畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
カポーンと音が響き渡る日本情緒漂う銭湯の風呂場……ソコで俺は御主人や夏油と一緒に風呂に入っていた。
「かぁ……疲れが身体から溶け出してくわ……」
「本当に……悟、今日だけで何人の呪詛師を捕まえたか覚えてるかい?」
「……俺は途中から数えるの止めた。ポチは数えてたか?」
「アレだけ有象無象が雨後の筍通り越してゴキブリレベルで湧き出す様な状態で数など数えられるわけが無いだろう」
全ての授業が終わり放課後を迎えるまでの時間だけでも、御主人と夏油そして雇われた猿飛二級と忍者達は、誘蛾灯に誘われる虫の如く集まる呪詛師達を片っ端から蹴散らし、高専から応援に来た呪術師や補助官に引き渡し続けていた。
「たかだか3000万でよーもまー人を殺す気になるよなー。つか俺なんか色んな所で懸賞金懸けられてて総額で3億らしいぜ? 宝くじかよ! つーか3000万を3億が護衛してるって情報出回ってから更に加速したからなぁ……呪詛師ってバカしか居ねぇの?」
「3000万をたかだかと言えるのは、流石に一般人の感覚では無いよ悟。まぁ人を殺す程の金額でも無いと言えばその通りだけれども」
「俺の記憶が確かなら……ゴルゴ13の平均的な依頼料は3000万円位だったと思うぞ?」
「うわマジで!? ゴルゴってそんな端金で依頼受けてんの?」
「それは……ちょっと驚きだね」
俺達が何故銭湯でこんな呑気な話をしながら風呂に入る事が出来ているのか……ソレは下町情緒溢れる墨田区東向島に在る源泉掛け流しの温泉銭湯が、甲賀忍者の東京での拠点と成っているからである。
ここに案内してくれたのは当然ながら御主人に雇われた甲賀忍者の4人と猿飛二級術師だ。
建物の造りは都内によく在る一般的な銭湯で、家族経営だったソレが廃業すると言うのを機に、甲賀忍軍が買い取って拠点化した場所なのだと言う。
なんでも事前調査の時点でココを掘れば高確率で温泉が出ると踏んでの買い取りだったそうで、買い取った翌日からボーリング工事が行われ見事に源泉を掘り当てたらしい。
当然の事ながら風呂に入って居るのは俺達だけでは無く、壁を挟んだ向こう側の女湯ではプリンシバルである天内理子と黒井美里の二人も貸し切り温泉を楽しんでいる筈だ。
……呪詛師の襲撃は収まったのかって? んな事ぁ無い、御主人に懸けられた3億と天内に懸けられた3000万をセットで手に入れようと言う呪詛師が今も外でドンパチやっている。
そして相手は甲賀忍者でも高専の呪術師でも無い、呪詛師を狩りその首に懸けられた懸賞金を稼ぐ事を生業とする呪術集団『影高野』の呪術師達が出張っているのだ。
この絵図面を引いたのは御主人でも夏油でも無い……猿飛の翁である。
叩いても叩いても蝿の様に呪詛師が湧いてくると言う報告を猿飛二級から受けた翁は、一旦ここへの避難を指示、天内少女も源泉掛け流しの温泉に入れる銭湯と聞いて興味を持ち、無事にここへと誘導する事に成功した。
後は呪詛師達が利用していると言う裏サイトに彼女がココに居ると言う情報を書き込んだ上で、呪詛師がココに集まると言う情報を影高野にタレコミすれば、見事な釣り場の完成である。
俺達は安全に休みつつ護衛出来てWIN、影高野は呪詛師狩りが捗ってWIN、そして甲賀忍軍は労せず御主人からの依頼料を受け取れてWINの三方良しだ。
なんなら更に呪詛師という呪術界の悩みのタネが多数消えてWIN、更に沖縄ルートではここで捕らえられたり討ち取られる事は無かったであろう呪詛師の将来的な被害者いなくなって民間人にとってもWINである。
被害を被るのは人の命を金券の類と勘違いしている様な呪詛師だけだし何ら問題は無い。
「いやー、平和だねぇ~」
「外は思いっきり戦場だろうけどね~」
「にゃ~」
ちなみにここのお湯は割と熱い、前世では温めの湯に長時間浸かるのが好きだった俺としては、好みから少し外れる温度だが『温い風呂にはへぇれねぇ!』と言う江戸っ子の気質には合った温度なのだろう事は容易に想像が付く。
無論、3人……2人と一匹全員が湯船に浸かる前に全身くまなく洗った上での入浴だ。
「にしても……銭湯って初めて来たけど案外悪くないねぇ。コレで430円だろ? 激安じゃん」
御三家と言う呪術界の重鎮中の重鎮である家の御曹司として産まれ育った彼が、今まで一度も銭湯に来た事が無いと言うのは割と当たり前と言えば当たり前の事だろう、なんなら原作の彼は死ぬまで銭湯なんか行った事は無いんじゃないだろうか?
「源泉掛け流しな上に貸し切りだから更にだね、普通の銭湯で混んでる時はここまで快適じゃないよ?」
対して一般家庭出身の夏油は今の時代、実家には当然内風呂が有るのだろうが、偶の贅沢として或いは家族のレクリエーション的な事として『偶には手足を伸ばして風呂に入りたい』と家族で銭湯へと繰り出す事も有ったのではなかろうか?
ソレに彼の日本人の平均から大きくハズレた恵体から考えると、恐らくはご両親も相応の体格をしている事は容易に想像が付く。
となると一般的な家庭の内風呂では狭苦しいと銭湯へ頻繁に通う家庭だった可能性すらある。
「さて、悟……銭湯の魅力は広い湯船だけじゃない、次はサウナに行こうか……あ、ポチさんは無理しないでくださいね? 幾ら呪術猫とは言え人間とは身体の造りが違いすぎますから、人間用のサウナは多分危ないでしょうからね」
「サウナって蒸風呂だろ? 実家にもあるからソレにゃ入った事あるぞ、何でもかんでもお前の方が良く知ってると思うなよ?」
何も知らない世間知らずのお坊ちゃん扱いに軽く噛み付いて見せる御主人だが、恐らく五条本家にあるのは古式ゆかしい
「イエネコの原種であるリビアヤマネコの生息地はサバンナや砂漠の様な高温の乾燥地帯だからな、サウナに入る事も不可能では無いだろうが……まぁもとより人間だった頃からサウナを好む
前世ではサウナでの『整い』と言う奴が持て囃された時期を知っているし、何ならソレを扱った映画も観た覚えがあるが、体質的なモノなのか何なのか人間だった頃の俺はサウナもその後の水風呂も気持ち良く堪能出来る質では無かったのだ。
「サウナの後はしっかりと水分を取るんだぞ? ああ、サウナ後に飲むのに良いドリンクを知っているからな、上がったら声を掛けてくれ、直ぐに用意しよう」
都内に限らず銭湯ならば恐らくどこでも売っているであろう炭酸飲料とスポーツ飲料を組み合わせるだけのモノだが、サウナの後にはコレ! と俺が前世で暮らしていた自宅の近くに在った銭湯でもソレを推すポスターが張られていた記憶がある。
「ああ、サウナの中は比較的防音が利いているからな、俺が上がるのと同時に遮音結界は解除しておくから、彼女たちに聞かせたく無い話を続けるならサウナの中にしておけよ?」
男湯と女湯を隔てる壁の上が空いている銭湯は、妙に音の響きが良い為にちょっとした会話のつもりでも簡単に向こう側に声が届いてしまう。
今の所護衛件お付きの黒井美里に対しては兎も角、プリンシバル本人である天内理子にはその身に懸けられた懸賞金やら、ソレを狙って呪詛師が椀子蕎麦状態で襲ってきているやらの血生臭い話はしていない。
順当に行けば明後日の夜には天元と同化し、この世から消え去る少女に必要以上のストレスを与える事が天元との同化後にどんな影響を与えるかも分からない……と言う俺の詭弁に二人が乗ってくれた結果だ。
もしも俺が全ての賭けに勝つ事が出来たならば、彼女は再び黒井と二人で市井の生活に戻る事が出来る可能性はある。
全てが首尾よく進んだ時、彼女が一般人として安寧に過ごす事を考えれば、知る必要の無い情報と言うモノは確かに存在するのだ。
「ああ、分かってるよ。じゃぁ悟、サウナ行こうか。先に音を上げた方がポチさんの言うドリンク奢りね?」
「ん? 蒸風呂で音を上げるとか何の話だよ? まぁ俺は最強だから負ける訳ねーけど」
そんな事を言いながら頭の上に乗せてあったタオルを肩へと移し、前を隠す事無くサウナへと移動する二人。
貸し切り状態だから良かったが、普通に営業している銭湯でアレやったら、心折れる若い野郎はそれなりに居るだろうな……ナニがとは言わないが。
前世の俺? アイツ等の様なツラもタッパもナニも人並み以上どころか、前世で何をすれば天に何物も与えられるんだよ!? と言いたくなる様なモノと比べる方が間違いなんだよ! 畜生め! いや畜生は今生の俺自身か……。
兎角見たくも無いモノを見て、男としての自尊心をヤスリがけでもされたかの様に削られた俺は、冷たいシャワーでもう一度全身を洗い流してから、身体を振り水分をある程度飛ばし遮音結界を解除しつつ浴室を後にしたのだった。