畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
庵歌姫と冥冥の救出自体は原作とほぼ変わらない形で終結した。
違いが有るとすれば俺がしっかりと帳を下ろした事で大騒ぎにはなる事無く、御主人の頭に夜蛾先生の拳が振り下ろされず、洋館の崩壊も『老朽化に依る倒壊』として無管理の民家に対する警鐘として報道されたくらいである。
「……非常に不本意だが、お前達二人に天元様から直々の指名任務だ」
放課後の余暇を使って、御主人と夏油が体育館でバスケットの1on1をして遊んでいると、夜蛾先生が姿を表すなりそんな事を言いだした……ちなみに俺はボール役である。
「不本意ってどー言う事だよ夜蛾セン! 俺達今まで一度も任務をしくじった事はねーし、ポチを拾ってからは務めてひんこーほーせーに生きてたつもりだぜ?」
「悟が品行方正かどうかは議論の余地があるとは思いますが、少なくとも我々の任務達成率100%と言うのは事実ですよ?」
「……お前達の能力を疑っているわけじゃぁ無い、任務の重要度と内容が問題なんだ。ここで話す様な内容でも無い、そのままの格好で良い先ずは指導室に移動するぞ」
先生にそう言われ、俺をボール代わりにしたバスケットは一端終了し、ジャージのままで校舎内を移動する。
仔猫の頃は移動する時には御主人の頭の上に乗っていた俺だが、忍猫の修行を終えて帰って来た時には同じ様に乗ろうとして『重いわ!』とブチ切れられてからは、自分の足で歩いて着いていく様になっていた。
「あー夜蛾セン、その任務の話はポチに聞かせても良い奴? 駄目なら先に寮に帰らせておくけど?」
「ポチが独立した人格を持つ存在なのは俺も理解しているが、現状では飽く迄も『物』であり、お前の装備品の一つと言う扱いだ。連れて行くなら守秘の縛りは結んで貰うが、どうするかは悟の判断次第だな」
「んじゃ連れてくって事で、良いかポチ」
「無論、どの様な任務だろうと世間の為、人様の為に徳を積むのが俺の目的だからな」
そんな話をしながらの移動だったが、俺は既にその任務の内容を知っている……星漿体──天内理子──の護衛と末梢だ。
……この任務には俺は絶対に参加する、しなければならないと心に決めていた。
呪詛師連中の被害に関しては自業自得の範疇の事でどうでも良いが、原作でこの事件の中で命を落した天内理子と黒井美里の二人と、可能ならばパパ黒こと伏黒甚爾も生かしたままで事を終わらせたい。
その上で天元と星漿体の融合も成し遂げる事が出来たならば万々歳だ。
天内理子の生存と星漿体の融合を両立するのは不可能だろうって? ソレを可能にする可能性が俺が新たに編み出した拡張術式には有る……と思うのだが、実際に検証していない以上は半ば博打の様なモノではある。
……でもその賭けに勝つ事が出来れば、無辜の者を誰一人失う事無く、メロンパンの野望を一気に潰す事が出来る筈なんだよな。
死滅回遊とソレを前提とする全人類の天元との同化、ソレを為すには天元と星漿体との同化阻止が必要不可欠な筈だ。
ここで俺が上手くやればメロンパンの目論見を潰す事が出来る……そう考えるだけで俺の中にあふれる呪力が滾って来る。
等と考えている間に生活指導室を兼ねた秘匿性の高い任務指示に使われる防諜部屋へとたどり着く。
この部屋はただ単純に防音に気が使われているだけで無く、壁材や床に天井、横開きの扉に至るまでブリキ板を張り巡らせ、携帯電話やWifiと言った電磁波の遮断もしっかりと行われいる。
更に窓は2重窓に成っており、外からレーザーマイクなんかを使っての盗聴にも気を払った造りだ。
一度俺が興味本位で天井裏に潜り込もうとした時も、この部屋の上にはしっかりと壁が張り巡らせてあり、ネズミ一匹入り込むのは不可能な構造に成っている。
……この辺の防諜にはおそらくは伊賀や甲賀出身の忍者系呪術師のアドバイスが有ったりしたのだろう。
「……ポチ、結界術は俺より既にお前の方が上だ、遮音結界を張って貰えるか?」
全員が部屋へと入り席に付いたのを確認し、夜蛾先生が俺にそんな言葉を投げ掛けてくる。
「この部屋使う時点で他所に情報漏れなんて殆どありえねーだろ? その上に結界まで張らせるとか何処までヤベー任務なんだよ」
「伊地知二級程では無いとは言え、ポチさんの忍猫流の結界術はかなり高度なモノだからね。我々が張るよりも信頼度は高いだろうし、お願いするよ」
「了解したが……忍猫流では無く飽く迄も甲賀流の結界樹だ。臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在。前……無空無音結界」
九字を切る所までは護法守護結界と同じだが、外部との遮音を第一にした無空無音結界を張 る時には両前足で畳んだ耳を抑えるジェスチャーをする。
チンっとガラスとガラスを打ち合わせた様な音が一瞬響き、ただでさえ防音に気を使った室内からそれぞれの吐息以外の音が完全に消え去った様に思えた。
「コレでやっと安心して話せるな最重要秘匿任務だ、天元様と星漿体の融合が近付いているのだが、この時期に星漿体の少女の所在が漏れたと言う情報が伊賀の忍び衆から齎された。狙っているのは非術師の宗教団体『盤星教』そしてもう一つが呪詛師集団『Q』」
「盤星教か……宗教は厄介だね、万が一信者の中に忍者が居れば非術師と言っても侮れない」
「確かに、同じ土俵で戦える分だけ呪詛師集団の方が未だマシまで有るわな。流石に猿飛のじーさんクラスがポンポン居るとは思わねーけどな」
……原作では呪詛師集団に対してのみ警戒し、非術師集団に過ぎない盤星教は意識の外に有った二人だが、甲賀忍者村で本物の忍者と会った事で『非術師にも侮れない者は居る』と言う認識に成っている様である。
「呪詛師集団Qも決して侮って良い相手では無い、高額な賞金が掛けられた呪詛師こそ居ないが、呪術界の転覆を目論んでいるだけあってそれ相応の戦力を備えて居ると推察されているのだ」
「でもさ呪詛師って
「寧ろ非術師の方が様々な現代技術や兵器の類を平気で使って来そうだし、状況次第では危険だろう。数キロ先から対物ライフルで狙撃でもされたら、私達自身は兎も角護衛対象を守り切るのは中々に難しいだろうね」
つか原作よりも非術師に対する評価が異様に高く無いか? 甲賀忍者村だけじゃねぇだろコレ、一体どんなバタフライエフェクトだよ!?
「まぁ最悪、完全に即死さえしなければ俺の反転術式で何とかする事は出来るし、最初の一撃で命を刈り取られさえしなければそう簡単には殺されはしない筈だ……回数制限はあるけどな」
「いや反転で治るにせよ、痛いもんは痛いんだから護衛対象は可能な限りきっちり守んないと駄目っしょ。少女って言うなら尚更、俺やだよ? 女の子を傷つけた罪で地獄堕ちは」
余程地獄行きが怖いのか、御主人が軽く肩を竦めながらそんな言葉を口にする。
「盤星教でしたっけ……幾ら天元様が呪術界、ひいては日本の要と言っても過言では無い存在とは言え天元様は、神様や仏様じゃぁ無いんですから拝み崇拝しても功徳があるとは思えないんですけどね」
「いや、前にポチと話したんだけどさ、神様とか仏様って古代の呪術師だった可能性もあるんじゃね? って、俺達は未だ領域展開出来ないけどさ資料とか見る限り、領域展開の時の印相って大概は仏教由来なんだよ、んだから呪術と仏教て多分深い関係あるんだよ」
「あー、成る程、面白い仮説だね。まぁその件は任務が終わってから本格的にディスカッションしようか。私もちょっと興味あるし」
「……少女と天元様の同化は2日後の満月の夜! ソレまで彼女の願いは全て叶える様にとの天元様の要望だ。では直ちに護衛対象の下へ向かう様に!」
二人の会話を打ち切る様に原作でも見せた謎をポーズを取ってそう言って割り込む夜蛾先生。
「うし、んじゃ行くか。あ、今この瞬間にも狙われるわけだし最速で現場入りする為にもパトカー付けてね」
「サイレン付きだとこっちの動きが丸わかりになるし、私の呪霊で飛んでいった方が良いんじゃないかな? イケダの術式を使えば飛んで行っても一般人に視認される事は無いし、テレビの空撮なんかに気をつければ問題ないでしょう」
イケダと言うのは夏油が俺と一緒に行った任務で捕獲した元痴漢呪詛師の呪霊の事である。
「つか歌姫達の救助もソレで行けばよかったじゃん、車で行くよりまっすぐ飛んだ方が早かっただろ?」
「都内なら兎も角、土地勘の無い他県を目指してまっすぐ飛ぶのは割と難しいんだよ。PSPをカーナビにするソフト買おうかなやっぱり」
「……呪術師の移動は補助官に頼るのが基本だ、移動で呪力や体力を無駄に消耗するのでは本末転倒だと昨日の車内でも話してただろう」
バイクの代わりに今度は呪霊か……と思わなくも無いが、今回は現地に行って呪霊や呪詛師を祓って即撤収という類の任務では無いので、夏油の呪霊で一気に移動するのはアリと言えばアリである。
「……星漿体の少女の少女が居るのはここのマンションだ、どんな手段でも良いから早急に向かうんだ!」
言外に呪霊で移動する事を許可した夜蛾先生の言葉に従い、俺達は夏油の出した呪霊に乗って東京の空へと飛び立つのだった。