畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
夏油から呪霊玉を掠め取った俺は、彼を見上げたまま二度鳴いて否定の意を示す。
「ポチさん、私の術式は知っているだろう? ソレを取り込まなければ先程の呪霊を手持ちに加える事は出来ないんです、早く返して下さい」
「うにゃ!」
軽く威嚇的な声を上げ渡さないと意思表示をしつつ、俺は呪霊玉を覆う様に呪力を纏わせる。
「ポチさん? 一体何を?」
すると流石に何か意図が有ると察してくれた様で、疑問の声を上げる事は有れども、取り返そうと言う手は止めていた。
十分な厚さの呪力の外殻を呪霊玉に纏わせた後は、続けて命のストックを一個消費して反転術式のアウトプットを起動し呪霊玉を包みこんだ呪力の外側に正の呪力の外殻を形成する。
「はっ!? そうか! ポチさんは呪霊に対する噛み付きも攻撃の方法にしていると言う話は聞いた事が有る! 貴方は呪霊の不味さを知っているんですね! そしてソレをなんとかする方法も!?」
そんな言葉を発し打ち震える夏油に俺は両前足で白く輝く呪霊玉を持ち、後ろ足だけで立ち上がる事で彼にソレを捧げ出す。
息を呑んでソレを見下ろした夏油は、震える手で呪霊玉を掴み取り、一口で飲み込み……ポロポロと子どもの様に涙を零した。
「呪霊が……あの吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みする様な味の呪霊が……甘みさえ感じられる……コレが正の呪力の味……砂糖の甘みじゃない、悟に連れて行かれたA5ランクの松阪牛の脂身の甘さ……それをもっとスッキリさせた様な味だ……」
そのまま膝から崩れ落ち両の手を地面に付いて見事なorzの姿勢に成った夏油は、堰を切ったかの様な勢いで涙を流し、子どもの様に泣きじゃくる。
「呪霊は人間の……いや、全ての生き物の負の感情の集合体、言うならば排泄物にも近い物、吐瀉物の味なら未だましでう◯この味だってあり得るんだ……あの汚物の味を反転術式を使えば解決出来るなんて……考えても居なかった」
術式を自覚するのは人間だと大体5歳前後だと言われている、その頃から日常的に文字通り
けれども彼の性格から察するに、呪霊と言う人を害する存在に対処出来るのは、自分が見える範囲では自分だけだと気づいた時から、積極的に呪霊祓い呪霊玉を取り込んでき来たのではなかろうか?
つまり今の時点で既に10年近い月日、毎日では無くともかなりの頻度で呪霊玉を口にしてきた筈である、そりゃ精神病むわ。
ちなみに呪霊に対して噛み付き猫キックを攻撃方法の一つとしている俺ではあるが、吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みして居る……と言う程の不味さは味わって居ない。
せいぜい酒を呑みすぎてガッツリ嘔吐した後に口を濯いだ水の味……程度である。
この差は恐らくは呪霊に直接噛みつくか、呪霊玉と言う濃縮物質を口にしているかの違いだろう……まぁそんな事をわざわざ彼に教える必要は無いが。
「でも、この方法を私が行うとなると反転のアウトプットが必須になりますが……ソレはハードルが高過ぎるのでは?」
泣きじゃくりながらも色々と考えを巡らせていたらしく、未だ涙を拭っては居ないがorzの姿勢から顔だけを上げこちらに視線を向けてそんな疑問を口にする。
「にゃーん」
ソレに対して俺は自身の舌を噛み千切り吐き出し、口を開いて反転術式で自分の舌を治して見せる。
「!? そうか、味を感じるのは飽く迄も舌! ならば呪霊玉を取り込む際に舌を切ってしまえば味は感じない! その上で飲み込んだら反転術式で舌を治せばよい!」
ついでに口を開いたままで口の中で反転術式を回して見せる、怪我が無くても自身の身体を代謝させる使い方ならばノーコストで反転を回す事は出来るのだ。
「口の中で反転術式を回す!? ソレが出来ればアウトプットが出来ずとも、呪霊玉の不味さは感じ無いと言う事ですか!?」
「ぎゃにゃー!!」
俺が人間だったなら多分両肩をガシッと掴む程度で済んでいたのだろうが、今の俺は未だ完全に成長仕切ったとは言えない小さな猫である、ソレをガシッとすれば当然の様に骨格や内蔵にダメージが入る……まぁ反転術式で治るけど。
「あ! ああ、すみません、つい……でも、コレで長年の苦しみから開放される可能性を見出す事が出来た! 三級や四級はもう慣れてしまったのでまぁ問題無いですが、二級以上は未だキツイ物がありますからね、反転を会得するまでは硝子に頼んでみますよ」
俺の反転アウトプットは一日の回数に制限が有る上に、死んでさえいなければ一発で完全回復出来る破格の効果が有る。
ソレは他の呪術師にとって命綱にもなる物なので、自分のQOL改善に使うのは勿体ない……と生真面目な彼は考えたのだろう。
ただしその言葉の中に新しい発見が有ったのは見逃せない、どうやら呪霊玉は等級が上がれば上がる程にその味の酷さも上がる……らしい。
まぁ呪力が濃縮されたが故の酷い味だと言うならば、より高い呪力を持つ呪霊が酷い味になるのも有る意味当然と言えば当然か?
「にゃー! にゃー!」
ならばせめて一級呪霊と思しき痴漢呪詛師の呪霊に関しては、呪霊玉に反転を施してやろうと言う意味を込め二回鳴いて否定の意を示す。
「……? ああ、そうですね、今回の核であろう呪詛師の呪霊に関してはお願いします」
一瞬考えてから、俺の意図に気がついたらしい夏油は、立ち上がりながら制服の袖で涙を拭い、そんな言葉を言い放った。
そこには今までの義務的に浮かべていたであろう笑みは無く、年相応の将来に希望を見出した若者特有のギラついた
うん、コレで彼が精神を病んで闇へと落ちる可能性をまた一つ潰すことが出来た……ら良いなぁ。
恐らくは俺のこうした気遣いに対して、メロンパンの野郎がきっと茶々を入れてくる。
と言うか呪術に限らず面白い事が大好きなメロンパンは、間違いなく俺と言う存在に対しても目を付けて来るだろう。
流石に五条悟の飼い猫となった俺に直接的な介入をする事は無いかもしれないが、総監部のメロンパンと繋がっている人物が今までの様に、ホイホイ簡単に動かなくなったのであれば、直接総監部メンバーをメロンパン入れにして操っても不思議は無い。
つか、あのメロンパンは死滅回游を起こす為に無為転変という魂を改ざんする術式を持つ呪霊と、呪霊操術を持つ術師が生まれるまでただ只管に待ち続けていただけでは無いだろう。
無為転変が無けりゃ現代人を術式に覚醒させ
その事を考えると、呪霊操術を持つ者が産まれたならば何時でも身体を乗っ取れる様に、様々な方法で圧を掛け続けて居たのではなかろうか?
メロンパンが産まれてから、原作時期までの間に呪霊操術を持った者が夏油しか居なかったとは考え辛い。
魂を弄くり回すと言う術式を持った真人は原作時点で『極めて若い呪霊』だと明言されていた筈だが、アレも有史以来……いや呪霊と言うモノがこの世に存在する様になって以来一度も現れた事の無い存在なのだろうか?
死滅回游とソレを経て人類と天元の同化を行うと言う最終目標を達成する為には、無為転変が必須のハズだが……その辺はどうなんだ?
あー、こうして呪術廻戦の世界に転生すると分かっていたならば、もっと考察サイトを読み込んだり、ファンブックとか小説版とかゲーム版とかにも手を出しておけばよかった!
俺は原作コミック版の範囲しか知識は無いし、なんなら原作コミックでも
なので本編の範囲で起きた事は把握して居るが、外伝的作品に登場するキャラクターは偶に読んでた二次創作の類に登場する場合を除いて、ほぼ知識は無いと言って良い。
もしかしたら今回の痴漢呪詛師の呪霊もそうした外伝作品に出てきたモノなのかもしれないが、連載当時のコンプラ事情から考えると可能性は低い気がする……某鬼の手を持つ教師が連載されてた時代なら有ったかもしれないがね。
そんな事を考えながらも夏油と共に獣道を進む事しばし……道中現れた三級や四級と思しき呪霊は即座に呪霊玉になり、彼はソレを『慣れた』と言う言葉の通り平気な顔で取り込んで行った。
そうして周囲の木の枝に朽ちかけた縄や、割と真新しい縄がぶら下がっているのを見かける様になり……この辺りが首吊り銀座と呼ばれる場所だと一目で分かる異様な雰囲気の場所へとたどり着くが、ソコに目当ての呪霊の姿は無い。
「奇怪しいですね。呪霊は通常産まれた場所から大きく動く事は無い筈……いや、我々は既に奴の術式に掛かっている!? ポチさん恐らく貴方は狙われない! 最悪の場合のフォローを!?」
言葉の途中で何らかの気配を察知した夏油は咄嗟に大きく前方へと身を投げ出す、
「ぁぁぁあ
直後地面に刻まれる小規模なクレーターと、その中心に存在する生前の自堕落が見て取れる様な絵に書いたデブいキモオタの姿……その身に纏う呪力は間違いなく一級呪霊のソレを大きく越えた特級レベルのモノだった。
……ここで等級詐欺かよ!? と俺は声を大にして言いたかったが、残念ながら俺の口からは猫の鳴き声しか出ないのだった。