畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「あーアレね、湧いてたかー。いやー俺が遭遇しなくてよかったよ本気で」
仮称:ワンゲル呪霊は登録済みの特級呪霊の一体で、正式名称:菊之丞。
術式は俺が想像していた通りの転移系だったが、正確には『男性の尻の前に転移し、少年誌で描く事の出来ない行為を強要する』と言うモノだった。
男性呪術師に対しての特攻と言えるヤバい術式を持つ呪霊だが、逆に言えば女性呪術師に対しては何の術式も持たない特級相当の呪力を持つだけの呪霊なので、観測され次第女性呪術師が派遣される類の相手だと言う。
出現の原因のと思われる負の感情は『ノンケなのにゲイに食われた男の感情』や『そう言う状況に追い込まれる可能性を感じる男性の恐怖』辺りだろうと言われているそうだ。
……なんか俺が遭遇する特級相当の呪霊ってシモに関わるモノばっかりじゃないか? 大狸もよく有る信楽焼の狸の様にデカい玉々が目に付いたし、夏油と一緒に行った痴漢呪詛師呪霊なんかモロにそっち系と言えるだろう。
「……体格差の問題からか転移だけで済んだのは、本当に運が良かったと思うべきなんだろうな」
ちなみに呪霊としての歴史は割と古く、戦国時代辺りには衆道が武士の嗜みだった事も有り、上役に強要され泪ながらに菊の花を散らしたであろう男達の負の感情が、日本中に溢れており、祓っても祓っても直ぐにおかわりが湧く状態だったと記録にあるそうだ。
出現する度にその姿は変わるがその代わり記憶を引き継ぐ様な事も無い事から、特級の中では比較的対処しやすい呪霊として扱われてはいるそうだ。
なおヲカマを掘られるだけで命に関わる問題では無い……と言うのは大きな間違いで、掘られた時点で呪いが成立し一般人ならば然程の時間も持たず、呪術師でも自身の呪力が尽きる前に解呪が間に合わなければ、臓腑が腐り落ち死に至ると言う。
……コレ、ネットの発展と動画配信サービスの拡充で思っクソ強化される奴だ。
恐らくは姿も野獣と呼ばれる男か、青い繋ぎが似合うイイ男の二択になるんじゃないか?
「にしても今回は富士山に出たかー、コイツ何故か必ず火山の近くに湧くらしいんだよなー、火山か温泉に関する負の感情も混ざってんのかもしれねーな」
ちなみにこうして解説してくれているのは、無下限呪術の応用で瞬間移動して来た御主人だ。
原作だと瞬間移動をバカスカ使う様になったのは教師に成ってからだったし、普段の任務でも転移して祓って帰る……なんて真似はしてなかったので未だ使えないモンだとばかり思ってたが、どうやらやろうと思えば出来る……らしい。
「連絡から随分と早く着いた様だが……御主人は瞬間移動の様な真似が出来るのか?」
「あ? ああ、無下限呪術の応用でやろうと思えば出来るんだけど、割と負担が重いから出来ればやりたくないんだよなー、今も割と頭いてーし」
成る程、原作で教師になってからポンポン瞬間移動していたのは、反転術式で常時脳味噌を回復すると言う状態になったからか。
そら座標の圧縮とか綿密な計算が必要だろうし、そう簡単に幾らでも出来る様な事じゃぁ無いだろうな。
「……心配を掛けた様で申し訳無い。だが忍猫としての修行は間違いなく役に立ったぞ。菊之丞の関節を極めて地面にたたきつけてやった」
「猫の手足でどーやったら関節技なんて掛けれるんだよ。まぁ無事で何より……特級相手にしてストック一個で済んだなら格安と言って間違いないわな。残穢を見る限り菊之丞で間違いなさそうだし俺の方から上に報告上げとくわ。あーやっと痛み少し引いてきた」
語尾にwwwと付いていそうな口調でそう言う御主人だが、普段の余裕ある……と言うか余裕振った笑みでは無く、眉間にシワが寄っている辺り瞬間移動は相当に脳に負担が掛かるのだろう。
「そーいや、お前も忍猫修行が一段落したんだから、呪術師としての修行も頑張らねーとなー。拡張術式の開発は初代の術式持ちにとっては割と必須だぜ? 俺達みたいに昔からの取説がある訳じゃないからな」
拡張術式と言うのは生得術式の解釈を拡大する事で、本来術式が持つ機能以外の効果を編み出す当代の術者オリジナルの技術の事だそうだ。
古くから歴史を繋いで来た呪術家系の相伝術式には、歴代の術者が編み出した拡張術式の記録が書物なんかの形で残されており、それらを読み解く事で力量が伴えば過去の拡張術式を殆どそのまま使う事が出来ると言う。
他にも一応程度ではあるが呪術高専にも、過去に所属した呪術師の術式や拡張術式の記録が有ったりするので、一般家庭出身の呪術師でもそれらを参考にする事も出来るが、術式を受け継ぐ事を前提にした家系のそれと比べると一段落ちる扱いらしい。
と言うか一般家庭出身の術師の多くは子どもを為す前に殉職するか、歴史ある呪術師家系──主に禪院家──に取り込まれる為、術式の取説が高専に積み上げられる様な事は中々無いのだそうだ。
生得術式はある程度は遺伝するモノで呪術師家系ならば、親や先祖の術式がそのまま出てくる事もあれば、多少変質した形で受け継がれたりする事もある。
ただ呪術全盛期の平安時代、特に安倍晴明と言う日本人なら恐らくは誰もが知っているであろう大陰陽師の時代には妻問婚と呼ばれる一種の『通い婚』が貴族の間では一般的だった為、必ずしも子どもが思っていた父親の血を継いでいるとは限らなかったそうな。
当時は女性が実家に男を招き入れて行為に及び、実家で子どもを産んで、実家で育て、ある程度成長してから『父親の家』に送るか、それとも『実家の子』として扱うかを決めていたらしい。
なので一族郎党が口裏を合わせると事で複数の男性と関係を結んだり、表向きの夫とは別の男性との子どもを産んだり……なんてのは割とよく有る行為だったそうだ。
その頃は天皇すらもそうした形での通い婚を行っており、藤原氏の妻の子は藤原氏の下で養育され、天皇になった暁には藤原氏を優遇する……と言う摂関政治の原因となっていたらしい。
清明の没後、暫くしてから摂関政治が崩壊した辺りで妻問婚の制度が見直されたらしく、その頃から子どもは父親の一族が養育する様に成って行き、その辺りから上流階級女性には貞操を守らねばならない……と言う常識が根付いて行ったそうだ。
そうした貞操意識が尊ばれたのは公家や武家と言った上流階級社会の中だけで、戦国時代から江戸時代を通し更には戦前頃まで、農村部等では夜這い等の乱交文化が残っており、誰と誰の子どもだなんだと言う事は気にしないと言うおおらかさが有ったらしい。
呪術師も御三家を含めた古い家系ならば当然、誰が父親かも分からない子ども……なんてケースは殆ど無く、相伝術式を1000年以上に渡って維持し続ける事も出来ていたが、一般庶民ともなると当然ソレも難しくなる。
名家の血だって傍流として庶民に流れでた血筋まで全てを追えている訳でも無く、色々混ざってとっ散らかった術式の持ち主が一般家庭に産まれるケースは割とよく有る事だと言う……原作0の主人公である乙骨裕太はその代表格と言えるだろう。
「まぁそうは言ってもお前に人間の呪術師の血が流れてる可能性は流石に0だよねー……伏姫と八房みたいな呪術的例外が無けりゃーね」
……どうやらこの世界では南総里見八犬伝は史実の様である、まぁアレも怨霊やら呪詛やらが絡んでの物語だし、この世界なら過去にそういう事件が有っても不思議は無いよなぁ。
「お前さんの9回死ぬまで死なない術式って、多分A cat has nine livesって西洋の諺由来だろうし、少なくとも五条家が保管している資料には呪術師が持っていた術式にも、相対した呪霊が持っていた術式にも記録の無い完全な初代の術式っぽいんだよね」
御三家を含めた旧家は、それぞれ自分の家の者が遭遇した呪術師や呪詛師に呪霊なんかが持っていた術式を、完全に全てでは無いが記録を残してはいるが、ソレを総監部を通して共有する様な事を行う様になったのは戦後の事だと言う。
無論、全ての家が素直全ての記録を総監部に提出した訳では無く、何処の家も呪霊の術式に関しては複数回の出現事例があるモノに絞って提出している……と言う感じらしい。
「……呪霊と言う明確な人間の敵が居るのに、人間同士で手を取り合う事が出来ないのは、極めて人間的だよなぁ」
畜生の身に成ってなお感じる人間の度し難い業……外敵が居れば一致団結出来るのは極々親しい身内までであり、戦中でも戦後の派閥争いを見据えて内憂を抱え続けるのが人間という生き物だ。
良くも悪くも『未来』を想像する知恵を持つからこそ『目の前の敵』だけに集中した時に後ろから討たれる恐怖を拭い去る事が簡単には出来ないのである。
「幾ら呪力が使えて
……噂レベルじゃないんすよソレ、メロンパンと言う1000年モノの呪詛師と総監部はズブズブなんだよなぁ、流石にコレは原作情報でソースを明かす事が出来る話では無いので言わないが。
「俺の使ってる猫ロケットパンチとかの技は拡張術式と言える様なモノなのか?」
「んー、アレは術式を利用した技ではあるけれど拡張術式とはまた違うかなぁ? 原理的にはただ打ったパンチを切り離して飛ばしてるだけだしね、硝子でもやろうと思えばできるんじゃね? 縛りを使って威力を上げてる点では間違いなく良い技だとは思うけどさ」
「術式の解釈を広げる……か。うん忍術との兼ね合いも含めてこれからはそっち方面を伸ばす努力をしていくか」
今の時点でも俺の生得術式と相性の良さそうな忍術に思い当たりがあり、ソレを組み合わせることで、対呪霊にも対呪詛師にも使えそうな技にはなりそうなんだよな……ただソレが拡張術式と言える様なモノになるかは分からんが。