畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
御主人が『現代最強の呪術師』と呼ばれているのは、術式や呪力の流れを読み解く六眼と言う特異体質を持ち、繊細な呪力操作が必要で適当に使うと直ぐに呪力切れを起こす筈の無下限呪術と言う術式をセットで持っているからである。
反転術式を身に着けるまでは常に無限を纏うなんて真似は出来ず、無限の防御を長時間纏っていれば、ソレだけで脳が疲弊していたのだが、反転術式を得た今は莫大な演算で脳を痛めつけても反転術式で直ぐに回復すると言う状態で常に無限のバリアの中にいる状態だ。
故に御主人を倒そうと思えば、反転術式のアウトプットで無下限呪術を発動している呪力自体を消滅させるか、パパ黒の持つ天逆鉾の『発動中の術式の強制解除』と言う効果を持つ呪具でも使うしか無い。
では今回の戦いが直哉に全く勝ち目が無い勝負かと言えばそんな事も無いのだ。
「直哉……まさかとは思うが、お前が持っているその十手は、天逆鉾の写しでソレも真依が作ったと言うまいな?」
酒の飲み過ぎか、それとも酒が足りないのか、はたまたあまりの驚きに依ってか直毘人氏が震える手で、直哉が右手に持っている握りを含めて長さ45cm程の時代劇なんかでよく見る十手を指差しそう問いかける。
「元々はソレを目指して素材を作ろうとしたんやけど、流石に真依ちゃんの今の呪力じゃぁ足らんかってん。せやけど似たような効果出せへんか試行錯誤した結果出来たんが、この『海楼石の十手』やねん。効果はまぁ見てのお楽しみちゅーこって」
呪具に頼るのはダサいと言って憚らない直哉では有るが、ソレは飽く迄も『呪具が無いと戦えないのは呪術師としてダサい』と言う意味であり、特定の呪霊に対して特効と成る様な呪具を使わないのは間抜けのやる事だとも以前伏黒家で会った時には言っていた。
そう言う意味では呪術師では無いパパ黒や真希嬢が呪具に頼るのは当然の事であって決してダサい訳では無く、真依嬢の場合は『自分で作った呪具を使う分には頼ってる訳では無い』と言う解釈らしい。
原作と比べれば大分真っ直ぐな直哉では有るが、この辺の憎まれ口は生来のモノなのか、中々抜け無い部分がある。
「取り敢えず、その十手に付与された術式で俺の無下限を抜けるかどうかは、未だ試して無いからハッキリは分かんないと言っておく。通らなかった場合にゃ流石にワンサイドゲームに成りすぎるから殺しは無しにしておくぜ?」
「ほなまずはコレを当てる所までの勝負をせなアカン訳やね! 俺かて伊賀流をしっかり学んだんやから、術式込みの体術勝負で遅れは取らへんよ!」
高専の授業ならば兎も角、呪術師同士の手合わせに始まりの合図は無い、不意を突かれて倒れる様なら、ソレは油断したモノが間抜けだっただけだ。
僅か1秒の間に超高速で動き回り始めた直哉と、その動きを明確に見切って攻撃を打たせる隙を作らないと言う変則的な
普通ならばコレが明確に勝負と成っている事を見切れるモノはほんの僅かな武芸の達人級の者達だけだろう。
けれども此処に居るのは、原作では木っ端扱いだった躯倶留隊の者達を含め、呪力無しの体術ならば十分に達人の一歩手前、妙手と呼ばれるのに十分な腕前を持つ者達だ。
二人がどれほど高度なやり取りをしているのかを見切れない者は、伏黒恵と禪院真依を含めて一人も居ない。
とは言えその2人や俺は飽く迄も高度なやり取りが行われていると言う事が分かる程度であり、全ての動きの意味を読み解く事が出来ているのは極々一部だろう。
「あた!?」
と、そうしている間に、直哉が横薙ぎに振り抜いた十手を御主人が腕で受け止めた。
「どうやらコレで無限を突破する事は出来るみたいやね、ほな此処からはガチでの殺し合いや!」
「ちょ!? ソレ思った以上に厄介だぞ! 触れた呪力を乱すって触れてる間だけじゃねぇのかよ!?」
大きく後方へと飛び退き間合いを確保しようとする御主人と、投射呪法の速さを使ってソレを追い攻撃を繰り出す直哉。
蹴りや十手以外の打撃も御主人に通っている様子から察するに、『海楼石の十手』と名付けられた呪具の『触れた呪力を乱す』効果は触れている間だけでは無く、どれほどの長さかは分からないが多少は効果が残るモノらしい。
こうなると御主人は十手だけに気をつければ良い訳では無くなり、直哉の方も投射呪法のデメリット押し付けを御主人に対して行う事が可能になる……のだが、打撃が入っても御主人が普通にカウンターを入れたりして殴り合ってる感じだ。
恐らくは直哉の仕掛けた投射呪法を相手に押し付けると言う効果を、御主人は六眼でしっかりと読み解いたが故に1秒を24分割した動きを作る事で対応出来ているのだろう。
流石は天才と呼ばれた者同士の戦いと言って良い勝負である、此処までの戦いが出来るのは俺が知る限りでは、夏油と御主人の術式無しの体術縛りの勝負くらいだ。
実際、御主人はこの勝負を楽しんでいる様子で、口元が僅かに持ち上がっている。
「くぅ……悟君の突きごっつぅ痛いわ。自分でも気ぃ失わへんのが不思議なくらいやわ!」
「お前の打撃だって一発貰ったら4、5発貰った見たいなダメージ来てんぞ!」
双方共に術式を用いた打撃を展開して居るのだろう、御主人は蒼で、直哉は投射呪法で一発の打撃に複数カットを差し込む事で威力を強化しているのだ
互いに1級呪霊ならば既に祓われているだろう良い打撃が入っており、ふたりとも口元から血が流れている。
あの出血量は口を切った位で出る様な量じゃない、恐らくは2人とも内蔵の一部に結構深刻な損傷を得て吐血に近い状態に成っているに違いない。
御主人の方は自前の反転術式でダメージを消す事も可能な筈なのだが、ソレが出来ていない事から察するに、海楼石の十手の効果で呪力が乱され普段通りに反転術式を回す事が出来て居ないのだろう。
多分、御主人が六眼持ちで異常と言っても良いレベルの呪力操作能力が無ければ、あの十手で一発殴られたなら暫くは普通に呪力に依る身体強化すら出来なくなるんじゃないだろうか?
俺の記憶が確かなら『海楼石』と名前を付けた砂鉄は結構な量が構築され、ソレを十手以外にも幾つかの武器に加工していた筈だし、対呪詛師用の呪具として量産すればかなり禪院家の底上げにつながる様に思える。
「真依、アレはお前の術式で量産が効くモノなんだな?」
どうやら直毘人氏も同じ結論に至った様で、別の味のストロングゼロを開けながら真依嬢の側へと歩み寄り、そう問いかけていた。
「素材は大量には無理ですが、毎日一定量なら構築出来ます。後は使う人に合わせて呪具師の方に加工して貰えば、同じ効果の呪具を大量生産は無理ですけれども、量産自体は可能です」
「……甚爾から呪力量の強化と術式の再評価の話は聞いていたが、お前は前線に出る呪術師では無く、呪具を作る呪具師として学ぶ方が確実に禪院家の力になるだろう。どうだ今からでもソッチの道を目指さないか?」
「有難うございます、でも私も呪具師であると同時に呪術師でも有りたいと思ってるんです。真希の足手纏いにだけは成りたくないから……最低限自分の身は自分で守れる程度には強くなります」
「つまり既に構築術式で素材を作るだけで無く、呪具師として呪具を作る事も学び始めているのだな? ならば何も言うまい……だが余りにもアレな呪具を作って東京高専に居るアレな呪具師と同じ様な扱いを受ける様な事だけはない様にな」
……どうやら組屋の『特級呪具師』と言う肩書きは、呪術御三家の当主レベルでもドン引きする様なヤベー呪具師と言う扱いらしい。
「くっそ! マジでソレ厄介だわ……やっと効果が抜けて来たけど。1発につき大体10秒は呪力が乱されるって感じだな。俺じゃなけりゃその1発で術式どころか身体強化すら出来ねぇ状態になんぞ!?」
「コレは買いやな、評価額はお父ちゃんと相談せなアカンけど、隠し札として懐に呑んどくにはちょうどええ感じやしな」
「おーし、んじゃソロソロ勝負付けさせて貰うかぁ……やっと呪力が練れて反転回せたからこっちはダメージ抜けてるし、時間かけて殴り合いすんのが安牌なんだけど……ソレじゃァお前の為に成らねぇだろうから……こっちも切り札見せてやるよ……領域展開」
「何!? 五条悟は領域展開までモノにして居るのか!?」
御主人が領域展開を使ったのは、俺が知る限り米軍基地での対リチャード・ウォン戦のみであり、あのときはぶっつけ本番だったと後から聞いた。
なので今の時点で御主人が領域展開を修めている事を知るのは、恐らく俺だけだったのだろう。
黒い半球が両者を覆いおよそ一分程……ウォンを相手にした時にはコレほどの時間は掛かっていなかった事から察するに、中では直哉が秘伝・落花の情でも使って領域対策をしているモノと思われる。
「ふぅ……粘ったなぁ……ポチ、復活させて上げてー。割と真面目に手加減とかさせてくれねぇレベルの相手だったわ」
が、決着は着いた様で御主人が俺を呼ぶ、見ると脳が焼き切れた状態らしい直哉の身体から魂が抜けかけている……医学的には完全に死んでいるのだろう。
「拡張術式『泰山府君の祭』」
未だ魂がこの世にあるこの時点ならば、ストックした命を一つ捧げる事で、彼を復活させるのは容易い事だった。
「ふぁ!? 俺、今死んでたんか……いや、でも、もしかしたら……うん、有難な悟君、俺も領域展開目指すわ! 秘伝・落花の情じゃぁ余程呪力差の有る相手じゃないと耐えきれんわ」
息を吹き返し飛び起きた直哉は、自分が次に目指すべき頂きを見つけた登山者の様な笑顔でそう言うのだった。