畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
夏油のQOL改善計画から1ヶ月程が経った、まだ彼自身は反転術式の習得には至って居ない様だが、家入への相談はしたようで2級以上の呪霊を捕獲した際には、彼女の反転で発生させた正の呪力に包まれた呪霊玉を取り込んでいる様である。
「にしても失礼な話だと思わない? ポチの呪力はもっと美味しかったとか言われたよ」
御主人も夏油も任務で出掛けてる今日は硝子と教室で座学(俺も受けている)だったのだが、休み時間に入るなり愚痴られた。
「そりゃ自殺の縛りが前提の呪力量で発生した正の呪力と、私のカツカツの呪力じゃぁ質が全然違うのは当然じゃない! なのにあのボケカスは思いっきり失望したような面でそんな事言ったのよ! ふざけんなってーの!」
缶コーヒーを飲みながらそう言う硝子に対し
「まぁまぁ……呪霊玉の味には夏油君もかなりストレスを感じて居たみたいだしねぇ、吐瀉物を処理した雑巾をそのまま丸呑みする様な味だとか……慣れたと言ってもストレスを感じない訳が無いからなぁ。ソレも硝子さんを信用したから打ち明けたんでしょう?」
俺は彼女を刺激しないように可能な限り静かな口調でそう返事を返す。
どんなに理知的な女性でも、人に愚痴を吐く時は解決策を求めている訳では無く、同意と共感が欲しいのだ……と
否定はしては行けない、解決策を論理的に提示するのも違う、故に少しだけヨイショする感じの回答がベストアンサーな筈だ。
「つかポチ、人間語大分上手になったよねぇ。もう殆ど普通に話せてんじゃん。最初の頃はな行がにゃ行だったのに、ソレも無くなったしね」
クスクスと笑いながらそういう彼女は、普段の少しお硬い雰囲気とは違う年頃の少女らしい笑みを浮かべていた。
「猫の口でも慣れれば話せると分かったのは本当に有り難い、他の人間との共同任務や補助官の皆さんとのやりとりも円滑になったしな」
喋れる様に成った当初は『やはり呪霊だったのでは?』と疑われたりもしたが、猫好きの補助官の一人が『実家で飼ってる猫のしゃべりますよ』と言った事で呪霊疑惑は一度終息をみせる。
その後御主人が五条家の者に命じて調べさせた所、どうやらこの世界では稀にではあるが知恵を持つ動物が猫に限らずそれなりに居ると言う事が分かった。
更にはそうした猫を飼っている政治家の一人が『知的動物の法的人格権』などと言う法案を本気で練っている事まで掴み、五条家としてもソレをバックアップすると当主権限で御主人が命令していたのは良かったのか悪かったのか……。
兎角『猫の法的人格権』この言葉を聞いたら、猫好きで漫画好きならば恐らく思い当たる作品がある筈だ……『ラーメン赤猫』だ。
人の言葉を話し、毛を落とす事の無い様に忍者猫の訓練を積んだ猫達が営むラーメン屋を舞台にしたハートフルコメディ。
原作はジャンプの配信アプリで毎週追いかけてたし、単行本も電子版では有るが全巻買っていた、アニメも1期はしっかり全て視聴し、二期を楽しみにしていたのだがその放送前に命を落してしまった事が悔やまれる。
「それにしても喋る猫が思ったより沢山居るってのは驚いたね、流石に呪術が使えて呪霊が見える猫はアンタ以外には居なかったみたいだけれど」
会話が出来る猫は本当に極々一部で、殆どの猫は人間の言っている事はある程度理解しているが、基本的に自分の欲求が充足されていればわざわざ人間の言葉を使ったりはしない。
故に人間の言葉を話す猫と言うのは何らかの『満たされない思い』を持っているか、逆に『何か為したい事が有る』場合に限られるという。
ラーメン赤猫でも『猫が人間の言葉を理解して居ると人間が知られると、忍者猫の諜報活動に支障が出る』と言う理由で、猫は所詮猫で有り人間の言葉など分かるわけが無い……と忍者たちが流布したと言う設定になっていた。
こちらの世界では猫に限らず『知的動物』に対して『法的人格権』を付与する法案が議論されている様なので、将来的には猫のラーメン屋以外にもカフェを営むシロクマやバーを営むグリズリーなんかが居ても不思議は無いのかもしれない。
「ラーメン……食べたいなぁ」
そんな事を考えていると俺の口から思わずそんな言葉が漏れ出した。
「ラーメン? ああ、そっか、アンタって元人間な上に味覚は元のままなんだっけ? なのに猫の食事しか出来ないのは辛いね。でもさ反転術式が使えるなら腎臓やら心臓やら悪くしてもなんとかなるんじゃない? いっそ死んでリセットでも良い訳だし」
ちなみに前世の俺は24時間営業のロードサイドに店舗を展開していた、クセになる味な某豚骨ラーメン屋を贔屓にしており、癌の告知を受けるまでは週3で通っていたものだ。
「いやぁ流石に其の為に救えたかもしれない誰かの命を無駄にするのは気が引けるなぁ」
猫の身体反転術式を使った内蔵治療は恐らくやろうと思えば出来なくは無い、原作でも御主人が脳を常に呪力の自然回復の範囲内で反転術式を使い治療し続ける……なんて事をしていた。
俺の場合は術式そのものに反転術式が組み込まれている関係もあって、自分で自分を治す分には殆どノーコストで治療が出来る。
だが全身を完全にリフレッシュする目的で『死んでリセット』は、もしその一回分のストックで誰かに
「ソレ言ったら私なんかタバコ吸う度に肺に反転回して綺麗にしてるよ? 呪力の無駄って言われたらソレまでだけど、コレが無いとこの年で人の命を預かるストレスなんか耐えきれないからねぇ……」
猫の人間に比べると小さな肺では副流煙も割と深刻な問題になる事もあって、家入は俺のそばではタバコを吸わない様に気を使ってくれている。
命を預かると言う点では俺も反転術式のアウトプット要員として数えられているので他人事では無いが、多分彼女は彼女で俺の存在が余計な
原作では唯一無二に近い反転アウトプット要員で多くの命を救ったが、ソレ以上に救えなかった命を見送った人物であろう。
だが俺が居るこの世界線では、彼女が救えないと判断した命を俺の反転アウトプットが救ってしまうのだ。
人の命が助かると言う事だけを見れば良い事なんだろうが、本来の原作ならば取りこぼした命の一つ一つが彼女の学びとなり、より多くの人を救う技術を手に入れる礎に成っていた筈である。
にも拘らず俺反転術式アウトプットは回数制限は有るとはいえ、あまりにもインスタントに人の命を救え過ぎるのだ。
故に彼女は何処かで自分の事を『猫の下位互換』と卑下していたりはしないだろうか? そんな不安が家入と話して居ると時折脳裏を過ぎる。
「にしてもさぁポチ……あんたもうちょい話し方崩さない? 見た目は普通に可愛い猫で声もサトシのピカチュウみたいな可愛い声なのに、口調がおっさん臭いから認識がバグるのよ」
俺の心配を他所にもう何度言われたかも分からない話題を家入は振ってきた……そう今生の俺はCV:大谷◯江なのだ!
せめて同じピカチュウでも迷探偵ピカチュウの方なら未だ良かったに……何故俺の声はトニートニー・チョッパーなんだ!
「いや……口調はもう前世の影響が大き過ぎて変えようは無いだろう。無理に変えようとすると今度は人間語を喋る事すら難しくなる気がする」
猫の口で人語を話すのはそれ相応に頭を回す必要が有る、なので口調を変えるとなると口に出す言葉を一々考えてから話さねばならないので、通常よりもかなり面倒な作業になるだろう。
いや、必要と有ればTPOに合わせた口調にする事に否は無いがね?
ちなみに前世の俺は年相応の渋い声の持ち主で『ぶるぅぅぅぁぁぁああ』と言えば笑いが取れたと言えば、どんな声だったかは想像が着くだろう。
まぁ癌で肺をヤられてからは、そんな声もろくに出せなくなっていたがね。
「あー、なんかそんな話してたらラーメン食べたく成ってきた……けどこの辺に簡単に行けるラーメン屋なんか無いのよねぇ。買い置きのカップ麺未だ残ってたかしら?」
……ラーメンが食べたいのに食べれない猫の身体が今日ほど恨めしいと思った事は無い。
もしもこの世界が本当にラーメン赤猫ともクロスオーバーしていたならば、いつか件の店を見つけて賄い用の料理を食べに行ってやる!
スマホが未だ世に出回っていないこの時期にはあの店は未だ開店前だろう……とりあえずは今御主人から貰ってる餌で我慢しよう……うん、贅沢を言いだしたらきりが無い。
「さて、そろそろ休み時間も終わりだな。次の授業の準備をしておこう」
呪術高専も呪術に関する授業ばかりしているわけでは無い、一応程度ではあるが一般的な国語や数学と言った授業も申し訳程度にはあるのだ。
次は数学か……理数系は決して苦手では無いし、一応前世で大学まできっちり卒業している身だ、復習の意味を兼ねて授業はちゃんと受けて置かないとな。
「はぁ……ダル……でもまぁ任務に行かされるよりは平和でいっか」
机に突っ伏しながらそんなセリフを吐く家入を横目で見ながら、俺は担当教師が来るのを静かに待つのだった。