畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「さて、明日の夜はとうとう天元様との融合な訳だが、昼間の間は未だある程度自由に動けるね。何かやり残しは無いかい理子ちゃん」
放課後は昨日に続いて下町情緒溢れる銭湯へと戻り入浴と夕食を済ませた後、夏油はプリンシバルに対して護衛最終日である明日の予定を決める為に、そんな事を問いかける。
明日が平日ならば恐らく彼女は普通に学校へ行きたいと言って居ただろう、だが満月が昇る明日は土曜日で学校は休みなのだ。
ちなみに今日は銭湯は貸し切りでは無く極々普通に営業しており、御主人達も他のお客さんと一緒に入浴していた為、俺は閉店後に別途一人……一頭で風呂へと入る予定である。
「んーそーじゃのぅ……渋谷……原宿……いや天元様と一つになるハレの日に外界の汚れに溢れた場所へと向かうのは流石に駄目じゃな……となると……そうじゃ! 浅草寺へお参りに行って仲見世商店街でお土産を買うのじゃ! 雷おこしも食べてみたいのぅ!」
今居る東向島から浅草は隅田川を挟んで隣の極々ご近所だ、移動にもわざわざ自動車や電車をつかうまでも無く徒歩で十分行ける距離である。
問題が有るとすれば呪詛師連中が一般人の巻き添えを気にする事も無く御主人やプリンシバルを狙って白昼堂々と凶行に及んだ場合の対処だが……。
「浅草なら問題ないな、あそこは総額30億の懸賞金が懸けられた日本最強のお巡りさんの縄張りだ。あそこで騒ぎを起こせばまず間違いなくあの人間界のバグがすっ飛んでくる。俺でもあそこで暴れるのは勘弁だぜ」
「……日本最強のお巡りさん? いや警察官なら悟が揉めたくないって言うのは当然だとは思うんだけれども、そんな人が東京には居るのかい?」
「あー、うん……なんつーか俺も一回あいつが京都に来てた時に偶々知っただけなんだけどな、こち亀の両さんのモデルって言えばどんな奴か想像付くか?」
「……現実にあんなぶっ飛んだ人が居るのかい? えぇ……悟……本気、いや正気かい?」
「勿論パンピーじゃねぇよ? 区分的には呪詛師、その首に懸けられた懸賞金はなんと俺なんか余裕で超える30億。アレが暴れて人死にが出た事ぁ無いがソレ以外の物理的被害の総額は1663兆2928億5903万8850円! 人呼んで歩く核弾頭」
「……冗談で言ってるんじゃないんだよね?」
「そこのパソコンで総監部の呪詛師手配ページ見てみ、ちゃんと居るぜ? 警視庁のニ大問題児の片割れ
……両津勘吉レベルの問題児が、もう一人居ると言うのもちょっと洒落にならん問題発言だと思うんだが、こんだけ色々と原作では知らない様な情報が存在しているこの世界だ、そう言う人物が居ても不思議は無いんだろう……多分。
「ちなみに持ってる術式は『
「悪人とは随分と曖昧な表現じゃのぅ、事の善悪なんぞ時代やら国やら文化やらで幾らでも変わる事は妾でも知っておる様な事じゃぞ?」
「ソレ俺も京都で会った時に思ったんで直接聞いて見たんだけど、何でも『殴って上司に怒られる相手』だとアウトらしいんだよ……要はこち亀の部長さんのモデルに成った人の判断が基準って事じゃね?」
「……御主人、呪術や生得術式と言うのはそんな属人的な基準で作用するモノなのか?」
輪廻転生を経て畜生道に堕ちた呪術猫と言う理不尽の権化とも言える身で、どの口をもってそんな事を言うのかという話だが……六眼を持ってしても分からんモノはどうしようも無い様にも思える。
「金霊呪法自体は結構記録にも残ってる術式なんだが、使い手自身が悪人判定を受ける行為をすると術式自体が停止するらしくてな、何が良くて何が悪いのかの基準は資料によって全然違うんだよ……マジで呪術の理不尽を極めた様な術式だぜホント」
1663兆2928億5903万8850円もの被害を出しておきながら悪判定されていないと言うのは果たしてどういう事なのだろう?
「さっきの金額も呪詛師をぶん殴ったら、その呪詛師が所有してるビルが倒壊して他のビル巻き込んだとかそー言う感じだから、本人は極めて善人なんだと思うぞ? 何か騒動を起こす度にとんでもねー被害が出るが」
「彼の術式の肝は『相手の財産を食い潰す』って所の様だね、ソレは確かに呪詛師連中も絶対に敵対したいとは思わないだろうね。懸賞金額30億と言ってもソレ以上をむしり取られる可能性も高い訳だし……なんでそんな人が呪術師じゃなくて呪詛師なんだろう?」
「そりゃ入れ替わる前の総監部のおじーちゃん達の中に、アレを恐れてた奴が居たんじゃね? 所持金だけなら兎も角、財産まで呪力に変えられるじゃぁ個人で敵対したら絶対破産だからなー」
「……そんな恣意的に呪詛師認定って出来るモノなのかい?」
原作知識から言うのであれば、夜蛾学長や五条先生の呪詛師認定の件を見るに総監部の恣意的運用がされているのは事実だと思われる。
「流石に俺は未だ総監部の人間じゃねぇからそこまで詳しくは知らねーよ。明日の夜には天元と会うんだからその時に聞いて見たら良いんじゃね? 天元は総監部より更に上の存在な訳だしさ」
「メガネ! お主さっきから天元、天元と不敬じゃぞ! ちゃんと天元様と言わんかい!」
「いーんだよ、俺は呪術界最強の五条悟様だから」
「最強とお主は言うが、さっきから話に出ている両頭と言うお巡りさんには勝てんのじゃろ?」
「あーうん、アレは相手にしようと思うほうが間違い、ウチの財産全部投げ売って文無しになる覚悟決めりゃ勝てなくはねーけど、そこまでしてやり合う必要のある相手じゃねぇ。アレが倒れるとしたら金銭や財産が無価値になる状況じゃなけりゃ無理だ」
要するに文明が崩壊でもすればワンチャンあるかも? と言っている訳だが……下手をしなくても死滅回遊が始まって円の価値が下落し始めたら、その男も危ないのではなかろうか?
前世で散々遊んだ核戦争で文明が崩壊した世界を描いたRPGシリーズでは、戦前の金銭は価値を失いジュースやビールの蓋が通貨として扱われていたりしたが、もしも金霊呪法が戦前の貨幣を求めていたならば恐らくあの世界では無力に等しいだろう。
「兎に角、俺でもやり合うのを躊躇する様な相手の縄張りなら、お嬢ちゃんも安心して遊べるってすんぽーな訳だ」
「成る程のぅ……お主らの護衛よりも頼りになる者がそこには居るから安心して良いと」
「流石にその言われ方は少々不本意ではあるが……まぁ呪詛師共が来る事すら怪しい場所で安全に楽しむ分には何ら問題も無いし、不名誉な言われ方には納得しておくよ」
「明日の事は決まったしソレよりもマリカーやろうぜ! マリカー! あのメイドさんにゃ未だ一回も勝ててねーからな! この期間中に一回くらいは追い抜いてやるぜ!」
「なにをお主は言っておる、昨日は最終順位では妾より下だったであろう? その程度の腕前で黒井に勝つなど片腹痛いわ」
「レースゲームは余り好みでは無いんだけれども……負けっぱなしで終わらせるのは私も性に合わないからね、全力で勝ちに行かせて貰おう」
「黒井! 皆でマリカーやろうぞ! マリカー」
と、最終日の予定は完全に決まった様で、話し合いが終わりテレビに繋がれた四角い鈍器の電源を入れる皆の衆。
ソレに俺は参加しないのかって? どうも俺は前世の頃からレースゲームや、運転を伴うオープンワールドアクションゲームの類が苦手だった、何と言うかゲームの中でも道路交通法を無視した行動にイラっと来る
勿論、普段の運転の時に他の自動車を運転する者が違反を犯しても、イラッとは来るがソレを運転に反映させたりはしない……ゲームだから、命の危険の無い遊びだからこそ余計に腹が立つのである。
それにしても金霊呪法か……相手の財布だけで無く財産にすら被害を及ぼす呪術とは……現代社会では特に相手にしたくない術式だな。
未だこの時代には定着していないネットスラングで所謂『無敵の人』と言う言葉があるが、そう言う者でも無ければ絶対に勝てないだろう厄介な術式だ。
呪詛師の中には既にそう言う状態で、一発逆転を狙って来る奴が絶対に居ないとも限らないし、御主人達が遊んでいる間は忍猫の名に掛けてプリンシバルは俺が絶対に守り抜いてみせよう……そう誓いつつ俺は丸くなって眠りに就くのだった。