畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

3 / 6
とある黒猫の転機

 乳飲んで寝て目が覚めたらちょっと動いて乳飲んでまた寝る……そんな生活を続ける事大凡一ヶ月、とうとう()生の転機が訪れた。

 

 目が開いた頃合いから徐々に歯は生え始めて居たのだが、ここに来て母猫が乳離れの時期だと判断したのか、それとも乳を吸う時に歯が当たるのが痛くて耐えられない様になったのか、俺達子猫の前にかなり弱っては居るものの未だ生きてるスズメが差し出されたのだ。

 

 野良なんだからそりゃ火が通った物を食べれるわきゃ無いよな……躊躇する事無く奪い合う様にスズメに躍り掛り、爪と口の周りを血に染めて骨も肉も貪る兄弟姉妹達。

 

 意を決して俺もその中へと混ざり一口齧り……即座に吐き出した! 

 

 血抜きすらしていない生肉なのだから当然と言えば当然なのだが血生臭いのだ。

 

 猫の身体相応の味覚だったならば普通に食えたのだと思うのだが、何故か目や耳といった他の感覚器官同様に俺の味覚は人間だった頃のままだった。

 

 ……え、コレ割とマジで無理ゲーじゃね? 前世(まえ)の俺は割と出汁が効いて居れば塩や醤油は然程入れずとも美味しいと感じた口だが、ソレでも猫に与えるには塩分が多過ぎる食事をしていた筈だ。

 

 と言う事はマトモに生きるだけでも糞不味い飯を食い続けなければならないという事か? 

 

 でも原作で言われて居た『吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みするような味』に比べたら、未だマシと思うべきかもしれない。

 

 等と葛藤して居る内に俺が吐き出した分も含め、スズメは兄弟姉妹の腹に収まっていた。

 

「にゃー」

 

 ポトッと音を立てて目の前に置かれたのは今度は見るのも悍ましい黒い悪魔……G型生命体である、しかも先程のスズメ同様に完全に死んでは居らず、かと言って逃げ出せる程元気な状態でも無くピクピクと脚が動いているだけの状態だ。

 

 兄弟姉妹達は再び奪い合う様にソレに齧り付くが、俺は流石にコレには手を出せない。

 

 ……うん、野良生活は諦めよう、なんとか早い内に人間に保護して貰うかどうかして、既製品のキャットフードが食える生活を手に入れよう。

 

 母猫が次に持ってきたのは小さなバッタだった……コレはなんとか食べた、前世の子どもの頃育った場所が『イナゴの佃煮』が極々普通に食卓に上がる地域だったのでGに比べたらかなり拒否感は少なかった。

 

 佃煮の様に甘辛く煮付けられて居る訳では無いバッタは、調理していないエビを丸ごと齧った様な味と食感で、なんとか吐き出さずに飲み込む事が出来たのは幸いだった。

 

 まぁ猫って割と餌の好き嫌いが多い動物だし、母猫も俺の好み……って事で納得してくれないかな? 

 

 前世に保護した猫が半野良的な感じで、所謂『餌やりおばさん』に割とお高いキャットフードで餌付けされていたらしく、ウチで用意していた餌に砂かけモーションを取られた時には割と凹んだ記憶がある。

 

 人間の子どもだったら好き嫌いせずに食べろ! と躾られるんだろうが、その辺はほら畜生道に生きる者だからね! 本能が食うなと言ってるんだから仕方ないよね! 

 

 なーんて呑気にしてられたのはそれから数日の間だけだった……俺達が棲んでいた物置小屋が有ったのは、所謂『事故物件』だったらしく母屋に呪霊が現れたのだ。

 

 いや、より正確に言おう、俺がこの世界に猫として産まれた時点で、既にその呪霊は母屋に存在してた。

 

 けれども呪霊は一部の例外を除き産まれた場所から大きく動く事は無く、ソレも母屋の中心部とも言える居間に留まっており、俺達が棲んで居た庭の物置小屋には何ら影響を及ぼして居なかっただけだ。

 

 無人となって久しい母屋は大分朽ちて来ており、端から見れば完全に『お化け屋敷』の様相を呈していた。

 

 恐らく無人となった当初はここが事故物件となった経緯も近所の者達は知っており『近づいてはいけません』と言う大人達の言葉を子ども達も素直に聞いて居たのだろう。

 

 だが建物が朽ちる程の時が過ぎて来ると、話自体は噂なんかの形で残っても、実感は風化しやんちゃな子ども達や軽薄な若者達が『肝試し』と称して探検に来るであろう事は容易に想像が付く。

 

 前世の世界ならば建物の中で大きな怪我でもしなけりゃ、大した問題になる様な事も無いが……ここは呪霊なんて物が実在する極めて危険な世界だ。

 

 俺がソレの存在を認識したのは、猫の活動が活発になる深夜帯に入る少し前の事だった。

 

「ココが例のお化け屋敷ねー、ぶっちゃけただの廃墟じゃね?」

 

「お化けを見たってのもさー、どっかのホームレスが勝手に住んでるのを誰かが見かけただけかもねー」

 

 ガヤガヤと軽薄そうな若い男と尻の軽そうな若い女達が、敷地を隔てる門の前で騒いでいるのが聞こえて来た。

 

「フシャー!」

 

 母猫は迷惑そうに威嚇の声を上げるが、当然人間たちに聞こえる距離では無い。

 

 状況が変わったのはそれから30分も経たない頃合いだった、鍵の掛かった玄関から入るのを早々に諦めた若者達は、俺達が棲む物置小屋がある庭へと周り込み、居間から庭へと出る為に取り付けられた窓へとやって来たのだ。

 

「うわ! うわ! マジで! マジで出た!」

 

「キャ────! こっち来んな! 何! 何!? 何なのよー!」

 

 部屋を覗き込んだであろう若者達の悲鳴と直後に響き渡るガラスが砕ける音。

 

 呪霊は元来普通の人間の目には見えない存在だ、けれども生命の危機に瀕した時や、極端に呪力が濃い場所に来た時などに例外的に見える様になる事がある。

 

 今回がどういう理由でその呪霊を若者達が視認出来たのかはわからないが、窓から屋内を覗き込んだ若者達の目にその呪霊は間違いなく写ったのだ。

 

 そして呪霊は人間を襲う、そこに特段の理由は無い、極々一部の知恵を持つ呪霊は祓われぬ様に気を使う事はあるが、本質として奴らは人間を襲うモノだからである。

 

 誕生から今までただただその場に留まって居ただけの呪霊が、突然人を襲ったトリガーが何なのかは分からない。

 

 自分の定めた縄張りに人間が踏み込んで来たからなのか、それとも視認されたからなのか……兎角、ガラスを突き破り若者達に襲いかかったと言う事だけが事実だ

 

 この時俺は思わず飛び出して居た、巣がある庭で呪霊が暴れれば間違いなく母や兄弟姉妹に危険が及ぶ。

 

 ソレに俺は阿弥陀様に今生で徳を積めと言われて畜生道に堕ちたのだ、ここで呪霊に襲われる人間を見捨てて得られる徳などありはしない。

 

 自分の術式は完璧では無いだろうがある程度は理解出来ていると思う、呪力の操作は原作で知っている『呪力は臍で回す』と言う言葉くらいしか知らん、なら腹にグッと力を入れて殴れば最低限は何となる……筈だ! 

 

「フシャ―!」

 

 うぉら! と叫んだつもりだったのだが口から漏れたのは猫らしい鬨の声、兎にも角にも呪力をで身体能力を強化する事を意識し、呪霊の共通した弱点である頭部目掛けて飛びかかる。

 

「うわぁ! バケネコまで出たぁぁぁあああ!」

 

「きゃぁぁぁあああ!」

 

 呪力を纏った()が飛び出して来たのを見た若者達は恐怖と混乱でさらなる悲鳴を上げるが、今はそんなもん気する余裕は無い。

 

 俺の生得術式は反転術式が組み込まれているタイプなので怪我を気にする必要は無いし、特攻地味た突撃も躊躇する事無く繰り出す事が出来た。

 

 相手は概ね人形の極々普通のスーツを纏った姿で、特徴的なのは襟首にネクタイが無くグロテスクな肉塊の首にソレが直接巻き付いて居る事だろう。

 

 恐らくはここの家主が何らかの理由でネクタイで首を吊り、時を経て『この家には幽霊が出る』的な噂となり、そこから溢れ出た恐怖などの負の感情が集まって形を取ったのがこの呪霊なのではなかろうか? 

 

 コイツが原作で言うどの等級に分類される呪霊なのかは分からない、けれども間違いないのは、俺がコイツをここで祓わねばこのチャラい兄ちゃんと姉ちゃんの生命が無いと言う事だ。

 

 原作ではゴリラ廻戦とも揶揄される事も有った位には、術式に依る能力バトルモノ展開よりもフィジカルに任せた格闘展開が多かった様に思う。

 

 個人的な好みを言うならバカサバイバー編とかも好きだったけどなー。

 

 と、そんなよそ事を戦闘中に考えている余裕があるのかと言えば……ぶっちゃけ有る。

 

 なんせ今できるだけの呪力を全力で込めた引っ掻き一撃で呪霊の頭が爆発四散したのだ。

 

 戦いと言う程の戦いでは無いが、俺が交戦して居る間にチャラい人達はケツを捲ってさっさと逃げていた。

 

 そしてガラス窓が割れた音で危険だと判断したのか、ソレとも呪霊が見えていたのか、母猫と兄弟姉妹達もまた巣を引き払いさっさとトンズラし……俺は一匹でその場に取り残されたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。