畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「不味いな……御主人、既に現地には呪詛師のモノと思われる呪力が感じられるぞ!」
都内の高級住宅地にそびえ立つ高層マンション……分譲ならば上層階の部屋は間違いなく億の価格が付くだろう建物の上空へとやって来た俺達だったが、原作通り既に呪詛師集団Qの手のモノが星漿体の少女の側に辿り着いて居るのを感じ取る。
「数は?」
「そこそこ強そうなのが1、然程でも無いのが2、更に弱そうなのは10行くか行かないかだな。但し然程でも無い奴の一人は夜蛾先生に指示された部屋の有る階に居る」
普通の猫が威嚇する時の様に全身の毛を逆立たせ、体表の面積を増やす事で周囲の呪力をより明確に感じ取る努力をする。
一般人や3級呪霊以下程度の呪力はコレで感じ取る事は出来ないがソレ以上……具体的には、3級呪術師以上の呪力ならば目で見なくとも毛で感じ取る事が出来るのだ。
「強い奴は何処に居るんだい?」
「下だ、あのマンションの前の広場に身を伏せている様だ」
「んじゃ手分けだな、俺は下の一番強そうって奴をサクッと潰して来るから、傑は星漿体の保護を優先、ポチは他の雑魚を可能な限り姿を見られない様に処理する事……呪詛師に限って殺傷を許可する」
御主人がそう指示を出し、夏油がなんでお前が仕切ってんだ? と言いたげ眉を潜めるが少し考え、
「妥当なはんだ……!?」
と言おうとした所でマンションの一室が爆発し……その衝撃からか一人の少女が宙を舞う。
「悟! ポチさん!」
「おう!」
「了解!」
少しでも夏油が少女を救い易くする為に、俺と御主人は呪力を身に纏い空へと飛び出す。
御主人が比較的強い呪力の方へとそのまま落ちていくのを横目に、俺は10の雑魚とソレを統率して居るであろう少し強い呪力が居る場所へと向かって落ちていく。
俺の生得術式は命のストックを8つ持ち9回殺されないと死なないと言うモノで、常時術式に組み込まれた反転術式が回っている状態である。
何故今更そんな事を説明するかと言えば、生得術式には術式をそのまま回す術式順転と反転術式の要領で効果を逆転させる術式反転の運用が有るからだ。
俺の身体を常に治しているのは術式順転なのかと言えば実はそうでは無い、飽く迄も身体を治しているのは反転術式であり、常時動いているのは術式反転の方だ。
ならば順転させればどうなるか? 答えは……
「術式順転『自切』』
忍猫修行の後に拡張術式をあれこれ試している時に、俺は今まで順転だと思っていた効果が実は反転だった事に気が付いたのだ。
そして順転はただただ自傷するだけと言う、そのままでは全く使い物にならない効果だったのだが、俺の戦闘スタイルからすればコレほど好都合な効果も無い。
今まで俺は猫ロケットパンチを放つ時、右の前足をでパンチを繰り出し左の爪に呪力を込めて自切していた……だが術式順転の効果を使えば一々爪で切り裂く事無く左右どちらからでも猫ロケットパンチを連射出来るのである。
上空から雑魚と思しき呪詛師の呪力に向かって10発の猫ロケットパンチを放つ。
ちなみに術式順転による自傷に痛みは無い、その所為なのか順転に依る自切で放つ猫ロケットパンチに『自傷の縛り』は成立せず、爪を使った痛みを伴うモノと比べると大分威力は落ちる。
……ソレでも3級以下の呪霊には十分な威力だし、対人で『殺さない』事を考えるならばこちらの方が使い出が有るといえるのだ。
「あが!」
「いぎ!」
「うぐ!」
「えげ!」
「おご!」
「あべし!」
「ひでぶ!」
「たわば!」
「ちにゃ!」
「ぐわばら!」
……なんか世紀末的な断末魔を上げているが、一般人でも重症まで行かない程度の威力しか無い筈だし、余程当たりどころが悪くなければ一発で死ぬ事は無い……筈である。
「な、なんだ!? 何が起きた!? このエッセン様が率いる精鋭達が一瞬で!?」
他の者達よりも少しだけ強い呪力を持った者に対しては猫ロケットパンチを撃っては居ない。
上空からの攻撃だった事は理解しているようだが、その起点が俺と言う猫だとは未だ気が付いていないのは間違いない様である。
……原作では最強戦力とやらが御主人に倒された事であっさりと壊滅した組織だし、夏油も天内理子と黒井美里の二人を襲った呪詛師を殺さずに確保していた筈なので、俺がここでコイツを生け捕りにする必要は無いと言えば無い。
だが対呪詛師の初実戦だ、可能ならば忍猫としての技術を少しでも実戦で馴染ませて置きたい、そう判断し未だ俺の存在に気が付いていないらしいエッセンと名乗った呪詛師の身体を着地と同時によじ登る。
「動くな、貴様の命はもう握っている。惨たらしく死にたく無ければ、俺の言う事を素直に全て話すんだな」
苦無を尻尾の先に絡め呪詛師の首に巻き付ける事で、刃先を喉仏に突き付けると、可能な限り低い声を作ってそう呼びかけた。
「ひっ!? なんだ! なんだお前!? 呪霊!? いや、え!? なんかの術式か?」
呪術で人様に迷惑を掛ける存在である呪詛師なんて事をやっている割に肝が座って無い野郎だ。
「聞いた事以外に口を開くな」
相手の肩に乗り耳元で押し殺した声でそう言いつつ、苦無の先で少しだけ喉に傷をつける。
「ひっ!?」
「貴様らが呪詛師集団Qだと言う事は分かっている、構成員はここに着ている者ですべてか? 拠点は幾つ、何処に有るかも吐いて貰おう。ああ、言いたく無いなら言わなくても良いぞ? 言いたくなる様にしてやるだけだからな」
この程度の尋問で情報を吐く様なら呪詛師──裏世界の住人はやってられないだろう。
「……こ、こんな事をしてただで済むと思ってるのか!? お前が言った通り俺達は集団なんだぞ!? 俺が戻らなければ必ず仲間が報復に……ひっ!?」
「俺が聞いた事以外に口を開くなと言っただろう? ソレにお前以外の連中はみんなおねんねじゃねぇか? ソレにお前らの確保の為におっつけ高専の術師や補助官がやって来る。呪術総監部の尋問は俺の比じゃねぇぞ? 今のウチ吐くだけ吐いたら未だましかもな?」
……秘匿死刑なんて事がまかり通る呪術界だ、捕らえた呪詛師を相手に単純な尋問程度で済む筈も無く、まず間違いなく拷問の類はあるだろう。
更に言うなら実際に傷付ける事痛みや苦しみだけ与える術式を持つ呪術師や、そんな風に拷問に使える呪具を高専が確保している可能性は割と高いのではなかろうか?
原作でも『組屋鞣造』と言う呪詛師が高専に捕らえられた際に、色々と情報を聞き出していた様で、後に彼のアトリエへと禪院真希が訪れ武器となる呪具を持ち出しているが、自身の作品に異様な愛着を持つ彼が簡単に場所吐いたとは思えない。
となると……必然的に彼の身に何が有ったかは容易に想像が付く。
「ば、バカな事を言うな! ここには我らがQの誇る最強バイエル様も来ているんだ! お前らに勝ち目が有る筈が無い!」
……原作でも夏油にやられた呪詛師が似たようなセリフを吐いていたなぁ。
「……ソイツあの五条悟に勝てる程の人材なのか? 御三家の一つ五条家当主であり、産まれた当初から億を超える懸賞金を掛けられ、数多の呪詛師に命を狙われてもなおソレを返り討ちにしてきたバケモンに本当に勝てると思うか?」
呪詛師もピンキリだが単独で生き抜いて来た者と、群れなけりゃ生き残れない程度の者、そのどちらが強いかは考えるまでも無いとは思うんだが……群れの中で強い程度のお山の大将が御主人に勝てるわけが無いと思うんだがね?
俺がそう言った直後、羽織った赤いちゃんちゃんこのポケットからメールの着信音が聞こえたので、尻尾をそのままに前足を使って携帯を取り出し画面を確認する。
「お前の言うバイエルってのは、コイツか?」
苦無は動かさず顔の前へと携帯を差し出してやる。
「……バイエル様ですね」
その後、彼の口が必要以上に滑らかに全てを話しだしたの言うまでも無い話だろう。
高専の派遣した後始末要員が来るのを待って彼等を引き渡し、俺は少し送れて御主人達の下へと向かうのだった。