畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
警視庁のミニパトがサイレンを鳴らし先導してくれるので、補助官が運転する車は一般道を時速80kmで進み、時折ある赤信号も速度を落とすだけでノンストップで通過して行く。
高速道路に乗るタイミングでミニパトが先導から外れ、高速機動隊のスポーツセダンを改造したであろうパトカーに先導車両が引き継がれる、ここからは時速100kmでの旅だ、
「緊急車両が通ります、道を空けて下さい」
パトカーに乗っているお巡りさんは何度もそんなセリフをスピーカーから発し、前方を行く他の自動車を退かせ俺達はその後ろに続いてガンガン他の車を追い越して行く。
「……人様の命が掛かってるとは分かってるけれど、毎度の事ながらこうしてガンガン飛ばせるのは楽しいっすね」
ハンドルを握る補助官の女性はスピード狂のケがあるのか、合法的に他の車を追い越して行く事に快感を見出しているらしい。
「つっても警察車両も100kmまでしか出さねーしなー、この車も本気ならもっと出るでしょ?」
高専が術師の送り迎えに使う車は黒いトヨタ・クラウンで、スポーツ車では無いが確かに100kmを超えて出そうと思えば出せる筈である。
「まぁ法律で緊急車両も一般道は80km、高速は100kmまでって決まってるからな、ソレ以上は幾ら警察でもスピード違反で切符を切られる事になる。違反車両を追跡する時はその限りでは無いらしいがね」
けれどもソレを法律が許さないのだと前世で免許を持っていた俺は、未だ普通免許を取る年齢では無い子ども達に教えてやる。
「やはり私もバイクの免許とろうかな? 足が有れば近場の任務なら補助官の手を煩わせずに移動出来るのは魅力的だ」
原付きを含めバイクの免許は16歳から取得は可能で、呪術高専の校則に免許の取得や運転を禁止する様な項目は無い。
真面目な夏油はその辺にもしっかりと目を通した上でそんな事を思ったのだろう。
「あー、出来れば自力移動はどーしても補助官の都合が付かないとかそういう場合以外はやめて欲しいっす。移動で体力使って任務に支障が出たらソレこそ本末転倒っすからね。運転って割と体力使うんっすよ。趣味で転がす分には止めないっすけどね」
時速100kmと言う高速走行中にも拘らず、補助官がそんな言葉を口にする余裕があるのは、ここが高速道路と言う一般道に比べたら突発的なトラブルが起こりづらい場所なのと、警察車両の先導があるからだ。
「バイクを含めた自動車は操作を誤れば簡単に人を殺す凶器になる。時には自分すら命を落とす事にもつながるモノだからな。行きは良くとも、任務で疲れた身体で運転して事故ったら洒落にならん。任務の送迎はやはり補助官に任せるべきだろう」
前世でも死亡事故こそ起こした事は無いが、徹夜で野良猫の捕獲に駆けずり回り、撤収作業後に長距離運転をした際、居眠り運転からの電柱突撃と言う単独事故は起こした事がある。
速度も余り出ておらずぶつかったのが電柱も折れたりする様な事は無かったし、会社の車の修理費も無事保険が下りたので大した問題にはならなかったが、もしも登下校中の子ども達に突っ込んでいたならば、俺は多分首を括っていただろう。
その事を経験談として話すと、後部座席の真ん中に俺を置き左右に座っていた御主人も夏油も少しだけ悩む素振りを見せた。
「確かに任務の後にバイクで帰るのは危険が過ぎるね。まぁ私は飛行出来る呪霊や高速で走る呪霊なんかを調伏すれば移動手段には困らないし、急いでどうこうする必要も無いかな」
「確か乗って空飛べる呪霊はもう何体か確保してるんでしょ? ならバイクに拘る必要は無いわよね」
「でもバイクはロマンあると思うぜ? ハーレーとか俺も欲しいもん」
呪霊操術が有ればバイクは要らないと言う結論に夏油と家入が至った所で、御主人がそんな言葉で混ぜっ返す。
「ああ、ハーレーは確かに格好いいね。任務に関係ない普段の足として使うならやはりバイクの免許取るのはアリかなぁ? 買い物に出るのに一々補助官の方に車出して貰ったりバスを乗り継ぐのも面倒だしね」
一応都内とは言え呪術高専から最寄りのコンビニまで歩くとなると片道40分の距離がある、呪力全開で走れば10分有れば辿り着けるとは言っても、普段からそんな事をしていれば『ターボばばぁ』的な都市伝説から呪霊が産まれる可能性は否定できない。
「さて御三方いやポチさんも居るから4名様か……兎に角、そろそろ気を引き締めて下さいね。高速下りたら後は10分くらいで着く場所の筈なんで、冥冥一級は既に卒業生でフリーランスだから自己責任としても、庵ニ級は未だ学生ですし助けて上げて欲しいっす」
冥冥に対して個人的に何か隔意があるのか、それとも言葉の通り独立したフリーランスが任務を受けるかどうかは自己責任で、振られた任務を拒否する自由はほぼ無いに等しい高専所属の者は助けるべきと間がているのか……どちらにせよ割とドライな補助官らしい。
「10分くらいって事は残り15km無いよね?」
「いえ、つづら折りの山道を上がらないと行けないので、車だとソレくらい掛かりますが、直線距離ならもっと短い……ほらあの山の上の洋館です」
峠道と言う程では無いが山を登る様な道を走る関係上、いくらパトカーの先導が有ってもここを80kmでかっ飛ばす様な事は当然出来やしない。
故に余裕が有った補助官がそう言って指差す先には、山の中腹辺りに突き出した目立つ洋館がはっきりと見えていた。
「もう見えてるなら車で行くより自分の足でまっすぐ行った方がはえーや。止めてこっからは自分達で行くから」
「硝子は私が出した呪霊に乗って来れば良い、最大戦速で二人を助けるぞ」
「あら、私だって現場で足手まといにならない程度には鍛えてるし、自分の足で付いていくよ。むしろ心配なのは体格差があるポチじゃない?」
「……ネコ科肉食獣を、4足歩行を舐めるなよ? ただ突っ込むのは良いが帳の下ろし忘れには注意しろ。夜蛾先生、最近抜け毛に悩まされてる様だからな」
正直に言えばネコ科肉食獣は全般的に瞬発力は高いが、持久力に掛ける性質がある。
と言うか大概の野生動物は持久力よりも瞬発力が高く、大半の能力で野生動物に劣る人間が殆ど唯一勝るのが持久力だと言う話すらあったりするくらいには、野生の世界で持久力は重視されていないステータスだったりするだ。
だが俺の身体は生得術式に依って常に反転術式が回っており、心拍数が限界を超えよう血圧がヤバい事になろうと、それらは全て無かった事になるので、通常の猫は勿論のこと上位の忍猫やなんなら人間のアスリートのソレすら上回る持久力を維持出来るのである。
並の猫でも瞬発的な速さでは人間を凌駕するのだから、忍猫として鍛えた俺が呪力で身体強化を行えば、生半可な呪術師よりも素早く動けるのは当然の事なのだ。
俺達の言葉を聞いた補助官はパッシングで前を走るパトカーに合図を送ると、静かに路肩へと車を寄せて停車する。
車が完全に停まったのを確認する前にドアを開いて車外へと飛び出した俺達は、道路を無視して一直線に洋館へと向かって駆け出した。
「悟、君の目で何か読み取れるかい?」
「ありゃ建物自体に結界が張られてるな、んでも仕事が雑だ。伊地知のおっさんなら結界のクセを読み取って自力で対処出来てるんじゃね? 歌姫ももうちょっと結界術の習得頑張った方が良いな。ポチ、お前なら何処に二人が居るか分かるか?」
「悟の目で見えないモンがポチに分かるわけ?」
「ああ、俺の呪力や術式の読み取りは飽く迄も六眼に依るモノで視覚に頼る部分が大きいんだよ。んでもポチは呪力や残穢なんかを視覚以外の感覚で掴んでるっぽいんだよね。んだから俺に見えないモノがポチには分かる事がたまーにあるわけよ」
事実御主人が言う通り、人間だった頃には感じられなかった感覚が俺にはある。
毛が逆立ってチリチリとする感じのその感覚は、人間で言うなら第六感とでも言う様なモノなのだろうが、気の所為などではない新しい感覚器官として機能しているのは事実なのだ。
「……庵の呪力は以前に会って確認済みなので、ソレが何処にいるかは分かる。あの結界の中で動いているもう一つの呪力が冥冥と言う術師だとすればソレも分かるな」
「うし、んじゃ二人に当たらない様に気を付けて外から屋敷をぶっ壊しちまおう。アレを中から破るのは伊地知のおっさんまで行かなくても、ソレに近いレベルの結界術使いじゃなけりゃ無理だろ。俺もやってやれなくは無いけど面倒臭ぇ」
そう行って呪力を練り始める御主人、ここは俺が居てもいなくても原作通りなのか……だが、俺の介入で原作と少しでも違った展開にしてやる!
「臨兵闘者皆陣烈在前! 護法守護結界!」
「術式順転『蒼』」
素早く早九字を斬り、両前足を合わせて帳に類似する忍猫流の結界術を発動した本当に直後、御主人の術式が派手に炸裂したのだった。