畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
俺が忍猫としての修行を終えてからは、任務の際に赤いちゃんちゃんこを着る様になった。
コレは野良猫との区別と言う目的も有るが、ソレ以上に御主人名義で買って貰った携帯電話や、苦無に兵糧丸と言った忍具、貼るだけで結界を張ったり効果を高めるたり出来る呪符が数枚、更にはミニロードマップなんかを持ち歩く為の入れ物なのだ。
あと数年もすれば所謂ガラケーからスマートフォンへと携帯電話が進化し、何時でも何処でもネットに繋がり、WEB上で地図を見る事が出来る時代が来るが、今は未だ専用の機器が無ければナビゲーションもままならない。
その為、自分の行動圏内ならば兎も角、遠方へと出掛ける事を考えるならば地図の携帯は必須と言って間違いないのが今の時代なのだ。
呪詛師集団Qの後始末を高専の補佐官達に任せた俺は、御主人達が先行して向かった廉直女学院中等部へ地図で場所を確認してから一直線にひた走る。
今生のこの身は猫だ、そこら辺の路地裏をすり抜け、一般家庭の屋根の上を駆け抜け、ビルの周りに突き出した室外機を飛び石にして移動した所で誰も不思議には思わない。
「あ、おじーちゃん、久し振りー。うん、いや世間話じゃなくてさ、ちょっと忍務を依頼したいんだよね? ああ、流石は甲賀忍軍、情報が早い……え? マジで!? うん、うん、分かった最初は手付で500、成功報酬で+2500と思ってたけど倍だすわ」
合わせて毛を逆立たせて御主人と夏油の呪力を探しその場所へと駆けつけると、御主人が眉間にシワを寄せて何処かへ電話していた。
「あ、ポチ。遅かったな。今、猿飛のおじーちゃんに追加の護衛を依頼してたとこ、Qとか言う呪詛師集団は拍子抜けも良いとこだったけど、だからって非術師がソレ以上に腑抜けてるとは限んないからね……ドンピシャだったわ」
「その口ぶりだと悟、猿飛の御老人から何か情報が貰えたのかい?
「ああ、呪詛師連中が使ってる裏サイトで星漿体の首に3000万の懸賞金が掛けられてるんだとよ、しかも時間制限付きで。お陰で近隣に居るだろう
「成る程、ソレでか……ここを目指していると思しき呪力が幾つか感じられる。今の段階ではっきり分かるのは2つ……いや3つか? 違う! 増えてるぞ! 同質の呪力が増えてる! はっきり分かるのは二人以上、内一人は分体を産む術式とかその類だ!」
「やれやれ早速かい。私と悟で外の呪詛師を排除する。ポチさんは理子ちゃんの下へ、貴方なら見つからない様に護衛出来るでしょう?」
「そーだな、外の索敵は傑に呪霊を撒いて貰えば直ぐだ。あのガキっと、お嬢さんには既に傑の呪霊を何体か護衛に憑けてるから、万が一交戦する様な状況になったら上手く使ってくれよ」
「心得た、こうした建物にも天井裏は有るだろう。何処の教室へ向かえば良いんだ?」
「……夏油様、この喋る猫も夏油様の術式ですか?」
「ああ、いや……まぁうん、似たようなモノだと思ってくれて構わない。今理子ちゃんは何処に居るかわかりますか?」
「え、はい、この時間は未だ2年J組の教室に居ると思ますが……もう暫くしたら音楽の授業で音楽室か礼拝所への移動ですね」
「了解した、教室移動の前にプリンシバルの頭上へと侵入する」
多少大柄で体重が10kg近いとは言えこの身は猫の身、呪力を使えば敷地を隔てる塀を乗り越えるのは容易い、後は適当に校舎内へと潜り込み天井裏へとつながる適当な点検口を開けて潜り込めば誰に見つかる事も無くプリンシバルの居る教室へとたどり着く。
原作だともう少しして夏油が護衛として出していた呪霊2体が祓われた事で彼女の危機を知ったのだから、ソレと比べたら先手が打てていると言って間違いないだろう。
「こちらスネーク、プリンシバルを目視で確認。そちらの状況は?」
携帯電話を取り出し御主人に電話するとワンコールで出た。
「はいはーい。こっちは分身する呪詛師とやり合ってるよ。割と面倒な術式持ちだけどまぁなんとかなるっしょ。あ!? うっせぇ! テメェ程度なら電話しながらでもラクショーだって事だっつーの!」
どうやら原作でも出てきた分身体を作る呪詛師と既に交戦中だと言うのに電話に出たらしく、電話の向こうから打撃音なんかが聞こえてくる。
まぁ原作だとプリンシバルを守りながら倒した相手だし、携帯電話を守りながら戦う方が楽と言えば楽なのだろう。
「んじゃそっちはお前に任せるから身体張ってでも守れよ? あと呪詛師に対しては殺傷許可を継続……非術師も害意有る者に対しては死なない程度にボコって良いからね」
天井裏から板材の隙間に目をやり真下に居るプリンシバル──天内理子の姿を確認する。
丁度授業終わりのチャイムが鳴った所で、渋谷辺りを歩けば間違いなくスカウトが殺到するであろう美少女、ソレが年相応の笑顔で友達と笑い合っていた。
どうやら次の授業に備えて教室を移動するようなので、俺はそのまま天井裏を移動する。
時折ネズミが俺の姿を見て慌てて走って逃げていくが、今はまぁ気にする必要も無い。
……つかここってお嬢様学校だった筈なんだが、流石に天井裏まで常に綺麗に掃除されていると言うわけでも無いんだな。
黒猫が灰猫になる程と言うわけでは無いが、今夜は風呂で念入りに身体を洗うとしよう。
俺はただの猫では無く中身がお風呂大好きな日本人だけ有って、毎日最低でもシャワーを、可能ならば湯船に使って風呂に入る様にしている。
高専の寮は24時間、何時任務が終わって帰って来ても直ぐに風呂へと入れる様に成っているので、シャワーで済ませるのは出先で泊まりを余儀なくされた時くらいではあるがね。
猫らしい舌での毛繕いが性に合わず、俺の身体は毎日御主人の手で綺麗にブラッシングしてもらっている。
と、どうやら1階へと降りる様だ、天井裏の移動ではどうしても階を跨いだ移動がし辛いのが難点だ。
誰も居ない部屋で一旦下へと降り、歩いている生徒達の死角を縫う様にして一階へと下る、そうして再び移動教室か何かで生徒が居ない教室を見つけると、そこの点検口を開けて屋根裏へと忍び込む。
こうしている間に一旦プリンシバルを視界から見失うが、その身に纏う独特の呪力は既に覚えているので、追いかけるのに然程の苦労は無い。
ぬ? アンノウン2体の呪力が弱まった……恐らくは御主人と夏油が呪詛師を無力化したのだろう。
原作だとこのタイミングで黒井美里が拉致されたが、彼女は並の呪詛師程度の相手ならば手にしたモップで退ける位には呪力の扱いも体術も心得ている人物だ。
盤星教の連中は一体どうやって彼女を誘拐するなんて事が出来たのだろうか?
と、そんな事を考えながらも呪力を頼りに再びプリンシバルの頭上を確保し、そのまま礼拝所へと入りこむ。
一般の教室とは違う形の天井でプリンシバルの真上を取るのは少々難しいが、目視での護衛が出来る場所を位置取れたので良しとする。
「はい……ああ、夏油か。ん……ああ、更におかわりが来ているな……数は4と言った所か。プリンシバルの身柄は問題無い、目視で確認出来ている、ああ……ご武運を」
マナーモードにしてある携帯電話が震えたので出てみると、呪詛師を一人倒し終えた夏油からで、周囲の呪力に変化が無いかと合わせてプリンシバルの状況確認の連絡を入れて来たのだ。
言われて毛を逆立て呪力感知に集中すると、4つ程アンノウンと思しき呪力がこの学校に近付いてきていたのでソレを伝えたのである。
にしても……少女達の合唱は中々耳に心地良い、ついウトウトと微睡みながら聞き入りそうになるのを気合を入れて堪え、視線は天内少女を毛は周囲の呪力を捕らえ続ける様に努力しなければ!
お? アンノウン1と御主人の呪力が接近……恐らくは交戦状態になったな、アンノウン2と夏油の方も夏油が呪霊を何体も出している感じ戦闘状態と見て良さそうだ。
そしてこのままでは抜けて来そうなアンノウン3とアンノウン4だが……およ? アンノウン3とアンノウン4が接近し、交戦している様な目まぐるしい呪力変化を発生しているぞ?
コレは呪詛師同士でどっちが天内少女に掛かった賞金を総取りするかを争って居るのだろうか?
あ、アンノウン3の呪力が揺らいだ……アンノウン4は健在だがこちらへと向かう様子は無いぞ?
ん、んん? こっちの俺の検知呪力ギリなのは多分黒井美里だよな? アンノウン4がそっちに向かっている?!
「御主人! 黒井さんに近付いている呪力が有るぞ!」
少女達の授業を邪魔しないように声を抑えつつも、焦っている事が分かる小声で叫ぶと言う器用な事をしつつ、またまたワンコールで出た御主人にそう電話を掛けた。
「あ、ああ。ソレは大丈夫だ。猿飛のじーちゃんに護衛の追加依頼してただろ? 丁度都内で手が空いてた忍者4人と猿飛二級がこっちに回ってくれたんだ。んだから外の事をあんまり気にしないでお前はお嬢ちゃんをしっかりと見守ってやってくれや」
プツ、ツーツーツー……と、一方的に切られた通話、どうやら今御主人が相手にして居る呪詛師は、さっきの相手よりは上手の様で電話しながら余裕のヨっちゃんを決め込める状態では無いらしい。
夏油の方も出した呪霊がどんどん減っている……こっちも割とヤバい呪詛師と相対して居るのか?
いや、原作よりも敵の戦力ヤバくね? コレなら黒井が拉致されて沖縄行ってた方が楽だったのでは?
多分コレは呪詛師達も天元が張った浄界を利用して様々な悪さをしている為に、浄界の外である沖縄には呪詛師が余り居着いて居ないのに対して、都内には腐る程呪詛師が居るからではなかろうか?
何時敵が来るか分からないからと、常時気を張り詰めながら観光を楽しんでいるフリをするのと、椀子蕎麦の様に呪詛師のおかわりがどんどん来るのと、どっちが伏黒甚爾の狙う『五条悟を削る』戦略的に有利なのだろう?
俺が起こしたバタフライエフェクトの類だと分かっては居るのだが、原作が難易度ノーマルだとしたら、こちらはハード……もしくはヘルとかその辺だったりしないか?
ひしひしと嫌な予感を感じながら俺は身を潜めて、授業が終わるのをただ黙って待つのだった。