畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
そんな訳で3ヶ月の修行期間が終わり、俺は忍猫として全ての伝法灌頂を受け、晴れて地獄の特訓を制覇した現代唯一の忍猫と成った。
修行の内容? ソレは人間には教えてはならない掟に成っているのでここで記する事は無い。
ただまぁ……毛を落とさぬ様にする修行の際、先ず自分で自分の毛を毟ると言う行為をするのだが、ソレが術式的には負傷判定になって勝手に反転が回って毛が生えてきそうになるのを抑えるのにはかなり苦労した。
にしてもちゃんと対人用格闘術がしっかりと存在しているのには、流石は戦国時代に発展した忍猫の武術だと驚かされもしたな……御主人や夏油レベルの相手には多分通用しないけど。
御主人と言えば、彼は冬休みの間の修練で猿飛の翁を相手に、全く手も足も出ない状態から十本に二本は取れる程の技量を身に着けて高専へと帰って行った。
冬休みの間は高専からの任務も御主人に回ってくる物は殆ど無く、割と充実した修行生活を送れた様だ。
術式も呪術も無しと言う制限が有るとはいえ、生まれながらに強者であり誰かに師事する様な事も、誰かと競い合う事も高専に入るまで殆ど無かった御主人にとって、同年代の者達と切磋琢磨すると言うのは良い経験になったらしい。
「傑の奴も中学まで通ってたジムで鍛えてくるって言ってたけど、術式無しの体術勝負でも俺の方が強くなっちまってるかもなー」
とは冬休み終了直前に猿飛の翁から始めて一本取った時に言っていたセリフである。
まぁ……その後二人の勝敗がどうなったのかは、帰ってからのお楽しみと言う事にしておこう。
修行期間の間、御主人は俺に任務を回さず全部自分でしっかりと熟していたと聞いてるので、御主人も徳を積んで置く事の大切さを感じているのだろう。
今までのクソガキ生活で罪の方が勝っていると考えて、地獄行きを免れる為に積極的に徳を積みに走っている可能性も0では無いが……。
兎角、俺がこっちで修行している間は、近場で瀕死の重傷を負った呪術師を助ける為に緊急出動を求められる事は有ったが、俺自身が積極的に戦闘を行う様な任務に就くことは無く済んだのは幸いだったと言えるだろう。
ちなみに冬場は呪霊の活動だけで無く、呪詛師の活動も割と控え目になる。
無論寒いから……なんて可愛らしい理由では無く、万年人手不足で呪霊討伐だけでも猫の手も借りたい状態の呪術師が、冬場は比較的手があいていて事件が総監部のアンテナに引っ掛かれば直ぐ様討伐任務が発行されるからだ。
呪詛師と呪霊では基本的に呪霊の方が任務の優先度が高い、どんなにイカれた呪詛師でも人間社会で生きている事に変わりは無く、そうそう国家転覆なんてバカな真似はしようとしないし、自身の優位を保つ為か呪術の隠蔽にも気を使ってる者が多い。
対して呪霊は人間の都合など知ったことでは無いし、そもそもが人に害を為す事こそが存在意義と言える様な災害そのモノだ、どちらに優先して対処しなければならないかは自明の理と言える。
だから夏油と一緒に討伐に行った様な痴漢呪詛師なんかが野放しに成っている訳だ……まぁ当時の総監部は人死にが出ない程度の呪詛師に高い報奨金を出すのは勿体ないとでも考えていた可能性もあるがな。
修行に入る前に聞いた総監部の人員入れ替わりで、呪術界はかなりブラック度が減少したらしい……R:0/G:0/B:0の黒がR:36/G:14/B:3の鉄黒に変わるくらいには。
人死の件さえ無けりゃもうちょっと明るい色にもなるんだろうが、油断すると死ぬし油断しなくても大怪我する事が有るのが呪術師と言う仕事だからなぁ。
まぁ本当の評価は今年の繁忙期を越えてから……と言う事になるのだろうが、今年の4月には御主人達が2年生となり、原作で言う懐玉・玉折編が本格的に始まるのだ。
御主人は今のところ俺に呪詛師を相手にする様な任務を振って来ては居ない。
コレは俺の手を人の血で汚させない為というよりは『猫の呪術師』と言う常識外の存在が居るという
だが星漿体の護衛と抹消と言う大任では、高専の最大戦力と言って良い一級術師二人を投入するという力の入れような訳で、御主人としても俺を外すという選択はしない筈だ。
呪詛師集団やパパ黒を相手取る前に、優れた対人戦闘術を身に着ける事が出来たのは望外の結果と言えるだろう、
体術の卒業試験として行われた対人百人組手では、師範代以上の者には勝てず最後に闘った猿飛の翁に至っては手も足も出ずに猫掴みにされてしまった……呪力を使えばもうちょっとなんとか成ったのだろうがね。
それでも忍猫の中では間違いなく上位の腕前で、普通の忍び猫ならそもそも百人組手を最後まで完遂する事自体が不可能であると言うのだから、恐らくは術式に組み込まれた反転術式が無意識に回って身体を回復させていたのだろう。
なんらかの縛りで回復を禁止しない限り、自己回復の反転術式はオートで回る上に、わざと回復を遅らせるのは結構神経を使うんだよなー。
と、この3ヶ月間の修行を思い出しながら迎えの車を待っていると、見覚えのある黒塗りのベンツがやって来た。
「おまたせしましたポチ様、修行の完遂おめでとうございます、おつかれ様でした。早速高専へお送りいたします」
運転席から出てきたのはやはり帝愛スタイルの男性だ。
五条家での俺の立ち位置だが、彼が様付けで俺を呼ぶ時点である程度想像付くかとは思うが、当主でありワンマンアーミーな御主人が自ら選んだ直臣であり一級相当のつわものと言う事でそれ相応の対応をされている。
まぁ内心では『畜生風情が!』と思っている者も間違いなく居るだろうが、表にさえ出さなけりゃ俺としては割とどーでも良い、畜生道に堕ちた畜生なのは間違いない事実だしな。
ただ五条家所属の呪術師の中にも俺の
「道中、小腹が空いたらコレでもお食べ下さい、先日出張任務で行った先で買ったものですが、人が食べても中々にイケましたよ」
どうやら今日の運転手さんはそうした俺に恩義を感じている人の一人だったようで『無添加・エゾシカジャーキー』と書かれた袋を差し出してくれた。
「ああ、有難う、後で頂くよ」
そう言って後ろ足で立ち上がり両前足で袋を受け取り、そのまま開けて貰った後部座席へと搭乗する。
3ヶ月の稽古である程度の筋力も付いたので、今ならラーメンが3杯乗ったお盆を安定して運ぶ事も出来るだろう。
どうやら俺の反転術式はただ単純に『元の状態に戻す』だけで無く、トレーニングで切れた筋繊維はしっかりと以前よりも太く強くなるいわゆる『超回復』が瞬時に行われる様で、極めて短時間で筋肉痛すら無く筋力が強化される。
その特性に気が付くまでは朝には持てなかった物が、夕方には軽々持てるようになるという一般常識からしたら軽くホラーな状況に、俺自身も他の忍猫候補生達もビビり散らかした物だ。
武の修練、鍛錬に終わりは無い、呪術師という戦闘職で生きるのだから常に向上心を持って少しでも強くなる努力を怠る訳にはいかないだろう。
「悟様からの伝言です、お前に回す任務が溜まってるから帰って来たら早速働いて貰うぞ。との事です。高専まで5時間近くはかかりますし可能ならゆっくり身体をお休め下さいませ」
「有難う、じゃぁ一眠りさせて貰うよ」
俺を運ぶ前提だったからだろう、後部座席には俺が寝やすい様にしっかりと猫ベッドが固定されていたので、そう返してから素直にベッドへと潜り込み瞳を閉じる。
……何時間眠っていたかは分からないが、割と近い距離にかなり強力な呪力を感じ目を覚ました。
「おい! 停めてくれ! それから今の位置を御主人か高専に連絡! 最低でも特級の呪力が近くにある!」
「了解しました! 私も一応は術師の端くれ、こちらの事は気にせずとも構いません!」
猫ベッドから顔を出しそう叫ぶと、運転手は即座に路肩へと車を停め返事をする。
猫の手でも内側から自動車のドアを開ける事は可能だ、即座に車から飛び出した俺は呪力で全身を強化し忍猫の修行で培った効率の良い走り方で、禍々しい呪力の源泉へと急ぐのだった。