畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件   作:鳳飛鳥

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懐玉……力無き者の戦術と強者の役目

 学校とその周辺を大きく包み込む大結界、ソレに付与された効果は一定以上の呪力を持つ者が通過した時に結界を張った術者にソレが分かると言うだけのモノで、六眼を持つ五条悟はソレを見る事が出来るが、普通の呪術師では結界が有る事すら気付かないだろう。

 

 その結界で呪詛師の接近を把握したならば、5人一組で陰高野の呪術師が1人の呪詛師へと向かい、協力して追加の結界で対象を封じ込める。

 

「成る程なぁ……あの戦術ならあいつ等程度の呪力でも格上の呪詛師を何とか出来る訳だ」

 

「ただ結界に捕らえただけで呪詛師が簡単に降伏するモノかい? まぁ色んな縛りを掛けた結界術なんだろうけれども」

 

「ああ、今あの呪詛師を捕らえているのは、重力の遮断と酸素濃度の低下に物理的障壁の効果を持たせた結界だ。宇宙に生身で放り出された様なモンだ、ありゃ立派な初見殺しだよ。俺もこうして見て無けりゃ無下限で無理やり突破するしか思いつかねーと思う」

 

「対人特化の結界術か……生得術式を重んじ、その他の技術を軽んじて来た高専や総監部の者達には思いつかない方法だろうね」

 

「そりゃ相手は結界術だけを千年以上磨き続けて来た連中だぜ? 比べる方が失礼ってもんじゃね?」

 

「……本当に悟は変わったね? 入学したての頃なら『雑魚が幾ら足掻いても雑魚は雑魚じゃん』とか言ってたと思うんだがねぇ?」

 

「そら世の中、儚いお花ばっかじゃないって気が付けたからなー。お前もそーだけど、何より猿飛のじーちゃんだよ、あのじーちゃんに猿飛二級と同じ程度でも呪力と術式が有ったら多分勝てねーんじゃねぇかな? 人間は努力で強くなれるって実例見ちまった」

 

 五条悟は生まれながらの強者であり、努力に依る自身の研鑽や実力の向上と言うモノを、高専に入学するまで一切自覚して来なかった。

 

 しかし術式無しの体術と言う限定的な条件下とはいえ自分を下す友を得た、そして彼の術式は呪霊の術式を取り込む事で何時かは術式有りでも自身と対等以上の存在になる可能性を秘めている。

 

 更に呪術界の常識を根底から覆すであろう呪術猫と言う飼い猫を得て、あの世と御仏、そして六道輪廻の実在を知り、自分の今までの所業を顧みる切っ掛けとなった。

 

 そして極めつけは術式も呪力も無い、その上老い先短い老爺でありながら、呪術無しの体術では勝ち目が無いと判断し、教えを仰ぎたいとまで思わせる者が一般人──忍者を一般人と呼ん良いかはさておき──にもいると知ったのだ。

 

 コレだけの事象が重なってなおも、悪ガキだった自分を貫き通す程に、五条悟と言う男は愚かでは無い。

 

「ソレに弱者の為の技術って言うなら、総監部傘下にもシン・陰流の連中が居るし、陰高野の連中がシン・陰流同様に弱者の技術を磨き上げて強者に迫る存在に成ってても、驚きはするが不思議とは思わねーよ」

 

 それに幾ら生まれながらの強者で現代最強の存在と嘯いて見ても、未だ反転術式も術式反転も使えないこの身は、同じく六眼と無下限呪術を持った御先祖様には、遠く及ばないだろう事も容易に想像がつく。

 

 努力は決して無駄なんかじゃない、生まれ持ったモノに胡座をかいて、自己研鑽を怠りデカい面をしているだけでは前総監部の頭が固い老人達と何ら変わらない。

 

「あ、結界割られた……」

 

「六道のおっさんが来たな。成る程な、低級の連中で対処仕切れない時におっさんが出張る訳か。んで今度はガチガチの戦闘用結界術と体術でぶん殴ると……うお!? マジでつえーな、あのおっさん。高専基準なら一級は確実だな」

 

 万が一彼等陰高野の呪術師達が抜かれた時に備え、何時でも動ける様に校舎の屋上に位置取り、陰高野の呪術師達の戦いを双眼鏡を使って観戦している五条悟と夏油傑。

 

 甲賀の忍者達とソレを統率する猿飛二級術師は、校門と裏門と言う常識的に校舎へと侵入しやすい場所の近くに身を潜め守りに就いて居る。

 

 五条悟の飼い猫たるポチは昨日同様に屋根裏で天内理子の直接護衛だが、恐らくは彼の出番は今日はもう無いだろう。

 

 そう五条悟も夏油傑も確信を持てる位、陰高野の呪術師達の戦いは安定していた。

 

 まぁ昨日の比べたら呪詛師が襲ってくる頻度自体が、大幅に低下していると言うのも安心材料の一つではある。

 

 呪詛師の中には自分達なら不覚を取る程では無いだろうが、ソレでも苦戦を免れないと思わせる程の呪力を纏う者も居たし、無下限を突破する可能性がある術式を持った者も居た。

 

 だがそれらは尽く陰高野の呪術師達の手で無力化され、呪力を封印する効果を持つ呪具で拘束され補助官達の手で高専へと搬送されていく。

 

 不安があるとすれば拘束用の呪具が尽きたり、高専地下の監禁房が満杯でソレ以上の呪詛師を受け入れる事が出来なくなる事くらいだろうか? 

 

「ん? 猿飛のじーちゃんからだ……はい、もしもし? うん、え? マジで? いや笑うわ。そこまでして俺の事消したい奴等が居るんだ。宝くじ完全に越えたじゃん。ああ、大丈夫だーれも油断なんかしてねーよ。うん、うん……有難うございます、はい」

 

「猿飛さん何だって?」

 

「俺に掛かってた懸賞金が増額されたってさ、色んな所で懸けられてるの全部トータルしたら5億円だとさ。このタイミングは勘弁して欲しいよなー、俺を狙うついでにお嬢ちゃんまで狙われるじゃん」

 

「五億……一般的な生涯年収は確か2億から3億と言った所だった筈だから、普通の人なら人生を2回買える額だね、そりゃ呪詛師も血眼になるか」

 

 ここに五条ポチが居たならば懸賞金の増額を指示した者の存在が脳裏を過っただろう、けれども彼は今ここには居らず、中学校の退屈な授業を天井裏で聞いている。

 

「六道のおっさんが出張る頻度が増えてきたな。多分俺の懸賞金が引き上げられた事で、今まで手出しを控えてきた様な呪詛師も出張って来たんだな。傑、何時でも出れる様にしとけよ? おっさんの手が回んない所を助けてやらねーとな」

 

「勿論だ、彼等も所属は違えども、衆生救済を掲げる以上は同士の様なモノだ。助けるのに否は無いよ」

 

「ほんっと、お前は入学の時から変わらねーよなぁ。正論は大事だと思うようには成ったけど、ソレでも臆面もなく正論吐くのは恥ずかしくて出来ねーや」

 

 茶化す様にそう言う五条悟だったが、入学当初の様に相手を見下したソレでは無く、飽く迄も冗談である事が分かる様な笑みを浮かべて居る。

 

「そういう悟も変わったかと思ったけど、露悪的な態度は全く変わらないね。一人称も相手に依っては使い分ける程度のTPOは弁える様にした方が良いよ? 目上や目下の者の前で俺は不適切だ、私もしくは僕などと言い換える様にした方が印象が良い」

 

「ソレ今言う事か? っと! あっち、おっさんの手が回らねぇ! 先ずは俺が行く! 他にもヤベー場所あったら頼むわ!」

 

「了解、イケダの術式範囲を出る時には、下の生徒達に見られない様に気を付けて」

 

 飛び出す五条悟の背に夏油傑がそんな言葉を投げかけるが、彼は振り返る事無くただ小さく手を振って、呪力を使って強化した脚力で一気に空を駆ける。

 

 捕縛用の結界を砕かれ、ソレでも陰高野の一般呪術師達は呪詛師を相手に一歩も引く事無く遅滞戦闘を続けていた。

 

 六道玄真が来るまで耐えれば彼が何とかしてくれる、そう信じているからこそ、彼等は少ない呪力を振り絞り、鍛えた体術と連携でもって呪詛師を可能な限り封殺しようとしている。

 

「六道和尚(わじょう)にしてるのとおんなじ結界で良い補助を頼む!」

 

 そこに五条悟が降り立ちそんな言葉を口にした。

 

「でたな六億円! その首貰い受ける!」

 

 五条悟の姿を見て吠える呪詛師、

 

「「「「「結!」」」」」

 

 一瞬の迷いは有ったものの、悩むのは後だと陰高野の5人は協力して結界を張る。

 

 結界に込められた効果は『非術師に対する認識の阻害』『結界の境界を物理的障壁とする』そして『内部の者を地球の重力から切り離す』と言う効果に加えて、『結界成立時に中央部へと内部の者を一定距離を置いて移動する』と言う4つの効果だ。

 

 その効果に従い6m程上空で2m程の間を置いて向かい合う五条と呪詛師。

 

 何処からとも無く聞こえてきた『Ready……Go!』と言う合図と共に、呪詛師は呪力を噴射し五条悟へと迫るが、彼は落ち着いて僅かな呪力を放ちその射線上から身を反らし突撃を回避し背後を取る。

 

 無重力空間で生身での機動戦闘などと言うモノは、訓練無くいきなりで出来る様な簡単な事では無い。

 

 呪力を放出する事で空中機動を取る事が出来ると初見で気が付いた呪詛師は、上澄みと言える存在である……しかし相手が悪すぎた。

 

 六眼で六道玄真が戦う姿を観察していた五条悟は、どうやれば効率よくこの結界内で身体を動かす事が出来るのかを知り、溢れる才能は得た知識を即座に技能へと変換する。

 

「術式順転『蒼』」

 

 呪力で防御されているとは言え無防備な後頭部へ、呪力で強化した拳を叩き込むと同時に、術式で相手を引き寄せる効果を重ねる事で威力を更に引き上げた一撃は、呪詛師の身体を大きく弾き飛ばし結界の内壁へと叩きつけるのに十分な威力を持っていた。

 

 物理障壁として機能しているモノに叩き付けられれば、当然ソレは吹っ飛ぶ為に残った運動エネルギーをダメージに転換する効果を生む。

 

 五条悟の拳の一撃には耐えて居た手練れの呪詛師は、壁に叩き付けられた事で限界を超え、力無くその場を漂うのかと思えば……何処からとも無く聞こえてきた『K.O!』と言う声と共に結界が崩れ、呪詛師の身体は重力に従い地面へと落ちて行くのだった。

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