていると思われるこの庭に面した場所に居る他の者達は、全面的な歓迎ムードと言う訳では無い。
感覚的にはパパ黒と真希、真依に対する侮蔑と反感が1割、御主人と言う五条家の当主に対する反感が6割と言った感じで、残りの3割は俺の術式で部位欠損が回復したり、蘇生した事がある連中だろう。
「まだるっこしい事ぁ趣味じゃねぇんでな。単刀直入に話を進めさせて貰う。扇の叔父貴、真希がアンタと勝負したいって言ってるんで来たんだわ。幸いこっちの化け猫は死んでも直ぐなら復活させる術式持ちだ。親子できっちり
パパ黒がそう言いうと紺色の袴に白い着物を纏い、背中に大太刀を背負い腰に大小を佩いた真希が前へと進み出る。
「言うに事欠いて父親に楯突こうと言うのか不出来な娘の分際で! その出で立ちを見るに剣士として技を磨いて来たとでも言いたげだな! 良かろう! 死んでも死なぬと言うならば一度親としてきっちり殺してやろう!」
剣と言う自分の両分での勝負を挑まれ、激怒はしつつも激昂まではしていない、ソレを見て取った俺と御主人は話に聞いていた禪院扇と言う人物評を少しだけ上方修正する。
本当に戦闘者としてもろくでもない男ならば、彼処で激昂し言葉を交わす事も無く斬り掛かっていただろう。
単純に外聞を気にしただけなのか、それとも武人としての最低限の矜持故かは分からないが、激昂すれば死ぬと言う戦いの場における最期の一線は心得ている様である。
「娘を娘とも思わねぇろくでもない親父だけど……今はただ一人の剣士として、先達として勝負願う。……いざ尋常に!」
大凡
「「勝負!」」
親子故と言うよりは双方共に剣士としての呼吸だろう、綺麗に揃った一声と共に互いに刀を抜き、刃金と刃金がぶつかり合う甲高い音を響かせると、白刃が宙を舞う。
真希が用いた刀が、扇氏の持つ刀を断ち切ったのだ。
「親父、真依から新しい刀を受け取れ、今のは腕の差じゃねぇ、呪具の差だ。アタシが持ってるコレは甚爾さんの持ってた釈魂刀の写しでな、基本的に斬れないモノが無い刀だ。真依がアタシの為に用意した呪具だ」
一合撃の結果と真希の言葉に禪院家の者達がざわりと反応する……無理も無い、家を出た頃の真依嬢の構築術式は箸にも棒にも掛からない程度の術式で、釈魂刀のレプリカを作る事など到底出来る筈の無いモノに過ぎなかった。
「お父様、コレを……私が術式で作った素材を使って呪具師の刀鍛冶が打った『不壊』の術式が乗った刀です。コレならば真希が持つ釈魂刀とも打ち合えるのは確認済みです」
父親に駆け寄り手にした刀を鞘ごと渡す真依に対し、
「礼は言わんぞ、コレは真希との勝負に呪具の差と言う言い訳を残さんために受け取るのだ」
等と嘯きつつ受け取る扇氏。
構えを取る事無く、二度、三度と軽く鯉口を切って刀の感触を確かめた後、先程と全く同じ場所へと移動し改めて抜刀の構えを取る。
「改めて行くぞ、親父!」
「おう、掛かってこいバカ娘」
「「いざ尋常に! 勝負!」」
再びぶつかり合う刃と刃、真依の言葉通り、今度は簡単に刀を断ち切られる様な事は無く、純粋に手数と技量での勝負にもつれ込んで行く。
「術式解放・焦眉之赳!」
扇氏の発したその言葉と同時に刃から吹き出す蒼い炎が、寒空の下にサウナか何かの様な熱を迸らせる。
原作では完成した天与呪縛のフィジカルギフテッドと成った真希に、触れる事すら出来ずに斬り殺された彼だが、直哉に負けた事で多少は顧みるモノが有ったのか、剣士としても呪術師としても原作より強く成っている様に見えた。
しかしソレでも完成した天与呪縛はその太刀筋を見切る動体視力を持ち、呪力の本流すらも肌感覚で掴み取り、空気の歪みを足場に常人では有り得ない体捌きでその一撃を綺麗に躱す。
刀を振り抜いた直後に背後を取られ、刀を頭の天辺に寸止めされた扇氏は、流石に負けを認めざるを得なかった。
「……私の負けだ。だがコレは呪術師としての負けでは無い! 剣士としての負けだ……兄者、二年寄越せ! 私は修行の旅に出る、2年で剣士としても呪術師としても今一度磨き直し改めて再び勝負したい!」
ソレでも未だ完全に負けたと認めたく無いのは、呪術師としての矜持か、それとも親としての矜持か……。
「ふむ……なら3年修行して来い、ちょうどその頃には小奴らも中学を卒業し、高専に行くなり家に帰って来て呪術師をするなり進路を考える頃だろう。改めて再度勝負しお前が勝てば親として娘達を好きにしろ。負けたならば娘達の好きにさせれば良い」
「……真希、3年後の今日この日、改めて勝負だ。その時は今日の様には行かん。死んでも恨むなよ」
「親父こそ、今日みたいな無様をさらさない様に完璧に磨き上げて来いよ。アタシは更にその上を行ってやる」
「お父様、その刀はお持ち下さい。不壊の術式が宿った推定特級呪具ですので手入れは不要です」
「……この刀もその日までには完璧に使い熟せる様に成ってきてやるわ」
出来損ないの娘にこうして大人数の前で負けたと言う事実は、自尊心の強い扇氏には恐らく何よりも堪えた筈だ。
にも拘らず、折れず曲がらず、寧ろ奮起した様に見えるのは、自身の未熟さとやっと向き合う事が出来たと言う事なのかも知れない。
「なぁ悟君、ポチ一級のストック使わへんで済んだんやから、今度は俺といっぺん
その場を一人去りゆく扇氏を見送りつつ、今度は直哉がそんな言葉を口にした。
「この間、真依ちゃんに貰った呪具で俺の無下限突破チャレンジか? 良いね、五条と禪院の親善試合と行こうか。お前のお父ちゃんが認めたら……だけどな」
甚爾と言う憧れを失わず、真っ直ぐに伸びた直哉は、現在の呪術界では上澄みの中の上澄みだろう。
そんな二人が本気で
「よかろう! 五条1級の術式が有れば1回位死んでも構わんのだ、若者同士存分に呪い合え!」
等と良い酒の肴が出来たと言わんばかりに言い放ち、ストロングゼロのレモンのプルタブを押し開けるのだった。