畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
クリスマスが過ぎ高専も冬休みに入った、高専の冬休みは一般的な学校の冬休みよりも長めに取られている。
授業が無いと言う意味では夏休みもちゃんとあるのだが、夏は呪霊が湧きやすい繁忙期で学生にも容赦無く任務が割り当てられる為、実質的に夏休みは有って無い様なモノだ。
その埋め合わせと言う事なのか、呪霊の少ない冬の期間に長い休みが用意されていると言う事である。
そんな冬休みに入って数日後……
「真逆、悟から皆でテーマーパークに誘われるとはね。にしても忍者村とは……中々に趣味が渋いね」
「悟の奢りで一泊二日の旅行ならアリだよね、まぁ普通なら男二人に女一人で旅行とか身の危険を感じる奴だけど……二人とも私相手にそ~言う真似する様な奴じゃぁ無いもんね」
「いや、俺の趣味じゃぁ無いぞ。ポチがどーしても行きたいっておねだりしてきたからさー。ついでだし皆で行ってみるのも良いんじゃないかなーと思って誘ったわけ」
五条家の所有するリムジンを五条家の者が運転して一路甲賀忍者村を目指していた。
「へー、ポチの趣味なんだ。それとも前世での思い出の場所とか? 子ども居たって言ってたし、連れて行ってあげたことがあるとか?」
「いや……前世の俺は仕事人間でね、子どもを何処かに連れ行ってやった思い出は……一回だけ下の子がどうしてもと言うからネズミーランドに行った事が有ったかな?」
前世の家庭人としての俺は完全にろくでなしだったが、ソレが許されたのは妻も子ども達も皆猫好きで、不幸な猫を一頭でも減らす為の仕事をしている……と理解してくれていた事が大きいだろう。
高専から忍者村へは自動車でも新幹線を乗り継いでも4時間以上かかる長旅だ、電車で行くならば俺はケージの中にずっと閉じ込められている事になるため、わざわざ京都から五条家の人を呼んでくれたのだ。
ちなみに運転手を務めてくれる男性は、ビシッとした黒のスーツに黒いサングラスの偉丈夫で、五条家の身内と知らなければ帝愛グループの社員かな? と思える様な装いである。
「まぁ、取り敢えず現地に着くまでは暫くかかるし……一狩り行こうぜ?」
呪術師にとって移動時間を潰す道具は割と重要である、無論車内で眠り少しでもコンディションを整えるのに時間を使う事もあるが、眠る様な状態では無い時もある。
そんな時の為に御主人も夏油も俺もPSPを常備しており、それぞれがそれぞれの趣味のゲームをやっていたらしいのだが、12月に入って状況が一変した……モンスタハンターポータブルの発売である。
御主人が口にした『一狩り行こうぜ』の売り文句で一世を風靡した名作アクションゲームは、御主人も夏油も……後のシリーズの経験者である俺も、ハマりにハマっていた。
任務の為の移動時間だけで無く、任務が無い日には休み時間や放課後も二人と一頭が集まってマルチプレイで盛り上がっていたのだ。
となると一人だけハブになるのが気に食わなかったらしい家入もそれらを購入し、混ざってくるまで然程時間はかからなかった。
ちなみにそれぞれの得物は御主人が大剣、夏油は双剣、俺はランスで、家入はヘヴィボウガンを主に使っている。
……猫の手でPSPを操作するのは中々に大変だが、やってやれない事は無い。
そんな感じで4時間ちょっとの道中もあっという間に過ぎ去りやって来ました甲賀市。
今日は先ず市内のペット同伴OKな温泉旅館で一泊し、翌日の朝から忍者村へ行ってある程度遊んでから寮へ帰宅……という予定である。
にしても……旅館の名前まで『甲賀流忍の宿』なのは、とことんまで甲賀忍者を観光の目玉に据えていると言う事なのだろう。
「そーいや俺、任務以外でこうしてどっか泊まるのって始めてだわ。よし、先ずひとっ風呂浴びたら卓球しようぜ卓球!」
「温泉旅館に卓球は付き物……全力で叩き潰してあげるよ悟」
「流石にゴリラ・ゴリラ相手に卓球はしたくないなー。あ、ゲームコーナーあるじゃん、私はポチと一緒にそっち行くから二人は二人でご自由にどーぞ」
なお当然と言えば当然だが部屋は3部屋取っており、御主人と夏油と俺で一部屋で家入と五条家の人は別室である。
食事は3人と1匹そろって食べれる様に手配した上に、なんとここでは猫や犬といったペット用の料理まで用意出来ると言う至れり尽くせりっぷりだ。
御主人達は近江牛のすき焼きに舌鼓を打ち、俺にも近江牛のタタキが振る舞われた……んまかった。
そうして色々と騒がしく一泊し、翌朝はオープン少し前には忍者村へと着ける様に早めのチェックアウトを済ませる……とは言ってもこの辺の手続きは五条家の黒服がやってくれた訳だが。
「ここが甲賀流忍者村かぁ……テーマーパークって言うにはちょっとしょぼくね?」
「悟、そう言う事は思っても口にしないのがマナーだよ? と言うか忍者の里ならソレと分からない様に偽装するのが当然だろうし、そう言う意味では雰囲気があると私は思うがね」
「へー、貸衣装なんてあるんだ。他の施設は……からくり屋敷に手裏剣修行場、忍術道場か。ポチの目的だった忍猫ショーは午前の部が11時で午後の部が2時からみたいだね」
黒服が入場料を払い中へと入ると3人はそれぞれ思い思いの言葉を口にする。
確かにテーマーパークと言うと遊園地の類を想像してしまいがちで、ソレを期待していたならば御主人の意見が出るのも理解出来るし、ここのテーマを考えれば夏油の言葉にも納得だ。
そんな二人のやりとりを他所に家入は無料配布のパンフレットに目を通し、どういう風に回るのかを考えているらしい。
「今回の旅行の費用は全部悟……てーか五条家持ちなら、昼はこの忍者BBQって奴でいいよね? カレーとかうどんとかもあるみたいだけど、そんなんじゃあんたらは足りないでしょ?」
と、普段呪霊相手に切った張ったをしている呪術師の三人だが、今は始めて来たテーマパークを楽しもうとしている年頃の子どもの
肉体に多少引っ張られ前世の晩年程に老成した感覚は失せているが、ソレでも70を越えて彼らと同年代の孫まで居た身だ。
こうして年相応の青春を謳歌している姿を見ると、少しだけ原作で五条先生が言っていた「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね」というセリフの重みを感じてしまう。
恐らくは原作の彼等はこうした普通の青春を楽しむ余裕は殆ど無かったのではなかろうか?
ソレでも確かに有ったであろう『青春の輝き』が五条悟と言う人物の人生を決めてしまったのかもしれない。
「……悟」
「……ああ、見られてる」
俺がそんな感慨に耽っていると、唐突に夏油と御主人様の表情が呪術師のソレへと変化する。
呪霊の気配……呪力らしきものは感じないが、どうやら人間──もしかしたら呪詛師──の視線を感じたらしい。
「ほほぉ……流石は五条家の当主様とその御学友、この距離で儂に見られている事気が付くか」
そう言いながら唐突に巻き起こったつむじ風と木の葉の舞、ソレが収まった所に姿を表した忍び装束の老爺。
「お初にお目にかかる五条殿と御学友の皆様、儂はここの名誉理事を務めておる二十四代目猿飛佐助と申す。忍びと呪術師は古来より切っても切れぬ関係故、一言挨拶をと罷り越した次第、今日はごゆるりと楽しんで行って下され」
猿飛佐助と言えば真田十勇士の筆頭として有名な『架空』の甲賀忍者だった筈だが、もしかしたらこの世界では実在の人物だったのかもしれない。
「ご丁寧にご挨拶有難うございます、猿飛佐助殿。今日は五条家の当主としてではなく、飽く迄も一学生として遊びに来ただけですんでお気遣い無く……」
ピリ付いた表情のままでそう返す御主人。
にしても呪術云々を他の一般客も居る様な場所で口にしても良いモノだろうか? と思ったら、帳とはまた違う結界の様なモノが貼られている事に今更ながらに気が付いた。
「では、名誉職とは言えそれなりに仕事がありますのでコレで失礼致す。ああ、帰りにでもそこの土産物屋に寄って下され、呪術高専東京校の学長とは旧知の仲でしてな土産の一つも持たせねば不義理になる」
そう言ってから唐突に……夏油と行ったあの痴漢呪霊の様にフッと姿を消した猿飛佐助老。
「……悟、世の中って広いね。あの御老人は呪力や術式無しの純粋な体術で戦ったとしたら勝つビジョンが見えなかった」
「ああ、忍者ヤベーな。呪力も持たないパンピーなのにあそこまで強く成れるモンなのか」
戦慄と言う表情があるなら二人が浮かべているのがまさにソレだろう、呪術師として一般人を守る立場にあると自負する二人は、術式や呪力を使わずともチャンピオンレベルは兎も角、凡百なプロの格闘家になら負けないと言う自負は有った筈だ。
にも関わらず、先程まで目の前に居た老爺には呪術を使わない限り手も足も出ない……と、その立ち振舞だけで思い知らされたのだ、最強を自負する二人には中々に得難い感覚だったのだろう。
「……私は東京に戻ったら、冬休み中は古巣のジムで一から鍛え直すよ。呪術を使わない格闘技を磨けば、間違いなく底上げになるだろうからね」
「……俺はあの爺さんに師事して貰える様に頼んでみるかな? 五条家伝統の体術はきっちり修めてるけど、あの爺さんは間違いなくウチの指南役より上手だわ」
俺が忍猫としての技術を身に着けようとした事に端を発した旅行は、どうやら原作時点で最強だった男達二人を更に強化するフラグになった様だ。
「ねぇ、どーでも良いけど先ずは貸衣装屋でさっさと着替えない? 楽焼の絵付けとかやるなら絶対服汚す事になるだろうしさ」
そんな二人を他所に、さっさと移動しよう時間が勿体ないとばかりにそういう家入、この辺はやはり男女の意識差なのか、それとも戦闘職と後方支援の差なのかは分からない……が、彼女に追い立てられる様に二人は素直に貸衣装屋へと移動するのだった。