畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
忍者村の中で猫は俺だけで無く、恐らくは忍猫だと思わしき猫たちが普通に放し飼いにされていた。
その御蔭も有ってなのか、何処の施設でも猫を連れての立ち入りお断り……なんて事は飲食店以外では言われずに済んだのは有り難い。
昼飯も忍者BBQは野外のBBQスペースで食材を焼いて食う形式だったので、俺がハブにされる事も無かった。
ちなみに午前中はからくり屋敷を探検し、忍術博物館を見学し、手裏剣道場で手裏剣を投げまくって終わった、忍猫ショーは午後の回を観に行く予定である。
「いやー、からくり屋敷は割と楽しめたなぁ……ウチにもあー言う隠し通路とかあるけど、やっぱ知らん所の奴は一目じゃ気付けないもんだなー」
「御三家の本家ともなると、忍者じゃなくても隠し通路なんてモノがあるのか……まぁ戦国の城でも万が一落城した際に落ち延びる為に、秘密の抜け穴が有ったなんて場所もあるとは聞くし、そういうモノなんだろうね」
「御三家って平安時代からずっと続いてるんでしょ? ソレから今までずっと建て直しとか無かった訳じゃぁ無いだろうし、今の建物って何時の時代の奴なのよ?」
「今の母屋は築十年経ってないな、俺がガキの頃に癇癪起こして術式暴走させて、いっぺん屋敷をふっ飛ばしてるからなー。まぁ呪術師の家系なんて大概どこも似たような事を何代かに1回はやってるし、本気で古い屋敷が残ってる家なんて無いんじゃね?」
事も無げにそういう御主人だが一般的な住宅ならば兎も角、呪術師が生活する事を前提に建てられた家屋には、呪術的な防御とかそういうモノを十全に配慮した造りに成っている筈である。
にも拘らずそういう事が大半の呪術師家系でそれなりの頻度で起きるのは、成長後に一級や特級に成れる様な災害規模の呪力を持つ者が相手では、どんな呪的防備を固めた建物も耐えられないと言う事なのだろう。
ぶっちゃけ呪術高専の建物も上モノだけなら、俺が自傷に自殺の縛りを含め複数の縛りで呪力の出力を強化した上でオーバーロードさせた『自爆』なら、恐らく消し飛ばす事は出来る……と思う。
まぁ残機を一個使った上で最大火力がソコまでなので、俺の術式と呪力量ではどう頑張っても特級には届かず、イケて一級相当と言った所で収まるのだろう。
「……呪術師の家庭って子育ても命懸けなのね」
「逆に呪術師の家系ですらソレなら、一般家庭出身でやらかさなかった私達の方が奇跡なのでは?」
一般家庭のソレとは明らかに規模が違うであろう邸宅をふっ飛ばしたと言う御主人の言葉に、二人はあからさまにドン引きした表情でそんな感想を漏らす。
「ポチは前世で子育て経験あるんだろ? ネズミーランド連れってたのが下の子のわがままとか言ってたし少なくとも2人以上子ども居たはずだよな?」
二人の反応に分が悪いと判断したのか、御主人は俺に話題をふることで話の転換を試みる。
「御主人には前に話したと思うが、
コレは謙遜でもなんでも無くほぼ事実だ、女房が身重の時も家事をろくに手伝いもせず、産まれてからも夜泣きする様な時間帯には、大概は野良猫の捕獲の為に駆けずり回っていた。
生き物を相手にする仕事である以上はカレンダー通りの休み等取れる筈も無く、たまの休みには1日中寝ているか、起きてもパソコンをイジったり、そのためのパーツを漁りにジャンク屋巡りに時間を費やしていたりしたもんだ。
そんな家庭人としては完全なダメ親父だったにも拘らず、子ども達は非行に走る様な事も無く、二人とも順当に社会人となって家庭を持ち孫にも恵まれた。
定年後に保護猫喫茶を開いてからは妻も娘も孫達も店を手伝ってくれたし、息子は息子で取引先なんかで猫好きな人が居れば店を紹介してくれて、その伝手で猫達の里親になってくれた人も何人もいたもんだ。
もしも前世の妻に『私と猫とどっちが大事なの!?』等と聞かれる様な事が有れば、恐らくは『猫』と答えていただろうくらいには俺はイカれた猫好きだった。
まぁ多分、俺が妻に『俺と猫とどっちが大事なんだ?』と聞いたなら、彼女も迷う事無く『猫』と答えていただろうことも容易に想像は付くんだけどな。
そんな前世の愚痴と言うか、悪い意味での思い出を若者に語るのは、駄目なおっさんの行為だと分かってはいるのだが、何となく『お前達はこうなるなよ』と言いたくて語ってしまった。
「でもさー、自分が駄目な父親だったって言えるなら、ポチはマシな父親だったんじゃね? ウチの親父とかひでーぞ? 偶々自分の子どもとして俺が産まれたってだけで一族の中でデカい面して、そのクセ俺に対してはビビってなーんもしねーの」
「私ん家の親父もポチより酷いかもねー、流石に小さな頃の事までは覚えて無いけど、物心付いた頃には仕事仕事で殆どかまって貰った事無いわ。まぁ私も父親に甘える様なタチの子どもじゃなかったけどさー」
「そういう意味で言うなら私は本当に両親に恵まれたと言って間違いないな。小学校に入るまでは休みの日の度に何処か連れて行って貰い、学校に入ってからは格闘技のジムに通いたいと言えば安くはない月謝を惜しみなく払ってくれた」
ソレに対して若者達の言葉は、明らかに俺を気遣う御主人と素直な感想を返す二人に別れた……いや、御主人のコレも素直な感想なのか?
「っとそろそろ忍猫ショーの時間じゃん。今日はそんなに混んでる感じじゃぁ無いけど、折角なら良い席確保したいしサクッと行こーぜ」
見逃さない様にアラームを設定してあったらしく、御主人が携帯電話の音を止めながらそう言ってショーの舞台へと足を向ける。
決して広いとは言い難い特撮ショーか何かをやるような広さの舞台と、ソレを見下ろす様に半円形に並べられた階段状の長椅子、ソレは割とどこのテーマパークにもあるような小さな舞台だった。
そのステージ上には綱渡り用と思しきロープが張られ、的あての様な模様が描かれたカカシが何本も立ち並び、畳の様なモノで出来たキャットタワーもある……和のテイストこそ有れど前世に何度か見た他の猫サーカスと大きな違いはなさそうに見える。
「大変おまたせしましたー! 忍猫ショーの開演でーす!」
座席が半分と少しが埋まった頃合いで定刻となり、忍ぶ気が無いとしか思えないこの真冬の野外ステージにも拘らず肌も露わな忍び装束? に身を包んだくノ一? っぽい女性が猫達を引き連れ舞台の上からそんなセリフを口にした。
彼女の装いは扇子を手裏剣にする某格闘ゲームのくノ一の衣装にきわめて近い物……と表現すれば大体は伝わると思う。
観客の半分以上を占める外国人観光客と思しき者達の更に半数近い男性達が、その姿を見て湧いて居る時点で効果の程はお察しだ。
日本人男性は興奮したとしても周囲からの反応を気にして、そうそうソレを表に出すことは無いからなー。
ただそんな性欲的な興奮は、数秒後には忘れ去られる事になる。
猫の綱渡りは前世でも見たことがあるが、ソレとは比べ物にならない素早い動き、司会の女性が差し出すフラフープを的確な動きでくぐり抜け、着地寸前に身体を捻って投擲する苦無がカカシに描かれた的を外すこと無く突き刺さった。
更にショーは続き、複数の猫達が投げる苦無を一匹の猫が両前足に持った苦無で全て弾き飛ばしたり、普通の猫の喧嘩とは違う明らかな武術で猫と猫が戦う姿を見せたり……と、コレこそが忍猫ショーだと胸を張って言える展開が続いて行った。
「うぉ、すげ、猫ってあんな事まで出来んのか」
「完全に制御された動きだ、猫が武を纏うなんてね」
「おー、コレは観に来る価値があるショーだね確かに」
武に相応の理解がある御主人と夏油は、猫達がただ単純にショーの演目を熟しているだけで無く、その身に間違いなく武術がある事を見抜きソレを称賛し、後方支援担当であるが故に二人程武に明るく無い家入は純粋にショーとしての出来を称賛する。
三人に共通するのは今回の旅行が無駄足では無く、見る価値のある物が見れたと言う思いだろう。
そしてソレは俺も同じ、忍猫としての修行を積めば間違いなく呪霊や呪詛師を相手取る時に力となるだろう確信を持つ。
「ただでさえ特級を相手に出来る呪力と術式を持ってるポチが、忍猫の武術を身に着けりゃ鬼に金棒だな。学長とさっきの爺さんは知り合いらしいし、そっちの線で交渉をもちかけりゃポチも俺も修行させて貰えるかもしれないな」
「てか、忍術道場の修行体験ってのもここのテーマパーク内にあるみたいだし、閉園までソレ行って見るのも良いんじゃない?」
「忍者と相対した事は無いし、もしも組み手とかして貰えるなら私も興味はあるね」
俺は兎も角、他の3人も忍者の武術に興味を持ったのは嬉しい誤算と言えるが、パークの修行体験でソコまで本格的な武に触れる事は無いんじゃないだろうか?
「俺としてもアレは学びたい、猫の体術なんてモノを本気で研鑽して居るのは恐らくここか、同様に忍猫の伝統を保存しているだろう他の忍者の末裔くらいだろうからな」
忍術学園や忍びの者高校なんてのが存在しているこの世界なら、現役の忍者が実在していても何ら不思議は無いが、そうした現役は先ず間違いなく身を隠している筈だ。
となると忍者である事を隠さず社会に接点を持っている伊賀流や甲賀流から学ぶのが、最も近道なのだと思う。
その後行った修行体験は飽く迄も観光客向けの軽いモノで、後方担当で男達ほど鍛えていない家入ですら簡単に熟せる程度でしか無く、肩透かしを食らう事になったのだった。