畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「成る程のぅ、猫の武術と五条の当主の武の研鑽……か。五条の麒麟児の話は聞いておったが、呪術だけで無く武の方でも天稟であるようじゃな。五条の武技は呪霊を倒すに特化した物であるが故に儂ら忍びの対人に特化した武に勝てぬと感じるのは有る意味当然よ」
閉園間際、名誉顧問に言われた通り土産物屋で学長への土産を受け取る際、改めて当代猿飛佐助氏に面会を申し込んだら、割とあっさりと彼の執務室へと通して貰えた。
ソコで猿飛老会うなり御主人が単刀直入に、俺と自身の武の研鑽を申し込んだ訳だ。
「忍術と呪術は古くから深い繋がりが有り、我が猿飛の家も伊賀の服部も大本を辿れば呪術師の家系に行き着く。故に何代かに1度程度の割合ではあるが呪術高専に身内が進学する事も有る。大概は呪霊よりも呪詛師を狩る任務に当てられるがの」
すると忍者と呪術師の関係に関して御主人も知らない様な裏話がサクッと出てきた。
いや対人に特化した武術を幼少期から研鑽した上で、呪術師になるならば確かに呪詛師狩りの方が適正と言えるのだろう。
「じゃが対人の武を鍛えたいと言うだけならば、そちらの御学友が学んでいる様な表の格闘技の方が効率的ではあるぞ? 言い方は悪いが儂らの武は歴史が古い分伝統を重んじすぎる上に殺しに特化した技が大半であるが故な」
武道と武術の違い、ソレは禁じ手を当たり前に使うかどうかだと翁は口にする。
分かりやすい例としては前世紀末に日本でも知れ渡る様になった総合格闘技の原点の一つとも言われるブラジルの『ヴァーリトゥド』が有る。
『何でも有り』言う意味合いの言葉を冠したその試合形式でも『金的』や『噛み付き』に『髪掴み』は禁じ手としてルール違反だったと言う。
けれども戦国時代の戦場で使われるのが前提である武術ではソレ以上に禁じ手等と言うモノは一切無く、ただただどうすれば効率的に殺せるか……だけを追求した武が研鑽されて来たのだそうだ。
対して五条家の武は礼儀と自他の研鑽を重んじる武道では無く、かと言って対人を突き詰めた武術でも無い、飽く迄も呪霊をどうすれば確実に仕留められるかを追求し発展してきたモノと言えるらしい。
「俺の手はもう呪詛師の血で汚れてるよ。んで今までは呪力と呪術でゴリ押せば倒せる程度の奴としか戦って来なかったけどさ、猿飛殿を相手にした場合呪術無しじゃぁ絶対に勝てないと思ったんだよね。最強を自称するのにそれじゃ駄目じゃない?」
「ほぅ実際に手合わせをせず、先程の短い邂逅でそこまで儂の武を買ってくれたか。冬休みと言う短い期間で何処までモノに出来るかは貴殿の心がけ次第じゃの。忍術道場自体は一般にも門戸を開いているもの故に断る理由は無い。月謝は通常通りお支払い頂くぞ」
どうやら御主人は冬休みの間、忍術道場の寮で寝泊まりし
「で、忍猫の方じゃが、基本的には血族の子猫の中で見込みの有るモノだけを選抜して育てているのが現状で、他所から弟子を取った事は一度も無い。いや昔は血族に拘らず見込みが有る猫は積極的に拾っていた筈じゃな、戦前どころか維新前の話じゃが」
戦国時代は勿論の事、江戸時代にも忍者の需要と言うのはそれ相応に有り、各地の忍びの里だけで無く、京都の山奥に有る忍術学園なんかでも忍者の育成は行われて来たと言う。
明治維新で西欧文化を史上とし日本の伝統文化は古いモノとして、廃れかけた事も有ったが文化の継承は大事だと押し通して細々とでは有るが忍者の里も忍術学園も維持されて来たらしい。
そしてその規模が再び大きくなったのは諜報と言う分野が、国際社会の裏では必要なモノなのだと国の上層部が認識した事だと言う。
その頃に設立されたのが東京の『忍ノ者高校』なのだそうだ。
戦後はGQHに解体を打診されたりもしたそうだが、朝鮮戦争の勃発で日本の国防はある程度日本自身でなんとかしろと言う流れになり、日本の諜報員として忍者は現代でも社会の影に生き延びていると言う訳である。
私立とは言え忍術学園や忍びの者高校が普通に学校法人として存在して居る時点で、社会の影とは……と疑問に思わなくも無いが、一般社会に置いては呪術同様忍者は現代も現役の存在では無く飽く迄もフィクションの世界にのみ生き残っているモノと言う認識らしい。
上記の学校も一般的にはフィクションとまで言わずとも、ここの忍者村や北海道の伊達時代村に太秦映画村ほかにも日光江戸村の様なテーマパークで、忍者役を目指す者の学校だと思われている様である。
「まぁ儂らは儂らで外つ国の諜報員との暗闘が無い訳では無い。米国辺りが呪術に付いて知ればソレを軍事に利用しようと考える可能性もあるでの。呪術の秘匿には儂ら忍者が少なからず協力しておるのじゃよ」
……成る程な、前世の日本はスパイ天国なんて言われる程に、諜報の面ではザルだったと色々な媒体で見聞きした記憶がある。
対して呪術廻戦原作では、メロンパン入りの夏油が情報を漏らすまで最重要同盟国である米国にすらその存在を秘匿し切れていた。
五条先生に腐ったミカンとまで言われる呪術界の上層部が幾ら隠蔽に気を付けていたとしても、その信頼度は少々怪しいと言わざるを得ない。
更に言うならば少数ながら海外にも呪術師は居たし、呪霊も稀とは言え湧いていた事を考えると、原作でも忍者とは言わないが何らかの呪術界から独立した諜報機関を日本政府が持っていたとしても不思議は無いな。
「へー、俺でもそこまでは知らんかったわ。いや……確か猿飛と服部って術師の名前は報告書で見た記憶はあるな。どっちも上手く撤退した上で自分じゃ荷が勝ちすぎるってんで俺に任務が回って来たんだったか」
「猿飛二級術師は儂の孫じゃよ、術式は『朧影の術』呪力を編んで実体を持った影の分身体を生み出す術式じゃ、一応は猿飛家の相伝と言っても差し支えは無いの。本職の呪術師家系程に呪力や術式を重視した婚姻は行ってはおらんがの」
「ソレってNARUTOの影分身の術みたいな術式じゃん! うわ、めっちゃ便利な術式持ってんのになんで二級なんだよ」
「呪力が少ないからじゃろ、ソレにあの漫画の様にバカスカ分身を出せる訳でも無いしのー。家に伝わる秘伝書に依れば分身が見聞きした事はリアルタイムで本体に共有されるから、諜報には極めて便利な奴として忍者としての仕事で使われていたらしいがの」
「悟、それに猿飛名誉理事も話がソレてますよ。今の本題はポチさんの忍猫修行の件なんですから……」
と、二人の話に割り込んでくれた夏油、確かに俺の修行の話から忍者と呪術師の関係に話がソレていたな。
「ああ、スマンの、歳を取るとどうしても話が長くなる……うむ、結局は現場の者に話を聞くのが一番早いもんじゃな。ちょっとまっておれ……」
そう言うと猿飛翁は執務机に置かれた極々普通の電話機で何処かに連絡を取る。
それから待つこと暫し……
「失礼仕る、忍猫になりたいと言う外部の者と言うのはそちらの黒猫で間違いありませぬか?」
ノックどころか扉が開く事も無く、唐突にそんな言葉と共に机の上に一匹の長毛種な黒猫が姿を現していた。
「
ヨカタってのは確か相撲の世界の隠語で素人と言う意味だった筈だが、忍者の世界でも素人をそう呼ぶのか。
「忍猫の修行に関しては儂ら忍者も詳しい事は知らん。猫の修行は猫に任せるのが古くからの習わしじゃでの」
「一昔前ならば野良猫なんぞ何処に居ても不思議は無かったが、昨今は猫であろうと機密の有る場所にはそう簡単に入る事は出来なく成っている。故に忍猫の需要は年々減っており、我らの活躍の機会もショーで見せる程度しか無くなっているのが実情だ」
昭和の頃ならば野良猫なんて何処に居ても誰も気にしなかっただろう、けれども動物愛護と言う言葉が広まってきてからは、前世の俺達の様な野良猫の保護活動なんかが活発化しており、今まで様に何処かに入り込んでも「何だ猫か」では済まなく成っていると言う。
まぁ確かに諜報が必要とされる様な場所に野良猫が入り込む様な余地は現代日本ではどんどん失われているだろう事は容易に想像が付く。
「とは言っても政治家が料亭で会合をやっている屋根裏に潜んだり、今でも未だまだ某達の仕事が完全に無くなった訳では無いがね」
「うわ、こわ……高い料亭なんて味よりも情報漏洩の確率を下げる為に割高な金払って利用する場所なのに、屋根裏に居る猫とか俺じゃなきゃ気付けないじゃん」
御主人の持つ六眼は天井板を隔てた向こうに居る猫の呪力も見通す事が出来る様だが、常人に同じことを求めても不可能なのは間違いない。
「そう言う筋で手に入れた話じゃが、貴殿らにも関係する情報を一つくれてやろう。呪術総監部の半数近くが入れ替わるそうじゃぞ。二名は原因不明の突然死、あとは後進に役目を譲り渡し寺に入るか、慈善事業で徳を積むそうじゃ」
……ソレ先ず間違いなく、俺が原因じゃねぇか? 突然死ってのは恐らくメロンパンに俺やあの世の情報を流した所為で、残りの連中は地獄行きを恐れて兎に角徳を積んで罪を雪ごうと言う事だろう。
メロンパンの事を知らない三人は突然死の下りで驚き、それから徳を積むの辺りで虚無の表情を浮かべていた。
奴が俺の事を知ったならば、観察対象としてか実験動物としてかは知らないが、狙われる事だけは先ず間違いない。
相手は面白い事の為に千年に渡って他者を犠牲にし続けたイカレ中のイカレだ、今の術式頼みの戦い方では万が一奴が直接誘拐しようとしてきたならば抵抗すら出来ない可能性もある。
「暁丸さん、どうか俺を一端の忍猫にして下さい、多少……いやかなりの無茶でも俺は成し遂げて見せる」
脳味噌のサイズが違うから、俺がメロンパン入れになる可能性は低いとは思うが、奴がこの術式を手に入れると原作よりもヤベー存在になりかねない……故に俺の修行へのモチベーションは極めて高い。
「ふむ……そこまで言うならば三ヶ月で忍猫の全てを身に着ける
その言葉に俺は力強く頷き、過酷な修行へと身を投じるのだった。