畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
新入生が入って来て一ヶ月、ゴールデンウィークを目前に控えた日に、1年2年合同で特別授業が行われていた。
「今日は特別講師として現役でも比較的古参と呼べる呪術師にお越し頂いている。天元様を除けば現代では結界術のエキスパートと言って間違いない者、伊地知二級術師だ」
「御紹介に預かりました伊地知勝高と申します。結界術には確かに少々自信がありますが、エキスパートとまで言われると少々面映ゆいものがありますね。今日は呪術師なら努力さえすれば誰でも辿り着ける結界術の応用についての授業をさせて頂きます」
グラウンドに集合した5人の前に立つ夜蛾先生と、失礼な言い方だが何処にでも居る様なモブ顔の40代半ばと思しき二級術師、名前と歳の頃から察するに伊地知潔高補助官の父親だろうか?
「先ずは基本の基の字として皆さんがもっとも良くお世話になるであろう、『帳』について説明しますが、アレはアレで結界術としては比較的高度な技術であると言う事をご承知下さい。呪術師としては一級でも帳を下ろす事の出来ない呪術師は結構いますからね」
曰く、戦いの場に身を置く事の出来なかった、或いは様々な理由で一線を引いて補助官に成った者達は、帳を下ろすと言う結界術の中では高等技術に分類されるソレを習得した努力の者達なのだと言う。
「帳を下ろせない極々一部の例外を除いて補助官には居ません、呪術を用いて戦う事が出来ず帳を習得していない者は、極々一部の例外以外は基本的に窓として呪術界に貢献する事になります」
……大事な事だからニ回言ったのかもしれないが、多分その極々一部って御三家を筆頭とする伝統的な呪術師家系の者が負傷なんかで第一線を引いて、本来ならば窓として暮らす所を、実家のメンツなんかで補助官になったとかそ~言う奴だろう。
「皆さんは反転術式のアウトプットが出来る家入さんに五条ポチさんが身近に居るので、負傷引退と言う未来については考えた事も無いでしょうが、二人が高専に来るまでは自力で反転を回せない術師は負傷即引退だったんですよ?」
窓と補助官では与えられる役割が大きく違う為、当然ながら賃金も大きく違う、負傷引退後の収入確保と言う点から見ても結界術の習得は決して無駄にはならないと伊地知二級術師は言う。
「でも俺も傑も帳は習得済みだからこの授業出る必要無くね?」
「任務が無い時は授業を受けるのは高専生の務めだよ? 復習と言う意味でもちゃんと聞いて置こう」
既に帳を習得し高専生として1年間を過ごした二人は、去年は無かったこの授業に疑問が有るようだ。
「今日は帳についてでは無く、結界術の応用についてなんですよ。まぁお二人には先ずは見せた方が早そうですね……『禁!』」
その反応は事前に予測出来ていたものらしく、伊地知二級は右手で剣印を結ぶと鋭い掛け声と共に御主人に向かって振り下ろす。
「お!? おお! 動けねぇ! 無下限ごと俺の身体の形に結果を張ってんのか!
「更に『縛』!」
振り下ろした剣印を今度は横に降ると、
「げ!? 結界が締め上げて来てるのか!? 無限を突破出来る程じゃぁ無いけど、コレ普通の呪霊や呪詛師ならこんだけで詰みじゃん!」
「トドメに臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前……『爆裂』!」
剣印を解いて九つの印相を続けて組んでいき、最後に気合の声を上げると……言葉の通り呪力が爆発した。
「こんだけ出来て二級って嘘だろ! 呪術師が等級詐欺してんじゃねーよ! 今ので少なくとも準一級は祓えるぞ!」
爆風の中から傷一つ無く現れた御主人が、受けた攻撃の火力に関しての寸評を口にする。
「今のは私自信のオリジナルと言う訳では無く、影高野の呪術師に伝わる奥義をパクったものでね、奥の手として覚えてはいるが余り大々的に使うと連中に狙われる可能性があるから、そうそう使う訳にも行かないんだよ」
影高野というのは高専とは別に存在する呪術師集団で、どちらかと言えば呪霊討伐よりも呪詛師に掛けられた懸賞金を狙う暗殺者集団でもあると言う。
そんな影高野の呪術師と何度か共闘しその奥義を見た伊地知二級は、ソレが結界術の応用である事を見抜き、自分なりに多少アレンジを加えた上で奥の手として完成させたのだそうだ。
「影高野の呪術師は基本的に術式を持つ者は居らず、結界術の研鑽だけで呪霊や呪詛師を狩る集団です。一応はフリー術師の集団と言う事で総監部の指揮命令系統外の存在で、一歩間違えば呪詛師集団と受け取られても仕方ない側面も無くは無い連中です」
そんな言葉から始まる影高野の説明に依ると、起源を辿ると呪術全盛の平安時代へと行き着き、安倍晴明から始まった陰陽師系統の呪術師(御三家含む)の台頭で、活躍の場を奪われた仏教系の呪術師達の寄り合いだったと言う。
術式が無い……ソレは呪術界においては弱者と見做されて当然とも言えるハンデキャップだが、影高野と言う組織は原作における『シン・陰流』同様に、独自の技術を磨き続ける事で呪術界に居場所を作った団体と言える。
「コレも影高野の連中からパクった技術ですが……」
と伊地知二級が前置きをしてから、ふわりと身体が空中へと持ち上がった。
「結界術は縛りを上手く組み合わせれば呪術的な障壁だけで無く、物理的な障壁を産む事も可能です、そして縛りの中に『重力を遮断』を組み込めば、こうして宙を舞う事すら可能なのです」
3m程の高さまで浮き上がり、空中で殴る蹴るの演舞をして見せる伊地知二級。
「「「「「「おお……!」」」」」」
コレには流石に新入生だけで無く、2年生組も……なんなら夜蛾先生も度肝を抜かれたらしく、伊地知二級を除く全員が感嘆の声を上げ拍手をする。
「……っと、まぁ結界術には生得術式に負けない程の可能性が秘められているんですよ。飛行に関しては燃費がかなり悪いので私程度の呪力では実戦運用が不可能ですけどね」
地面に降り立つなり肩で息をしているのを見る限り、本気で呪力が底を着きかけているのだろう。
「ただし注意しなければならないのは、基礎レベルの結界術は兎も角、ある程度以上の応用技術は全て天元様の浄界内でなければ発動すら難しいと言う事です。私が2級より上への昇格を望まないのは、浄界外の任務を振られたら死ぬしか無いからなんですよ」
天元と呼ばれる1000年以上を生きる呪術界の重鎮が張っている浄界と呼ばれる結界は、様々な効果を常に発揮して居るがその中に呪術師が使う結界術の底上げと言う効果があると原作でも夏油が言っていた覚えがある。
結界術を主な戦闘手段にしているらしい伊地知二級や影高野の者達は、天元の広域結界の範囲内である本州・四国・九州ならば相応の実力者と言えるのだろうが、その範囲外である沖縄や北海道、更には海外へと出張ってしまえば持ち技の大半が使えない事になる訳だ。
「基本的に天元様の浄界の中では、負の感情が淀めば然程溜まらないウチに等級の低い呪霊が産まれ、特級呪霊が出現するのは極めて稀です。まぁ一度形にハマってしまった特級は祓ってもそのうち出てくるんですけどね」
曰く天元の浄界には負の感情が吹き溜まった時点で、低級の呪霊として生まれやすくする効果も付与されているそうで、浄界の外では呪霊が出現する頻度は内部に比べると少ないもののの1度出現すれば最低でも2級、下手をしなくても特級が相応の頻度で現れる。
原作で乙骨裕太が長期に渡り海外遠征任務を割り当てられていたのは、そうした一級や特級と思わしき呪霊や、総監部の監視下に無い海外の呪術師や呪詛師、そして呪物コレクターなんかに対する牽制と……五条先生への嫌がらせだったのだろう。
「夏油君、折伏している呪霊で捨てても惜しく無い、ソレこそ蝿頭でも良いから1匹くれないかい?」
話をして居る間に次に何かをする程度には呪力が回復したらしく、伊地知二級が夏油にそんな事を求める。
「ええ、蝿頭なら構いませんよ。次は何を見せてくれるか楽しみです」
そう返事を返し管理下にある蝿頭を一匹放つ夏油。
「決! 滅!」
伊地知二級は再び剣印を結びソレを蝿頭に振り下ろし、御主人にしたのと同様に結界で蝿頭を捕えると、細長い杭の様な結界を重ね合わせ蝿頭を貫いた。
「と、こんな感じで結界術も修練を積み重ねれば、ソレだけで呪霊を祓う事が可能な技術なんですよ。総監部や御三家に高専では余り評価されていない技術ですけど……と御三家の一角を占める五条の御当主に言うのもなんですけどね」
「うは、今の殆ど呪力を使ってねぇ! パッと見た感じじゃぁマジで二級にゃ見えねぇ程度の呪力しか無かったのに、技術でソレをそこまで補うのかー。うわマジで久々に尊敬出来る大人の呪術師を見たぜ」
御主人にとって呪術師の大半は『生まれ持ったモノ(家柄や生得術式)』に胡座をかいて、弱いクセに自己研鑽を怠る者達なのだろう。
だが目の前の人物は術式も無く呪力も少ないのに、呪術師ならば誰でも努力次第で身に着ける事の出来る『結界術』を研鑽し続けて二級……戦力的には浄界内に限り準一級と言える程の実力を身に着けた努力の人だ。
腐った大人を幼い頃から数多く見続けて来た御主人からすれば、その在り方は中々に眩いモノに見えたのだろう。
「五条の御当主様を驚かせる事が出来たなら、今日の特別授業は成功と言って良いですかな? 夜蛾先生」
「ああ、勿論だ! 素晴らしいモノを生徒達に見せてくれた本当に有難う、伊地知二級術師」
そんな大人のやりとりの後、生徒達に結界術の基礎を手解きし、今日の特別授業は無事に終了したのだった。