畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
春になり新学期が始まれば、御主人達は2年生に進級し、当然新入生がやって来る。
そう……御主人の一個下の高専生……七海建人と灰原雄の二人だ!
ナナミンこと七海建人は俺がどうこうするまでも無く、無事……無事と言って良いのかどうかは分からんが、兎に角一端の社会人呪術師として成長した姿でも原作に登場する。
しかし灰原雄の方は七海と二人で向かった任務で等級詐欺の被害を受けて命を落とすと言う役回りで、夏油の闇落ちの原因の一端を担う事になる人物だ。
懐玉・玉折編で味方と成り得る
「へー、今年の一年坊達、どっちも術式持ちか。良いね、呪力も割と有る。どっちも少なくとも歌姫パイセンよりは有望株だなぁ……ってあの金髪の術式下手すっと俺の無限を貫く可能性有るんじゃね? うわ面白く成ってきた」
……原作では灰原の術式に関する描写は全く無かったが、どうやら御主人の六眼で二人の生得術式が読み取れているらしい。
「悟の無限を抜ける術式? ソレは確かに有望株かもしれないね。一体どんな術式なんだい?」
呪術高専の校舎に屋上は無く当然の様に屋根の上へと上がるルートは無いが、御主人と夏油に俺は当然の様にソコに陣取って今年の新入生を見定めていた。
「いや流石に他人の術式を勝手にバラすのは駄目でしょ、個人情報保護法で規定されてる様なモンじゃぁ無いけど、生得術式だって呪術界じゃぁ立派な個人情報だろ。見えるからって適当にバラしてたら呪詛師と変わんないじゃん」
数年前に制定され昨年施行されたばかりの個人情報保護法は、個人情報を扱う官庁や事業者を縛る法律で、一般国民に対して他者の個人情報を漏らす事に対する罰則が有る様な法律では無い。
その辺の誤解と言うか曲解が、前世でNPO法人で働いていた頃には保護猫の譲渡の際等に里親希望者に対して色々な聞き取りを行う際、件の法律を持ち出して自身の個人情報に当たるモノを出し渋る者が一定数いたのだ。
あの法律が制定される前からウチではそうして入手した個人情報なんかを、里子に出した保護猫のその後の状況を聞いたり、逆に猫を飼う様になって困った事等無いかと言う相談事の聞き取り以外に使った事は無い。
法律が出来るまでは誰しも個人情報を守ろうなんて意識は殆ど無く『住所氏名年齢電話番号』の4点セットは、何を申し込むにしても普通に書かされたモンだ。
けれども法律が施行されてからは誰も彼もが法律の趣旨や詳しい意味を知りもせずに『個人情報保護法がー』と吠えて、それら情報を出し渋る者がポコジャカ湧いたのである。
まぁ俺が居た職場では無かったが、他所の同業者が同じ目的で集めた名簿を某政党にお漏らしし政治活動に利用したなんて話も有ったし、学生時代にバイトで出所不明の名簿を元にアポ電を掛ける仕事をした事も有るので個人情報保護法自体は必要な法律だとは思う。
「……まぁ術式の開示が縛りとして成立する以上は、他人の術式を勝手にバラすのは敵対行為と見做されても仕方ない様には思うぞ。まぁ個人情報保護法は企業や官庁などを縛る法律で個人に適用されるモノでは無いとは言っておくが」
一応はあの法律に触れた事のある大人の立場で、猫のクセに肩を竦めて御主人にそんなツッコミを入れておく。
「あーそーだ! 法律と言えば、知的動物の法的人格権に関する法律……今国会会期中に成立する見通しらしいよ。調査したら思った以上に対象となる動物を飼育している人が多かったらしくて、財産をそういう子に継がせたいって意見が結構あったんだってさ」
ラーメン赤猫原作でもCEO猫の佐々木さんは、飼い主だった人の財産を丸っと受け継ぎ、ソレを資本としてラーメン屋の経営と、保護猫活動に尽力していると言う設定だった。
ソレに前世の世界でも海外の話では有るが、飼い犬に財産を継がせた富豪が居る……と言う様な話はネットで見た記憶が有る。
現在の日本では動物は飽く迄も動産(物)であり財産の一部と見做される為、直接的な遺産相続者とする事は出来ない。
しかし法的人格権を取得した動物は法律上、人間とほぼ同じ扱いとなる為に遺産相続は勿論、銀行で自分名義の口座が作れたり、パスポートの取得をして海外へと向かう際に飛行機でも客室に入れたり……と、通常の動物とは大きく待遇が変わるのだ。
まぁ……ラーメン赤猫でもジュエルと言う猫がイタリアへと向かう際に、現地の日本大使館と事前のすり合わせをしたりしたそうなので、恐らくは法律が無事に施行されたとしても街の中を喋る動物が普通に闊歩する様な状況になる事はないだろう。
ただ動物福祉を専門として大学で学んだ前世を持つ俺としては、猫に限らず動物達が虐待にも近い様な飼育状況から少しでも救われる可能性につながるならば、ぜひ進めて欲しいと思うのはエゴなのだろうか?
「ンで、ウチの財産管理会社の方も、ポチの取り分を俺の収入とは別枠管理しつつ税金は一緒ってのが具合が良くないらしくてね、ポチが法的人格権を取ってポチの稼ぎはポチの収入にして税金を別口で支払う様にしたいらしいんだよね」
あー、うん、ソレ多分、税務署辺りが御主人に入る収入から少しでも多くの税金を取ろうと、圧力掛けて来てるんじゃね?
呪術師は一般の公務員と比べてあからさまに高給取りで有り、ソレに纏わる税の流れを見れば『普通では無い』事は税金のプロが見れば一目瞭然な筈だ。
つまり国税庁の上の方は当然の事ながら呪術師と言う存在を認知しているのだろう。
俺と言う存在を国税が掴んでいるかどうかは不明だが、俺と御主人を合わせると任務の頻度は同じ一級術師である夏油の倍近い事になるので、呪術師としても異常な程に稼いで居る事自体は事実として知っている筈だ。
その辺を税務調査した結果もしかしたら俺と言う存在が発覚し、御主人の収入は財産管理会社の収入で仕方ないにしても、俺の分だけでも所得税を何とか取りたいとかそう言う話なのではなかろうか?
前世に聞いた与太話だが、
警察の家宅捜索には裁判所の発行する令状が必要で、ソレを発給するには相応の違法行為の疑いが無ければならないが、マルサの強制調査は令状が必要だと言う部分は同じだが『脱税が疑われる』ならば割と簡単に発給されると言う。
暴力団が真っ当なカタギ仕事だけで食っている訳も無く、そりゃ表向きの帳簿に載せられない金の類は常にあるだろうし、マルサの調査が入る事で別の犯罪の証拠が出て来て警察を追加で召喚される……なんてケースも有ったとか無かったとか。
「税金か……国民の義務と言えばその通りだが、俺は誰がどう見ても猫で有って国民ではないからなぁ」
ふと思ったのだが……俺と同じくらいとは言わないが、一般人レベルなら人間と同じくらい稼ぐ知恵を持った動物と言うのはそれなりに居るのかもしれない。
そしてそうした者達全てに課税出来たなら、相応の税収になる可能性は否定仕切れない話である。
「税金ねぇ……正式な呪術師になって一年目で普通に親の扶養を打っ千切るくらいに稼いでしまったんだよなぁ。なんなら一級案件なら一個二個受けるだけで扶養控除なにそれ美味しいの? ってくらいにお金が入ってくるんだよね」
あーうん、夏油はごく普通の一般家庭出身らしいので、呪術師界隈のぶっ飛んだ報酬は、明細を見ていても現実感がないのだろう。
「未だ卒業までは時間は有るが、夏油も将来の方向性は考えて置いた方が良いぞ。高専生である間は公務員として収入全てにガッツリ税金が掛かっているからな。前に聞いた冥冥と言う呪術師が卒業後即フリーに転向したのは恐らく税金対策だろうしな」
前にも書いた覚えがあるが個人収入に対する所得税と、個人でも法人を立ち上げてソコに収入が入る様にして支払う法人税では、収入額が大きければ大きい程の法人税の方が有利になる。
恐らくは二級未満の呪術師であれば、高専に所属しバックアップを受けるメリットが高い税金を払い続けるデメリットを上回るのだろうが、一級ともなると稼ぐ額が桁違いになるのは容易に想像が付く。
「……脱税は犯罪だよ?」
「脱税では無い節税だ」
「……どう違うんだい?」
「脱税は所得隠し等の違法行為を指す、節税は個人所得では無く法人収入にする事で所得税から法人税に切り替える等々、様々な方法で合法的に支払う税金を減らす事だ」
潔癖な彼からすれば汚い大人の話かもしれないが、ここから始まる話はきっと彼の将来を変える……そう信じて俺は一呼吸置いてから次の言葉を慎重に選ぶのだった。