畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
木々の間を少し走って何となく周囲の風景に既視感を覚える……林を通り越して森なのは間違いないが、何となくだが見知った植生に見えたのだ。
そうして走ること暫し既視感は確信に変わる、木々にあからさまに首吊りに使われたであろうロープが幾つもぶら下がっているのが目に入ったのである。
……ここ首吊り銀座かよ! 真逆とは思うがまたモテない呪詛師が自殺して、モテない男の悲哀が呪力に成っているとか言うオチじゃないだろうな!?
ただ感じられる呪力はもう少し奥の方だ……首吊り銀座があるのは富士の樹海の比較的浅いエリアだし、日本一の霊峰である富士山の裾野ならばどんな負の感情が吹き溜まっていても不思議は無い。
世界中に古い時代には有った
富士山はその日本の象徴の一つとも言える山であり、神道だけで無く山岳信仰の対象として今も多くの日本人が様々な感情を向けているだろう……当然負の感情も。
観光スポットとして日本国内だけで無く海外からも登山者が集まる富士山は、確かに登山道はしっかりと整備され登りやすい山と言える。
が、だからと言って事故の類が全く無いと言う訳では無い。
特に観光地だからと山を舐めてるとしか言いようの無い服装や装備で登る者や、冬場の閉山期に山へと入った事故る者はそれ相応に居ると聞く。
死亡事故だけで年平均9人、救急搬送で助かった案件を入れればもっと数は増えるだろう。
そうした者達や遺族が富士山に負の感情を向けるのは有る意味当然と言える。
……富士山の呪霊と言うと原作に出てきた漏瑚と言う特級呪霊を思い浮かべたが、アレは確か特定の火山では無く『大地に対する畏怖』から産まれた呪霊だった筈だ。
原作で五条が始めて漏瑚と接触した時の様に、俺の移動情報が漏れてわざわざ網を張っていた……と言うのは時期的に未だ考え辛い。
となるとやはり未確認の呪胎から発生したばかりの特級呪霊と考える方が自然だろう。
つか特級なんてバカスカ産まれる様なモンじゃぁ無い筈なんだがね! だが場所が場所だけに湧いても不思議は無い。
いた! どうやら想像通り呪胎から産まれたばかりの呪霊の様で、その場に立ちすくんだままで未だ何かをしようと言う所まで行って無いらしい。
見た感じだと呪霊にしては余り人の形から離れては居らず、どちらかと言えばきっちり装備を整えて山に挑むワンダーフォーゲル部員といった装いの髭男に見える。
ただその姿を見ただけで何となく尻が寒いと感じるのは、奴が持つ生得術式が尻に纏わる何かだと本能が教えてくれているのかもしれない。
……未登録の特級である可能性を考えて可能な限り情報を引き出すべきか、それとも先手必勝でストックを一個消費してでも速攻で蹴りをつけるべきか。
上からの任務ならば俺が猫だと言う事も有って補助官がその辺まで任務指示をくれるのだが、今回は突発的な遭遇だし自分で判断しなければならない。
……折角忍猫としての修行を終えたんだ、その技術を試すためにも交戦してみるか!
普通に考えればこの思考は慢心のソレであり、死に繋がる愚かなモノだ。
けれども俺の生得術式は8回までの死を容認してくれる、昨日は重症者が運ばれてくる事も無かったので今のストックは満タンだし丁度よいと言えば良い。
「臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 烈! 在! 前!」
そんな判断を下した俺は、小声かつ気合を込めた声を発しながら右前足で横、縦、横と格子を描く。
それから両前足をポフっと打ち合わせ
「護法守護結界」
と、忍術式の帳に類似する結界術を発動する。
結界に反応し周囲を見回す素振りを見せたワンゲル呪霊に、先ずは様子見と挨拶前の
縛りを結んだ上で切り離された俺の右前足はその小さな肉塊の中に呪力が飽和しており、前方へと飛ぶ為の運動エネルギーが失われた時点で呪力の爆発を起こす。
つまり着弾するか、一定距離飛んだ時点で爆発する訳だ。
その威力は二級程度の呪霊なら1撃、準一級でも当たりどころに寄っては一発で仕留められる程である。
しかし流石に相手が特級ともなると直撃でもその身体を構成する呪力を少し削る程度でしか無い。
それでも件の特級呪霊……仮称:ワンゲル呪霊は敵対する存在に気が付いたらしく、こちらへと振り向き攻撃してきた存在を探す様にキョロキョロと当たりを見回す。
呪霊は
以前祓った多摩ニュータウンの特級呪霊も、俺を認識したのは数度の攻撃を繰り返したあとだった。
故に俺はなんら驚きも無く手早く間合いを詰め、先ずは奴の膝裏に
異形の呪霊は兎も角、人の形が整った呪霊は関節の在り方も人間準拠だったりするので、割と膝カックンが決まったりするのだ。
実際、ワンゲル呪霊も唐突な膝カックンで体勢を大きく崩す……が、倒れ込み間際にこちらに視線を向けるとその姿が消えた。
戦場では足を止めた者から命を落とす……忍猫としての修行中にも散々言われた言葉だし、戦争を描いた物語では必ずと言って良い程出てくる言葉だ、故に俺はその場に留まる事をせず即座に呪力を込めた足で大地を蹴り大きく移動する。
空中で身を捻り周囲を確認すれば、ワンゲル呪霊は俺がいた場所の丁度真後ろに変わらぬ姿で立ち、再び姿が消える!?
尻が寒いと感じた理由が分かった! 奴の術式は原作で東堂葵が使っていた術式
故に再び身体を捻って後ろを振り向けば……奴が居る!
「ねねねねんここここここここkkkkろすろすろすろす」
どうやら特級相当の呪力を纏っては居ても知能は無きに等しいタイプの様で、その攻撃手段も
だが人の形に縛られ人の範囲でしか無い攻撃ならば、忍猫としての修行を終えた今の俺にはカモでしか無い!
俺が着地するよりも早く繰り出された拳を身を捻って躱しつつ、尻尾で奴の腕を絡め取り、手首をロックして捻り落とす! 甲賀流猫体術尻尾捻り落しが成立する。
呪力に依るダメージ以外はダメージが通らない呪霊に、投げ技が効果あるのかと言えば、実は有効だったりする、ただしアスファルトの様な人工物では無い地面の上に限りだが。
理由は簡単で地面は地球と言う莫大な呪力の塊の一部だからだ。
ちなみにアスファルトの地面でもソレを叩き割り、その下にある岩盤まで行けば呪霊にもダメージは通るが、下水道その他公共インフラが通っている様な都市部でソレをやると始末書確定である。
なので呪術師は基本的に
「さむさむさむさむ……おとおとおとおと……はだはだはだはだ……」
頭から地面に叩き付けられたワンゲル呪霊はそれなりのダメージが入っている筈だが、訳の分からないうめき声を上げると尻尾を振り解く事も無く再び姿を消した。
当然居るのは俺の真後ろで、そうとわかっていれば即座に
術式は割れたし産まれたばかりで知能も無いタイプならばサクッと祓ってしまって良いだろう。
数度の攻防でそう判断し、俺は再び奴が術式を発動し後ろをへと転移した瞬間を狙って『自傷』の縛りを結んだ上で全身をズタズタに切り刻み、『今生の治療を禁止』する縛りを重ね、更に『自殺』の縛りを掛ける事で膨れ上がった呪力を
自傷だけでも特級が相手だとしても多少なりともダメージを与える事が出来る呪力を持たせる事が出来るのだ、3重に重ねた縛りを用いた『外法・木っ端微塵の術』は至近距離なら特級でも宿儺の指換算で1本くらいならば祓える威力がある筈だ。
……事実、俺が肉体を再生させた時にはワンゲル呪霊は祓われた様で、呪霊討伐をきっかけに消える様に設定れた結界は消えていたのだった。